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制御技術者転生 ─ モデルベース開発が魔術革命をもたらす ─【書籍予約中】  作者: 新田 勇弥
8章 青年期 青雲編I

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閑話12 ブロマイド

時節柄、臨時で閑話です。

気の迷いで、5年(以上)ぶりにお嬢のイラストを描きました。下の方に載せますが、発売予定の書籍とは一切関係がありませんので、ご承知おきください。

 時は、まだ僕が夏休みの頃に遡る。


「ねえ。アデル」

「…………」

 夜10時を過ぎて、僕の部屋にやって来た。しかし、なにやら様子が変だ。ベッドに上って、曲げた膝に頭をのせている。

 何か仕事で、うまく行かなかったことがあるのだろう。

 どうしたものか。


「アデル。話したいことがあったら聞くからね」

「……うぅん」

 おっ、わずかに反応があった。

 もう一押しするか。


 錫のゴブレット2つに、白ワインを注ぐとベッドに寄っていく。

「飲む? 冷たくておいしいよ」

 アデルの頭が揺れて、少し持ち上がった。一口含んでやや音を立てて飲み込む。

「欲しい」

「どうぞ」

「うん。ありがとう」

 アデルは受け取って、中をのぞき込むとゆっくりと口にした。

「おいしい」


 あおって、飲み干すと僕もベッドにあがる。

「私、自信がなくなっちゃった」

「おぉぉ」

「レオンちゃんにはわからないと思うけど」

「そうだね。自信をなくしたことはないかな」

「ぇええ」

「そもそも、ほとんど自信なんか持ったことがないからね」

「あぁ、そう言っていたわね。いつも自信満々に見えるけれど」

「いろいろ考えて、計算してやっているよ」


「うぅん」

 すこし表情が緩んできたかな。

「僕のことは、どうでもいいけど」

「自信がなくなったのは……」

 来たか。

「ブロマイドなの」

「ブロマイド?」

「うまく撮れないっていうか、撮ってもらえなくて……」


 うーん。

「でもさあ、僕もアデルのブロマイドを何枚か持っているけれど。いいものが多いけどなあ」

「うぅん……」

 あれ。

「男役のはねえ」

「えっ」

「男役ばっかりだと、あんまりだって言って。娘役じゃないけど、普通の化粧で撮ることになって。でも、女物の服だとだめなの」

 あぁ。そう言われれば持っているブロマイドは、全部男装状態のものだ。

「そういうことか」


「なんだか笑った顔が固いって。自分で見ても、すこし引き攣っている感じがあって」

 アデルは持って来た小さいカバンから、板状の紙を取り出した。

「これ、原盤」

「ああ。紙なんだ」

「うん。原盤から、書類複写魔道具で印刷するの」

 ガラス乾板から印画紙に焼き付けるよりは、お手軽だよな。

 そうか、紙か。


「もしかしたら、アデルの役に立てるかもしれない」

「えっ。本当?」


     †


 翌日。サロメア歌劇団の通用門に行くと、ユリアさんが待っていた。

「レオンさん。お待ちしていました」

「やあ、ユリアさん」

「これを、首から下げてください」

 入構証か。

 渡された木の札に付いた紐に首を通す。


 へえ。

 大劇場とは近い場所にあるが、派手さとは無縁で、何というか倉庫みたいに見える建屋が多く並んでいる。

 大勢の人と擦れ違う。

「歌劇団というと、女の園って印象だけど、意外と男が居るものだね」

「女だけなのは、舞台上と楽屋ぐらいですよ」

「ここって、どういう施設?」

 一瞬眉間にシワが寄った。


「ええと、劇場にない物が、全部ここにあります。あちらに見える、立派な建物が歌劇団の本社です」

 へえ。

「ここら辺は?」

「劇場には入り切らなくなった大道具や衣装の倉庫ですね」

 本当に倉庫なのか。

「なるほどね」

「こっちです」


 やや古びたレンガ建ての建屋に入った。外見は微妙だけど、中はまともだ。改装しているようで結構新しく見える。

「うわっ、何?」

 マルガリータさんだ。アデル専属化粧士だから、居ても不思議じゃないか。

「こんにちは」


「おぉ。なんで、レオン君が居るの?」

「ウチの経営者ですから」

 ふむ。珍しくユリアさんが庇ってくれた。まあ、アデルに塁が及ぶのを防ぐためだろうけれど。

「ああ、そうだったわね。一瞬俳優になりにきたかと思った」

 そんなわけがないだろう。

「じゃあ、ユリアさん。化粧は終わっているから」

「ありがとうございます」


 さらに奥に進む。


「レオンちゃん」

「おぉ……アデル」

 綺麗だ。しかも、確かに娘役の衣装だ。


「えっ、カツラ?」

「そうよ」

 いつもより髪の毛が長い。


「ああ、原盤の紙はもらったけど。レオンちゃんは、カメラを持っているの?」

「いや、持っていないよ」

 首を振る。

「じゃあ、どうやって、撮影するの?」

「カメラを構えると、表情が固くなるんだよね」

「そっ、そうだけど」

「じゃあ、使わない」

 横に居るユリアさんの眉間のシワが深くなった。


「ふぅん、面白い。レオンちゃんを信じる」

「じゃあ、僕がゆっくり杖を振るから、それを目で追ってくれる」

「わかった」


     †


「アデル。もう良いよ」

「そうなの?」

「ちょっと待ってね」

 僕は目を閉じ、めまぐるしく目で追っていた画像が動き出した。


「原盤を使うね」

 手を伸ばすとテーブルの上に有った厚手の紙が消えた。


「えっ?!」

 テーブルの上に原盤紙を再び出庫した。

 しかし、さっきまでの真っ白ではなく、画像が浮き上がっていた。


「本当に撮れている!」

「そうだよ」

「もう撮ったんだ。準備運動だと思っていた」

 僕も撮られたことがある。現状の技術水準では撮影時間が数十秒と長いから、椅子に座った体勢か、テーブルに手を突いて、身体をぶらさないようにする必要がある。脳内システムは、超高解像度の動画が撮影できる。


「レオンさん、どうやって……」

「ああ、僕が見たアデルを描いたんだ。魔術でね」

 ずるいが、魔術でユリアさんの言葉を封じる。


「でも、目線が……」

「うん。アデルは杖を見ていたからね。視点を見ていない。はい、2枚目」

「ああ、これも」

 アデルは、目線を気にしているのだろう。


 その横で、ユリアがまじまじと原盤紙を見ている。

「でも、アデルさんの表情は良いと思います」

「えっ?」

「そっ、そりゃあ。撮っているって思ってなかったから」

「うーん。なんか、新しい感覚ですね。悔しいですが、ブロマイドにしては斬新だと思います」

「ユリアさんの言ったとおり、これまでに見たことはないかも」


「そうだったらうれしいな。僕は写真を撮る感性はないけれど。ブロマイドの構図は、そんなに大きく変わらないし」

 脳内でトリミングできるしな。


「はい。3枚目。僕のお奨めは以上だよ。気に入ったやつがあった?」

 アデルとユリアさんが、同時に指した。

挿絵(By みてみん)

「1枚目か。とりあえず全部渡しておくよ。歌劇団の人に見せてみて」

「レオンちゃん。本当にありがとう」

 おおっと、しっかり化粧したアデルに抱き付かれたのは、初めてだな。


     †


 9月下旬、無事に僕が原盤を作ったブロマイドが発売された。

 その後、視線を外したものが流行することになる。

お読み頂き感謝致します。

ブクマもありがとうございます。

誤字報告戴いている方々、助かっております。


また皆様のご評価、ご感想が指針となります。

叱咤激励、御賛辞関わらずお待ちしています。

ぜひよろしくお願い致します。


Twitterもよろしく!

https://twitter.com/NittaUya


GAノベル殿から2月15日頃、書籍を発売予定です。

https://www.sbcr.jp/product/4815636500/

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