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制御技術者転生 ─ モデルベース開発が魔術革命をもたらす ─【書籍予約中】  作者: 新田 勇弥
8章 青年期 青雲編I

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281話 アーキ茶(9) 派閥

住んでいる場所の地勢で、性向が変わるとはよく言われますね。

 帰れば良いか。

 一番後列に座った男の唸るような声で、再度会議室は静かになった。


「ふん。またウーゼル・クランに騙されればいいさ! いくぞ」

 グルバンが立ち上がると、その周りに居た7、8人が立ち上がり、不平を鳴らしながらもおとなしく会議室を出ていった。

 むっ。しかし、隣に居たフロックを着た男は、そのままだ。

 逆に不気味だな。


「ああ、会頭。勝手なことを言って済まなかったな」

「いえ。ではレオンさん」

 続けろということだな。


「出資者が誰なのか。現段階で明かすことができるのは、我らトードウ商会とレナード商会が含まれている。それだけです。悪いが、その他については、出資額が決まるまでは、公表しないという取り決めになっています」


     †


「皆さん。お疲れさまでした」

 会議は終わり、パウロさんをはじめとする賛成派10人余りと、30分程話していたが、それも終えて控え室に引き上げてきた。

 途中退場をしなかったものの、終了後すぐに引き上げていった20人弱は、都合良く考えれば中間派だ。賛成と反対どちらに近いのか、どのように分布しているのかまでは分からないが。


「会頭。ありがとうございます。しかし、昨日おっしゃっていた通りになりましたね」

 そう。

 アーキ茶事業の障害は、資本、ウーゼル・クラン、そして果樹農民の派閥対立だ、そうおっしゃった。ガライザーは王国直轄領だが、山林伐採には厳格な規制があり、茶葉製造の工場

を建てるに適した土地は、既に市街地となっている場所か、湖の周りのウーゼル・クランが所有しているので、同クランの協力が不可欠だということだった。


「そうですね。現段階かあるいは工場を建てるまでに、ウーゼル・クランが事業に入ってくるという確信が、反対派にあったのでしょう」

 先入観は禁物だが、グルバンという急先鋒の横に居た、あの男が入れ知恵したのだろう。だが、そういう男が都合良く、この地に居るものなのか?

「しかし、40年も前の恨みが残っているものなのですね」

 ナタリアは訊いたのか、ただ感慨を言ったのか。


「ははは。王都から来られた方には分かりませんよね。そう言っている、私も元はよそ者ですからね。どっちの意見も分かるのですが。町は新しくても、その周りの村人は田舎の人なんですよ。何十年も昔のことを、まるで昨日のことのように言うんです。そりゃあ、この地に生まれて、ずっと同じ顔同士を突き合わせて、生きていきますからね」

「恨みもそうなのですか?」

「私も、赴任して20年くらいになりますが、2代、3代前の会頭が言った、言わないで責められますよ」

 たしかに、エミリアもある意味そうだったからな。それに血族を信用する、裏切ることはないという不文律も根は同じだ。


「それで、いかがですか、レオン殿。仮に賛成派のすべてが契約するとした場合、数は足りていますか?」

「数や集まる葉の量に合わせて、身代を決めるのが基本ですが、工場を建てる程の規模まで持っていけるかどうか、予断を許しません」

 資本は集まるだろうが。それに配当を出して、資本を買い戻して自分たちの物にしていくためには、茶葉の量と労働力が多くないとな。出資者一同には、新たに作られるクランからの一定割合未満の買い戻し要求を拒否しないことを申し合わせている。それが10年間で5割1分。増資しない前提ならば年率5分1厘で買い戻してもらわないと、10年でクラン員が筆頭出資者になれないからな。


「わかりました。商工会も、反対派があまりひどいことをしないよう、見ておきます」

「よろしく」

「では、私は別の仕事に戻りますが、この部屋はしばらく使っていただいて結構です。鍵を受付まで戻してください。失礼します」

「ありがとうございました」

 会頭と彼の部下が控え室を出ていった。


 さて、この後はどうしたものかな。代表とナタリアは微妙な表情だ。彼女たちも考えているのだろう。それにしても、オットーさんは、落ちついたものだな。


「オットーさん。さっきはありがとう」

「えぇ、何でしたっけ? レオンさん」

「僕が説明していたときに、補足してくれたじゃないですか。あれで、聞いている人の理解が大幅に進んだ気がします」

 そう。僕の説明では、半分位の人がちんぷんかんぷんのようだったからな。

 オットーさんは、ああと気が付いたようにうなずいた。

「いやいや。年の功っていうか、ウチは商売柄、農家の方とたくさん接しますからねえ。慣れたものです」

 レナード商会の物品は食料品が主体だ。


「そうかもしれませんけど」

「レオンさんは、正しくて厳密ですが、うーん。聞く人を選ぶところはありますよねえ。山林地区の農家の皆さんには噛んで含めるようにおっしゃるとよろしいかと」

 ふむ。

 エミリアに居た頃は、農家で接する人は商会の小作人たちか……あとは、微妙だがエイルの取り巻き連中だったからな。前者は僕のことを地主の子ということで気を使ってくれていただろうし、後者は疎ましい相手だったろう。いずれにしても、あまり濃密な接触はしたことがない。

 僕はここへ、商談あるいは説得をしに来ているのだ。正しかろうが、厳密だろうが、相手に伝わらなければ意味がない。


「いや。オットーさんは、僕が持って居ないものを持っていますよ。尊敬しました」

「えっ、はっ? いやいや。何を言っているんですか。やめてくださいよ。他の人はともかく、レオンさんに言われることじゃないですよ。なあ」

「ああ、まあ。はぁ……」

 オットーさんは手を振って照れ、レナード商会の人は困っている。


「じゃあ、まあ。天才のレオンさんに、お褒めいただいたので……」

 天才?

「私ができることを、やります。いつまでもレオンさんのところで、茶葉を作ってもらうのも悪いですからね。パウロさんにご紹介いただいて農家を回ってみますよ。よし。いこう」

 レナード商会のふたりが出ていった。


「ははは。随分買い被られたものだね。僕が天才だってさ……えっ?」

 代表とナタリアは、真顔のままだ。

 むう。

 怜央のことや、システム、ドキュメント。いずれも借り物の知識だ。でも、知らなければ誤解するか……とはいえ正面を切って否定もできない。僕の打ち出すことを支えてもらわなければならないからな。心苦しいが、時間を掛けてゆっくりとわかってもらうしかない。

「さて、僕たちも出よう」

「はい」


 代表とナタリアには悪いが、ひとりで王都に帰ってきた。

 飛行魔術でふたりを運べるような気もするが、やったことはない。やったらアデルが何か言いそうな気がするし、高い所が苦手な人は一定数が居るからなあ。それと代表は僕が何かしら高速移動できることを、薄々わかっているようだが、商品に関わりのない魔術に関しては詮索というか、干渉しないようにしているらしい。

 彼女たちは向こうで、1泊か2拍して、駅馬車に乗って帰ってくるはずだ。僕もそうしたいところだが、もう10月になる。夏休みも終わりだ。休んだ感覚はほとんどないが。


     †


 10月3日。月の初めは新入学部生の行事が多いため、施設が塞がりやすく教員が動員される。そこで、対応の優先度が低い研究員は、今日から正式に活動開始だ。

 目の前に、魔導理工学科長が立っている。

「では、レオン君。引き続き励んでくれたまえ」

「はい。がんばります」


 色々立て込んではいるが、純粋光というか刻印密度向上の研究を進める必要がある。

 特に期限はないが、3月の魔導学会において何か進捗を発表することを期待されているが、約束したわけではない。とはいえ、手を抜く気もない。

 手始めは、やはり純粋光の魔導具のみによる発振だ。今のところ、制御術式は僕が起動する純魔術に依っているからな。あと研究にはしないが、個人的には媒質つまり魔結晶や結晶性の角を使わない発振も目指したいところだ。


「レオン君。行こうか」

「はい」

 ジラー先生について61号棟に行くと、部屋の案内が変わっている。

 ジラー/ターレス研究室。

 1階の準備室に入っていくと、その名のついたターレス先生がいらっしゃった。


「おぉ、レオン君。久しぶりだな」

「これは、ターレス准教授(・・・)、おはようございます」

「いやあ。レオン研究員に言われると微妙な気分だよ」

 そう。ターレス先生が、9月15日付けで、講師から准教授に昇格されたのだ。ただ先生の識見からして、出世が遅い部類だろう。

 ミドガン先輩によると、講師と准教授とでは学内での立場が段違いに違うそうだ。教員でない職員からの扱いが違うし、そうなんだろうなとは思う。責任は重くなるが、研究項目を決められる、運営の権限を持つとともに、雇用期間も有期から無期に変わる。報酬も倍増するらしい。あと大きいのは、研究室を設置できる。


 先生の専攻は魔導理工学科の中で理学と工学の中間的な位置付けだから、特に魔道具・魔導具色の強いジラー研に居たのは一時的な扱いのはずだった。が、純粋光研究を志願する学生が増えたため、合同の研究室になったと聞いている。


「研究室の設置おめでとうございます」

「はっはは。どうした? 研究員になった途端、大人のしゃべり方になったな。まあ、なんだ。うれしいよ。ありがとう。とはいえ、ジラー研に間借りして、ご迷惑を掛けますが」

 顔が、僕でなく教授に向いている。


「いやあ。私としては設備面で準備が間に合っておらず申し訳ない。教授会でもどうするか、揉めたんだ。純粋光研究の道筋はまだ手探りだからな。研究室設置を来年度からとするという案もあったが、設置で学科長が押しきった」

 押しきった、か。

「いえ。準備については、ジラー先生にご尽力いただき感謝しています。学科長にも……ははっ。予算枠確保に利用していただけて光栄ですよ。おっと、さすがにレオン君の前で口にすることではなかった」

 ふむ。ヴェカ先生が言っていたように、学科長はやり手らしい。ミドガン先輩の未確認情報によれば、ゼイルス研の予算減が不可避となり、それを学科単位では減らさないように、ここを強化したという意味に違いない。

 それがなあ……別にゼイルス先生や研究に失点があったわけではない。僕が予算減の根拠を作ってしまったのは気分的に微妙だ。まあ、昨年度以前の予算傾注が大本の恨みを買ったわけだから同情はしないけれど。それに、自分が商会を経営する立場になって、人の見え方も変わる。


 理想の上司の条件第一とは何か? 予算を確保できることだ。

『部下の成長を促す、理解があるなどとよく言われますが、実際は二の次です』

 ベガート支配人がそう言っていた。今ではわかる気がする。予算がなければやりたい仕事もできない。ヘタをすれば組織を改廃される。そういう不安があるだけで、部下の士気が下がるからな。

 商会だけではなく、大学でもそうなのだろう。


「そうだ」

 ん?

「1時から、研究室の顔合わせがある、レオン君も出てくれ。いいですよね? ジラー先生」

「ああ、かまわんよ」

お読み頂き感謝致します。

ブクマもありがとうございます。

誤字報告戴いている方々、助かっております。


また皆様のご評価、ご感想が指針となります。

叱咤激励、御賛辞関わらずお待ちしています。

ぜひよろしくお願い致します。


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― 新着の感想 ―
ついでに書いちゃうと、8章って何が面白いんだ?って思ってついに書いてしまったって感じです。お茶の話も、このままグタグタ行くようならかなり微妙だと思います。ネタ切れか?と思ってしまうところもある。
いきなり大規模大量生産を始めようって主人公側がどうなってんの感のほうが強い話ですね。需要の実態もつかめてない(実績がない)し、詐欺だろうと疑う側が普通だと思います。それを無理やり恨みベースに置き換えて…
柿だけに、やることやって機が熟すのを待つしかないか
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