表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
40/274

38話 策士

小説とかで読むと、嫌いじゃないですが。策士って、実際にあったらいやななのかなあ。

「着いたぁぁ」

 エミリア城門前広場で、駅馬車を降りた。およそ半月ぶりの故郷だ。さて、館へ帰ろう。

 5分ほど歩いていると、横に辻馬車が寄ってきた。

 なんだ?


「レオンちゃん」

 げっ。思わず足が止まる。

「お嬢様」

 隣の侍女だかメイドだかが止めている。

 離れるとまた大きな声を出しそうだから、馬車に追い付く。


「やあ、エイル。久しぶり」

「サロメア大学に合格したそうね」

「なっ、なんで知っているの?」


「昨日おば様とお会いして、その時に聞いたのよ」

 母様とどういうつながりがあるんだ?


「そうなんだ。じゃあ、また今度」

「ちょっと、話は終わっていないわ」

 こちらに話はないのだけど。

「僕はいいけれど、人の目があるよ」


「そうです、お嬢様。参りましょう」

 狭い町だ、うわさになるぞ。


「もう仕方がないわね。ではまた」

 馬車が僕を置いていった。


     †


「ゾルカ、ウルスラ。ただいま」

 館に帰ってきたら、玄関に続く廊下でメイドたちが掃除をしていた。


「これは、レオン坊ちゃま。お帰りなさいまし。すぐ奥様にお知らせしてきます」

 ゾルカが小走りで、本館の方へ行った。


「坊ちゃま。お帰りなさいませ。洗濯物がありましたら、出してください」

「うん。あるある。部屋に取りに来て」


 部屋に戻って、カバンから洗濯物を出していると、ゾルカが来た。

「奥様が、すぐにとお呼びです」

「はい、はい。ウルスラ、あとよろしく」

 カバンごと押し付けた。


 ゾルカの姿は見えなくなった。


「ウルスラ」

「まだ、洗濯物がございましたか」

「うん、洗濯物じゃないけどね」

「はい?」


「これ、王都のお土産。ウルスラにあげる」

「私にですか?」

「そうさ。ウルスラにはいっぱい世話になったからね」

 僕はもうすぐ王都に行くから、今までのようには会えなくなる。


「手鏡。ありがとうございます。大事にします」

「大げさだなあ。最近少ししわが増えたからね」

「もう坊ちゃまったら」

「じゃあ、行ってくるよ」


     †


 僕の方こそ、聞きたいことがある。

 本館の母様の部屋の前に来た。扉を薄く開ける。

「レオンです」

「お入りなさい」


「ただいま戻りました」

「合格したそうね。おめでとう」

 顔は、あまりうれしそうではないが。


「ありがとうございます。これ王都の土産です」

 小さな紙袋を、卓の上にのせる。

「そう。ありがとう」

 母様は、視線すら向けず無表情だ。重苦しい。


「北区にあるラケーシス財団に行って、当主と会ったそうね」

「はい」


 ダンカン叔父さんにそのことを言っていない。つまりラケーシス財団から、父様か母様へ連絡があったということだ。

 まっすぐに母様を見返す。


「ふぅぅぅ。そう。それで、言いたいことはないの?」

「母様が、お話しくださると思っています」


「思ったよりも策士ね」

「父様と、そして母様の子ですから」

「大体レオンが考えている通りよ」

 なかなかに狡猾(こうかつ)だ。


「そうですか。あれだけそっくりで、血がつながっていないのであれば、神を疑います」

「まあ。最初から信じていないくせに」

「いいえ、都合の良いときは信じますよ」


「商人ぽいわね。それで、何か聞いた?」

「ええ、将来ある若者の後援をするのは、わが一族の望みでもある。励まれよ。だそうです」

「ふん。一族のね」

「何か、偽りが混ざっていますか?」

「さあ。どうなのかしら」

 一瞬眉根が寄ったが、無表情に戻った。


「そういえば、なぜ母様は父様と結婚されたのでしょう。まあウチも裕福ではありますが、あちらは桁違いです」

「答える必要あるかしら」


 予想通り、教えてはくれなさそうだ。

 だが否定はしなかった。ならば母様が、単にあの当主と同じ一族であるだけでなく、家計が同じか、あるいは余り変わらない水準であったことを、暗に認めたわけだ。


 それ以上のことを知ったとしても、僕には余り意味はない。この辺りで追及はやめよう

 そもそも、なぜ教えてくれなかったのかなど言えない。母様や家族に対して、僕もスネに傷ある身だ。それに遠からず、この家さえ出る立場なのだから。


「さて、レオンを呼んだ用件だけど」

「はい」

「私の考えを話しておくわ。財団から援助を受けることには反対しない」

 ふむ。


「ただ、当主が会ったとなると、何かレオンに対して魂胆があるということね」

「魂胆」


「狙いと言い換えても良いけれど」

 ふむ。

「奨学金の対象者には、全員と会うとか?」

「それなら、家令を代表理事にしないでしょ」

 なるほど。


「じゃあ、あの人が母様に似ているということは、僕にも似ているから」

「レオンに会って顔を見たかったってこと? まあそうかもしれないけれど。とにかく奨学金に関すること以外、あまり関係を持たないようにすることを勧めるわ」

「それは、なぜですか? 僕に何か害があることをするとでも?」


「それはないでしょうね。ただ……」

「ただ、何です?」

「あなたも行って分かったと思うけれど、感覚がおかしくなるわ。特に金銭の」


「そうですね」

「でしょ。あれはレオンのためにはならないわ。契約外のことで、何か言ってきてもレオンは断って良いから」

「しかし、この商会の出資者なんですよね。大丈夫なんですか?」


「もちろん。それにレオンは、15歳になれば商会との直接的な関係が切れるからね」

「それはそうですが」

「何か言われても……毅然(きぜん)と断ることができるように、経済基盤を早めに作った方が良いわ」

「こころします」

「それで良いわ」


「ちなみに、財団との奨学金契約の添書は、父様にお願いすれば良いのでしょうか?」

「ええ。決めたのは旦那様なのだから、そうすべきね」

「わかりました。では」


「ああ、コナンのことだけど」

 扉の前で止まる。

「はい」

「わかっていると思うけれど。あの子をゆるしてあげてね」

 大学を勧めてくれたことだろう。無論財団奨学金が前提にあってのことだ。どこまでが兄さんの意思だったかは知らないけれど、切っ掛けは父様に違いない。


「僕の希望に合っていたし。今のところは悪い方向へ行っていませんから」

 父様には逆らえませんからね、と。そこまでは言葉にならなかった。

 それに、切っ掛けがどうあれ、兄さんは僕のことを考えて、策に乗っていたはずだ。僕は信じてる。


     †


「ただいま戻りました。父様。コナン兄さん」

 父様の執務室に行くと、兄さんも居た。


「うむ。おめでとう」

「おめでとう。よかったな、レオン」

「はい。今回は旅費を出してもらってありがとうございました、父様。兄さんもありがとう」


「まあ、掛けなさい」

 父様と座って向かい合った。食堂以外では初めてかもしれない。


「ラケーシス財団から連絡が来た。レオンと当主様が顔を合わせたとな」

「はい」

 やはりな……当主様ね。


「誤算だった。代々、わが商会の長とその後継者にしか会わない約定だったのだがな」

 ふむ。父様にとっても予定外の事象と言うことか。


「わかりました。リオネス商会の共同出資者の件。僕は口外しません」

 父様は穏やかな顔でうなずいた。


「こちらは財団との奨学金契約書です。既に僕の署名は済ませてあります」

「わかった。添え書きをして、財団へはこちらから送っておこう」

「お願いします」


 こうして僕の進路と奨学金、そして下宿先が確定したのだった。


 テレーゼ夫人には、9月中旬からお世話になりますと手紙を出した。


 ビーゲル先生は、僕の合格をよろこんでくれ、お土産を渡すと、感激してくれた。そして、最後の授業をしてくれた。そのあと、僕は何度もお礼を述べてお別れをした。

 ウチに生徒となるべき者はいなくなったが、エミリアで別の家庭教師をされるそうだ。

お読み頂き感謝致します。

ブクマもありがとうございます。

誤字報告戴いている方々、助かっております。


また皆様のご評価、ご感想が指針となります。

叱咤激励、御賛辞関わらずお待ちしています。

ぜひよろしくお願い致します。


Twitterもよろしく!

https://twitter.com/NittaUya


訂正履歴

2023/11/16 少々表現変え

2024/04/22 誤字訂正(せとんくん(さん) ありがとうございました)

2025/03/26 誤字訂正 (毛玉スキーさん ありがとうございます)

2025/04/04 誤字訂正 (長尾 尾長さん ありがとうございます)

2025/04/13 「スネに傷を持つ」部を少し補足(asisさん ありがとうございます)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
むむむ……何がどうなってるのか全く分からん……! 多分意図して情報を制限されてるんでしょうけど、主人公視点でどんな情報を持っててどんな推測をしてるのか、ママンの血族がどんな存在なのか、なんでこんな警戒…
スネに傷ある身>地球人が息子さんの体を奪った可能性があるので、能動的にやらかしたわけでもないが、少し申し訳ない気持ちからでたと解釈していました。
技術用語関連の話は難しくて、3割位しかわかっていませんが、話が丁寧で面白いです。 誤字ではないのですが、「わかった。添え書きをして、財団へはこちらから送っておこう」のこちらではなく、私のほうが僕に対…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ