21話 力試し(3) 評価の表裏
ペース配分をたまに手抜きという人が居るんですよねえ。
昼食を取ってから、結構時間がたった。
今は、ニールスさんが先行して、ワーレンさんが僕のそばにいる。
「なあ、レオン」
「なんですか?」
「冒険者を相手にしているとき、自分のことを僕と呼ぶのはやめた方が良いぞ」
「なぜです?」
「うーむ、まあざっくり言えば、なめられるからだな」
「そういうことですか」
「ああ、冒険者は、腕っ節が第一。魔術職だってそうだ。実力第一でな。熟練者を敬うところもあるが。どうしたって、相手より強いかどうかを競い合う」
よく聞く話だ。
最初は僕のことを見下すというか蔑視していたワーレンさんだったが、何度か狩りをして打ち解けてきたところをみると、少しは僕のことを認めてくれたみたいだ。
「そこでだ。僕って言ってるとなあ。どうやったってガキ扱いされるぞ」
「なるほど」
「まあ、レオンが冒険者にならないっていうなら、関係ないけれど。でも、こうやって腕試しをしてるってことは、まんざらでもないんだろ?」
「うぅぅん。まあそうではあるんですが」
「おっ」
ワーレンさんの視線の先に、ニールスさんが居た。こっちに歩いて来る。
「索敵はしているが、大物魔獣の気配がない」
確かに。魔甲犀以降、大きい魔獣とは会敵していない。
「そろそろ4時だ。日は長いし、レオンはまだ狩りを続けたいと思っているだろうが、引き上げた方が良いと思う」
目を閉じるとシステム時計は、15:47と表示していた。
「ニールスさんの、判断にしたがいます」
まだ日は高いように思えるが、素人の希望的観測かも知れない。
横でワーレンさんも、細かくうなずいている。
「よし。じゃあ、撤収しよう」
魔獣の肉は捨て、はぎ取った犀の甲羅はニールスさんが背負ってくれている。ワーレンさんが角を持ってくれて、僕は獲れた魔結晶だけをカバンに入れて歩き出した。
街道まで出て、エミリアの町へ戻る。
ニールスさんが、そんなに重くないとは言ってくれたが、どうなんだろう。
うわさでは、魔導カバンという魔道具があるそうだ。斃した魔獣でもまるごと収納して、しかも片手で持てるぐらいの重さになるそうだ。
怜央の知識にある質量保存の法則と矛盾しないか?
そう思わないでもないが、もしかすると亜空間に収納しているんじゃないだろうか。
ただ魔導カバンは高価らしいし、希少らしくエミリアの町では手に入らないとローズル叔父さんは言っていたが、こうなってみると欲しいなあ。
†
例の石碑前を通り過ぎ、結界の中に入る。
出ていく時は気にならなかったが、なにやら魔力が少し上がった気がする。
しばらくして、エミリアの町へ戻ってきた。
「これで一安心ですね。ありがとうございました。ニールスさん、ワーレンさん」
「いや、昨日までは少し心配だったが、大事なかった」
道々歩きながら訊く。
「ワーレンさんを危ない目に遭わせましたこと、改めてあやまります」
「それは済んだことだ」
「あと、うぬぼれかも知れませんが、魔獣に対してそれなりに対応できたと感じました。もちろん、おふたりの支援あっての前提ですが」
そう。僕の魔術能力というよりは、いろいろ配慮をしてくれた彼らのおかげと考えるべきだ。とはいえ、まったく使えない人材ではないと信じたい。ただ経験のない者の自信よりは、彼ら経験者の意見の方が客観的だろう。
「正直なところ、僕はいかがだったでしょう。魔術士として使えそうか、どうか。訊かせてください、できれば将来性も含めて戴くと助かります」
「うむ。そういう契約だからな、考えてはある。私が先に答えると、それに引っ張られるから、ワーレンから答えてやってくれ」
「俺からですか。そうですね」
ワーレンさんは、うなずいてから上を見た。
「魔術の威力は、中級の魔術士と変わらないかな。ただ、発動はかなり早い。まあ、今日は大きい魔術は使っていないけれど、ウチのクランの中でもレオンより早い人は居ないと思う。だから俺の見解としては使えると思う。俺より若いから少しシャクだけど」
「ははは。朝と違って随分素直になったな、ワーレン」
「もう! ひどいや。それで、ニールスさんから見てどうなんですか」
「そうだな。魔術士として使えるかどうかと言えば、今のところは、そこそこだな」
「そこそこですか?」
うーむ。
「10点満点なら6点か7点だ。レオンは、今日初めて魔獣と戦ったと言っていたな」
「そうですが」
「ならば6点で十分だ。まだレオンに命を預ける気にはならないが、14歳なのだろう? 経験を積んでいけば、満点に近付くのは間違いない。そうなればウチのクランの方からメンバーに誘うだろう」
おおう。将来性はあると理解すべきだな。
「わかりました。では、僕に足らないことはなんだと思います」
「そうだな」
ニールスさんは一瞬相好を崩してから、眉根を寄せた。
「足らないかどうかは、わからないが。今日確認できなかったのは、制圧力だ」
「制圧力?」
「そうだ。今日のように遠距離から確実に魔獣を斃す確実さは大したものだと思う。ただ、パーティーが、魔術士に期待する方向性はそれだけではない。一気に多くの魔獣に打撃を与える制圧力の面もある」
「なるほど」
制圧力か。
「逆に、こちらから訊いても良いか?」
「はい。なんでしょう」
「レオンは、将来魔術士として冒険者に成りたいのか?」
「どうでしょう。魔術を生業にしたいとは思いますが、冒険者になりたいかと訊かれると、まだ考えがまとまっていません」
「そうか。わかった」
ちょうど、冒険者ギルドのエミリア支部前まで戻ってきた。
「では、ダリアさんに会って、終了認定書に署名しますので少々お待ちください。ありがとうございました」
「こちらこそ」
支部の玄関ホールで彼らと別れた。
†
依頼終了から2日後の宵。
高級酒場ミーゼス亭にやって来た。客の入りは、席の半ばが埋まっている。
「やあ」
いつものように、カウンターの向こうに手を挙げてあいさつする。
「おお、ニールス。奥だ」
亭主は親指で上を指した。2階の部屋か
うなずいて階段を昇り、奥の扉をノックした。
「ニールスさん。どうぞ中へ」
前に会った若い男だ。うなずいて中に入ると、もう一人年配の男が居た。
「先日はご苦労さまでした。表向きの依頼がうまく行ったことは承知しています。どうぞお掛けください」
私は年配男性の対面の席に座る。
若い男の方は、立ったままだ。
テーブルの上には、彼らの茶器だけ。酒を酌み交わすという感じではないな。さっさと済ませよう。
「では早速。こちらがご依頼の報告書です」
封書をカバンから取り出して、テーブルの上に差し出す。
若い男がほほ笑みつつ封筒を取り上げ、真の依頼者だろう対面の男に渡した。私が昨日から今日に掛けてまとめた、報告書を取り出し、読み始めた。
無表情に数分掛けて読み終わると、再度封筒に収め、だいじそうに自分のカバンに仕舞った。
「結構。それと依頼にないことだが、ひとつ訊きたい」
年配の方だ。
うなずきを返す。
「彼は、自分の評価を聞いてどう反応したかね」
ふむ。
「レオン君は、私の厳しい評価に激昂することもなく、終始冷静でした。残念ながら……」
「残念ながら?」
「私の回答にもあきらめる様子はありませんでしたよ」
依頼人たちは、顔を見合わせた。
それから、若い方は肯くと懐から包みを出した。
「こちらは後金です」
お読み頂き感謝致します。
ブクマもありがとうございます。
誤字報告戴いている方々、助かっております。
また皆様のご評価、ご感想が指針となります。
叱咤激励、御賛辞関わらずお待ちしています。
ぜひよろしくお願い致します。
Twitterもよろしく!
https://twitter.com/NittaUya
訂正履歴
2023/10/18 少々表現変え
2025/03/27 誤字訂正 (よろづやさん ありがとうございます)
2025/04/02 誤字訂正 (cdさん ありがとうございます)