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制御技術者転生 ─ モデルベース開発が魔術革命をもたらす ─【書籍予約中】  作者: 新田 勇弥
8章 青年期 青雲編I

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278話 アーキ茶(6) 決壊と構築と

母は偉大ですなあ……

「私、伯母さまにお()びしないと……」

「まあ、まあ。女優さんが泣かないの」

 白いハンカチを、アデルに渡す。

「いいのよ。こんな息子で良かったら、持っていきなさい」

 母様は、アデルを抱き締めた。


 はっ?! えっ。えっ。


「私、お付き合いしています。伯母さまに黙っていて、すみません。レオンちゃんより年上なのに、でもいとおしくて」

「もういいわよ。座りなさい」

 アデルは、泣き顔に少し笑顔を作って、横に座った。


「アデレードさん」

「あっ、アデルとお呼び下さい」

「じゃあ、アデル。こんな……見てくれと能力はともかく、未熟なレオンを好いてくれて、ありがとう」

 えっ?


「みっ、未熟じゃないです」

「恋は盲目(もうもく)と言うからね。本当にいいの? あなたは、今をときめく、歌劇団のスタァなのよ?」

「私は、レオンちゃんが良いんです。一目惚れだったんです。時期が来たら、結婚したいです」

「そっ、そう」

 余程男運がなかったのね、かわいそうという顔だな、あれは。

「レオンは?」

「僕だってそうさ」

「ふぅん」

 あまり面白くもなさそうにうなずいた。まあ、こんな反応だとは思っていたけれど。


「でも、いいんですか? 私3つも……」

 僕には言わなかったけど、年齢のことは引け目だったんだなあ。


「別に。30歳も離れているわけじゃなし。2度と言わないように」

「はっ、はい」

「レオン。あなたは、アデルさんを守りなさいよ。誰の手からもね」

「そのつもりです」

「うん。それで良いわ。ご家族には?」

「はい。母には……感付かれました。レオンちゃんを気に入っています」

 そうそう。話したっていうと、なぜ私にはってことになるからね。


「それはよかったわ。ダンカンさんには?」

 首を振った。

「まあ、男親には言いづらいわね。あとは……妹さんは?」

「話していないです」

「そう。あの子」

 ん? ロッテさんの話か?

 なぜか、こっちを見た。

「まあ、いいわ。他には?」


 他に知っているのは、アデルの館のユリアさん、ヨハンナさん。トードウ商会の代表(アリエス)、ナタリア、ティーラの名を挙げる。

 知らない人に、母様からは喋らないようにしてくれるようだ。


「そう。後援会長(ベネディクテ)さんが知っているのは、良しとして。歌劇団の人が誰も知らないのは、どうなのかしらねえ」

「一応、年季(特約期間)が明けたら結婚したいとは言ってあるので、誰か居るというのは感づいていると思います」


「レオン」

「はい」

「旦那様には、どうしたい?」

 父様か。

「できれば、ダンカンさんの後が良いと思うのだけど」

「確かにね。別にあなたは3男だから、ウチから何か言うことはないし。まあ私が言わさないけれど」

 怖っ。


「さて、レオン。あなたは席を外して」

「はっ?」

「あなたには聞かせたくないことがあるから、どこかへ行けってことよ」

 うわぁ。

「大丈夫よ。アデルはもう娘も同然。虐めたりしないから」

「はい」


 立ち上がって、アデルの肩を叩いて外に出る。

 少し離れた廊下に、心配そうなエストが居た。

「ああ。アデルのこと、母様に感付かれたよ」

「お嬢様らしいです」


「エストは、母様のことを知っているの?」

「はい。それなりに……」

 あまり詮索するなということらしい。僕としてもそこまで興味はない。

「母様は、アデルと話があるそうだ。僕は部屋に行っているよ」


 1時間位たってから、アデルから魔導通信が掛かってきた。

 僕に会わず自分の館に帰り着いたようだ。

 母様と何を話したのか問いただしたかったが、アデルが話したいときに聞いた方が良いだろうと思い直し、何も訊かなかった。

 アデルは、とくに心配しないで良いと言っていた。それを信じよう。


 翌朝、母様は僕の館を引き払っていった。王都の定宿に移るそうだ。

 ひとこと。アデルの年季、紀元492年2月まで結婚しないという特約期間が終わっても、すぐには僕から結婚しようと言い出すなと言い残して。


     †


 2日後。

 僕は、モルタントホテルのウーゼル・クラン本部に居た。

 大きな会議室の中で、四角く机が並べられ、その一辺に僕と代表、それにさっきまで資料を配っていたナタリアの3人が着席している。

 時間前だというのに、既にバルドスさんも着席している。さっき立ち話をしたけれど、相変わらず僕が面白いヤツだなあとよろこんでいる様子だった。奥さんであるベネディクテさんは居ないけれど、今日の主題であるものを気に入っていると言っていた。


 その時、会議室の扉が両開きになって、着飾った女性が入ってきた。母様だ。

 その後に、コナン兄さんも居る。

 えっ!

 バルドスさんが、立ち上がって……母様へ寄っていった。


 胸に手を当てて会釈すると、握手している。これは結構な敬意の示し方だ。

「レオン殿とそっくりだが、本当にご母堂なのですか? 姉君ではなく」

 ええと。僕と母様を見比べるのはやめてほしい。

「これは、お初にお目に掛かります。リオネス商会副会頭のアンリエッタと申します。よろしくお願い致します。それで、これは、長男で副支配人のコナンです」

「よろしくお願い致します」

「申し遅れた、ウーゼル・クランのバルドス・デュワ・ウーゼルです。ということは、レオン殿の兄上ということかね」

「はい」

「それは、それは。どうぞお掛けください」

 そのあと、レナード商会のオットーさんも入室して挨拶をしたが、バルドスさんは自分の席に戻って受けただけだった。


「それでは、トードウ商会殿、始めてください」

 立ち上がる。

「はい。本日はウーゼル・クラン、リオネス商会、レナード商会の方々にお集まりいただき、感激しております。また、この会場をご提供いただきましたウーゼル・クラン殿には、改めて御礼を申し上げます」

 バルドスさんへ、会釈する。

「本日は、既に私どもから、お送りしましたアーキ茶の商品化に関する枠組みを作りたく、その説明と話し合いをさせていただきたく存じます。では、説明は代表から……」

 僕は座り、代表が立ち上がった。


「トードウ商会代表のアリエスです。皆様にお時間をいただき感謝致します。早速説明いたします」

 まずは、アーキ茶のサロメア大学工学部化学科の分析結果、健康に良いラスコビ酸……地球でいうビタミンCが多く含まれること、神経刺激物(カフェイン)がほぼ含まれていないことを説明した。

 そして、これら成分的特徴を用途発明、乾燥焙煎方法を製造特許として出願したことを説明した。また、この数週間でどの程度の投資が必要か、代表やナタリアが調査して概算した額を伝えた。


「したがって、アーキ茶の商品化価値は十分あると存じます」

 もう一度代わって立ち上がる。

「今回、事業は……」

 途中で言葉を止めたのを、不審に思ったのだろう、資料から視線が帰ってきた。


「事業は、何かな。レオン殿」

「はい。皆様を前にして、とても言いづらいのですが、半分は慈善事業だと思っています」

「ふむ」

「アーキを高地であるガライザーで作っている果樹農家は、経済的に潤ってはいません。しかし、そこの農家のお婆さんは、こうおっしゃいました。働いていて、貧しいのは恥ではないと。その時、思ったのです。そのような境遇に追い込んでいる商人こそ、何か考えるべきではないのかと。よって、事業を起こそう、利潤を還元しようと思います。トードウ商会がこの事業で利潤を上げた場合は、半額を還元します。僕が考えていることは以上です」


 会議室の空気は一気に重くなった。

 それはそうだ。この部屋にいるのは、全て商人だ。彼らの拠って立つところを否定しているも同じだからだ。


「ふふふふ。あはっはは……」

 バルドスさんは愉快そうに、大口を開けた。

 母様も、オットーさんも目を丸くして彼を見ている。


「いやいや。さすが、レオン殿。青臭いことを臆面もなく言うものだ。そういうところが気に入っている。だが、今回は……その範囲を超えている」

 ふう。ここまでか。

 正面から、慈善事業だと言い切ったからな。


「ウーゼル・クランは、法を犯さない。しかし、遵法の範囲でもけして褒められないこともやってきた自覚はある。そのことに後悔はない」

 そう。ウーゼル・クランにそういう評判があることは知っている。

 しかし、僕も商人の子だ。それの何が悪いのかという気分はある。


 バルドスさんは、何かを思い出すように笑った。

「だが、とあるうら若い娘に、諭されたことがある」

 娘? 誰のことだ。

「それでは、あなた方は愛されませんよとね。愛される組織こそ、歴史を作り、残っていく組織なのですからとね」

 むう。

 愛される組織か。


「それで、年甲斐もなく、気が付いたらカッショ芋の面倒を見るようになっていたよ。良いだろう。わがクランに諮って不調となれば、先程の規模であれば私個人の財布から出すことにしよう」

 おおぅ。


 その後、リオネス商会もレナード商会も出資を前向きに考えると回答をくれたので、産地とも詰めることにした。

お読み頂き感謝致します。

ブクマもありがとうございます。

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また皆様のご評価、ご感想が指針となります。

叱咤激励、御賛辞関わらずお待ちしています。

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訂正履歴

2026/01/09 敬称抜け (たかぼんさん ありがとうございます)、自負→自覚 (Hajimeさん ありがとうございます)

2026/01/18 誤字訂正 (ferouさん おそくなりました、ありがとうございます)


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― 新着の感想 ―
うーむ、結婚の件は多分ロッテなんだろうけど、どっちの味方なのか
「結婚しない特約期間が終わっても、すぐに自分から結婚しようとは言い出すな」 なーんか地雷を埋めた臭いがプンプンしますなぁw 母親は本当に味方かな?レオン君w
>褒められないこともやってきた自負 褒められないことなんで、自覚がある、くらいの方が良いかと。 どんな商売になるのか、ちょっと楽しみ。
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