表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
181/274

170話 事後(下) 女傑

本年もよろしくお願い致します。

この連休はアレルギー症状で大変でしたが、仕事が始まるとなんとかなってきました……体調まで貧乏性。

「ハーコン、グリフィス」

 バーの奥の個室。一緒に来たスーザンの他に2人の男が居た。

 僕たちがバーに来る前からここに居たわけだ。


「ん? どうしたんだ? その額」

「むう」


 2人とも、額の向かって右斜め上が赤くなっていて、でかい(こぶ)になっている。冒険者ギルドの入会地から一緒に王都に帰って来たときには、そんな風にはなってなかった。


「いやあ、ちょっとな」

(あね)さんに、殴られたんだよ。痛てぇ、痛てぇ……」

 うわっ。

 頑強そうな2人なのになあ。相当思いっきりだな。いや、拳の方が痛そうな気がするが。


「おい、グリフィス」

「そんなことはどうでも良い、レオン。エールは飲めるか?」

「ああ」

「ハーコン!」

「へいへい」

 彼は、陶器のジョッキを持つと席を立ち壁際の小さな木樽に近寄ると、黄銅のコックを捻ると黄金のエールがジョッキに満たされていった。


「ほい」

 僕の前に置かれた。

「2人から話を聞いた。ディアとベルをサーベルジャガーから守ってくれたそうだな。礼を言う。この通りだ」

 (たくま)しい胸に手を当てて、頭を下げた。


「いや、彼女たちは友人だ。礼を言われることは……」

「いいや。2人は、ウチのクラン員だ。その命を救ってくれたんだ。礼を言って当然だ」

 おう。ディアとベルを大切に思っているようだ。


「2人は大丈夫なのか?」

「大丈夫だ。私が会ったときは、落ちついていたし後遺症もなかった」

「そうか」

 ギルド職員からは、そう聞いていたが。


「ともかく、乾杯しよう」

「「「乾杯!!」」」


 僕も、ジョッキを(あお)った。

 ぬるいが、味は悪くない。


「ふぅぅ」

「それにしても」

 ん?

 グリフィスが、何か上を見た。

「姐さんが、わかってくれてよかったぜ。あのままなら、レオンも同じように殴り殺そうとしていたからな」

「おまえら、生きてるだろう」


「いやあ。ここ数年で一番痛い思いをしたぜ」

「いつもながら、大袈裟(おおげさ)なやつらだ」

 スーザンは口が悪いな。ハーコンは実の弟だそうだが、グリフィスも舎弟扱いだ。

「俺も、殴られるところだったのか?」


 ハーコンとグリフィスが、顔を見合わせる。

「最初はレオンが、ふみこみすぎて、あの女子大学生を危ない目に遭わせたと思っていた。ですよね、姐さん」

「まあな。ディアとベルは否定していたが、レオンを(かば)っていると思っていたんだ。だがこいつらの話を聞いて、事実がわかった」

 南支部の中で擦れ違ったときと、スーザンの考えは変わったということらしい。


「危ない目に遭わせたのは、事実だ。ディアとベルには悪いことをした」

「ほう。レオンは反省しているのか」

 地の底から聞こえて来るような、スーザンの声。


「恐慌硬直の危険度を甘く見ていた」

 3人とも陥っていれば、無事では居られなかっただろう。運の悪さが決定的でなかっただけだ。

「ふん。冒険者を続けていれば、いずれ経験する。早いか遅いかだけだ。大体自分がなった時に分かりそうなものだが」

「いや、俺はなったことがない」

「なんだと」

 (にら)み付けてきたハーコンを見返す。


「じゃあ、なぜ今日は大丈夫だったんだ? あの女子2人は全身麻痺(まひ)に近かったじゃないか。恐慌硬直てのは何回かなったヤツが平気になっていくんだぞ」


「さあな」

「さあな、って」

 スーザンが手で制する。

「くどいぞ。ハーコン。硬直度合いには個人差がある。そういう体質なんだろう、レオンは」

「なんだよ、できすぎだな。レオンは」

「そんなことはない。最近は失敗ばかりだ」

「そうなのか?」

 うなずく。

 ファクシミリ魔術も欠陥があったしな、どうも僕は見落としがある。


「レオンが自覚しているなら、それで良い。冒険者が危ない目に遭うのは、避けられない。その程度は行い次第だがな。南東の森で狩りは、初心者(ノービス)には推奨されていない。が、一般者(ベーシス)が付き添えば問題ないことになっている、その程度の危険度ということだ。現にウチのクランで同じようにやっている」

 確かに、中庭へ行ったことがありそうだった。


「今日もそうだったなら、ウチのクラン員が3人以上やられていた可能性があるということだ。しかし、そうはならなかった。誰も死ななかったんだ。反省も必要だが、レオンは誇っても良い」

「その通りだ。サーベルジャガーを3体(たお)して、反省されたらこっちが持たねえ」


「偉そうに言うな。ハーコン。おまえらが悪いんだ。上級者(スペリオール)が8人もそろって。サーベルジャガーが中庭へ逃亡するのを止められないとは」

「ううう。面目ねえです」

 おっ、ハーコンがしおらしい。


「囲みを破られたのは、俺たちじゃないし。第一、4体も居るとは聞いてなかった」

「4体居たのか?」

「ああ、1体は俺達で斃したんだが、見付けてなかった3体が囲みを破ってな」

 そういうことか。


「グリフィス、言い訳するな」

「姐さん、言い訳じゃねえんだが」


「まあいい、あの女狐(めぎつね)には責任を取らせてやるからな」

 ふむ。応接で聞こえてきた、あの声か。


     †


 ドンドンドン。

「レオン」


 んんん。戸口……リーアさんだな。

 日曜の朝なのに、何だろう。

 素早く、身支度をして部屋を出た。扉の外に、もうリーアさんの姿はなかった。えっ、この魔圧は。

 階段に至る吹き抜けから下をのぞく。


「ディア! ベル!」

「おはよう!」

「おはよう。レオンの部屋に行って良いか?」


 2人ともこっち向かって、手を振っている。

 ふう。

 よかった、元気そうだ。

 スーザンからも、大丈夫だとは聞いていたが、やはり自分の眼で見ると安心する。

 彼女たちには会いたかったが、女子寮だし、訪ねていこうかどうか迷っていたのだけど。こっちに来るとは思ってなかった。


「構わないが、()う物はないぞ」

 下宿は、土曜の朝から日曜の夜までは、食事は出ない。


「買ってきた」

「そうか」


 特に支障はなく、階段を歩いてきた。ディアが(とう)(かご)を持ってきている。


「まあ、入ってくれ」

 奥の居間に通す。


「やっぱり、この部屋は良いよな」

「うん。リーアさんも居るしな」

「ははは」

「女子寮と交代したいな」

「はっ。そんなことをしたら、オデットさんに(たた)き出されるよ」

 2年生になっても舎監だそうだ。


 ん?

 ディアとベルが顔を見合わせた。

「どうした?」


「んん……うん」

「昨日。クランの人に送られて寮に帰ったんだけど。オデットに見咎(みとが)められてなあ、彼女とバルバラに世話を焼いてもらったんだ」

「へえ」

「口うるさいが、良いヤツだ。見直した」

「特にバルバラはな。さて料理、料理」

 ベルは素直には認められないようだ。持って来たバスケットから料理を取り出した。


「ふふふ。そうか。さて、ワインならあるぞ」

「いや。酒はいい」

「ん?」

 てっきり酒盛りに来たのかと思ったが。


「私も、酒はやめておく」

「ベルまでどうした」

「ベルまでって……昼から、クランハウスへ行こうと思っているんだ」

「そうそう」

「へえ」

「昨日は、クランの人に迷惑を掛けたし、スーザンさん達に礼を言わないと」


「そうかそうか。確かにな、昨日一緒に飲んだけど、2人のことを心配してたぞ。あと支部長(ギルマス)に喰って掛かってたからなあ。ちゃんと礼を言った方が良いな」


「へえ。そうなんだ。もちろんクランではちゃんと礼は言う」

 うんうん。

「でも、もっとしっかりと礼を言うべき人が居る」

 横で、ベルもうんうんとうなずいた。

 ほう、誰だろう? ハーコンとグラフィスじゃないだろうし。


「レオン。守ってくれて。ありがとう」

「ありがとう。恩に着る」

 2人が胸に手を当てて、頭を下げた。


「僕? いやいや。僕こそ、ふたりを危険な目に遭わせて悪かった」


「レオンは、何も悪くないだろう」

「そうそう。私たち恐慌硬直になってからのことは、よく覚えていないんだけど、サーベルジャガー3体だぞ」

「普通は、動けない人間なんかは放置して逃げるんだけどって、送ってくれたお姉さんたちが、何度も言って。レオンはすごいって感心してた」

「だから。ありがとう」


「そうか」

 確かに2人をどう守るか一瞬焦ったが。置いて逃げるなんてことは考えもしなかった。

「これだよ。反応が薄いよなあ」

「うん。レオンはありきたりの物差しで測れないな」

「そうだな」


「そうだ。その3体の分け前だけど。どうする?」

 ()いておかないとな。

「いや、どうするって。なあ、ベル」

「1人で斃した魔獣は、斃した者にだよ。そう決めただろう。第一助けてもらって。分け前までもらえるか!」


「ほう。サーベルジャガー3頭だぞ。下手しなくても3千セシル(≒300万円)は超えるが」


「ううう。ベっ、ベル様に二言はない。なっ!」

「もちろんだ」

 2人とも顔が引き()っている。


 結局この後も、食べながら何度か翻意するように勧めたけれど、金は受け取らないと言い張ったので、何か物を贈ることにした。

お読み頂き感謝致します。

ブクマもありがとうございます。

誤字報告戴いている方々、助かっております。


また皆様のご評価、ご感想が指針となります。

叱咤激励、御賛辞関わらずお待ちしています。

ぜひよろしくお願い致します。


Twitterもよろしく!

https://twitter.com/NittaUya


訂正履歴

2025/01/08 誤字訂正(1700awC73Yqnさん ありがとうございます),言い回し変更

2025/03/30 誤字訂正(n28lxa8Iさん ありがとうございます)

2025/04/09 誤字訂正 (布団圧縮袋さん ありがとうございます)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ