192話 忍び旅(12) 一難去って (6章本編最終話)
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それで、題目通り本話(192話)をもって、6章の本編が終了です。
次話から、少し長めの閑話に入ります。
「うまく行って良かったわねえ。レオンちゃん」
「そうだね。カッショ芋を作ってくれている人が、よろこんでくれてよかったよ」
あのよろこびが、一過性なものにならないと良いのだが。販路がなあ。
馬車で別荘へ戻ったとき、バルドスさんアデルがいる前で絶賛してくれた。それから、エルボランに行き、表向き駅馬車で王都へ戻る予定だったのだが。
せっかくの旅行だったのに、芋のことで時間を取らせたということで、バルドス夫妻から、もう何日か泊まっていくと良いと言われた。そこで、1泊だけ伸ばすことにして、ラ・バルバロッテに戻って来た。
「でもさ」
「ん?」
「その立役者は、レオンちゃんな訳じゃない」
「僕じゃなくて怜央だよ」
「うう。まあそうなのかもしれないけれど。なんか、レオンちゃんが報われないのはなんだかなあって。それって私のせいだよねえ」
やっぱり、気が付くか。
「まあ、ちょっとはね。でも僕の気の済むようにやってるだけだから、アデルは気にしなくて良いよ」
もちろん、アデルの秘密を知られた、バルドスさんに恩を売って置く意味もある。
「そうなの? でもなあ。おかげで、私にはおばあちゃんができたけれど」
「へえ。そんなにベニーさんと仲良くなったんだ」
アデルの血族としての祖父と祖母は、全員が亡くなっているそうだ。
「うん。レオンちゃんのことも知られているから。ある意味、ユリアさんの次にいろんなこと話せるかも」
「ふーん」
「あのさあ、レオンちゃん……」
「何?」
「レオンちゃんとのこと、おかあさんに話して良いかな?」
「ブランシュさんに? 賛成」
「いや、賛成って」
「前に、僕たち結婚って話が出たじゃない」
「うん」
「あの時は考えていなかったけれど、今はアデルと結婚したいと思っている。だから賛成」
そうは言っても、歌劇団とアデルの契約を遵守するなら、あと1年あまりは結婚できない。その先の話だ。
「ほっ、本当に?」
「もちろん。だけど、僕も急ぐ気はないから、時期はアデルの都合に合わせてもらえれば」
「うれしい。レオンちゃん、大好き」
ソファーで押し倒された
†
「汗を搔いたし、お風呂に入ろうか?」
「うん。今日は私が洗ってあげる」
そんなやりとりのあと、専用の浴場に移動した。
「へえ。この部屋には外にも、お風呂があったんだねえ」
アデルが内風呂からつづく扉を開けて見ている。
もう1泊することにしたのだが、ホテルの都合で別の部屋に移った。前の部屋より、高級な部屋なので、それ以外の設備も違っている。
「行こう」
外かなあ?
東屋のようになっていて屋根はある。壁はないけれど、周囲の庭にはもちろん生け垣があって、外部からは見えない。
屋根の下に大きい岩を組んで作った浴槽があり、湯気を上げている。
「お先に」
さっさとローブを脱いで、お湯に浸かる。
「ずるぅい。ああ、寒い、寒い、寒い」
アデルも飛び込むように入ってきた。
「あったかい。いいお湯だわ」
「ははは」
湯の中で抱き合う。
「ベニーさん。2月の公演に来てくれるって」
「そうか、よかったね」
「ん?」
「何?」
「大きくなってない?」
「えっ? おっぱいのこと?」
「うん」
「ふふん。最近半年前に作った衣装が、きつくなっているんだよね。胸とか、おしりとか。胴回りはちょっと布が余りだしたけど」
そう言われれば、そんな感じだ。
胸から下は、水面の下だから見づらいけれど。
「それは大変だね」
「えっ、うれしくないの?」
「なんで?」
「いや、なんでって。男の子は大きいおっぱいが好きでしょう?」
「んんん。いや別に。小さくても大きくても、アデルの胸は好きだけど」
「うん。やっぱりレオンちゃんは、変わっていると思う。そういうとこが好きなんだけどね。ベニーさんも絶対放しちゃダメって言ってたし」
女は、いくつになってもそういう話が好きなのだろうか。
†
翌朝。ホテルのフロントに来た。
「おはようございます。レオン様」
「おはよう。精算を」
「はい。少々お待ちください」
あれ?
受付の人が、奥の部屋に入っていてしまった。しかし、1分もしないで戻って来た、別の人を連れて。
「支配人さん」
「ラ・バルバロッテに、ご宿泊いただきありがとうございました」
「こちらこそ。ありがとうございました」
「精算でしたね。2名様5泊で1セシルをお願いいたします」
「ん……んん? 1セシルって、言いました?」
謹厳実直そうな支配人さんは、ほほえんでは居るが、冗談ではなさそうだ。
いやいや安すぎる、ありえないだろう、その料金は。確かに、バルバスさんがもう1泊とは言っていたけど。
「はい。当ホテルの経営者より、宿泊料を頂戴しないようにとのことでしたが。全く頂戴しませんと、利益供与に該当する場合がありますので、大変恐縮ながら、1セシルを申し受けます。曲げてお願いいたします」
いや。どっちかというと、こっちの方が恐縮するが。
「ご厚意に甘えようよ」
「あぁ……うん」
小銀貨を1枚出した。
「では。こちら、明細と領収証です」
166セシルで、165セシル割引と書いてあった。
いいのかなあ。おっと切り替えよう。
「お世話になりました」
「またのお越しをお待ちしております」
†
馬車でエルボランへ送ってもらい、市場が開いていたので買い物をした。カッショ芋は大量にもらったので、それ以外だ。それから当たり前のように飛行魔術で王都へ戻って来た。まだ10時だ。
路地裏に着地した僕らは、アデルの部屋に入る。
「ただいまっと。ふう。ラ・バルバロッテも良かったけれど。我が家もいいわ」
「ははは。そうだね」
6日前にここを出たのが、昨日のような気がする。
「わたし、窓を開けてくるから、さっき買った物以外は、寝室に出しておいてくれる?」
「了解」
勝手知ったるアデルの部屋。
寝室に入って、預かっていた荷物を出庫する。
ここの窓も開けておこう。
「寝室の窓も開けたよ。エルボランで買った物だけ持って来たけど」
「うん。ありがとう」
「これって、食べる物ばっかり?」
「そうよ」
「ユリアさんは、明日にならないと帰って来ないからね。私が明日の朝食まで作って上げる。ベニーさんに習ったやり方で、お茶を淹れるからソファーで待っていて」
そう言いながら、いつものように僕のローブを脱がそうとする。
「いや、ちょっと」
「えっ。何? 今日は泊まっていくって言ったじゃない」
アデルの顔が曇る。
エルボランに行く馬車の中で、ここにもう1泊していってとねだられた。
「泊まるけれど。ちょっとトードウ商会に行ってきたいんだ」
「えぇ、お仕事?」
「うん。そうだなあ。お昼までには帰ってくるよ」
「うぅぅ。わかった。待ってる」
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訂正履歴
2025/03/26 微妙に訂正
2025/04/09 誤字訂正 (ラクライさん ありがとうございます)
2025/04/14 誤字訂正 (高須こ~すけさん、ferouさん ありがとうございます)