30話 王立サロメア大学
次話は、明日投稿します。
「改めて、ようこそわが家へ。レオン、良く来てくれた」
「はい。お招きありがとうございます」
王都に入城した夜、支店長であるダンカン叔父さんの家で、夕食に招かれた。
「ブランシュ。あいさつを」
「そろそろ1年たったかしら。ダンカンの妻。そしてレオンさんの叔母になった、ブランシュよ。よろしくね」
「こちらこそ。よろしくお願いします」
むう。アデルさんのお母さんだけあって、美人だ。いやあ、逆にアデルさんを生んだような歳には見えない。そういう意味では、母様と同じだ。
「おとうさん。おなかがすいたぁ」
「そうだな。食べながら、話をしよう」
ヨハン君は、はっしとスプーンを握ると、スープを口へ運んだ。
「おいしい」
「そうぉ。がんばって作ってよかったわ」
よくなついているな。まずは良かった。
本当だ、おいしい。
「これって、ブランシュさんが、作られたんですか?」
「そうよ」
「お料理が得意なんですね。おいしいです」
「ふふふ。しかし、レオンさんは、お義姉さんにそっくりね」
母様も時々買い付けに王都へ来ている。その時に会ったのだろう。
「よく言われます」
「そうよね。男の子なのにほっそりしているし、かわいらしいから、女の子にも見えるわよねえ。ロッテ」
「見えないわよ、おねえちゃん。失礼だわ」
「いや、そういう意味じゃないわよ。かわいいって言いたいだけよ」
「おねえちゃん。男子にかわいいって、褒め言葉じゃないんだからね」
うううう。
「そう。ごめんね。レオンちゃん」
「ちゃん?」
叔父さんが、少し驚いている。
「そう。お父さんが帰ってくる前に仲良くなったから。いいでしょう? レオンちゃんもいいって」
「あっ、うん。レオンが良ければ構わないが……」
ダンカン叔父さん、娘には甘そうだなあ。
なんか、ロッテさんの視線が冷たいんだけれど。
「うふふふ。あっ! そうそう。そういえば王都へは何をしに来たの? レオンちゃん」
「そうだ、言っていませんでした。大学の2次試験を受けるために来ました」
「大学なのね。何大学?」
「サロメア大学です」
「サロメア大学って王立の? あそこって、とっても賢くないと入れないんじゃなかった? それに2次って、1次は合格したってことよねえ」
「賢いかどうかはわかりませんが、1次試験は通りました」
「すごい。やっぱりレオンちゃんは賢いのね。思った通り」
「そんなにすごい学校なんですか? あなた」
「うむ。すごく頭が切れる本店の支配人が、確かその大学だったはずだ」
「そうなんですね」
「そうよ。うちの養成学校でも付き合うなら、レオンちゃんの大学の人ってみんな言っているわよ。おっと!」
ロッテさんが、アデルさんを睨んだ。何だろう?
「いえ。まだ合格したわけじゃ。それはそうと、養成学校っていうと?」
「私、サロメア歌劇団養成学校に通っているの」
歌劇団!!
「いや、アデルさんこそ、すごいじゃないですか」
サロメア歌劇団といえば、セシーリアの3大歌劇団と呼ばれる芸能団体のひとつで、僕でも知っているほど有名だ。
歌劇団好きの義姉さんが、夕食後によく語っていたなあ。
まずは容姿端麗じゃないと入団できないし、加えて舞踊とかもできないと駄目らしい。さらに入団しても、上位になるためには歌って踊れて演技力も必要とされるそうだ。
そうか。その養成学校もあるんだ。知らなかった。
「へへぇ。ありがとう。ちなみにロッテも、今年受けるのよ」
「えっ?」
「私のことは、どうでもいいでしょう!」
おお。少し反抗期かな。
しかし、この美人姉妹なら、少なくとも容姿については文句ないだろう。
「それより、2次試験っていつなの?」
「あさってからです。ロッテさん」
”から”というのは、一斉に受験するわけではなく、受付順で随時試験開始と要項に書いてあった。全国から受験生が集まってくるので、そもそも日時が絞れないし、絞る必要もない。2次試験は試験内容が明らかになっているし、一定の水準に達している者は全員合格だからだ。それはそうと、ロッテさんも少しは興味があるのかな?
「そう。もしかして、その大学に合格したら、このうちに住むの?」
そのことが気に掛かったのか。
「まあ、それはうれしいわ」
「お姉ちゃん!」
「いえ、そういうわけには。大学には寮もあるそうですし。歳頃の娘さんがいるお宅に、下宿するわけには行きません」
「あら、残念」
ロッテさんは、小さく何度かうなずいた。
「まあ、なんだ。兄さんと義姉さんにも、考えがあるそうだからな。レオンが言った通りになるだろうな」
和やかな中、夕食をおいしくいただいて、寮へ戻った。
† † †
2日後。
辻馬車に乗って、2次試験会場である王立サロメア大学へ向かう。
王都は、ニコラさんが教えてくれたように中央区、北区、東区、南区、西区と正方形が5つ十字に並んだ区に分けられる。大きな街路は、南北、東西にそれぞれ3本ずつが存在する。
中央区は、凱旋門があるマルティン広場、その北に王宮とサロメア大聖堂やいくつもの教会が中程にあり、さらの周辺には政府の官庁街がある。北の方へ回り込むと貴族の邸宅があるらしい。
北区は、森林と呼べるほどのスーベル緑地を中心に豊かな自然風景を含む緑地と湖沼が点在し、オデット離宮と大貴族の屋敷がちりばめられている。
東区は、商業地と平民の居住区とが多くを占めるが、こちらも緑地が多い。
西区は、工人職人が多く住み、生産地区と言える。
南区は、文教地区であり、博物館、図書館、美術館、さらに多くの学校があり、これから向かう大学も南区にある。
辻馬車は西に走りいったん中央区へ入った。
右手前方に大きな、やや黄色掛かった白い建造物が見えてくる。王城の城壁だろう。
程なく馬首を左に向けて南区へ入った。
右手は、木立と芝地が見える。マルティン公園だろう。この先に大きな広場があり、その中ほどに、凱旋門があるはずだ。ここからは見えないけれど。
そして、上り勾配を5分も走った頃。辻馬車は止まった。
「お客さん、着きましたよ」
黒い鉄の柵が見えた。少し先に門が見える。
「ありがとう。いくらですか?」
「11路なので、88ダルクです」
「じゃあ、これ」
大銅貨8枚と小銅貨8枚を渡して辻馬車を降りた。寮からはおおよそ6キルメト位(おおよそ6km)だろう。30分ぐらい掛かった。結構遠い。
門へ向かう。
看板には、王立サロメア大学南キャンパス、芸術学部、工学部、魔導学部と刻まれていた。そもそもこの大学は、北区にあった離宮を下賜してできた学校なので、古くからある学部は北キャンパスにある。学部を増やすに当たって手狭になったので、南キャンパスを増設したそうだ。
門に立っていた守衛さんに受験票を見せると、試験場は西の方にある武道場だと教えてくれた。
へえ、これが大学か。
広々しているなあ。
案内図が立っていたので、しげしげと眺める。敷地はおおよそ1キルメト四方だ。
現在地、東の端近くは工学部関連だ。というかキャンパスの東半分が同学部だな。
中央は、ホール、講堂、図書館、教務事務棟など共通施設だ。北側に行くと芸術学部、西半分の大半は、教練場という広い敷地が占めている。魔導学部は西側にある。
あとは、北の端と南の端に、これは敷地内かどうか知らないが2つの寮がある。
それから、向かうべき武道場は、教練場の北側にある。脳内システムでは、目で見た光景を保存することができるので、案内図を記録しておく。
通路を進むと、大きい建屋がいくつも並ぶ。
何だか既視感がある。おそらく怜央の大学もこんな感じだったのだろう。
左右を眺めながら西へ進んでいくと、正面に大きな更地が見えてきた。間違いなく教練場という場所だろう。
ということは。その前の角を右へ曲がって回り込んでいく道、この先の建屋が武道場か。
進んで行くと、やや赤味がかった灰色の服を着た人がいた。
軍服? そうらしい。
なぜそこに居るか分からないが、軍人4人が通路の脇に並んでいる。
足元に両手で持てるぐらい大きさの板が立てて置かれていた。何か書かれているな。うぅんと。魔導学部人員は国の宝。もっと軍籍学生を増やそう。血税を無駄にするな。
通路を進んで行くと、その軍人たちににらまれた。
この書かれた文章の意味がよく分からない。軍籍学生というと、軍に所属する学生のことだろう。しかし、それを増やそうと訴えるのは、意味がよくわからない。血税を無駄にするな?
王立というだけあって、この大学には、国王陛下や政府からの補助金が出ているだろうが。それが無駄なのか? それとも、軍人ではない普通の学生が無駄だということだろうか?
何が目的なのかよく分からないが、僕に対してはにらむだけで特に行動を示してこなさそうだ。彼らの目の前を通り過ぎて、受付である武道場にたどりついた。
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2023/11/02 誤字訂正、くどい表現是正
2025/04/11 誤字訂正 (ジオードさん ありがとうございます)
2025/04/17 文章の乱れ訂正 (浜通 啓太郎さん ありがとうございます)