267話 避暑地にて(6) 魔獣狩り
活動報告にも書きましたが、本作品の通算PVが1000万を超えました。(やったぁ)
改めてお読みいただいている方々に感謝申し上げます。
引き続きよろしくお願いいたします。
「おまたせ」
冒険者ギルドから、アデルの居る店に戻った。
「もう。おそいよ」
アデルの顔が、少し膨れている。
「ごめん」
よかった。料理が、まだ来ていない。
「失礼致します。お料理をご用意してもよろしいでしょうか」
「はい。よろしくお願いします」
あぁぁ。料理ができていないのではなくて、お店に待っていてもらったようだ。僕も会釈して、店員さんを見送る。
「それで、冒険者ギルドはどうだったの?」
「うん。牙猪っていう魔獣が出没しているんだって。それで、ここらは冒険者不足だからって、討伐を依頼されたよ」
「ふぅん。そうなんだ。レオンちゃんのことだから、引き受けたんでしょう?」
あれ? もう機嫌が戻ったか?
「わかる?」
「わかるわよ。レオンちゃんのことなんだから。それで、いつ狩りに行くの?」
「買い物を済ませて帰ったら、行こうと思っている」
「了解。じゃあ、私は夕食の料理を作って待っているからね」
聞き分けが良いなあ。
食事を済ますと、少し休んで店を出た。
最初にアデルの作業着を買って、市場をほっつき歩いた。
「レオンちゃん。粘土って何に使うの?」
さっき思い付いて、陶芸用品店で買った。
「ちょっとね」
「ああ」
アデルが可愛らしく頬を膨らませた。
「まあ、秘密なら良いけれど、ふん。それで、他に買い物は」
「きついお酒だね。蒸留酒かな」
「ワインじゃなくて?」
「ふふふ……」
それから酒店を見付けて、ちょっと特殊なブランデーの瓶を数本買ってから別荘へ帰った。
†
「じゃあ、行ってくる。なるべく早く帰ってくるから」
「早くなくていいから、無理をしないで、安全にね」
「もちろん」
玄関まで送ってくれたアデルの眉が下がっていたから、つい抱き締めてしまった。
外に出て、舞い上がる。高度を4000メトまで一気に上昇。
眼下を撮影して、画像解析ツールボックスを起動。過去やったことの踏襲だ。
赤外線フィルタと魔導波フィルタを施して2画像の論理積を作成し、形状処理__収縮膨張__カーネルサイズ2000ミルメトのフィルタをかける。
カーネルサイズは、牙猪の体長を反映させており、人間や小魔獣を除外するための設定値だ。体長2000ミルメト、つまり成人男性よりちょっと大きいぐらいでは無視する。そんな牙猪が居るかどうか知らないが。
解析結果画像上に浮かび上がった白い光点は、該当の魔獣だ。
結構居るなあ。
直径5キルメトの範囲で、ざっと20体くらいか。むぅ。これだけ居るとなると、確かに結構な被害が出るのは分かる。ふむ。でも数頭で固まっているのが救いだな。まとめて片付けていこう。それでも10箇所くらいあるな。
不意に巡回セールスマン問題という言葉が浮かんだ。怜央が持っていた地球の記憶らしいが、なぜ浮かんだのかわからない。そもそもセールスマンがよく分からない。販売員なのか?
†
≪雷荊 v1.3≫
見渡す限り落葉樹林の一角。
3体ほど屯っていた、牙猪の中央に禍々しい光の茨が繁茂すると、一瞬にして消える。
1秒遅れて、バリバリと放電音が届いた頃には、身動きしなくなった魔獣が湯気を上げた。
一気に斃さないと、逃げられるからな。
林のすれすれまで降下して、眼下に向けて腕を伸ばす。
≪ストレージ───入庫≫
牙猪の屍が、亜空間に消えた。
ここは8箇所目だったかな、が終わった。9箇所目は近かったはず、感知魔術でその方を探ると、反応がなくなっている。
「ちぃ」
散じたか。
結構な音が出るし、微弱だが断末魔の魔導波を放つからな。僕が感じるぐらいだ、同種なら聞き逃しはしないはずだ。
それを、数百メト上空から感知すると、対象が魔獣とはいえ何かのし掛かってくるものがある。人類の敵であり資源でもあるが、生あるものだ。割り切れないのは、僕がまだ甘いということだろう。
高度を上げて、探知のやり直しだ。
†
夏場のこととて、まだまだ日が高いが、3時前にガライザーの町に舞い戻った。冒険者ギルドに入る。時間帯が早いのだろう、カウンターのこちらにいる冒険者はたった2人だ。
誰も並んで居ない総合受付窓口へ近寄る。
「訊きたいんだが……」
「お昼に来られた、レオンさんですね」
「そうだが」
「少々お待ち下さい」
ええと、用件を告げる前に席を立っていった。
あれは、支部長に何か言い含められていたのだろう。
数分後に予想的中が分かった。
「レオン」
「ギルマス」
「中で話を……」
「その前に、大口買い取り窓口の場所を教えてほしいんだが」
「ん?」
やっと。既に狩りをしてきたことに思い当たったようで、正面玄関ではなく、通用口から外に出た。
「ここだ」
ギルマスが倉庫の扉を開けたが、誰も居なかった。なるほど、雪が降っても買い取りできるように、幔幕ではないらしい。
「おっと、待たせたか?」
振り返ると中年の大柄の男が、こっちに歩いてきた。血やらなんやらで汚れてもいいように、でかい前掛けをするのが買取係の共通らしい。
「ギルマス。どうかしたんですか?」
「ああ、この男が買い取りというのでな、案内してきた」
「わざわざギルマスが?」
不審そうに、頭を傾げた。ギルマスは、何か予感があるのか、にやけている。
「どれだけ狩ってきたか、見ようと思ってな」
買取係は僕の方を見た。
「獲物は、どこにあるんだ? それは魔導カバンか?」
「ああ、ここに出してもいいか?」
ざっと見るに、新居に設置した倉庫並みの広さがある。
「うむ。そうしてくれ」
倉庫の隅に、腕を伸ばす。
≪ストレージ───出庫≫
「お、おお、おおお……」
9体を出庫したところで、床が見えなくなってきたので、中断する。
「レオン。待ってくれ。何体狩ってきたんだ?」
「あと8体だな」
「いやいや。ええと、出ているだけで……9体か、17体も狩ってきたのか。本当にひとりなのか?」
「ひ、ひとりなんですか。ギルマス」
「そのようだ。さすがは優良戦闘冒険者ってことか」
「いやあ。こんな量は上級冒険者だって無理でしょう。しかも、どうやって斃したのか。大きな外傷がない」
「レオンは、魔術士だ」
「うぅ、分かりました。詮索はやめにします」
「助かる。それで、のこり8体はどうしたら良い?」
「いっ、いや。こんな田舎のギルドにいきなり大量すぎるだろう」
ふむ。確かに王都南支部と違って、人員数が少ないのは分かるが。
「とりあえず、どの程度脅威が下がったかを、把握してもらいたかったから、出庫しただけだ。とりあえず数を確認してくれ。あと5日ほどしかここに滞在はしない予定だ。それを念頭に考えてほしい。そちらで手に余る分は引き取る」
「うぅむ。そうしてくれるか」
結局、戸外に一旦全部を出庫して、討伐確認部位の牙のみを切断すると1対を残して買い取りに出した。その他の部位は3体のみ、このギルドに渡すことにした。
†
「ただいま」
預かり証だけ書いてもらって、別荘に引き上げてきた。それでも午後5時は過ぎていたから、魔獣狩りよりギルドで時間を使った。
中からパタパタと足音が響いて、アデルが走ってきた。
「おかえり。レオンちゃん。どこも怪我していない?」
「もちろん。大丈夫さ。少々魔力は使ったけど」
「よかったぁ。はぁぁ……」
気丈な表情ではあったが、アデルには心配をかけたみたいだ。
「さあ。手を洗って。夕食は準備万端よ。ああ、そうだ。いつものようにワイン? それとも、お昼に買っていたブランデー?」
「ん。ブランデーは飲む気はないけれど」
「えっ?」
「うぅん。アデルには内緒にして驚いてもらおうと思ったけど。もういいか。どうする? 一緒にやる?」
アデルは、目が丸くなるほど見開いた。
「やる。一緒にやる」
「じゃあ、夕食の後にでもはじめるか」
お読み頂き感謝致します。
ブクマもありがとうございます。
誤字報告戴いている方々、助かっております。
また皆様のご評価、ご感想が指針となります。
叱咤激励、御賛辞関わらずお待ちしています。
ぜひよろしくお願い致します。
Twitterもよろしく!
https://twitter.com/NittaUya




