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制御技術者転生 モデルベース開発が魔術革命をもたらす WEB版【書籍発売中】  作者: 新田 勇弥
8章 青年期 青雲編I

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304話 ラケン商会会頭来る

職場に社外の偉い人を向かえることになると、何かと面倒ですよねえ。

「少し早いですが、参りましょう」

「そうだね」

 代表に促されるまま会議室を出て、商会が入る建物1階ヘ降りてきた。車寄せの前で待つ。

「来られるのは、新しい会頭なんだ」

「はい。ラケン商会の中で人事異動があり、例の件の商談が滞ったことを申し訳ないとの手紙を秘書の方からいただきました。新会頭のお名前は書いてありませんでしたが」


 代表は微妙な顔だ。

 例の件とは、刻印魔導装置についてだ。会頭が変わったのなら致し方ない。

 でも今日はその話ではなく、イザベラさんの個展の協賛についてだ。本来は、こちらが出向くべきだろうが、ここで顔を合わせることになった。せめて玄関まで出迎えないとな。

「協賛の件は、新しい会頭の意向なのだよね」

 会頭が変わったからといって、なかったことにされるのは辛い。


「それは確認しています。あっ、来られたようです」

 辻馬車とは違う、馬車が車寄せに滑り込んできた。暗い緑色で落ちついた感じの客車。小さくラケン商会の商標が描かれている。

「むっ!」

 隣で、代表が目を剥くように見開いている。どうしたのかと思っていると、女性が2人降りてきた。そして、代表の異変の理由が見て取れた。

 似ている。

 あとに降りてきた中年に差し掛かった女性が、隣に立った代表にそっくりとまでは言えないものの、10人が見たら、7、8人が血縁と言うだろう。

 であれば、母様にも、僕にも似ているということだ。

 当然ながら、代表は新会頭が誰か分かっているのだろう。


「ようこそ。トードウ商会へ。オーナーのレオンです」

「お出迎え痛み入ります。ラケン商会の会頭、ジャンヌです」

「では、こちらへ」

 玄関ホールを横切って階段を上り、応接室へ案内した。

 テーブルを挟んで向かい合う。相手方はふたり。当方は僕と代表だ。

 すぐさま、サラとラナが、手分けしてお茶を出してくれた。ティーラとラナも同席する予定だったが。代表が後でと言って、追い出した。


「打ち合わせの前に、すこし話をさせてもらえるかしら」

「はい」

「レオンさん。あなた、本当にアンリ……アンリエッタさんの息子なのね。彼女の若い頃にそっくりだわ」

「そうですが。失礼ながら、どなたに聞かれたんですか?」

「ああ、財団のキアンさんよ。あなたも会ったことがあるんでしょ」

 ラケーシス財団のことだ。財団とラケン商会は、資本関係があるからな。

「はい。奨学金審査と研究報告のときに会いました。最近もお世話になっています」


「そう。キアンさんには、あなたに失礼がないように警告されたけれど……」

 ん?

「……そんなことはできないわ。すこし状況が変わっていれば、私があなたの母親になっていたかもしれないのですもの」

 なんだって!?

「ジャンヌさん!」

 代表の顔色が変わっている。

「良いじゃないの。本当の話だし、20何年も昔のことだわ。レオンさんのお父様、バラントさんの花嫁候補にね。一族の中で2人に残ったわ。まっ、最終的にアンリさんが選ばれたけれど」

 ほう。そういうことだったのか。

 一族の中で選出したか。それは、父様の嫁だったからか、それともリオネス商会の跡継ぎだったからか。わからない。母様は、父様と結婚する前のことは一切しゃべらないからな。それは代表も同じだ。財団というか、一族のことを語るのは禁忌らしい。まあ、さほど知りたいとも思わないが。しかし、展覧会の話だけと思っていたが、思わぬ方向へ行ってしまったな。


「それはともかく、アリエスさん。ひさしぶりだわね」

「ええ。おひさしぶりです、ジャンヌさん。そうですか。ラケン商会の会頭に成られたんですね」

「先月のことよ。私も半年……もう少し前ぐらいだったかしら。アリエスさんが財団を辞めたと聞いてね。どうしているのかと思ったら、トードウ商会の代表に収まっていると聞いて2度びっくりしたわ」


 ふむ。

「ジャンヌさんも、財団にいらしたんですね」

「ええ、そうよ。10年くらい前まではね。今はラケン商会にいるけれど。それで、どういう血縁かは聞かないのね」

「ええ、母は自分の一族について話したくないようですから」

 その辺りをほじくり返して意味を為すには、ラケーシス財団を深く知る必要がある。ジャンヌさんと母様の関係性だけ知っても、大したことはない。それに……


「ふふふ。母ね。アンリさんは元気にされているの?」

「ええ。かなり(・・・)元気にしています」

「そう。久しぶりに会いたいわね。あなたの母親には成れなかったけれど。まあ、一族ではあるわ。ラケン商会を含め、幾久しく親交させてもらいたいわね」


 セシーリアの慣習では、血脈を優先するし、信頼を寄せるのが当然のことだ。

 つまり、トードウ商会というか僕の最恵待遇の対象がリオネス商会であることは変わらないが、ラケン商会はレナード商会と並んだ同率2位ということになる。

 大きく見れば魔術関連商品を扱うという点ではリオネス商会と同じだが、幸いにも商品展開が余り被っていない。代表的な商品が、書類複写魔導具や魔石刻印魔導具とかの装置系だからな。


「わかりました」

 とはいえ、逆も真なりだ。こちらの意向がラケン商会に通りやすいということでもある。無論、あちらは同族経営ではないから、重みは違うが。


「会頭」

 同行の秘書が促した。

「そうね、積もる話はあるけれど。本題の展覧会の話をしましょう」

 追い出したティーラとラナを応接室に入れる。

 ラケン商会がある東区。それも中央区との境にほど近い一等地に会場を1週間も借りられることになった。

 立地は大変よいのだが。元々画廊や、美術品店ではないので、内装には手を入れないとならない。手が掛からない会場施設は、イザベラさんの後援者候補だった画廊が手を回しているから借りることができない。

「申し訳ないけれど、1日100セシル(10万円見当)をいただくことでいいかしら」

「もちろんです。ありがとうございます」

 格安だ。たぶん1/5から1/10だと思いますと、サラが言っていた。

 逆に只にすると言われたら、恐縮してしまう。

「いやあ、レオンさんと私の間柄だからねえ」

 うれしそうに笑っているが、その言葉は重いな。


 内容自体は、実務者であるナタリアやティーラから、受けていた報告そのままだ。

「それでは」

 出された貸借契約書に、お互いに署名をした。

 こうやって見直してみると、母様よりは代表に似ている感じだ。ただ年齢は10歳ぐらい上に見える。ウチの母様は結構若く見えるからな。


 この人の子だったとしても……

「何かしら?」

 凝視していたらしい。

「いえ。もしジャンヌさんが僕の母親だったとしても、僕は今とよく似た顔になっていたかなあと思いまして」

「それはどうかしら。ウチにもレオンさんよりは年上の息子が居るけれど」

「そうなんですか?」

「うーん、レオンさんよりだいぶ厳ついわね。ああでも、それは夫、父親に似ているからか」

 そういえば、そうだ。兄さん2人ともそっくりと言われたことはない。

 ふむ。

 年の近い親戚が居るものだなあ。そっちはもう少し教えてもらってもいい気がするのだが。

 すこし代表をにらむ。


「これで今日の用件は終わったのだけど、すこし商売の話をさせてもらってもいいかしら」

「はい」

「純粋光の話だけど」

「ええ」

「あれって、魔結晶の刻印以外にも使えるのよね? 例えば何かしら?」

「刻印に似ていますが、切断、金属等の溶接など単位面積当たりの高熱量を生かした用途の他、測距、標識、演芸辺りです。特許には、そう書きました」

 書いたのは効果の欄だ。その用途に関する純粋光の権利を持っているわけではなく、あくまでも発振方法が同じでないとだめだ。まあ派生特許はたくさん書いたから、それらの特許権も押さえていく取組はしている。


「ふむ、大体の用途は承知しているけれど、測距というのは?」

「光は、空気中では一定速度です。大雑把に言えば、光が行って帰って来る時間を計れば、測定精度に応じた範囲で距離が測れます」

「なるほど。面白いけれど、魔導光では……拡散してしまうから、有効範囲が短くなるか。それと、光速度有限説、一定説は知っているけれど。確信しているようね。どれくらいなの?」

「およそ毎秒3億メトです」

「3億か……」

 ふむ。ラケン商会の会頭だけあって、理系の話も分かるようだ。

 そう。光速度は無限という説は根強いからな。速度が無限ならば、計時による測距はできなくなる。


「光の話は置いて。何か最近も面白い特許を出したようね」

「さて、どの件ですかね?」

 一応とぼける。

「新しい熱源よ」

「ああ、あれですか」

 向かい合って笑い合う。

「循環魔術だそうね?」

 明細書に書いたから、提携していれば知財ギルドで誰でも読める。

「そう、アンリエッタさんと競合になるかもしれないけれど、ウチとも取引をしてもらいたいのよ」

 一度出ていった、秘書が戻ってきた。

「会頭。お時間が」

 馬車が用意できたのだろう。

「ああ、そう。レオンさん、会えて良かったわ」

「私もです。ジャンヌさん。先程の件は、考えておきます」

「ありがとう。よろしくね」

「では」

 1階まで見送りにいった。


「ふう」

 商会に戻って、一息吐く。

「オーナー、ありがとうございました」

 ラナだ。

「えっ。どうした?」

「イザベラさんのために、お骨折りいただいて。感謝します」

「いや、当然のことだよ。それに、ラナさんこそ実務者として、とりまとめてくれたんだよね。ご苦労でした」

「とっ、とんでもない。それより、よろしいんですか。本業の方に影響しないのでしょうか? ラケン商会の会頭はご一族なのですよね」


「そうだけど。心配は無用だよ」

「はい。イザベラさんにも、今日のことを言って聞かせます」

「ああ、それは無用と言うか、イザベラさんには、言わないように」

「そっ、そうですか?」

「そうよ。ラナさん」

「代表?」

「イザベラさんには、変な圧力を掛けないように。オーナーのこととなると、人が変わってしまうからね。そちらの方が心配だわ」

「ああ、そうですね。承りました」

お読み頂き感謝致します。

ブクマもありがとうございます。

誤字報告戴いている方々、助かっております。


また皆様のご評価、ご感想が指針となります。

叱咤激励、御賛辞関わらずお待ちしています。

ぜひよろしくお願い致します。


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訂正履歴

2026/04/03 細々訂正 (すみません)

2026/04/04 誤字訂正 (Hajimeさん ありがとうございます)

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表紙絵
― 新着の感想 ―
>それらの特許権も抑えていく取組はしている 押さえていく、のほうが意味としては通るか、と。
乗っ取ってるwww 財団怖ぇ
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