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27話 王都行(下)アクシデント

旅先では色んなことが起こりますよね。

 ふむ。この町は兵士が多いな。

 ここは、エミリー伯爵領とマキシム侯爵領の境界にある町、ラーリス。1日目の宿泊地だ。


 町を歩くと、胴部分だけ金属鎧(プレートメイル)を着けた人と良くすれ違う。

 あまりものものしい感じはしないが、ここが軍事拠点と分かる。まあ軍の基地は町の東側を南北に分ける土塁の向こう側らしいけど。


 土塁のこっち側は、エミリアを小さくしたような町で、中央を貫く街道のまわりに店が集まっている。

 その辺りの事情を目で確認した頃には、日が傾いて夕焼けが見えてきた。


 この町で知って居る人は、誰も居ないんだなと改めて思う。ふうと息をついて、散策の目的地を更新した。宿の受付で訊いた安くてうまい店だ。

 食べるべきは、リェイズ川で獲れた魚料理だそうだ。


 街道から1本西に入った街路。だいぶ感じが変わる。街道沿いはそれなりに小綺麗だが、たった数十メト(おおよそ数十m)で猥雑(わいざつ)さが増す。まあエミリアも似たようなものだが。

 それはともかく。多分この辺りなんだが。


 街路票を見上げると、合っている。

 あっ。あった。

 料理屋オケアン。まあまあ立派そうな店構え。本当に安いのかなあ。


「いらっしゃいませ。おひとりですか?」

「はい」

 ぱっと見は30席ぐらいある。まだ早い時間帯だからか、2割くらいの客の入りだ。

 身形からして、客層はさほど上流ではなさそうだ。


「メニューです」

「ありがとう」

 席について、それを見る。

 ええと。

 白マスの丸揚げロレィアソース掛け。

 受付の人が言っていたのはこれだな。1セシル45ダルクか。僕の時給よりちょっと上だけど。これにパンと付け合わせで2セシル弱だ。


 手を挙げて、席に案内してくれた店員さんを呼んで注文した。


     †


 ふう。川魚だから、クセがあるかと思ったのだけど。エミリアの魚は泥臭いからね。

 でも、ここのは油で揚げたので香ばしく、食べやすかった。それに少し甘酸っぱい味のロレィアソースがよく合っていて、結構おいしい部類だろう。

 あとは、1尾まるごとだったので、量が多いなあ。おかげでおなかをさすりながら、宿に戻った。


 桶にお湯をもらってあったので、手拭いで身体を拭いてさっぱりさせる。それから、いつものように、ベッドに寝転んで魔術モデルドキュメントを読む。それが3時間位続いたが慣れない長時間の馬車行で疲れたので、少し早いが寝ることにした。


     †


 なんだ? もう朝か?

 耳の奥で鐘が小さく鳴っている。意識が覚醒してくるとまぶたの裏にシステム時計が見えた。

 午前4時12分って!

 目覚ましを掛け間違えた? いや、すぐ横に7時と設定時間が表示されている。


 そうか。思い出した。防犯のために赤外線感知魔術、蛇覚(ピットバイパー)を発動してあったんだった。それに部屋の前に立った存在が引っかかったということだ。

 誰か寝ぼけて、僕の部屋の前にいるのだろう。

 警告音を止めると、静かになった。


 どこかに行ったら、再発動して寝ようと思ったがそうはならなかった。

 内側から掛け金を掛けたはずの扉が、薄く開いたからだ。

 なんだ?

 廊下のまばらな魔灯の光が差し込んで、すぐさま閉じた。その間、無音。

 そいつが、部屋を横断して壁際へ進んでくる。

 意識を向けると、2足歩行の形が見えた。


 クローゼットを開いて、僕の服を、そのあとカバンを物色し始めた。

 盗人決定だな。


 とりあえず蛇覚を最大範囲まで広げてみたが、この階の廊下に感はない。単独犯行か。いつまでも僕の物を触らせておくのも気持ちが悪い。

 発動紋の位置を調整。自分の手で顔を覆う。


閃光(フラッシュ) v0.51≫


「グアァァ!」

 手で防いでいたにもかかわらず、強烈な光がまぶたを焼く。

 それを間近で見た、賊の痛みはいかばかりか。

 しかし、賊もさる者。身を翻して元来た方向へ、駆けだした。


 痛たぁ。

 ドガッダァァアン!!


 賊が結構な勢いでどこかにぶつかったみたいだ。


 ≪アクティベ!(点灯)


 部屋の灯りが点いた。

 ベッドから見下ろすと、扉が全開となった扉の前に黒ずくめの人間が倒れていた。覆面をしていて、顔が見えない。


 右すねをさすりながら立ち上がる。

 賊は、微動だにしないところを見ると、ベッドから突き出した僕の脚につまずいて、扉に激突。そのまま失神したみたいだ。


 ベッドを降りて、動かない賊の首に指を当てる。

 ああ、生きているね。


 仕方がないので、賊の腕を引っ張って背中に回し、寝間着のひもでしばりあげる。


「どっ、どうかしたのか?」

 僕と同じ寝間着姿の男が、僕の部屋をのぞいていた。

 近隣の部屋の宿泊客だろう。結構な物音を立てたし、さすがに起きてくるか。


「ああ、お騒がせしてすみません。僕の部屋に忍び込んだ賊を捕らえました」

「その倒れている黒いヤツか?」

「はい。大変恐縮なのですが、人を呼んで来る間、この賊を見張っていて頂くか、あるいは……」

「いや、俺が呼んで来る」

 そういう話をしている間にも、ふたりほど入口から顔をのぞかせていた。


 さて顔を。覆面を引きはがした。

「この男」


     †


「ふぁぁぁ!」

 眠い。ラーリス警備隊詰め所まで、連れて行かれ事情聴取を受けた。

 魔術を使ったことは伏せ、賊が忍び込んだが、転んで昏倒したので捕まえたとだけ答えた。


 賊は黙秘していたそうが、いくつか前科があることが分かり、そのまま監獄へ収監されることになったそうだ。


 時間は8時だ。荷物は持ってきているが、一度宿に戻る。警備隊の兵が、まだ何人か残っていた。受付に顔を出す。


「どうも。事情聴取が終わりました」

「あのう。レオンさん。この度は、警備が行き届かず申し訳ない」

「いえ」

「改めて伺いますが、レオンさんに被害は」

「いいえ。お金も荷物も盗られていませんし、僕自身も無事です」

 脚は少し痛かったけど、すぐ治ったし。


「それはようございました。それから、申し上げにくいのですが、レオンさんの部屋に忍び込んだのは、当宿の別の部屋に泊まっていた客なのです」

「ああ、警備隊の詰め所で聞きました」


「そうですか。ご迷惑を掛けたので、宿泊費は全額返金します。それで、ご容赦ください」

 ああ、僕が商会の人間と思っているからね。上得意がなくなると厳しいか。


「いえ、それは無用に願います。それより、泊まった部屋の扉が壊れていたようですが」

「はい。そうなんですが。問題ありません。それはこちらで対応します」

 僕の脚に引っかかったから、激突したと思うので一応訊いてみた。そうだとしても、賊のせいか。


「それでは、これで」

 宿を後にして、駅馬車が出る広場へ向かった。


 マキシアと札が出ている馬車へ近付く。

 昨日と同じ馭者(ぎょしゃ)さんだ。


「今日もよろしく」

 木札を見せて、乗り込む。

 やがて、9時となり手持ちの鐘が高らかに鳴った。

 しかし、馬車は発車しない。


 僕の前列に座った2人がざわつき始めた。

 すると扉が開いた。


「すみません。発車時刻なのですが、ひとり来ていないので。5分ほど待って出発します」

 来ていないのは、昨日僕に話しかけてきた年配の男だ。

 待つ必要はない。彼は今頃監獄の中だ。ここに来ることはない。


 程なくして、馬車は出発した。2等の客は3人だ。


 それにしても疑問だったのは、なぜ彼が僕を狙ったかだ。

 僕がそれほど金を持っているように見えるとは思えない。


 警備隊もそう思ったらしく、聴取した捜査官の仮説によると、単に物盗り目的ではなく、僕を誘拐することが狙いではなかったかということだ。それには続きがあって、路銀を盗まれた僕が途方に暮れたところに、言葉巧みに近付いて隙を見て拘束しようと考えたのではないかということらしい。


 おそらく、僕の顔がどういうわけか識っていた母様に似ていたことで、僕がリオネス商会経営者の一族だとめぼしを付けていたのかもしれない。それで、身代金は商会へ要求しようとしたのではないか。捜査官はそう言っていた。確かに筋は通っている。僕が駅馬車に乗ったのはエミリアの町だしね。


 とはいえ、仮説だ。

 彼が自白しなければ、真相はわからない。まあ窃盗で済むところを誘拐未遂もしくは予備罪となるようなことをわざわざ白状はしないだろう。


 ふう。今は睡魔に身を委ねよう。


      †


 この後、マキシアと途中の町で一泊したが、特に何事も起こらず、駅馬車はいよいよ王都サロメアに近付くのだった。

お読み頂き感謝致します。

ブクマもありがとうございます。

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叱咤激励、御賛辞関わらずお待ちしています。

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訂正履歴

2023/10/28 誤った表現の訂正(弱余り……どっちやねん>小生)

2025/04/01 誤字訂正(Paradisaea2さん ありがとうございます)

2025/04/07 誤字訂正 (三条 輝さん ありがとうございます)

2025/04/18 誤字訂正 (1700awC73Yqnさん ありがとうございます)

2025/04/27 誤字訂正 (cageronさん ありがとうございます)

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