235話 2年目の大学祭(7) 待ち伏せ
最近視ているyoutubeに釣り野伏がよく出てくる。
ご連絡:来週、資料集作成のために投稿が滞りそうです(恐縮です)。
「一旦魔灯を消します」
61号棟大実習室だ。暗幕はもう張り終わっている。
反応がなかったので、魔灯を消すと結構暗くなった。完全な闇になっていないが、純粋光を当てる壁には光が差していない。良い感じだ。
魔灯を再度点ける。
手すりは長さが足りないので、それ以外を作業台に布を張った物で埋めてもらった。
そこから1メトほど離して衝立を置いた。下部を目張りしてから、少し手前に魔道具類を設置する。
「ありがとうございました。課長さん」
「レオンさんも、がんばってくださいね」
「はい。せっかくなので、ちょっとだけ見ていってください」
「おお、そりゃあ。ありがてえ」
「できましたな」
振り返ると事務長さんとターレス先生が居た。
営繕課を大動員してくれたのは、事務長さんだ。本当に頼りになる。
「レオン君。食事は?」
「さっき、食べました」
いつ買ったか忘れた肉串と、石焼きカッショ芋だ。
「じゃあ、すまないが調整を始めてくれ」
目を閉じると、システム時計は12時45分だ。
手すりからこっちは、誰も居ないな。もう作業員さんは、居なくなっている。
「魔灯を消します」
暗くなった。
「では。調整用画像を出します」
≪統合───純粋光v2.8:全制御起動≫
≪調整───補正 CV0.0≫
奥の壁に向けて純粋光が迸った。
緑の光条が円錐を描き、暗幕の上に画像を結ぶ。
「こりゃあ……すごい。いやあ、皆さんが必死になるわけだ。疲れが飛びますよ。あっはは」
「これが純粋光ですか。綺麗な物ですなあ」
課長さんは細い目を見開いてうなずき、事務長さんは自分のあごを撫でていた。
僕は立ち上がると、手すりを開けて外に出る。観覧位置の真ん中に行って振り返ると、純粋光の環状の軌跡が見えた。
うむ。魔導鏡は真円になるように反射させている。だが、光軸に対して壁は垂直ではないので、鉛直(上下)方向に引き延ばされて、上ぶくれに歪んだ楕円に見える。
≪調整───台形補正 CV2.0≫
行き過ぎた。下ぶくれになったので、1.5、1.4、1.3と変えていって、1.37と仮決めした。
「どうですか。真円……まん丸に見えますか?」
先生たちに訊いた。
「うん。途中から差がよくわからなくなったが、いいんじゃないか」
「なるほど。こうやって、見た目を調整するのですねえ。私にもちゃんと円に見えますよ」
「ありがとうございます」
「よし。家に帰ったら、連れ合いに自慢しますわ。ははは。では私は帰ります」
「ありがとうございました。先生、順路の方は?」
「ああ、レオン君以外の人間ができることは、任せておけ」
「そうですよ」
僕は会釈すると、手すりの内に戻った。
†
午後1時を過ぎると、大実習室の扉が開いて、来場客が入って来た。
振り返ると、ディアとベルがすぐ背後に居た。
数分もたたずして扉が閉じて、魔灯が消えた。それが開始してよしの合図だ。
魔石に触れると、媒体内に高まった純粋光が光条となって、大きく壁に4つの輪を描いた。
ふむ。やはり迫力が増した。
ディアたちは、大きく目を見開き、口も半開きとなって見とれていた。
文字を描き、花を描いた───
数秒間暗闇が続き、魔灯が点くと、割れんばかりの拍手が実習室を満たした。
「入れ替えです!」
2人は満面の笑みで、手を振りながら出て行った。
案内係の声が響き、観客の退場を促していく。代わりに新たな観客が入ってくる。
午前中の会場のように、暗いままにして観客を入れ替えた方が、目が慣れて良いのだけど。広いし、暗いままだと、入れ替えに時間が掛かりすぎるので、点灯することにした。
ふむ。広いだけあって入れ替えに時間が掛かる。1回の収容人数は4倍以上に増えたが、回転が落ちているから、効率は精々3倍というところか。
どのくらい人数をさばけるようになったかはともかく、実演回数は確実に減る。ありがたい。
†
それから、何度も実演を繰り返していると、少し余裕ができて、操作の間に観客を観察できるようになった。
多くの一般人に混じって、諸先生方が来賓を連れて来られている。てっきり難しい顔をした人が多いのかと思っていたが、案外他の観客と変わらず、驚いたり、うなずいたりされていた。
心配したが、それほど風当たりが強いわけでもないようだ。まずは良かった。学科長が相当気にしていたからなあ。
瞬く間に時間が過ぎ、観客が入って来なくなったので確認すると、5時となっていた。
午後だけで50回弱は実演した気がする。けれども、ターレス先生が4回くらい交代してくれて、僕も休憩は取れた。案内人として回られて、疲れているはずなのに申し訳ない。
「おーい。レオン君」
ターレス先生とリヒャルト先生だ。
「お疲れさまです」
「いやいや。レオン君が一番疲れただろう」
「いえ、ここで座っているだけですから。お役人はなんか嫌なことを言っていなかったですか?」
ターレス先生が微妙な表情をした。
「なかったと言えばうそになるな。ベアトリス日報の記事を当てこすってくる人も居たよ。でも、大臣と妃殿下がお越しになったのをみんな知っているようで、大半は様子見だったな」
なんで知っているんだろう? それにしても様子見か。
「ああ、私も訊かれました。なんておっしゃっていたかってね。もちろん褒め千切られたと言ってやりました」
「胸を張るのは良いが、リヒャルト君はその場にいなかったし、知らないだろう?」
「いえ。学科長が、訊かれたらそのように答えろって、おっしゃってましたよ」
笑っている。
「むう」
間違いではないけれど。
「ともかくだ。レオン君は、悪いが今日は早く帰ってゆっくり休んでくれ」
「そうそう。私も魔導具の操作許可をもらったから、明日は手伝うからね」
「えっ、うれしいんですけど、研究室の展示は?」
リヒャルト先生は、ここの担当ではない。
「言ってやるな。ミドガン君が完璧に仕切っているから、案内人の時以外は暇なんだよ」
そうなんだろうなあ。
「うっ。じっ、事実ですけど」
「リヒャルト先生。助かります」
「そっ、そうか。よーし、がんばるぞ」
†
今日は、下宿で夕食が出ないので、南市場で食べて帰ってきたのだが、あと一筋という所で嫌な気配を感じた。
横手の路地から体付きの良い男が2人飛び出してきた。
何だ。ここは住宅街だ。それに、まだ8時前。強盗ではあるまい。
ならば、僕自身が狙いということになるが……。
今朝の街宣馬車で繰り出してきたという政治団体の一味? とうとう直接、僕を直接狙ってきたか。
囲まれた。後ろからも2人。
ふむ。純粋光の普及を阻害するならば、僕という人物を抹殺するのが、非合法ながら手っ取り早い。
甘かったか。
トードウ商会に権利を移してはいるから、僕を殺したところで権利は手に入らない。だから狙ってくるなら、もう少し事態が決定的になってからと思っていた。
確かに、必ずしも権利が自分の物にならなくても、自分たちの邪魔にさえならなければ良い。そういう考え方もあるだろう。
「サロメア大学生のレオンだな」
「そうだが。そちらは」
ふむ。
返事はなしか。
さてどうするか。
一番楽なのは、光学迷彩魔術で姿を消して逃げることだ。しかし。ここで待ち伏せしているのだから、下宿の場所も間違いなく知られている。逃げるのは悪手だな。
相手は4人。一般人に見えなくもない。しかし、徒手空拳か。
武器を持っていてくれると、反撃しても何の問題もないのだが。一般人に冒険者が実力を行使するとギルドの懲戒対象になる。もちろん、相手が先に手を出すなり、威圧してくれば別だ。4人で囲まれただけだと、微妙だな。過剰防衛にならないように、大怪我を負わさない、かつ無力化というのは結構難しい。
「悪いが、ついて来てもらおうか」
「断ったら?」
「貴様!」
顔を撮影しておくか。
ん? 路地裏に馬車が2台止まっている。黒幕でも乗っているのか。あちらを押さえる方が良いかな。
ジリジリと囲みを狭めて来た。
よし。重力魔術にしよう。
「待ちなさい!」
女性の声───馬車の1台の窓が開いていた。
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