表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/274

19話 力試し(1) 昂揚と教訓と

彼知り己を知りと言われますが、後者の方が難しかったりして。


 いよいよ、この日が来た。

 朝8時に、エミリアの冒険者ギルド支部へ行くと、コナン兄さんと一緒に依頼の相談をした受付の女性、ダリアさんが出迎えてくれた。


「レオンさん。この2人が、本日あなたを護衛頂く、クラン銀の矢の方々です」


 ひとりは30歳代だろう背が高く厳つい男性。もう1人は20歳になったかどうか位の若い男性だ。


「レオンです。よろしくお願いします」

「クランリーダのニールスだ。彼は、ワーレンだ」

 若い方の人(ワーレン)は、無言で会釈を返した。


「レオンさんは、支部長(ギルマス)のご親戚です。だから、というわけではありませんが、くれぐれも安全には気を付けて差し上げてください」

「言われるまでもない」


「では、よろしく」

 去っていく受付の人を見送った。


「では、レオン殿。出発してよろしいかな」

「はい。ああ、僕のことは、レオンだけで結構です」

 ニールスさんが笑った。


「では、レオン。行こうか」


 支部を出て、街道を西へ歩く。ウチの私有地とは反対の方角だ。


「ギルマスの親戚というと?」

 横に並んだニールスさんを見上げる。


「はい。祖父の弟、つまり大叔父の娘の旦那さんが、支部長さんです。親戚と言っても、だいぶ遠いですね」

 祖父は8人兄弟姉妹だった。父方の親戚は多い。

 

 あれ。

 父方はそこそこ親等が離れた人も知っているが、母方はほぼ知らないなあ。直系である祖父も祖母も、母方は会った記憶はない。生きていると聞かされているが……。


 まあ、父方の親類はエミリアの町周辺に多く住んで居るから、商会主催のパーティなどで顔を合わせる。が、母方はそうでない。もっともらしい理由だが、普通そういうものなのかな?


 おっと、考え事をしている場合じゃなかった。

 視界の端に、後から付いてくるワーレンさんの顔が見えた。大あくびをして、あからさまにやる気がなさそうだ。


     †


 10分も歩くと町のにぎわいは絶えて田園風景となり、さらに10分も歩くと街道脇に大きな石碑が見えてきた。

 伯爵様の城からというより、竜穴から2.5キルメト離れたという印だ。

 エミリアはいくつもの街道が交差する要衝だ。おおむね南北に延びる街道は竜脈が伸びていて、その上であればどこまでも安全だが、僕たちが進んで居る西向きの街道はそうではない。だから、この石碑が大きく目立つように造られているのだ。


「レオン」

「はい」

「この先は、魔獣がいつ出て来ても不思議はない。心するように」

「はい」

「では私は、少しばかり先行する。依頼書にあったように魔獣が居たら、手を挙げてレオンに知らせるから付いてくるように。あと、そうなったら、大きい声や物音は控えてくれ。魔獣が逃げるからな」

「了解です」


 ニールスさんは肯くと、少し先に行った


 街道を行く者……入る者は肩から力が抜け、出る者は思わず携えた剣を確かめるという。ここが西側の結界か。石碑を眺め、ニールスさんとの間合いを図った。


「大商家のガキらしく、石碑を見て怖じ気づいたか?」

 すぐ後に、ワーレンさんが居た。悪意がこもった顔付き。


「そうですね。少々は」

「ふん。口が減らねえガキだ。親の金で、大人を雇うだけのことはある」


 なるほど。

 どうやら商家、もしくは僕の立場が気に入らないようだ。


「ええ、確かに親から金をもらいました。経理の仕事の報酬として」

 冒険者は気が荒い。

 ()められてはぞんざいな扱いを受ける。それは、良く聞く話だ。

 ワーレンさんの(さげす)むような笑いが引きつった。


「どうした?!」

 前から声が響いた。


「いえ、なんでもないです」

「ふん!」


 前はともかく、後には警戒が必要のようだ。


     †


 さらに2キルメト(おおよそキルメト=km)進むと、辺りは荒れ地が広がるばかりの大地となった。

 竜脈に沿う南北には、牧畜、穀倉地帯が続くというのに、東西はこの有り様……か。座学では習っていたが、実感が湧く光景だ。

 もちろん、それはこの地方、エミリア周辺に限られた話だ。


 セシーリア王国には、一般に知られているだけでも5系統の竜脈があり、それらは大きく見れば、東西南北へうねくって走っているそうだ。


 痛てっ!

 背中に何か小さい物がぶつけられた。石か!

 むっとして振り返ると、ワーレンさんが前方を指した。


 あっ、ニールスさんが手を挙げている。

 合図だ。周囲を気にし過ぎて、見落としていた。


 足音を忍ばせつつも早足でニールスさんに追い付くと、彼は街道の左前方を示した。


 居た! 大きな(れき)が目立つ、痩せた大地の岩の上に褐色の姿。

 頭頂から突き出た長い角。一角山羊(モノケロース)だ。図鑑で見たことがある。


 山羊という名にもかかわらず家畜を襲い、群れを成せば隊商すら襲う。そこそこの大物のはずだ。


 うくぅ。身体が震えている。

 僕は初めて魔獣に向き合い、初めて魔術を撃つんだ。


 鼓動が高鳴る。集中しろ───


 あいつは速い。それに警戒感が強い。

 100メトは離れているにもかかわらず、こちらを曖昧にでも感じ取っているのか、しきりに辺りをうかがっている。


 腕を肩まで上げて構える。

 はぁ、はぁ。

 呼吸が荒い。いつもより魔圧の上がりも遅い。

 だが。


衝撃(インパルス) v0.41≫


 岩の斜め上が白く煙ると、ダンっと打撃音が響いた。

 モノケロースの体躯(たいく)がたわみ、ゆっくりと崩れ落ちた。


「おおっ!」

「まだ!」

 もう1体居る。


 仲間が倒れるのを目の当たりにし、ジグザグと走り出した。

 ちぃ。この距離では照準が!

 とっさに魔術を変えた。後から考えれば、それが良くなかった。


炎球(スフィア) v0.3≫


 あっ!

 発動紋から火球が撃ち出された刹那、軸線上に人影が被った。

「ワーレン!」


 なっ、なんで。あそこに。


 彼が倒れた。

 その先で火球はモノケロースに命中し、大きく燃え上がった。


「ワーレン」


 横に居た、ニールスさんが駆けだした。

 僕の目が正しければ、間一髪だったはず。そう思っても、脚がまともに動かない。


 なんとか追い付くと、ワーレンさんが立ち上がった。


「あぁ。失敗、失敗」

「おい。気を付けろ! 魔術士と獲物の間に飛び出すなと、何度も言っているだろう!」


 無事だったか。

 僕の呼吸が再開した。それでもまだ、手が強張り顔が引きつる。


「もっ、申し訳ありません。ぼっ、僕。とんでもないことを」

「そうだな。あの威力だ。機敏なワーレンでなければ避けられなかった。当たっていればタダでは済まなかった。ふたりとも気をつけないと死人が出るぞ」


「はい。ごめんなさい」

「いいや、今のは俺が悪かった」

 へっ?


「そういうことだ。割合で言えばワーレンの方が悪い。だが死んだら、そんなことも言ってはいられないんだぞ」

「へーい。2度と構えたレオンの前には飛び出しませんよ。俺もまだ死にたくはないですからね」

 そう言い放つと、ワーレンさんは駆けだした


「彼があそこに居たことに、気付いていませんでした。気を付けます」

 魔術種を変えるのに意識が向きすぎた。


「俺もだ。だが、魔術は味方にも脅威になることを忘れないように」

「はい」

「それにしても……」


 怖い顔が緩んだ。

「はっ?」

「本当にレオンは、14歳なんだよな」

 なんか前にも言われたな。


「はい。紀元475年生まれですが」

「そうだよな。その見た目だ。エルフでもなければ……まあ俺はエルフを見掛けたことはないんだが」

「……」


「それはともかく、発動が早い。すぐに2撃目を撃てることもな。驚いた」

「そうですか?」

「ワーレンもレオンが、すぐもう一発撃てるとは思わなかったはずだ。だからヤツなりに良かれと思って、けん制のために飛び出したわけだ」

 うぅむ。


「互いの実力を認識していないから、こういうことが起こる。俺も反省だ」


 ワーレンさんが、こちらに小走りで戻って来る。

 目の前で止まり、僕の方へ何かの棒を投げた。2本。


「肉は、片方がグズグズ、もう片方は黒焦げ。ただ、そいつが残ってました。1本はそれなりに高く売れますね」


 角だ。

 一角山羊(モノケロース)の物だ。片方は、半分くらい焦げて黒くなってしまっている。

 僕が(たお)したんだ。ふつふつと、腹の底が熱くなった。


「レオンも(しかばね)を見ておけ。魔獣といえども、生ある物を(ほふ)る者の礼儀だからな」

「はい」

お読み頂き感謝致します。

ブクマもありがとうございます。

誤字報告戴いている方々、助かっております。


また皆様のご評価、ご感想が指針となります。

叱咤激励、御賛辞関わらずお待ちしています。

ぜひよろしくお願い致します。


Twitterもよろしく!

https://twitter.com/NittaUya


訂正履歴

2023/10/12 誤字訂正、少々表現変え

2023/10/14 サブタイトル変更

2024/09/09 誤字訂正(1700awC73Yqnさん ありがとうございます)

2025/04/02 誤字訂正 (長尾 尾長さん cdさん ありがとうございます)

2025/04/18 誤字訂正 (1700awC73Yqnさん ありがとうございます)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
しっかり悪い点を具体的に教えて反省するニールスさんと、いい感情は無いのにしっかり仕事を全うしようとするワーレンさん、どっちもいいですね。さすが選ばれた冒険者って感じですね。
面白いです! 普段はスマホ読み上げて試聴してるので感想かけません…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ