43話 リーアと
これまで実質週4回投稿してきましたが、厳しくなってきました。つきましては、正規は水曜日と土曜日の2回と、できたら日曜日に投稿したいと思います。よろしくお願いします。
翌日銀行へ行くと、テレーゼ夫人の言った通り、奨学金が財団から振り込まれていた。
それとともに、リオネス商会からも結構な額が振り込まれていて、びっくりした。
支配人から、エミリア劇場に使われた魔石の報酬をと言われていたから、それに違いない。
一時的に小金持ちになったけれど、ちゃんと使い道は考えないとね。
「お待たせしました」
銀行を出ると、路地でリーアさんが待っていてくれた。
これから向かう商店街の案内をしてくれるそうだ。
「入学金の振り込みは?」
「滞りなく」
入学金と初年度授業料900セシル余り(90万円見当)を振り込んだ。
「うーむ。レオンの言葉はむつかしい」
「すみません」
「かまわん。レオンの大学? は、相当賢いヤツが行く大学だと、奥様がおっしゃっていたからな。私に合わせなくてもいい。ただ何かしてほしい時は、わかるように言ってくれ」
「はい」
やっぱり、やさしいよな。リーアさんは。
「それで、まず何がほしい?」
買い物したいと言って頼んだからな。
「はい。買うかどうか分かりませんけれど、男物の着る物を」
「ふむ。上着か? 下着か?」
「下着を」
「はっ? 聞こえん」
いや人目があるから、大きな声で言いたくはないんだけれど。
リーアさんの近くに寄って、下着をとささやく。
「そっ、そんなに近付くな」
「すみません」
「まっ、まあ、わかった。ついてこい」
†
「ああ、買った買った」
多くの庶民が行き交うベイター街市場で、下着や靴下、それから日曜品や食器を買う店を教えてもらって、結構買い込んだ。
「たすかりました」
「おう」
なんだか頼れる姉さんぽい。たくさん荷物も持ってくれているし。
「もうすぐお昼ですね。何かおいしい料理の店はこの辺にないですか?」
「おお、あるぞ。昨夜のレオンの食べっぷりからすると、鶏の丸焼きだな」
昨夜は、下宿先で歓迎会を開いてもらった。
それで、テレーゼ夫人の料理の腕前がわかったが、すごかった。なかでもスープ系は絶品で、クリームスープパイは被さったパイを破って入れると、とろみが増してすばらしかった。
エミリアの商館のコック長の料理は、華やかで職人が作る料理だったが、テレーゼ夫人の作るのは家庭料理というのだろう。どれも、ほっとする料理だった。これから数年は味わえるかと思うと、財団に感謝するしかないね。
「へえ、丸焼きですか」
「ああ、上品ではないけどな。安いし、大きいからな。第一旨い」
「いいですね、行きましょう!」
「おう」
5分ぐらい歩いて、商店街の西の端だ。
少し年季の入った、はっきり言ってしまえば、やや汚い店に入った。
「おう。なんだ、リーア。今日はかわいい子を連れてるな」
「かわいい?」
「ん」
「レオンは男だ。店主でも、ぶっ飛ばすぞ!」
「おおぅ怖! ごめんな。兄ちゃん」
「いえ」
くぅ。
「注文は?」
「鶏の丸焼き……昼だから、半身ずつでいいや」
「おっ、毎度」
奥へ入って行った
「ああ、店主はああいうヤツだが、料理は旨い」
数分すると、既に焼いてあったのだろう、皮が飴色になったぶつ切りの焼き鶏を2皿と、小さな椀に入ったスープを持って来てくれた。串が1本ずつ刺さっている。
「食べ方は、串で刺して、こうだ!」
言うが早いか、リーアさんが一口で行った。
野性味がある食べ方だな。昨夜は上品に食べていたのにな。夫人に何か言われているのだろうか?
リーアさんがこっちを見ているので、僕も同じように一口で行った。
「んんん!」
旨!
かみしめると、皮の奥から肉汁があふれてきた。
「どうだ、旨いだろう」
うんうんとうなずく。
いやあ、リーアさんが言ったとおりで上品ではないが。育ち盛りの男にはもってこいの料理だ。
「それで、レオンとどういう関係なんだ?」
店主が、にやけている。
「ウチの新しい、下宿人だ」
「へえ」
やっと飲み込む。
「はい。よろしく。これ、おいしいですね」
「自慢の料理だからな。で、下宿っていうと、どっかから王都に出て来たってことか」
「はい、エミリー伯爵領から来ました」
「エミリー伯爵領?」
店主は、首をかしげた。知らないようだ。
リーアさんの方を向いたが、彼女も首を振った。僕の故郷は有名じゃないらしい。
「ここから、馬車で3日ぐらいのところです」
「へえ、そうなのか。気に入ったのなら、また来てくれよな」
「はい」
金曜の夜から日曜の朝は、下宿先の食事は出ないからなあ。こういう店をいくつも知っておかないと。
「リーアさん」
「なんだ?」
「夫人には訊きづらいので、ここで訊くのですが。夫人のご主人というのは?」
「うん。宮廷男爵様だが、亡くなられたそうだ。私があの館に来る前でな」
宮廷貴族と言えば、領地ではなく金銭で報酬を支給される貴族のことだ。
だからデュワなのか。そして男爵か。
「それはなんとも」
「だろう?」
「はい。じゃあ、今は夫人が女男爵ということですか?」
「いや、私もよくは知らないが、一代爵だったということでなあ。奥様はご自分で准男爵扱いとおっしゃっていた」
一代爵は、当主に功績があり、その当主が存命の内だけ、授爵もしくは陞爵される爵位のことだ。よって、子孫にその爵位を継承することはできない。ただし、当主がなくなった場合の配偶者は、1階級低い爵位としての身分で扱われる。そんな制度があると聞いたことがある。
あとから知った話では、夫人には国から恩給が支給されているらしい。
「そうなんですか。それで、お子さんは?」
「そのことは訊くな? 答えん。2階のこともな」
他人には触れてほしくないことか。2階と子とは何か関係があるのかも知れない。
「はい。すみません」
「ふん。聞き分けが良くて気に入った」
†
「レオン、良かったのか?」
「ああ、いえ。付いてきてくれた、お礼です」
さっきの食事の代金を、僕が払ったのだ。
「まあ、男が女に奢るのは悪くないが。レオンは学生だろう?」
「そうなんですけど。王都に来る時に物を売った金が少しあるので、今は大丈夫です」
正確に言えば、物ではなく権利だが。
「そうか、悪いな。ありがとう」
「いえいえ」
下宿先に帰ると、荷物を置いて馬車鉄環状線に乗って再び出掛けた。
10分ほど南下すると、結構建物が建ち並ぶ繁華街に差し掛かった。そこで降りる。
冒険者ギルド王都南支部。
立派な建物だなあ。
広い通りに面した石造りの4階建てかな。さすがは王都。8支部あるそうだが、そのひとつでもエミリアにあったギルド支部より倍以上大きい。
ここに来た理由は、冒険者ギルド員になるためだ。
たぶん奨学金だけで特段不自由なく、学生生活は営めるとは思うけれど。母様も経済基盤を早めに作った方が良いと言っていたしな。
何をやるにしても資本は必要だ。そうなると魔術で稼ぐには、冒険者が手っ取り早い。
魔道具を開発して特許で収入をという線もなくないだろうが、そう簡単には行かない。
魔灯の例はあるが、あれは実家、リオネス商会があったればこそだ。それなくして報酬につなげるには、年単位の時間が必要だ。
ともかく、ギルドの建物に入る。広いホールがあって、テーブルで仕切られた窓口がいくつも並んでいる。
向かって右が一般依頼窓口、真ん中が総合案内と受注窓口、左が精算窓口だな。規模は違うけれど、エミリアの支部と窓口の配置は同じようだ。買取の窓口は戸外か。そうだよな。
僕。いや、ここでは俺と言うべきだろう。向かう先は総合案内だ。
多いのだろう新規加入という札の下に、手続きの手順掲示がある。
身上書というのを書くみたいだ。
冒険者ギルド加入の資格と利点が壁に掲示されている。
読んでおこう。
加入資格。
13歳以上で職能によって別途定める基準を満たす者。
指名手配中でない者、重犯罪前科のない者。ギルド除名期間にない者。
へえ、除名ってのがあるんだ。
加入の利点。
1.級に応じた、依頼の斡旋を受けることができる。級は個人または所属する団体によって別途定める。
2.特定依頼の依頼者および公的機関との調停(依頼料の確実な支払い、紛争解決への協力)
3.魔獣の魔結晶、死骸および拾得物の買い取り。
4.魔導具、魔道具、装備品、薬品の割引販売。
5.迷宮や福利厚生設備の優先利用。
6.冒険者ギルド金融の利用。
ふむふむ。
やっぱり2が大事だよね。商人の子だからよく分かる。冒険者になっておくのは利得が多いな。身上書を書いて提出しよう。
お読み頂き感謝致します。
ブクマもありがとうございます。
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訂正履歴
2023/11/25 誤字脱字訂正
2025/02/12 誤字訂正(1700awC73Yqnさん ありがとうございます)
2025/04/04 誤字訂正 (長尾 尾長さん ありがとうございます)