25話 1次試験
なぜ1次試験は学力で、2次試験が実技なんですかね。コスト?
馬車が停まった。
既に何台か馬車が停まっているし、さらに後からも馬車が来ている。
石畳の町並にある広場だ。
数分間待っていると、馬車の扉が開いた。
「受験生の皆さんは、降りて待つように」
ここはいつも外から仰ぎ見るエミリア城の中だ。僕は城壁の中に初めて入った。
商会がお城のご用も承っているので、父様や母様は結構な頻度で入城している。母様は、伯爵夫人のお気に入りで、よく招かれているしね。
30分程前、南通用門というところに集合した受験生は、大型馬車に乗せられて城内を移動して、ここまで来たのだ。
前に座った同年代の子に続いて、僕も降り立った。
むっ。うわっ。
「大丈夫かね」
「ああ、はい。大丈夫です」
脚がもつれて、数歩よれたが何とか立て直した。
なんだ、ここは。石畳に脚を着けた刹那、感電したようにしびれが来た。
感じたことがない何かが、腹の底に湧いてくる。
なんだか、魔力がみなぎってくるような。
竜穴───
そうだ。ここは竜脈の結節点の上にある竜穴だった。結界から出た時に感じた喪失感と逆だ。
「よし、全員降りたな。ついてきてくれ」
この現象は気になるが、今は試験に集中すべきだ。
馬車を降りた広場の縁を進み、石造りの大きな建物前まで来た。
王立サロメア大学入学試験会場、同魔導学部入学1次試験会場。
ここか。
試験を受けることになってから、ビーゲル先生と対策の課題をこなして来たが、ようやく試験日となった。全力を尽くそう。
建物に入り、長い廊下を2回曲がったところ。大きな部屋に通された。
「10分後に、試験を開始します。受験生は受験番号順に、席に座るように」
試験官らしい。
「23、23……ここか」
僕の席は後の方だ。
ざっと、見渡すと受験生は50、いや60人位か。
立派な作り付けの椅子の座面を前に倒して座る。
「ふう。おちつけ。レオン」
「それでは1科目目。これより国語と歴史の問題用紙を配る。ただし、開始と言うまで裏を向けておくように」
配られた紙を、裏に向ける。
「解答用紙を配るが、まず受験番号と自分の名前を書きなさい」
ふう……。
「では、試験を開始しなさい」
紙がめくられる音が、そこかしこで響いた。僕は一呼吸置いて、問題用紙を裏返した。
よし、やるぞ。
:
:
†
「では、やめ! 解答用紙を回収します」
試験官ふたりが回ってきて、それぞれの用紙を渡した。
ふう。余り得意ではない科目だったが、7割位は答えられた。あとはなんとか埋めたという感じだ。
残る科目は、算術と物理だ。
†
「おかえりなさいませ。レオン坊ちゃん」
「ただいま」
試験が終わり、商館へ帰ってくるとメイド頭に迎えられた。
「あのう、ビーゲル先生が、離れでお待ちになってます」
「そうなの? わかった」
来られるとは聞いてなかった。
カバンを自分の部屋に置くと、中庭を小走りで通り抜けて離れに行った。
「ビーゲル先生」
「おお、レオン君。まあ、座って座って」
「はい」
長椅子に腰掛ける。
「その顔は、滞りなく受験できたようですね。お疲れさまでした」
「あっ、はい」
「いかがでしたか?」
「はい。算術と物理の方は、結構自信があるのですが、国語と歴史はまあまあという感じです。先生のおかげです。ありがとうございました」
「それはなにより。ですが、礼を言うのはまだ早いですぞ」
ビーゲル先生は、怜悧なモルガン先生とは対照的に、好々爺という感じだ。
礼は、合格してから言えということか。
「来月までは、まだ私はレオン君の先生ですからね。その、まあまあだったという方の問題を振り返ってみましょうか」
「えっ。あっ、はい」
「それで気になる問題は?」
「はい。ええと。歴史で紀元350年代の財政改革について。当時の主要政策を3つ挙げ、概略を説明しなさいという問いがありました」
「おお。なかなか込み入ったところをついてきましたね。ただ履修はしてあるはずですが」
「うっ、はい。テュロス教会領の削減と、塩の専売化にルートナスとの銀と銅の交換比率の見直しとは、一応書いたんですが」
「おお、それで正解ですよ」
「ですが、専売の税率と交換比率が思い出せなくて」
「それは微妙ですね……」
† † †
瞬く間に8月となり、王立サロメア大学からの封書が届いた。
魔導学部入学第1次試験結果通知書と書いてある。
手を洗い、一息ついてから、封を切った。
†
「おめでとう。レオン」
「やったな、レオン」
「信じておりましたよ、レオンさん」
夕食時に兄さんたちに、結果を披露した。
父様と母様に、夕食前に伝えてある。
「ありがとう。いやでも、まだ1次試験に合格しただけだよ」
「そうか、2次の適性試験があるんだったな」
「適性試験なら大丈夫だろう、レオンなら」
「へえ、そうなんですね。2次試験はいつなんです?」
「今月の22日からです。義姉さん」
「王都だったな」
満面の笑みのコナン兄さんにうなずく。
「そうか、3週間足らずか。とは言っても、王都まで4、5日掛かるからな」
「では、そんなにのんびりできませんね」
「そうだね」
再来週の初めには、エミリアを出発する必要がある。
「レオン」
「はい。父様」
めずらしくにこやかにしていた、父様が口を開いた。
「ダンカンには、速達を送っておいた」
「ダンカン叔父さん?」
父様のすぐ下の弟で、王都の支店長だ。
「うむ。王都で便宜を図ってもらうと良い」
仕事が早い。
「ああ」
「支店には寮があるから、そこに泊まるように」
夏休み中だから、大学の寮というところに泊まることができると書いてあったけど。そちらの方が安心かな。
「ありがとうございます」
母様もうなずいた。
†
「おはようございます」
今日は、経理の手伝いの日だ
少し早く仕事部屋に来たので、誰もまだ居ないかと思ったら1人居た。
「ベガートさん。とりあえず1次試験は合格しました。いろいろ、ありがとうございました」
あれ。反応が薄い。
「まずは、おめでとうございます。会頭から伺いました。昨日はご機嫌がよろしかったので、その前から、そうなんだろうなあと思っておりましたが」
「ははは」
そういうことか。
「私は経済商学部卒業なので、適性検査がある2次試験には役に立ちませんが」
「いえ、そんな。ここまで、助かりました」
「レオンには、助けてもらっていますからね、当たり前です。あっははは……」
その時、扉が開いた
「おはようございます」
ルッツさんが、部屋に入ってきた。
「おはようございます」
「おはよう」
「ところで、何か良いことがあったんですか?」
「えっ?」
「いやあ、支配人の笑い声が廊下に聞こえてきましたから」
「さあ、どうでしょう」
「えぇぇ、教えてくださいよ」
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2023/10/24 少々加筆、表現変え
2025/03/26 誤字訂正 (毛玉スキーさん ありがとうございます)
2025/03/30 誤字訂正 (ギュランさん ありがとうございます)
2025/04/02 誤字訂正 (cdさん ありがとうございます)
2025/04/09 誤字訂正 (布団圧縮袋さん ありがとうございます)
2025/06/10 誤字訂正 (猫力学専攻さん ありがとうございます)