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制御技術者転生 モデルベース開発が魔術革命をもたらす WEB版【書籍発売中】  作者: 新田 勇弥
8章 青年期 青雲編I

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295話 人脈づくり

大事ですよね、人脈。

 館に帰ってきた。

 その前には商会に寄り、代表が書いてくれた下書きを打ち直して、それに署名して、出資者候補に発送した。

 熱源を廉価にできるという材料の特許出願公報を付けて。


『必要ないと思いますが』

 代表はそう言った。

 確かにリオネス、レナード両商会には必要ないだろう。

 だが、ウーゼル・クランはどうか?

 バルドスさん以外の背後に居る人達だ。出資は、クランでやってくれることになっているからな。


 ナタリアが調べてくれたところによると、彼のクランは一枚岩ではないらしい。そもそもクランだからな。彼の肩書きも共同経営者だ。彼の他にも経営者が居る。

 バルドスさんが筆頭扱いではあるが、追い落とすというよりは祭り上げて権力を形骸化させようという派閥もあるそうだ。なんでも、いくつかの慈善事業に手を出し始めたことで、有り体に言えば刃が鈍った、老いたという評判を広めようとしているらしい。

 僕は、せっかく信を得ているのだ、彼の立場が悪くならないようにしないと。


     †


 夕食を摂って、入浴して部屋に戻って来た時、魔導通信が掛かってきた。

 壁際に楕円の発動紋が水面のように揺れ、アデルが出てくる。

「レオンちゃん。うふふ。寒いわ」

 いきなり抱き付いてきた。

 寒いのなら、もう少し厚着すればいいと思うが。熱交換機の方を向き、蒸気の流量を上げる。


「暖かい。えっ!」

「脚が冷たくなっているよ。なんかやっていたの?」

「うん」

 アデルの脹ら脛をさすりながら訊く。

「ロッテの引っ越しを手伝っていたの」

 今日だったのか。

 ロッテさんは、メイドを辞めることになったのだ。引っ越しと言っても、向かいの館を出るわけではなく、メイドたちが寝起きしている西の区画の1階から、客間区画である2階に移るだけだが。

「あの子もバカよね。お母さんが出してくれると言っても、裏でお父さんが出してくれるのがわからないのだから……」

 そう。

 ここ数ヶ月は、メイドとして働くということで、食費や部屋の家賃などの大部分は大幅に安くなっていたが、トードウ商会の従業員ではないからアデルが負担していたのだ。

 ロッテさんが、10月から研究生で学費免除となったから、必要な資金がざっくり半減した。

 それに合わせて、書いた料理本が発売されたという名目で、ブランシュ叔母さんがそれらを、負担することになったわけだ。

 ダンカン叔父さんの援助であれば、またへそを曲げたかもしれない。


「行儀見習いは、もう少し続けた方がいいと思うけれど。ロッテがいつまでもメイドの口調だと気持ちが悪いしね」

 アデルも素直じゃない。

「おっと、レオンちゃんの横に居るのに、時間の無駄だわ」

 この前は、バカ姉と呼ばれていたのに、気にする風もない。


「そうそう。歌劇界は読んだ?」

「ああ。今日、ベルの友達から見せてもらったよ」

「ベル……ああ」

 おっ、少し表情が陰った。

「それで、その記者が……ええと。明後日だわ。取材に来るのよ。なんて答えたらいいと思う。いきなり、茶葉を作ったレオンさんとはどういう関係ですか!? そう訊かれるかも」

「ああ」

「結婚を誓った仲です! そう答えても良い?」

 にやっと笑う。

「アデルが良ければね」

「もぅ、少しは焦ってくれないと、つまんない……でも、うれしい」

 機嫌が直ったか。


「でもさあ、私もパウロさん達のために力になりたいからさあ。なんて答えるのが良いのかなあ。アーキ茶は有名になった方が良いとは思うけれど、いきなり量は作れないのよねえ」

「そうだねえ、歌劇団の人に迷惑を掛けないように、想定質問を一緒に作ろうか」

「うん」


     †


 11月も半ばを過ぎ、吐く息が少し白くなってきた。約束の1時の鐘はさっき聞いた。

「オーナー。レナード商会の方が、第1応接でお待ちです」

「ありがとう。サラ君」

 商会の事務所から奥へ行き、扉をノックした。


「お待たせしました、オットーさん」

 ソファーセットの代表の対面に、既に座っていた。

「いえ。大学と掛け持ちで大変ですね」

「いやあ。すみません」

「この前の熱源魔導具ですか、すごいですねえ。ウチでも扱いたいぐらいです」

「恐縮です」


「それで、本日の用向きなのですが……」

 今日の面談は、レナード商会から申し込まれたのだ。

「オーナー、こちらを」

 代表が冊子を僕に差し出してきた。何の冊子だ?

 ガライザー内諾署名集?

 表紙をめくると内諾書と表題があり、下の方に住所と署名がある。

 2枚目、3枚目と見ていくと全部違う名前だ。


「これはまさか……」

「私、一昨日までガライザーへ行っていました。これは、クラン員募集の応募をいただいたアーキ栽培農家の方々の署名です」

「いや、結構枚数がありますけど」

「はい。33人の方から、内諾をいただきました」

 顔を上げて、オットーさんを見直す。


「すごい。これは……大変だったでしょう。ありがとうございます。これだけの人数が集まれば、工場が建てられます。さすがですねえ。あなたもありがとう」

 オットーさんの背後に立つ人にも、会釈した。

 本当にすごい。

 農家と取引経験があるとはいえ、短期間にこの人数を集められたのは、驚くべきことだ。


「いやあ、なんだか、レオンさんに褒められると気分が良いですね、なあ」

「はい。そうですね」

 うれしさそうに秘書さんがうなずいている。

 オットーさんは、勧誘の才があるなあ。商売人としては強力な武器だ。

「私たちもがんばりはしましたが。とはいえ、まあ、レオンさんの手柄ですよ」

「えっ?」

「こういう営業の時に、何が一番大変だと思いますか?」

「いや……」

 思わず代表を見たが、彼女も少し首を傾げた。

「答えてあげて」

「はい。最初の1人です」

 最初の?


「そう。味方というか協力者を作るのが大変なんです。なかでも1人目が、まぁ、きつい。見しらぬ人間の言葉なんか、そう簡単には聞いてくれませんからね」

「そうなんですか」

 言われてみればそうなんだろうが、肌感覚はない。


「ははは……でしょう。レオンさんは、恐ろしいほどの才覚で、人々を魅了して乗り越えていかれますからね。無論それができるのがなによりですし、事業としては本道なんですよ。ただ、私のような凡俗には、そうはいきません。おっと、話が変な方向にいきました。今回は、パウロさんとそのお母様がとても働いてくれました」

 えっ、お婆さん? パウロさんはともかく。


「レオンさんが予め、あの方々を強固な味方に付けてくれていたので、それを足掛かりにして広められました」

「えっと、パウロ農園のお婆さんが、何かしてくれたんですか?」

「はい。商工会に集まってくれた人たちの、親の世代に横のつながりがあるそうなのですが、そこに働きかけてくれたそうです。レオンさんは商売人なのに、アーキの実の収穫を金も取らずに手伝った。牙猪を10頭以上退治した。すごいヤツだ。つきあって損はないと主張されたそうです。そんなことまでされていたんですね。驚きました。名簿の10枚目以降10人位の方々は、その線です」

「おお、そうだったんですね」

 思わず代表と顔を見合わせる。


「あとは、これです」

「月刊歌劇界……」

「ええ、いやあ。がんばっていれば意外な味方が現れるとは、聞く話ですが。これはまさに時の氏神でしたね」

「ほう」

「商工会の会頭が、これを見て需要が喚起されるから、参加するなら今だと話を広めてくれまして、さらに10人くらい賛同者が増えました」

 はあ。今日は何度も驚く日だなあ。

「その方々を中心に、茶葉を作ってもらっています。これから、数十キルグラ単位で続々届くと思います」

「助かります。オットーさん」

 正直、そこまで期待はしていなかった。目指す量はもっと多いが、当座はすごく助かる量だ。


「いえいえ、なんの。レオンさんには、この事業に誘ってもらったご恩がありますからね。それぐらいは安いものです。ああ、それから……」

 まだ何かあるのか?

「3人から、レオンさんに伝言があります」

「3人?」

「ええ。まずはラトルト会頭から、こちらの農家は任せろだそうです。あとやはり最初からガライザーでも出資したいそうです。近日、人を送られるとおっしゃっていました」

 おお、心強いな。出資の件は、できるだけ早くと言っていたが、目処が付いたようだ。


「2人目は、パウロ農園のお母様からです」

 なんだ?

「ええと。彼女がおっしゃった通り、申し上げます。レオン。オラは働いたぞ、嫁寄こせ」

「よっ、嫁……」

「はい。パウロさんの後添えのことですが」

「いやあ、嫁と言われても」

 代表を見ると、小刻みに首を振った。

「それについては、妻が任してくれと言っています」

「はっ? ええと」


「この間、レオンさんの嫁候補を用意すると言っていたじゃないですか」

「そっ、そうでしたね」

「褒められたことかどうかわかりませんが。人を娶せるのが趣味なんですよ、イレーネの」

 なんか力が抜ける。人脈づくりなのかなあ。面倒なことしかないような気がするが。世の中は広い。

「あっ、あぁ。お任せします」

「それは良かった。では最後の3人目ですが。覚えてられますかね?」

 誰だ?

「説明会の会場で、反対派の急先鋒の横に居た、フロックを着ていた人です。名前は教えてもらえませんでしたが」

「あぁ」

 多分、入れ知恵をしていたやつだ。

「俺は、手を引く。サロメア歌劇団まで味方にできるヤツには敵わない。いくら金を積まれてもな……だそうです」

「そっ、そうですか。わかりました」

 誰かに頼まれたということか。あのグルバンという男なのか。気になるな。

 ただ状況はよくなった……のかなあ。理念がなくなると残された者たちが暴発しやすいとはありうることだ。パウロさんと商会の会頭には、お礼と警告の手紙を送らなければ。


お読み頂き感謝致します。

ブクマもありがとうございます。

誤字報告戴いている方々、助かっております。


また皆様のご評価、ご感想が指針となります。

叱咤激励、御賛辞関わらずお待ちしています。

ぜひよろしくお願い致します。


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GAノベル殿より書籍が発売されます。

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訂正履歴

2026/03/03 誤字訂正 (布団圧縮袋さん ありがとうございます)

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表紙絵
― 新着の感想 ―
田舎においてメディアからの宣伝っていうのはやっぱり強いよね
旗振り役がいたら煽りはしても暴発はさせんか。 暴発して犯罪でもされたら教唆で捕まりかねないし。
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