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22話 耳寄りな情報

兄さん欲しいなあ。

衝撃(インパルス) v0.54≫


 斜面の至る所で土煙が上がり、一拍遅れて破裂音が連鎖して耳を打った。


 ふう。

 いったん止まって確認する。

 10発撃って、命中は8発か。

 的としている岩を外すと、砂利が上げる砂煙が派手でわかる。それが2カ所。


 息が上がった。

 魔術を撃ったというのもあるが、走りながら魔術を行使しているというのが大きい。


 有効射程を伸ばし、威力を上げてきたが。今日は違うことを試している。

 複数の的を狙い撃つ魔術。バージョン0.5番台がそれだ。


 銀の矢のクランマスターであるニールスさんに、先日言われた魔術の制圧力を念頭に置いた試行の結果だ。


 命中率80%。

 まあ悪くないような気もするが、妥協するのはもう少し先だ。

 15発同時発射もできたが、さらに命中率が落ちたので、すでに手数の面で妥協しているからなあ。


 やはり照準制御を見直さないとだめだな。

 止まって照準すれば、ほぼ皆中するのだが。複数の敵が静止、自分も静止などという恵まれた状況を期待してはいけない気がする。生きている魔獣のように、的をてんでばらばらに動かせれば良いのだが、それは困難だ。


 せめて、自分が動けば多少条件が近付くと思ってやっているのだが。相対的に的の移動ベクトルが同じという状況でも、皆中にはならないとは未熟だと思い知らされる。


 ん?

 何か近くに居る。斜面の上の方。


「レオーーン」

 振り返るのと、声が聞こえたのが同時だった。


 コナン兄さんだ。

 野犬などが、この私有地にも出ることがあるが、それらは僕が魔術訓練を始めるとどこかへと去って行くから変だと思ったんだ。


 あわてて斜面を駆け上がり、兄さんの元へ移動した。


「どうしたの、兄さん。こんなところまで」

「ははは。こんなところって。レオンを初めてここへ連れてきたのは、私だろう?」

「そっ、そうだけど」

 4、5年前のことだったはずだ。


「いや、今日は休みだし、かわいい弟に差し入れでも持って行ってやろうかなあと思ってな」

 そういえば、今日は日曜だ。差し入れが入っているだろう籐のカゴを、兄さんは右手に携えている。


「ありがとう。兄さん。でも義姉(ねえ)さんはほっといて良いの?」

 新婚だしなあ。いつも忙しくしている兄さんだから、休みぐらい構ってあげないと。


「ははは。レオンもそういうことに気が回る歳になったか。ああ、このカゴに入ってる昼食は、エレノアが作ったんだ。ぜひレオンさんに持っていってあげてくれってさ。()けるなあ」

「あははは。そういえば、おなか空いていた」

 一応、麓の小屋に置いたカバンには、一応食べ物を入れてきてあるけれど。


「じゃあ、麓に戻るか」

「えっ、ここで食べない? 湖が見えて、気分が良いよ」

「そうなのだが、これがな」

 兄さんは自分の手を眺めた。標高は大したことはないが、結構険しいからな、登るのに手を使う。僕の手も汚れていた。


「大丈夫だよ」


≪アクァ≫


 自分の手の上方に発動紋を呼びだして、そこから水を産んで洗い流す。

「ほら、兄さんも」

「ああ」

 兄さんの方に発動紋を移動して、洗ってもらう。


「これって、モルガン先生に最初に習った魔術だったなあ。嫌がっていたレオンが、兄弟で一番使いこなしているよなあ。ありがとう。じゃあ、ここで食べるとするか」

「うん」


 平たい岩の上に移動して座ると、兄さんがカゴを開け、中からまた小さいカゴを出して僕に渡してくれた。

「ありがとう。うわぁ、サンドイッチだ」


 丸いパンを切って、チーズにハムと葉物野菜が挟んである。

「食べて良い?」

「もちろん。ああ、そうだった」


 おいしい。少しからいけれど。もっと食べたくなる味だ。

 頬張りながら横を見ると、兄さんは水筒とコップを出してお茶を注いでくれた。


「これも飲め」

「うん。ありがとう。サンドイッチ、食べたことがない味だけど、おいしいや」

「だろう。エレノアの家伝来のソースらしい」

「へえ。兄さん。帰ったら義姉さんにお礼を言うよ」

 コップに入ったお茶はまだほんのり温かい。


「甘い」

「うん。レオンは疲れているだろうからって……ああ、うまいな。これ」


 兄さんの笑顔を見ながら食べていると、心地良い春の風が吹いた。


「それで、どうだったんだ?」

「どうだったって?」

「ほら、10日前ぐらいに冒険者と一緒に、結界から出てみたんだろう。ざっとしか聞いてないからな」

「そのことか」

 兄さんはうなずいた。まあ、冒険者ギルドから帰ってきて、簡単には兄さんに報告した。忙しそうだったからね。


「うーーん。まあ、何頭か魔獣は(たお)せたし、自分の魔術がそれなりに使えることがわかったよ」

「そうか。それなりにか。私はレオンの魔術はすごいと思うけどな」

「でもニールスさんっていう冒険者が、まだまだ経験が必要だって」

「そりゃそうだ。初めて魔獣と戦ったのだから」

「うん。課題も見えたから、もう少しやってみるよ」


 兄さんは、うなずいてから僕に向き直った。

「レオンは冒険者に成りたいのか? 15歳になったら成人だからな、もうすぐだぞ」

 あと7カ月だ。


「いやあ、別に冒険者ってことはないんだけど。何か魔術で身を立てていくには、手っ取り早いかなと」

 魔術というか、本当は制御をやりたいのだけど。電気回路も電子工学も見当たらないこの世界では、まともな制御対象が魔術ぐらいに限られるんだよな。


「手っ取り早いか……」

 ん? 何だろう。


「魔術を生業(なりわい)にするにしても、もう少ししっかり考えた方が良いんじゃないか」


 そうだな。誰にも脳内システムのことは打ち明けていない。魔術のドキュメントで知識を得られることも話していないのだ。

 僕の知る限り、テュロス教会の教えには輪廻(りんね)の概念はない。


 こんなに優しい兄さんだからこそ、前世の記憶があるなんて言ってしまって、嫌われたくない。家族のみんなにもそうだ。


「母様が、レオンは無鉄砲だと言ってた。俺にちゃんと気に掛けるようにって」

 考えが空回りしているのを、僕が何も考えていないと思ったようだ。

「うーん」

「それでだ。ちょっと調べたんだが」

「えっ?」


王都(サロメア)には、魔術のことを学べる大学があるそうだ」

「王都。大学?」


 ああ、それは考えたことがなかった。


「秋に来年15歳になる歳から、生徒を募集するらしい」

「へえ……」

 皆、年初にひとつ歳を取る。

 つまり、現在14歳から。ちょうど僕の歳だ。


「それを進路として考えてみたらどうだ?」


「ええ? 僕に王都へ進学してみたらどうかってこと?」

「私がレオンに言うのは気が引けるが、魔術も手解きを受けた方が伸びると思うぞ」

「それは、そうだけど。でも、王都へ進学となると、お金も掛かるし」

「ははは、そう言うと思った。なんでも奨学金制度というのがあるらしいぞ」

「奨学金」

 なるほど。セシーリアに奨学金制度があるのか。でも返済がなあ。

 怜央が居た日本にも奨学金という名の制度はあったけど、地球基準でいえば実質学生ローンだったという記憶がよみがえってきた。


「ただ、入学試験で優秀な成績を収めないと対象にならないし、さらに上位で選抜されないと返済額が増えるしな」


「ん? 返済が少ないやつもあるの?」

「ああ、そう聞いたけどな。その辺は、支配人(ベガート)が詳しいぞ」

「へえ。そうなんだ。じゃあ、帰ったら聞いてみるよ」

お読み頂き感謝致します。

ブクマもありがとうございます。

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訂正履歴

2023/10/19 少々表現変え

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― 新着の感想 ―
お兄ちゃん、うまいこと誘導しておられるw
1章はどこに…? 「序章」は主題に入る前の前書き、いわゆるプロローグなので、その次の章(主題)は1章から数え始めるのが普通だと思います。
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