44話 冒険者ギルドと狩り
ここまで遠かったですね。
「レオンさん。14歳……男性」
冒険者ギルドへ新規加入を申請した。
窓口に並んで順番を待ち、今は担当者と向かい合っている。僕、じゃなかった俺が書いた身上書の確認だ。
なんか、性別の読み上げで間があったよな。女子じゃないかって疑ったろ? いかん。午前中もあったから被害妄想が強くなってしまっている。
担当者は20歳代前半位の女性、そこそこ綺麗な……いや最近アデルさんやディアさんとかお近づきになっているから、基準が絶対に上振れしているよな。
「職能は魔術士と。ああ、サロメア大学魔導学部に来月入学なんですね。それはそれは……あれ?」
「はい?」
「ああぁぁ、理工学科なんですね」
担当者は、明らかにがっかりしてる。
学部を見てよろこんだら(技能学科と期待したら)、理工学科だったというオチか。
「わかりました。加入申請は受理しましたが、戦闘職登録を希望される場合は試験を受けていただいて、ある水準に達しないと登録できません」
「それは、いつ受けられますか?」
「ええと、少々お待ちください」
担当さんは席を外して、どこかに行き、しばらくして戻って来た。
「今すぐでしたら。受けられます」
「ではお願いします」
「承りました。手数料2セシル(ざっと2000円)を頂きます」
†
窓口へ並び直し、順番が回ってきた。
「ええと、レオンさん」
「はい。試験官が、これを窓口で提出するようにと」
預かったカードを渡す。
「はあ、加入試験は終わったんですね。お疲れさまでした。早かったですね」
「そうなんですか?」
「それで、試験結果は……えっ」
ん?
「優秀だったんですね。初心者1級です」
「はあ……」
優秀なのかな?
15メト(おおむね15m)離れた的3つを3分以内に破壊という、特段ひねりのない試験だったけれど。的も大きめの石をただ積んだだけの物だったし。どの程度まで壊せば良いのか訊いたら、積んだ状態が崩れれば良いという、それで良いのかと訊き直したくなる内容だったからな。
まあ優秀と言っても、大したことはないだろう。しょせん初心者評価だし。
「こちらが、ギルド員であることを証明するギルドカードです。カードの中央に丸い部分がありますが、本人証明をするために、レオンさんの体液を今すぐ付けてください」
差し出された、手のひらに乗る小さな青い金属板を受け取る。
「体液?」
「血液でも、涙でも、唾液でも結構です」
血はいやだな。
「じゃあ」
人差指を舐めて、それをカードに付ける。
おおっ、カードが中心から放射状に光ったあとにレオンという表記が現れた。これ自体が魔道具のようだ。
「再発行には時間と手数料5セシルが必要ですので、なくさないように」
「はい」
「これで、レオンさんは正式に冒険者ギルド員となりました。ご活躍を期待します」
「ありがとう」
思ったより簡単にギルド員に成れた。
日暮れまでには、まだ時間もあるし、魔獣狩りでも行ってみるかな。
安定期だし、強いヤツも居ないからな。
†
王都南支部から、ずっと東に歩いて行くと、どんどん建物がまばらとなり、緑地と農地が増えたが、それもさびれていき、やがて荒れ地としか言えない土地に出る。
その荒れ地にきて、3時間余り経過している。
南北に貫く大竜脈からも外れたようだ。北を向くとうっすらと東区の町並みが見えた。
逆を向くと、ややかすんで見える距離に森が見えている。
あの森にはたくさんの魔獣が居るらしいが、ギルドの地図掲示には、初心者の内は単独では森に入らないようにと警告文が書いてあった。
感知!
≪衝撃 v0.47≫
大地の色によく似た褐色の毛並みが、宙を舞った。
アルミラージという有角の小魔獣だ。図鑑によると、うさぎとかいう魔獣ではない動物に似ているらしいけれど、毛皮しか見たことがない。
角と呼んでは居るが、角質でも骨でもない。魔結晶と同じ成分でできているらしく、飛び上がった時にも陽光を反射していた。
いいねえ。
照準が格段に楽になった。
衝撃波魔術の威力を上げるために、発動紋と的との間を縮めたわけだが。そうなると高速の的には時間当たりの変角が大きくなって、命中率が下がるという二律背反に以前悩んだ。
その解答のひとつがv0.47。
王都-エミリア間の駅馬車移動が暇すぎて、作った魔術だ。
別の魔術である赤外線感知魔術・蛇覚を併用して連動させる照準改善策だ。照準を追尾しているので、非常に楽だ。
しかも、自動制御している感が強くて気に入った。
まあ、赤外線だからな。なんとなく魔獣の種別で命中率にばらつきがありそうだけど。今のところは、これでいこう。
うぅぅ。
ナイフで、毛皮を剥ぎ取り、魔結晶をえぐり出す。
好きになれない作業だ。手が真っ赤だ。そのうちに慣れるのかなあ。
魔獣とはいえ、命を奪っておいて言うことではないと思うけれど。
唯一の救いは角だ。
死亡時に勝手に頭蓋から外れるので手間は掛からない。
汚れるのがいやなら、血抜きをすれば良いが、そんな時間はない。
≪洗浄v1.0≫
3方からの泡を含んだ水流の中で、手を擦り合わせる。
ただの水よりは格段に汚れが落ちるんだけれど、汚れの原因が原因だけにすっきりしたという感じには程遠い。
いつまでも洗っていたい気分だ。
そうもいかないので、手を振って水を切り、手拭いで拭く。
ここまでの獲物は、アルミラージばっかり6体だ。もっと小さい魔獣も居たけれど、そちらには手を出していない。
この辺り、今の時期には大型魔獣はそんなに居ないとギルドで聞いてきたけれど、正しいみたいだ。
帰るか。
日没までには、まだ時間があるけれど。
1人で来ているからな。慎重になるべきだ。
†
広い街路を横切り、王都へ戻って来た実感が湧く。15分ほど歩いて冒険者ギルドの建物が見えてくると、その向こうに夕日が下ってきていた。
正面玄関から、西に回り込む。あった、あった。
魔獣買取窓口。布張りの簡易的な小屋が数張りある。看板が出ている大型獣(人間より大きい)は左、中小型獣は右か。右の列に並ぶ。僕より前は10人か。
結構待たされると踏んでいたが、しばらく待っていると順番が回ってきた。列は1つだが、査定する人は複数居たので回転が速い。まあ、王都だからな。それぐらいしないと捌けないよな。
「買い取りを頼む」
待ち行列の先端に、恰幅の良い厳つい職員が待ち構えていた。40歳くらいかな
ギルド職員の制服ではなく、でかい革のエプロンをしている。汚れること前提の仕事か。
「見ない顔だな、ギルドカードを」
「ああ」
懐から取り出して渡す。
「レオン。ノービス1級、魔術士か」
「ああ、今日登録したんだ」
前に並んでいた冒険者を参考にして、わざと粗野な口調にする。
カードを返してもらって、懐へ仕舞う。
カバンから、魔結晶に角と毛皮を出す。
「アルミラージ……6体」
つぶやいて、俺の顔をにらんだ。
「毛皮と角と魔結晶。高額部分がそろっているな。その他は?」
「穴を掘って埋めてきた。1人で持ってくるには重いからな」
仕留めた個体は、ざっと10キルグラ(おおよそ10kg)位はあったから、2体も持って歩いていたら狩りに支障が出て来る。
「1人だと?」
「そうだが」
なんだろう。
「魔術士と、俊敏なこいつとは最悪の相性のはずなんだが。6体分も出されてはな」
小さく首を振った。
言わんとしたことは分かった。
遠い間合いから魔術を撃っても、避けられるはずなのにということだろう。
持って来た物を数えて、紙に書いている。
左右の職員を眺めると、同じように査定している。魔結晶は、魔灯にかざして透明度を見て、皮は秤で重量を測っている。
ふむふむ。ん?
角を……何かの棒と比較し始めた。
見ていると、角を4つと少し短い2つに分けた。
「査定が終わった。魔結晶は1級が1つと2級の上が5つと悪くない。角も全部2級の上だが……こちらの4本のみ買い取れる」
えっ?
「ノービスだったな」
「そうだ」
「聞いていないかもしれないが、アルミラージの角の用途はおおむね魔導杖でな。この基準棒より短い333ミルメト(33cmほど)未満は、規格外扱いになるんだ」
要するに、そっちは買い取れないということだ。
「わかった」
短い2本は引き取る。何かに使えそうだしな。
「あと毛皮は、素人っぽい切り離し方だが、損傷は少ない。全部合わせて、買取価格は17セシル60ダルクの査定だが、どうだ?」
ふぅむ、まあ大した成果ではなかったが、経理の手伝い1日の給金を少し超えている。
「了解だ」
「では、これを持って、精算窓口へ行ってくれ」
伝票を渡された。
金額と、ヘルマンと署名がある。
「ひとつ訊いても良いか?」
「なんだ」
「今日は俺が解体してきたが、仮に解体しないで持って来たら、買取金額はどうなっていた?」
「ふむ」
手を顎に持って行った。
「解体には手数料をもらうが、結局金額はさして変わらないだろうな。肉も血も持ってくれば、安いが値は付く」
「わかった。感謝する」
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訂正履歴
2023/11/27 誤字訂正(ID:1967133さん ありがとうございます)
2025/04/07 誤字訂正 (三条 輝さん ありがとうございます)