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268話 避暑地にて(7) 渋抜き

うーん。干し柿……10年以上食べてないなあ。webだと名品とかの宣伝があるけれど。うまいのかなあ。

「へえ。パウロさんにアーキをもらったんだね」

「収穫作業を手伝ったからねえ」

 別荘の台所でアデルと向き合っている。テーブルの上には、実が20個ばかり並んでいる。パウロさんが、良いものばかり選別してくれたようで青いものはなく、どれも深い橙色だ。しかも皮は張り詰めて傷がない。

 その横には、石焼き芋を作った時以来の大鍋を出庫してある。


「それで、鍋? これで干しアーキ()を作るの?」

「いや、干さないけれど。渋は抜くよ」


 渋とは地球でいうタンニンだ。渋アーキに含まれるのは水溶性タンニンで、現時点で食べれば渋さを感じる。それが熟していく過程で、アセトアルデヒドと結びついて不溶性に変わるので渋さを感じなくなるというのが、渋が抜ける、つまり脱渋の理屈だそうだ。上級(ハイ)エルフ族の記録(アカシア)だが、今回突如アクティベートされた項目に書いてあった。


 同記録は、とてもよさそうなドキュメントではあるが、残念なことに読める項目が少ない。それに、どういう切っ掛けで読めるようになるのかも不明なのが、きびしい。

 ともかく。脱渋方法は干すだけではない。いくつもあるそうだ。

 それを今からやってみる。


「それで何をすればいいの?」

「うん。干さないから、この枝は切り離す。それは僕がやるから、アデルはヘタのまわりを布で拭いてくれるかな。パウロさんは一応洗ってあるって言っていたけど」

「わかったわ」

 僕がハサミで切り、アデルに渡す。

 20個だからすぐ終わった。

「次は……」

 大きな皿とブランデーを出庫。瓶の栓を抜いた。

「これはね、蒸留したままのかなりきついブランデーだよ」

 普通に売っているものは加水調整した物だが、店主に酒精が強いものと頼んだら、一部の好事家向けのこれを出してくれた。


「ふぅん。皿に注ぐんだ……へえぇ。それで、それで?」

「ここに、アーキの実のヘタ部分を浸す」

「えっ! えぇぇ」

「そして、鍋にヘタを下に向けて並べる」

「わあ。私もやって見て良い?」

「いいよ」

 かわいくうなずくと、アーキの実を摘まみ上げ、皿に浸した。


「これぐらいの時間でいい?」

「うん。少しでいいよ」

 鍋に置いた。

「じゃあ、やっていこう」

 それから、大鍋2個に実を入れ終えた。3つばかり余ったから、これは入庫しておこう。


「次は?」

「そしたら、この粘土を伸ばす」

「粘土? ああ、買っていたわね」

 両手で押し付けながら回していると、粘土が細い縄状になった。

「それをどうするの?」

「こうやって……」

「へえ、鍋の縁にくっつけるんだ」

 アデルが眉根を寄せて考え込んでいる。

 僕は、おおよそ均等な高さになるようにぐるっと粘土を塗りつけると、しかし、粘土の端は繋げず隙間を空けた。そして、その上に鍋の蓋を置いて押し付ける。

「うーん。粘土に何の意味があるの?」

「鍋を密封したいんだよね」

「密封? でも、ここは? 塞がないの?」

「そこは、魔術の後でね」

「ふぅん」


「ブランデーというか、酒精に浸けるだけでも渋は抜けるけど。少し時間が掛かるからね。加速させようと思って」

「加速?」

「やっぱり、アーキの実が採れた、ここの土地で食べたいからねえ」

「さすが、レオンちゃん。賛成!」

 また抱き付いてきた。


「ちょっと待った。そういうのは、魔術の後ねえ」

「そうよね。へへぇ」

「じゃあ、やるか」

 消火用魔術だが、流用できるだろう。

 鍋に腕を向ける。


呼気生成(コーレンディオキ) v0.2≫

 発動紋は、準密封状態の鍋の内部だ。

 シューシューとわざと空けた隙間から空気が漏れる。瞬きすると、抜け出る気体の二酸化炭素濃度が上がってきた。鍋底の発動紋から発現した気体が、元々鍋に入っていた空気を押し出しているのだ。しばらく魔術を行使し続ける。

 よし。ほぼ10割の濃度になった。


リィリー(解除)

 すかさず、隙間へ、指で練った粘土を、ふたの上から塗りつけて塞ぐ。

 これで、鍋を二酸化炭素で満たして、完全に密封できた。


「レオンちゃん、できたの?」

「こっちの鍋はね。じゃあ、こっちも」

 同様に、魔術を行使して、封をした。

「さて。あとは日当たりの良さそうなところに、鍋を」

「私が、ひとつ持っていく」

 窓のそばに鍋を持っていった。


「あとは?」

「時間を待つだけだよ」

「ふーん。どのぐらい?」

「たぶん3日ぐらいかな」

「3日……それで、たぶんなの?」

「僕もやるのは初めてだからねえ」

「ふーん。楽しみだねえ」

「そうだね」


「うふふ。レオンちゃん。これでアーキの作業はおしまい?」

「うん。」「じゃあ、一緒にお風呂へ入ろう。魔獣を斃したから汗をかいたわよねえ。私が洗ってあげる」

「じゃあ、頼むかな」


     †


 別荘に来て、3日目。

 朝食は、僕がオムレツを焼き、ガライザーの町で買ったパンと山羊乳にした。

 それから、少し食休みをしてから、切り出した。


「風呂に入ろう」

「えっ、昨夜の気に入った?」

 アデルが、少し下卑た笑いを浮かべている。

「うん。でも、今日は僕がアデルをもてなすよ」


 風呂場に入った。

「あれ? こんなの昨夜はなかったわよね」

 先行したアデルは、一糸も纏っていない。やや暗い内風呂でも、輝くような素肌が映える。


 内風呂の洗い場に、高さが膝と股の中間ほどの寝台があった。上には、大きなタオルを5枚重ねた。寝台ごと王都で準備して持ってきたのだ。

「えっ、待って待って、もてなしてくれるって、これ?」

 これから何をするか分かったようだ。

「そうだよ。じゃあ、アデル。この上に俯せになって」

「えへへ。いいのかなあ」

 寝そべった彼女の形の良い尻と腿が少し平らになった。尻の上にタオルを被せる。

「別にレオンちゃんなら、見られても良いけれど」

 聞き流すと、手を擦り合わせて、そこにオリーブ油を取る。アデルの(かかと)(けん)に手を置く。


放射(エミット)!≫

 低周波の魔導波を手のひらから放射───

 ふくらはぎへ何度も擦り上げる。

「はぁぁ。ええ、なんで? 手があったかい」

「それは良かった」

 膝裏を揉み込むように円を描き、またふくらはぎに戻して、膝裏をなぞって腿へ擦りあげる。


「なっ、なんかさぁ」

 ん?

「レオンちゃん、うまくない? 気持ち良いんだけど……これをやったの、私で何人目?」

「誰にもやっていないよ」

「本当かなあ……なんかお店でやってもらうより、うまい気がする」


「あふっ」

「えっ、アデル。大丈夫?」

「だぁ、はぁ。大丈夫……気持ちぃい。つづけてぇ」

「ああ。うん」

 なんか、声が悩ましい感じになってきたんだけど。

 放射量は最小限だし、大丈夫だよな。ドキュメントにも、代謝を活性化して身体に良いとの記述しかなかった。

 腿の裏側、股の内側、外側と丁寧に揉みこんでいく。


「ふぅぅ、脚っ、しか……やってもらっていないのに、身体がぽかぽかしてる。ふぅ。なんでぇ?」

 たしかに、まだ揉んでいない背中が、うっすら滑光(ぬめひか)っている。発汗作用があるのかな。

「そうだね。実は、僕の手から魔導波を出しているんだ」

「魔導波って、魔術?」

「うん。似たようなものだね」

「そう……ふっ……なんだぁ」

「じゃあ、お尻を」

「やっ。おっ、お尻は、まだちょっと」

「そう? 腰にする?」

「うん。お尻とかは……よっ、夜とかに、やってもらいたいかも」

 なぜ、夜なんだ? 午前中と何か違うのかな。

 まあ、嫌がることをしても仕方ない。


 腰から背中、そして肩から首にゆっくりとさすりあげていくと、アデルは言葉少なになっていき、いつの間にか寝息を立てていた。

浄化(ラィニグン) v1.0≫

 これで、油分は取れたな。確認した僕は、自分も真っ裸になって、アデルを持ち上げた。そのまま湯船に入っていき、首を支えつつ湯にアデルを浮かべた。


「うんぅぅ……」

 アデルが目を開いた。

「私、寝ちゃってた?」

「そうだね」

 アデルは身動(みじろ)ぐと、身体をひねって抱き付いてきた。

「ねえ、駄目だからね」

「んん?」

「他の女の人にやったら駄目だから」

 上目遣いだ。

「んんん。気持ちよさそうにしていたけどなあ」

 アデルは口を尖らせた。

「だから駄目なの」

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ブクマもありがとうございます。

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訂正履歴

2025/11/28 誤字訂正 (夢幻さん n28lxa8さん ありがとうございます)

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― 新着の感想 ―
ハーレム路線を全力で叩き潰すアデルさん。かわいいw
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