167話 女友達と魔獣狩り(2) 狩りの見本
電撃戦とは、電気を使った戦いと思った人? はい!(いや、子供の頃ね)
「レオンの普段の魔獣狩りを見せてもらいたい。いろいろ参考になると思うんだよね」
王都南東の森。その中庭と呼ばれる、木立が直径数キルメトばかり切れた場所に分け入ると、同行者の1人、ベルがそんなことを言い出した。
横に居るディアも強く同意だとばかりに、何度もうなずく。
「良いけれど。参考になるかなあ?」
「遠隔発動だから?」
「それもある」
「他には?」
「電撃魔術を使うからだけど」
「電撃!」
2人は顔を見合わせる。
「電撃は廃れた魔術体系として、授業で習ったよ。起動紋は公開されて居るけれど、発動難度が高い上に殺傷力が強くないから、使う術者がほとんどいなくなったって……」
「あと超接近戦用の魔術で、有効射程は1メト未満と言われるけれど、そうか遠隔か」
電撃の威力は電流の2乗。魔圧が電圧に比例するから、(放電)距離が広がれば、著しく威力は低下する。
「そうだけど、魔獣の素材を傷めないという点では、狩りには向いて居るとは思うけどなあ。まあ確かに魔力消費量は多いかな」
「私たちが狩りで使うかどうかは別にして、見てみたいよね、ディア」
「うん。見たい」
「分かった。じゃあ、索敵をしてみるよ」
≪蛇覚≫
まぶたの裏に、赤外線の潜像が現れた。
「えーと、灰猪とアルミラージが居るけど、どっちが良い?」
2人は眉根を寄せる。
「そりゃあねえ」
「灰猪だよね」
うんうんとうなずき合っている。気が合うなあ。
「じゃあ、太陽に対して20度ちょっと右の、150メト位先に1頭居るのが見える? 頭を左に向けて寝そべっているけど」
「いや、ちょっと待った。さっき、居るけどって言ったのは、過去に居たけれどという意味じゃないの?!」
「そこに居るけど」
「くぅ。頭痛いわ」
そうかなあ?
「うーーん、言われてみれば、うっすら魔圧が高そうな気がするけど、目には見えない」
「見えるわけないわよ。こんなにいっぱい草が生えているのに。どんな目をしているのよ……ちょっと、急に顔を寄せないゴニョゴニョ」
こんな目だと近付いたら、ベルが真っ赤になった。
口の悪さに似合わない、意外と乙女だな。
「いや、私にも……んん、何でもない」
ディアまで紅くなってる。
「じゃあ、もう100メトだけ近づこうか。分かって居ると思うけど、静かにな」
クランで指導を受けているのだろう、しっかりした隠密性で付いてくる。
腕を水平に上げて、2人を止める。無言で、灰猪を指す。
振り返ると、うなずいていたから見えたようだ。唇をやるぞと動かす。
半眼で位置を確認。
≪遮蔽・雷電 v0.8≫
対象の直上でパチッと光った。
急速に魔力がうせていく。
「もうしゃべっても良いぞ」
「光ったけれど、あれが電撃?」
「うん」
50メト進むと、電撃直前の姿勢のままで、陽光で白っぽく見える猪が横たわって居た。2人が寄って行く。
「くぅ、手際が良すぎるわ」
「まいったわね。この目で見ても、信じられないわ」
「レオン、外傷が見つからないんだけど」
「そうだな、大して電流は流れてない。斃すだけなら、皮膚まで焼く必要はないんだ」
この体格なら、せいぜい0.5アンペアで十分だ。
「へえぇ」
「まあ、電撃に強い魔獣種もあるから、要注意だ」
「だから音がしなかったんだ」
いや、それは。
「おい、ベル。気が付かなかったのか。何か結界を張っていた、そうだな? レオン」
魔術のことになると、ディアは察しが良い。
「大きい音を立てると、獲物が散ってしまうからな」
「そこまで……すごすぎてあきれた。でもスーザンさんが褒めてただけあるね。ディア、いいぞ。レオンは冒険者でも食いっぱぐれはない」
「そそ、そんなことは、知っている」
ん?
「でもさ、この前の競技会は、使える魔術が衝撃弾だけだったけど、無制限使用だったら、瞬殺されていたってことだよね」
「たしかにな。ふふふ」
「はっ?」
「うん。レオンは怒らせないようにしよう」
「まだ、死にたくないからね」
「はいはい。怒らせないでねぇ」
でもそれは彼女たちというか、技能学科の面々も同じだ。教練場で炎を吹き上げていた連中は、一般人ならば、自分に何が起きたか理解する前に消し炭にできる。もちろん正当な理由がなければ、殺人罪に問われるが。
「ありがとう。ともかく、感心した」
「うん。ありがとう。じゃあ、次は私たちの番だな。」
「レオン、まだ灰猪は居る?」
「いるぞ。左、東に350メトほど行ったところにな」
†
グェェォォォ。
断末魔を上げた巨大な猪は、全身から青い血を流しながら、ドウと倒れた。
「ふぅぅ。しぶとかったわね」
「うん、そうだね」
ディアとベルが灰猪を斃した。
「レオン、頼んでも良い?」
「もちろん」
≪ストレージ───入庫≫
巨体が消え、吸い込まれるように、そよ風が吹いた。頼まれたのは運搬だ。
「どうだった? 私たち?」
「おい。やめろ、ベル」
ディアが僕に伸ばした腕を、力を失ったように降ろした。唇を真一文字に引き結んで観念したようだ。
「そうだな。悪くないと思うけど……」
応えねば。
「でも、レオンは一撃、私たちは何発だっけ?」
「2人で……9発だ」
ディアは上を向いて瞑目した。
うそは言ってない。
中庭はおおむね乾燥した草むらだ。彼女たちというより技能学科生が得意な火炎魔術が厳禁とは、さっきの拠点の立て看板にいくつも書いてあった。使用を見つかった場合は、厳罰に処されるとも。
したがって、彼女たちは巨体の魔獣には効きづらい衝撃魔術を使わざるを得ず、それが多くの発動回数を費やした主要因だ。
「正直に言ってくれ」
「火炎魔術が使えないからな。ただ……」
「ただ?」
「もう少し改善はできるかな」
「えっ? ど、どうやるんだ?」
「衝撃魔術をねじるように、発動するんだ」
「ねじるように?」
衝撃魔術の圧力は、亜空間から吐出する流体を使う。ねじりを意識すると発動紋も動いて亜空間から流体が吸い出しやすくなり、吐出量が上がる。これによって圧力波速度が上がって、魔術の威力が増す。
その吐出量増加は1.5倍程度だが、威力は2乗で効くから2倍を超す。
これは、まだ子供の頃、エミリアの私有地で試行錯誤した案のひとつだ。近接発動の方が圧倒的に威力が高まるから、使ってはいないが。
「そんな簡単なことで?」
「にわかには信じにくいが、レオンが言ってくれているんだ。試す価値は十分あるぞ」
ははは……。
2人の顔付きが変わった。これは、しばらくは狩りどころではないな。
なっ?
3時の方向───
中庭と外の境界。小高い丘の稜線辺りから、強烈な魔圧。
「レオン!」
ディアの眉が吊り上がっている。
「魔獣だ。それも強力な」
その時、丘の向こうから甲高い音とともに閃光が上がった。警告魔道具だ。
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訂正履歴
2024/12/21 ちょっぴり加筆
2024/12/25 誤字訂正
2025/03/30 誤字訂正(n28lxa8Iさん ありがとうございます)
2025/04/09 誤字訂正 (布団圧縮袋さん ありがとうございます)