表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/274

18話 先入観が敵

先入観や固定観念が、一歩踏み出せない理由。とはわかっているですけどねえ。

 魔灯の特許出願が終わり、母様依頼の試作品も作り終わったので、僕はまた魔術訓練に励むことにした。


衝撃(インパルス) v0.31≫


 突き出した腕の先に、ゆらゆらと陽炎がうごめいた途端、波動が伸びていき、ドンと衝撃音とともに、的にした僕の背丈ぐらいの岩に届いた。命中と同時に岩の周りが白くなって、ばらばらと土煙が飛んだ。が、それだけだ。

 多少表面に傷は付いているものの、岩は健在だ。


「だあぁぁぁ」

 気合いが抜けて、その場にへたり込んでしまった。


 うーむ。この前、眼下の湖の(ほとり)で対岸の木をなぎ倒した時。込めた魔圧が全力だったとすれば、その半分以下に落としてはいるとはいえ、威力が低すぎる。


 効率が悪い。

 無論、全力で魔圧を掛ければ効果は大きくなる。だが、その増大勾配はゆるやかになっていき、やがて頭打ちとなる。それでは無駄が多すぎる。そんな脳が筋肉でできているような魔術の使い方は、制御技術者が目指すところではない。狙う効果を最小限の魔力で実現する。そうあるべきだ。


 とはいえ。

 やはり、衝撃波は絞り込んでも、どうしても空間に広がってしまう。そうなると距離の2乗に反比例して威力が下がってしまう。


 要は、有効射程が決まってしまうのだ。

 魔術なのになあ。


 いつでも的に近付けるとは限らない。

 最近、僕は魔術で魔獣を(たお)せないかと考えているのだ。職業とするかまでは決めていないが、収入面でも、竜脈の外で活動するにも都合が良いのは事実だ。

 そういった意味では、最低でもこれ位の射程は欲しい。


 そう思いなから、的の岩を見遣(みや)る。ここから50メト(おおむねメト=m)ぐらいか。魔獣なら数秒で突っ込んで来るんじゃないかな。


 うーーーむ。


 昨夜から魔術共通ドキュメントを探しまくったんだけど、v0.31に盛り込んだ以上の威力向上項目は見付けられなかった。


 あぁぁぁぁ。なんかないかなあ。

 距離をなんとかできないと、この魔術の使い方が限られてしまう。ん? 距離?


 距離とは何の距離だ? そりゃあ、僕とあの的との距離だ。

 そうだよな。

 何か一瞬引っ掛かった気がしたんだけど。


 それにしても威力の面では距離は詰めたいし、使い勝手の面では射程は伸ばしたい。

 思い切り矛盾している。


 その対策が、衝撃波の集束だったんだが。この線はだめだな。

 粘りも必要だけど、見切りも必要。そう怜央の記憶が言っている気がする。

 あきらめるか。肩が落ちて、力が抜ける。


 待てよ。

 距離と射程。言葉が違うな。物理量は同じ長さだけど。

 言葉が違うなら、別のことなのじゃないか?


 見切ろうかなと思いかけたので、気が楽になり、意味不明な発想が生まれた。

 あれ?


 厳密に言えば射程とは僕と的の間のことじゃない。衝撃波が生じる点、発動紋と的の間だ。

 大差ないな。


 いや少しはあるのか。せいぜい僕の腕の長さと少し、500ミルメト(おおむねミルメト=mm)ばかり……そうだ!

 この発動紋の位置は、どうやって決まるんだ?

 そういえば、照明魔術(ルーチェ)は光源の位置を変えられる。僕が作った訳ではなくて、もともとの魔術モデルに入っている。もちろん変えられるのは決まった範囲の中だけれど、確かに変えられる。あれは、どうやって実現しているんだ?


 発動紋が的に近付ければ、事実上有効射程が伸びるぞ!


     †


「できた、衝撃(インパルス) v0.40」

 ドキュメントを検索し(あさり)まくって、衝撃波が発生する発動紋の位置を決めるパラメータを見付けた。僕の腕の先ではなく、40メト離れた位置に仮に変えてみた。


 よし!

 腕を突き出し集中───


衝撃(インパルス) v0.40≫


 発動した!

 衝撃音が遠くから(とどろ)き、岩全体が白く煙った。


「おお」

 僕は無意識に的となった岩へ走り寄った。


「割れている」

 岩の見た目はさほど変わっていなかったが、縦に大きい亀裂が入っている。

 何か、もうちょっといけた気がしたのだけど……うわっ。


 岩を回り込んでみると、魔術を撃った所から見て、岩の反対面が砕けてかなり飛び散っていた。


「やっ、やったぁぁあ!!」


   † † †


「結界の外に出て、魔獣を斃したいだと?!」

 豪儀な父様の顔がやや赤らんだ。


 衝撃魔術の変革後10日たった日の夕食の後。父様と母様に相談があると言って、食堂に残ってもらった。頼んでいないハイン兄さんも居るけれど。


 父様は、口を開いて息を吸い込んだが、そこで止まった。怒りを圧し殺している。


「いえ。斃したいというか、僕の魔術で魔獣を斃せるかどうか確かめたいんです」

「どう違うというのだ、レオン」


 その床下から響くような低い声に、ハイン兄さんが目を見開いておっかねえという顔をしてる。もちろん僕もおっかない。

 でも、ここは引くわけにはいかない。


「斃せない可能性もあるので、護衛の冒険者をギルドに斡旋(あっせん)してもらうことを考えています」

「うぅぅぅむ」

 父様は腕を組んだ。


「雇うと言っても金が要るぞ、レオン」

「いや、兄さん。レオンは多分それくらいの金は持っているって」

 うなずく。

 そう、このまえ魔灯の特許権譲渡の一時金ももらったしね。


「自分の金を使うつもりか?」

「はい。父様」

「全く、何も考えてないというわけではないようだな」

 父様の言葉に、母様が小さく首を振り、コナン兄さんの口角が少し上がった。


「それで、何のためにそうまでする? 狩人か冒険者にでも成るつもりか?」

「僕は、将来魔獣を狩ることを職業にするかどうかは別にして、魔術で身を立てて行きたいんだ。だからその可能性を確認したいんです」


 父様は、目をつぶりながら長く息を吐いた。


「アンリエッタはどう思う?」

 父様は、つぶやくように()いた。


 母様は優雅に瞬きすると、こう言った。

「もちろん反対です」

 うわぁぁ。


「魔術を志す……魔道具を作る、そこまでは良いとして。魔術で魔獣を斃すのは、危険です」

 きびしい。

 魔道具作りに関しては、制御技術も活かせる。だが、現時点でそれだけに絞るのは、違う気がする。


「かっ、母様。お言葉ながら、レオンの魔術はなかなかのものです。数日前のことですが、実際に見せてもらいました」

 おお、兄さん。


「コナン。母の話は終わっていません。あなたはこの商会を背負って立つ身。顧客の話に耳を傾けねば、商談で大きな過ちを犯しますよ。心しなさい」

 にべもない。


「はっ、はい。申し訳ありません。母様」

 兄さんが、微妙な顔でこっちを見た。


「レオンの考えには、溜息が止まりませんが、事前に私たち家族に打ち明け、兄を味方に付けるなど見るべきところはあります」


 母……様?


「その上で、私は旦那様に謝らねばなりません」

「謝る? なんのことだ、アンリエッタ?」


「レオンの性格のことです。この子は兄たちとは違い、強情で諦めが悪く、執念深いのです」

「強情はともかく、他は資質として悪くないが……」


「行き過ぎれば、害となります。私の責任です。申し訳なく存じます」

「いっ、いや。子育ては、アンリエッタに任せた私にも……」

 重い沈黙。


「害の話に戻しましょう。この子は私たちが反対したとしても、魔灯と同じように、きっと隠れてやってしまうことでしょう」

 いや、あの時は、父様の許可をもらってからやったって。


「それにあと1年もすれば、15になって止めることはできなくなります」

「ようするに、アンリエッタは認めろと言っている訳か?」

 そうなの? 母様、反対と言いつつ。


「遺憾ながら」

「むぅぅ……」

 おお、やっぱり母様は、僕の理解者だ。怖いけど。


「父様、私からもお願いします」

「僕からもお願いします」

 コナン兄さん。ハイン兄さんまで。


「ふむ。わかった。何か抜けがあるかも知れぬ。コナン、相談に乗ってやれ」

「はい。父様」


 ああぁぁ。


「ありがとう。父様、母様。兄さんたちも、ありがとう」

お読み頂き感謝致します。

ブクマもありがとうございます。

誤字報告戴いている方々、助かっております。


また皆様のご評価、ご感想が指針となります。

叱咤激励、御賛辞関わらずお待ちしています。

ぜひよろしくお願い致します。


Twitterもよろしく!

https://twitter.com/NittaUya


訂正履歴

2023/10/11 僅かに加筆

2025/03/26 誤字訂正 (毛玉スキーさん ありがとうございます)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
>衝撃魔術の変革後10日たった日の夕食の後。父様と母様に相談があると言って、食堂に残ってもらった。頼んでいないハイン兄さんも居るけれど。 コナン兄さんも居るなら、仲間はずれにせず名前を入れてあげても……
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ