277話 アーキ茶(5) 襲来!
あけましておめでとうございます。
本年もよろしくお願い申し上げます。
「お帰りなさいませ」
「うん」
館に帰ってくると、メイド頭が出迎えてくれた。
「お食事は?」
「外出先で、食べてきた」
昨夜言ってあったが、確認なのだろう。ホールを歩きながら答える。
レナード商会で出してもらった。イレーネさんの昔話が止まらず中々に辛い時間だったが、食事はおいしかった。途中でオットーさんが止めようと試みていたけれど、家庭内の力関係がわかった気がする。
「承りました。お手紙が2通届いております」
「わかった」
僕の部屋に入り、上着を脱がせるとエストは下がっていった。外出着の管理は彼女の仕事だからね。
手紙、手紙。書斎の机に行くと、封筒が置いてあった。
あっ。筆跡で1通は誰から送られたのかわかった。そっちは置いて、もう1通を取り上げる。ガライザー商工会と判が捺してあったからだ。
封を切って中を見ると、便箋が2枚入っていた。
末尾の署名は、パウロさんだ。
レオン様。この前は、収穫を手伝ってくれてありがとう。
文章が平易というか、ややたどたどしい。手紙を書き慣れてなさそうだなあ。これは複写魔道具で複写したものか。
その後をつらつらと読んでいくと本題がきた。
あんな物が商品になると聞いて驚いたよ。飲んだらおいしかったよ。
だけど話が大きくて、俺だけでは判断がつかないので、周りの果樹農家に何軒か声を掛けていたので、返事が遅くなって悪かった。
ふむ。そういうことか。
それで、ある男が詐欺じゃないかと言いだして、そんなことはないと言ったんだが。皆、特許や大学の書類なんて一生縁のないものだからな、安心ができないんだよ。それで詐欺じゃないなら、商工会に言っても大丈夫だろうという話になり、会頭に相談したよ。
それで、封書の判か。
結果的に、トードウ商会を照会してもらって、まともな商会とわかった。是非、レオンの話を聞きたいと皆が言っているし、会頭も乗り気でな。手紙に書いてあったように、もう一度ガライザーに来てくれるとうれしいんだが。この便箋を商工会の手紙と一緒にレオンに送ってもらうことになったから、よろしくな。ああ、自宅と商会とどっちに送るか悩んだが、両方へ送ることにしたよ。
それで複写してあったのか。
来てくれか。興味があるなら、僕が説明に行くと、送った手紙には書いたからな。
もう一枚の便箋を見る。
署名はガライザー商工会の会頭とある。本題はこの辺りからだな。
貴会の提出された、特許出願書類とサロメア大学によるアーキの葉による茶の成分表を見て感服した。ぜひ、商品化に向けた話を伺いたいので当地にご訪問願いたいか。
ふむ。前向きに考えてはくれているようだな。特許と分析結果を送ったのが奏功したようだ。
いつ、行こうかな。僕だけというわけにはいかないから、代表に相談だな。
さて、コナン兄さんの手紙も見よう。
封を切る。
ふむ。アーキ茶を飲んだ。美味だった。リオネス商会で扱う物品ではないが、興味はあるか。レオーネで出すことも考えたい……ねえ。今月の20日頃、王都に来るか。
それはいい。いい感触だ。
むぅ。こっちもか。もう1枚入っている。
2枚目の便箋がまず違い。筆跡も兄さんのじゃない、母様だ。
兄さんと同行する……。
「ウチに泊まる?!」
思わず声が出た。
いやまあ部屋はあるし、数人ぐらい随行を連れてきても泊まれないことはないが。
途端に気分が重くなった。
泊まるというなら断れないし、どう対応したものか。エストと……代表に相談だな。
その気持ちが通じたのか、どうか。代表からファクシミリが届いた。
中身は、ウーゼルクランとガライザー商工会から手紙が届いたという件だ。前者は手紙がそのまま送られてきた。後者は、僕にも送ると書いてあったので入ってはいなかった。
ウーゼルクランは、ガライザーにある湖畔ホテルの地元話でもあり、興味がある。話し合いをしたいと書いてあった。
まとめると。おおよそ3者がそろって興味を示してくれた。前向きな姿勢だな。そうなるだろうという予想はしていたが。
金銭面が折り合えば、そこそこ話が進んでいきそうだ。
コナン兄さんから手紙が来たこと、数日以内に母様も一緒に王都にやってくることを、代表に返信した。後は母様が泊まりに来ることをエストに伝えてこよう。
†
ええと。我が家のメイドが急に5人になった。臨時で2人派遣してもらったそうだ。エストの伝手とだけ聞いているが、たぶんラケーシス財団からだよな。明らかに新人メイドではなく、経験がありそうだし。
そうこうしている間に9月も19日となった。
昼過ぎ。館の車寄せに、馬車が滑り込んだ。
商会から来た前触れの通りだ。
見知らぬメイドだろうが降りてきて、馬車の扉の前に台を置いた。そこに歩み寄る。
「ようこそ。母様」
「久しぶりね、レオン」
むう。我が母ながら、相変わらず美しいね。しっかり化粧したのか、年がよく分からないぐらいだ。手を取って石畳に下ろすと、無遠慮に館の構えを見ている。連れてきたメイドは2人か。
「悪くないわね」
「どうぞ中へ」
玄関の段を登ってホールに入った。
すぐさまメイド5人が、胸に手を当ててお辞儀をする。
「メイド頭は?」
「エスト」
小さく返事して進み出てくる。
「まあ、エストさん。あなただったのね。息子が世話になっているわね。よろしく頼みます」
「もったいない」
いや、平民だけどね。着飾っているし男爵夫人位には十分見えるけど……ん?
もしかして知り合いか。あの館で?
「館を見て回りたいけれど、その前に私が泊まる部屋に案内してくれるかしら」
「はい」
緩やかな回り階段を上って、2階の西側、ホールの吹き抜け脇にある最も広くて格式の高い客室に連れていった。
「ふむ。感じのいいところね。レオンには少し贅沢であるけれど」
「そうですね」
「とはいえ、商売のためにもなるから、悪くはないわ」
ほう。
「では、僕は応接室で待っているので。エスト、頼むよ」
旅装から着替えるだろう。
1階東端の部屋で待っていると、しばらくして母様が入ってきた。立ち上がって迎え入れる。
「あなたの館なのだから、どっしりと構えていていいわ」
「これはどうも」
ルネが茶を出して下がっていった。
「あなたたち、下がっていて」
「はい」
母様のメイドも部屋を辞して、2人だけになる。
「ふう。あなたの部屋もすこし見たけれど」
うん。この直上にも移動していたね。
「すこし、貴族趣味な建物だけれど、いつも泊まるホテルよりはいいわね。ここを定宿にしようかしら」
えっ。
「冗談よ。そんな顔をしないの」
「はあ」
「それで、アーキ茶だっけ。よく見付けたわね」
「はい。8月に行ったガライザーの農園で」
「ガライザー……ふうん。アデレードさんと一緒に行ったの?」
背筋が凍り付く。
「はっ。アデルさん? 母様、何の話ですか?」
「ふむ。表情を偽る術は、王都に出て来て上達したわね」
「いや。僕1人で行きましたけれど」
「無駄よ。他人はともかく、私に隠し果せるとでも思っているのかしら?」
くう。
「2年前。あなたの下宿に初めて行ったとき、部屋の匂いで分かったわ。アデルさんの香水の匂いがわずかにしたもの」
そう。あの時は、直前までアデルが下宿の部屋に居たのだった。
「ものぐさなあなたにしては、しっかり片付いていたしね。それと、エルボラーヌケーキだってそうよ。栗のクリームは、あなたでも思い付くかも知れないけれど。あれを作るのは無理だわ。じゃあ、誰が手伝ったかということだけど。アデレードさんはお菓子を作るのが趣味って言っていたからね。それにあそこに住んでいるのでしょう」
母様は、南向きの窓を眺めた。
論理的にくるなあ───腹を括るか。
『アデル。聞こえる?』
思考を音声にして送る。
『レオンちゃん。こんな時間にどうしたの? 伯母様は着いた?』
『うん。今、応接室で話しているけれど、アデルと僕のことを感付いたみたいで』
『そっ! そう……今から、そっちに行くわ』
魔導通信が切れた。
「レオン。せっかくだから、アデレードさんともお話がしたいわ」
「母様のことは、話してあるので、そのうち来ますよ」
「そう」
にこっと笑った。
初めて僕の下宿に来た時に疑い始めたのか。確信に変わったのは、いつなのだろう。ケーキか、あの館か?
勘が異常に鋭い上に、洞察力が強すぎる。困ったものだ。
父様のことが思いやられる。
しばらく、応接室に静寂が流れたが、ノックで破られた。
「失礼致します。お向かいのアデレード様がお越しです」
「まあ」
母様が不審そうに、僕を見た。
「エスト。ここへお通しして」
「はい」
ふう。
ふたたび扉が開き、やや上気したアデルが入ってきた。
「まあ、アデレードさん。久しぶりね」
「伯母さま……」
母様は、薄くほほえんでソファーから立ち上がると、アデルに近寄っていった。
僕は何をすべきか───
しかし、脚がこわばって立ち上がることができなかった。
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