29話 父子家庭?
小さい子の場合は、気を使いますよね。
違うと言われても。誰と違うと言っているのかな?
「だぁれ?」
「僕はレオン。ヨハン君のいとこってわかるかな。ダンカンさんのお兄さんの子供だよ」
「おとうさん?」
「うん」
「コナンにいちゃんは?」
そうか。兄さんのことを言っていたのか。
「ああ……コナン兄ちゃんは、ここからは遠いエミリアって所に居るよ」
「なんだあ、おとうさんがおにいちゃんがくるって、いってたのに」
かなりがっかりしている
この子は兄さんがここに来ると思って期待していたんだ。兄さんは、誰からも好かれるし、王都にも何回も来ているしね。
「ごめんね。僕はコナン兄ちゃんの弟なんだよ」
「そう」
意味がわかったのかわからないのか。ただ完全に僕に対する興味を失ったようだ。
おかあさんを失ってさびしい時に、時々来るコナン兄さんになついたんだろうな。兄さんは優しいし。
「そうだ。ちょっと待って」
持ってきた袋に手を突っ込んで取り出す。
「これ、なに?」
「船のおもちゃだよ」
「おふね?」
興味を引けたようだ。
木彫りの船だ。僕も海に浮かぶ船は見たことはないけれど、むかし絵本で見た海に浮かぶ2本マストの船を象って作った物だ。
「これをね。ヨハン君にあげる」
「くれるの?」
「うん」
「やったあ」
おもちゃを渡してあげると、目を輝かせていろいろな方向から見ている。
「おふねだから、おいけにうかぶ?」
「もちろん」
笑った。こんなにかわいいのに、母親を亡くすなんて余計にかわいそうだ。
「ヨハン君。さびしくないかい?」
「なんで?」
いや、なんでって。
「おかあさんもいるし。さびしくないよ」
えっ?
はっ? いやいや。叔母さんは去年亡くなったよな。どういうことだ。まさかと思うけれど。
「おかあさんって?」
「おかあさん。このまえ、おとうさんとけっこんしたの」
「ええ?」
結婚? いやいや、そんな話は聞いてない。
んん、待てよ。辻馬車でニコラさんが言っていた、もしかしてに続く言葉って、このことなのでは? そうか、本当のことか。叔父さん後妻をもらったのかあ。
僕は知らなかったけれど。まあいい。
「ヨハン君。おかあさんはやさしい?」
「うん。やさしい。おりょうりもおいしいんだよ。おかあさんがいっつもつくってくれるんだ」
「よかったね」
コンコン。
ノックだ。メイドさんかな。
「失礼します」
明らかにメイドさんとは違う。赤いドレスを着た女性が入って来た。
うわぁ。すごい美人だ。背丈は僕と同じくらいか、ほっそりとしているけれど。大きく開いた襟元から、大きな球体が2つのぞいている。
じゃあ、この人が。
「ああ。エミリアから来ました、レオンです」
思わず立ち上がって挨拶する。
「初めまして。アデレードです。アデルと呼んでくださいね。レオンさん」
「はい。アデルさん」
「ヨハン。もう、お兄ちゃんと会っていたの?」
「うん。コナンにいちゃんじゃなかったけれど。おふねをもらった」
「まあ、よかったわねえ。ヨハン、こっちに来なさい。ああレオンさん、どうぞ、座って」
「はい」
うわあ、本当に美しいな。何歳なんだろう。とても若く見えるんだけれど。
ヨハン君は、アデルさんの横に座って、すっかり甘えている。
なついてるなあ。やさしそうだし。よかったな、ヨハン君。
ああ、そうか。叔父さんはアデルさんがあまりに若いから、言い出しにくかったんだな。
「あっ、あのう」
「なにかしら?」
「ご結婚おめでとうございます」
「えっ?」
素直に驚いているな。
「いや。ダンカン叔父さんと結婚されたって、さっきヨハン君から」
「えっ、私?」
「はい」
突然アデルさんは、上体をこちらへ倒した。
「どうしたの? おねえちゃん」
「お姉ちゃん?」
「うふふ、うふっ、あはっふふふあは」
上体を戻したアデルさんは、笑い転げていた。
「はぁはぁ。ふふふ……」
少し涙がにじんでいる。
「いっ、いやねえ。お父さんは良い人だけど、さすがに結婚はしないわ」
「はっ?」
「お父さん。レオンさんの叔父であるダンカンさんと結婚したのは、私のお母さんよ」
「えっ?」
「そう。だから、レオンさんと私はいとこってこと。つまり、私はこの子の姉よ、ねえぇ、ヨハン」
「うん。おねえちゃん」
「ああ、そうだったんですか。すっ、すみません」
「まあ、別に良いけれど。あれ? 良く考えたら、私がいくつに見えたのよ。これでも17歳よ」
「17歳!?」
いやあ。叔父さんの奥さんとしてはとても若いとは思ったけれど。20歳ぐらいには見えた。
「そうよ。紀元472年生まれ。本当に、私がお父さんと結婚したって思ったの?」
「えっ、はい。叔父さんは、とてもうらやましいなっと」
「まあ。うふふふ」
しまった。なんか変なことを言った。
アデルさんは、とてもうれしそうに笑った。
「ふぅぅん。うらやましいんだ。そう。なかよくできそうね。レオンさん」
「よっ、よろしくお願いします」
「ふふふ。それで、レオンさんは何歳なの?」
「あっ、ああ14歳です」
「14歳なんだ。かわいいわねえ。ほら、ヨハン、お兄ちゃんが赤くなっているわよ」
「んんん? ほんとだ、おにいちゃん。まっか」
「そうだわ。かわいいからレオンちゃんって呼ぼう。いいわよね?」
「ええ」
なんだか免疫ができている。
「お姉ちゃぁん」
外から別の女性の声が聞こえてきた。
「ああ、ここよ。応接間」
扉が勢いよく開いた。
「お姉ちゃん! あっ」
入ってきた少女が、僕と目が合って固まった。
「紹介しておくわ。私の妹で、もう一人の連れ子。ほら、自分で名乗りなさい」
「シャ、シャルロットです」
この人も美人だ。アデルさんとよく似ていて、薄い若葉色のドレスを着ている。
「エミリアから来たレオンです。よろしくお願いします」
立ち上がって、あいさつする。
「よろしく」
「この前に来ていた、コナンさんって人の弟なのよねえ」
「はい。そうです」
「あぁ。似て……余り似てないですね」
確かに。コナン兄さんは男前なんだけどなあ。
「兄は父似で、僕は母似なので」
はぁとシャルロットさんうなずいた。
「そう。それは良かったわねえ」
「えっ?」
何ですか? アデルさん。
「そうだ、ロッテ。あなた、レオンちゃんと同い年だわよ」
「そうなの? 14歳?」
うなずく。
へえ。
この少女も、同い年にしては大人びているな。
2人とも目鼻立ちがはっきりしていて、少し眉の形が違うけれど。
「聞いて、ロッテ。傑作なのよ。私がお父さんと結婚したと思ったんだって」
「えっ? ダンカンさんと?」
ダンカンさん?
「そうよ。ご結婚おめでとうございますだって、うふふふ」
「まあ」
「私とレオンちゃんは3つしか歳が違わないっていうのに。ずいぶん年上に見られたのねえ」
「はぁぁ。それは、お姉ちゃんが、お化粧して胸を見せつけているからでしょう」
「まあ、そうなの? レオンさん」
そう言いながら、胸元を手で隠した。
「いっ、いえ」
顔が笑っているから、僕をからかっているに違いない。
「そうそう。お姉ちゃん。お母さんが呼んでいたわよ」
「あら。じゃあ、ロッテ。ヨハンをお願いね」
すくっとしなやかに立ち上がると、舞うように応接間を出ていった。
「レオンさん」
「はい」
「お姉ちゃんは、すぐ人のことをからかうから。真に受けないでね」
「そうなんですか」
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訂正履歴
2023/10/31 ”さん”と”ちゃん”の揺らぎ訂正
2025/03/30 誤字訂正 (黄金拍車さん ありがとうございます)