212話 魔導アカデミー検証会(2) 刻印実証
発表時に実験はほぼやりませんが、残る鬼門は動画再生ですね。極力アニメーションGIFにしてます。
「このように、光を吸収、増幅させる物として魔結晶相当の物体である媒質を選択することで、予稿の通り、純粋光の発振を確認しております。次をお願いします」
ターレス先生が、原稿を替えてくれた。
「こちらは、サロメア大学の測定器にて波長分解した波形です。中央波長622.5ナルメト、帯域幅は半値全幅で0.15ナルメトでした」
おお、ざわついた。
やはり、有識者は数値に反応するんだな。
「参考までに、予稿末尾に記してある文献では、魔導光の同値は研究段階で十数ナルメト程度の波長幅、実用ではその数倍とありましたので、おおよそ百分の1程度にはできています」
よしよし、前半はおおまかに終わった。
「以上が、純粋光の発振に関する内容です。次をお願いします」
原稿が、入れ替わる。
「事前にお配りをした予稿と差分の予稿で異なっている点を説明します。当初、純粋光の種光源は、私、つまり術者が行使する純魔術でしたが、現段階では魔石による魔導光を使っています」
えっ。聴衆のざわつきが大きくなった。
10秒くらい待ったら鎮まったので続ける。
「魔導光発振自体は、熱輻射を利用した発光に比べて魔力効率が比較的高いと言われます。ただし刻印魔術や種光源として使用する場合は、波長帯域を絞る必要があり、全体としての効率が高くないことは、ご存じのことと存じます」
見せ場だ。
「次をお願いします。そこで、新たな魔導光発振方式である、多数回屈曲方式により半値帯域幅を1.2ナルメトまで絞り込み、魔力効率を改善しています」
うわっ。
聴衆のざわつきが大きくなって騒然となる。ちょっとした騒ぎだ。
なんか変なことを言ったか?
「静粛に、静粛に願います」
ヨランド氏が拡声魔道具で呼びかけてくれて、なんとか静まっていったが、再び騒然となる。
「静かに、静かに! これ以上騒ぐ方は、退場を命じますよ」
おぉ、やっと静かになった。そう思ったら、予約席で手が挙がった。さっきターレス先生が教えてくれた、予約席のレッソウ大学教授だ。
「発言を認めます」
「申し訳ないが、実証実験の前に質疑応答をお願いしたい」
「レオンさん、どうですか?」
僕に振るか。
「承りました。新方式魔導光の説明が終わりましたら、そのように」
ヨランド氏がうなずいた。
†
少々予定が変わったが、一通りの説明を終えた。
「それでは、一旦ここまでのところで質疑応答を」
即座に手が挙がる。
「本日は……」
「所属と名前をおっしゃってから、質問を願います」
おぅ。ちゃんと仕切ってくれるじゃないか、ヨランド氏。
「──大学の──です。非常に興味深いご報告をありがとうございます。新型魔導光の発振実証実験は、本日実施されるのでしょうか?」
「ご質問ありがとうございます。実施いたします」
おおうと、響めきが起こった。
「はい、どうぞ」
別の人だ。
「──です。純粋光の焦点径は、3マクメトとのことですが、にわかには信じがたいですね。それは実証実験を見せていただくとして……」
肩透かしだ。
「焦点径についても、魔導光の100分の1になるはずですよね。素人質問で恐縮ですが、未来はともかく、現状でそこまでの高分解能が必要なのでしょうか?」
素人質問でと言われて、背筋に冷たいものがはしった。大体隣接する分野を専攻されている先生が、思ってもみない指摘をしてくるという怜央の記憶が蘇った。が、まあ今回はそれほど意地悪な質問ではなかった。
「ありがとうございます。結論から申し上げますと、必要です。またさらなる縮小ができると考えています。一番簡単な事例は、後程ご覧いただきますが、魔導光発振用魔石を容易に手に入る大きさにするためです」
それからも、3件ほど質問に応答して、ようやく途切れた。たぶん、満足したというより、実物を見てから、また討論しようと思ってくれたようだ。
「それでは、実証実験に移ります」
ソリン先生を見ると、手を挙げた。準備完了のようだ。
「それでは安全のために一旦衝立を置かせていただます」
ソリン先生の前に1メト四方ぐらいの板が視界を遮った。
実験区画に歩いていき、作業台に設置した発振魔道具に近寄る。
「では、始めます」
また、ざわめきが漏れ始める。
手を魔道具に翳す。
≪統合───純粋光v2.0:全制御起動≫
≪魔導光:発振 v1.2≫
固定器のまわりにゴテゴテと付けた魔石が鈍く光り始めた。魔導発振用魔石ではなく、魔力供給用の魔石だ。今回は僕の魔力は直接使用しない。
≪魔導鏡:角度調整 v0.5≫
≪純粋光:発振 v1.3≫
「純粋光を出します」
≪純粋光:放出≫
赤橙の純粋光が、固定器の端から迸った。問題なく、測定魔導器に入射している。
歓声があがり、続いて拍手が盛大に巻き起こった。
おおぉ、なんか少し感動した。
目の端で白い物が大きく動いたので、視線を送ると、ガラハッド総裁だった。立ち上がって何度もうなずきながら、拍手している。そう思ったら、隣の職員だろう人になんか言われたのか、やっと座った。そういえば、僕に複数魔術行使を見せろって言っていたなあ。まさかと思うけど、ここで検証させたのは、あの人の個人的な動機じゃないよな。さすがに違うか。
僕は数歩前に出て、胸に手を当てて会釈する。
「おい、術者が魔導器から離れたぞ!」
叫び声に響めきが起こった。
僕は発動をさせるものの、制御自体は魔術モデルが自動で行うから多少離れても問題ない。それに、叫んだ人が気が付いたんだな。まあいい、後で説明することになるだろう。さらに数歩歩いて、聴衆者席側から見てみる
区画の背景に黒い幕が張られているので、聴衆席からでも純粋光がすこしは視認しやすい。
大丈夫そうだな。
「では、衝立を外してください」
監視員とは別の係員が、どかしてくれた。
「測定を開始します」
ソリン先生が宣告すると、測定器を操作し始めた。
30秒程待っていると。
「測定が終わりました。純粋光を止めてください」
少し離れた所から腕を向ける。
≪純粋光:解除≫
光線が消え失せた。
すると、監視員が、測定魔導具から吐き出された紙を破った。
「では、測定結果をお知らせします。中央波長は624ミルメト。帯域幅は……うっ」
息を呑んだ。
「半値全幅で0.12ナルメトです」
本当はもっと改善はしているが、予稿からあまりはずれない方が良いだろうとした妥協の産物だ。
「それでは、実際に刻印を行いたいと思いますが……魔結晶は?」
魔結晶は、事務局が用意することになっている。
「ああっ、お願いします」
ヨランド氏が予約席に呼びかけた。なぜそこへ?
訝しんでいると、予約席の1人が立ち上がった。
「審査員の1人として、魔結晶を預かっていました。現在は、何も刻印されていないことを証言します」
へえ。そういうことか。その人が魔結晶を、手に掲げながら前に出てくると、監視員に渡した。監視員もやはり魔結晶を掲げながら移動して、実験区画まで戻り、保持台に設置した。
そうか。見えるように移動したのは、魔結晶をすり替えていませんよという強調か。細心だな。
「それでは刻印を試していただきましょう。お願いします」
さて。発動行使をしたことが、聴衆者の皆さんに分かりやすいように、発光魔術を刻印することは決まっているが。
あれをやってみるか。
聴衆者席を見る。広角、最大まで広角……おっと魚眼の域までいってしまったのであわてて戻す。
これでいいか。
再び、純粋光の魔術群を発動、行使しはじめる。光線は魔結晶を捉え、刻印が始まる。
会場全体が静かになったが、目の端で、白いローブ姿が立ち上がった。
またか、あの人。なんだか、イザベラ先輩と共通点があるような。
そんなことを考えていたら、ターレス先生が寄ってきた。
「なあ」
「なんです」
小声だ。
「刻印時間が、長くないか」
「ええ。まあちょっと」
「ふぅ。異常じゃなければ良いんだが」
心配そうにしている。
「大丈夫です。ああ、先生。魔石を見せるときは、これを敷いてください」
「ん? 真っ黒だな」
「ええ」
渡したのは、真っ黒の紙だ。
そうこうしていると、純粋光が途切れた。
「刻印が終わりました」
監視員が拡大鏡を手に、魔結晶固定台に寄っていった。
「なっ!」
拡大鏡を翳した直後、監視員は2、3歩たじろぐように下がった。そして、僕をにらんだ。
首を振って、気を取り直したのか、もう一度拡大鏡でのぞくと後ろを振り返った。
「まさか……こんなことが」
「どうしたのかね?」
ヨランド氏が監視員に近付く。
「こっ、これを……」
監視員が、拡大鏡を渡した。
「何だというのだ」
眉根を寄せながら、のぞき込む。
「なんだと!」
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訂正履歴
2025/06/11 誤字訂正 (笑門来福さん ありがとうございます)