表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
176/274

165話 遠回しな

もっとわかるように言えよって時と、そういう言い方で救われたって時が……。

「ただいま。リーアさん」

 下宿に帰って来たら、廊下に寝間着姿の彼女が居た。

「おかえり。夕食は食べてきたんだよな?」

「はい」

 もう9時を回っている。


 トードウ商会で、代表と打ち合わせが長引くと思ったから、昨日そう伝えてあった。照明魔導具の引き合いが多いとのことで盛り上がり、予想どおりになった。それで夕食を食べてきたわけだが。


「では、おやすみなさい」

「うん。おやすみ……ああ、待て待て。手紙だ」

 数段階段を昇ったが、取って返して受け取る。2通だ。


「ありがとう」

 階段で読むのは危険だから、そのまま懐に入れて登る。部屋に入った。


 1通はハイン兄さんから。もう1通は差出人が書いてないが、誰から来たのかは見ただけでわかって居る。

 まずは、兄さんの方の封を切る。

 時候のあいさつは読み飛ばす。


「おお、生まれたか。双子とはな」

 コナン兄さんとエレノア義姉さんの子が生まれたと書いてある。生まれたのは男の子と女の子だそうだ。へえ。子供たち2人は元気で、義姉さんも産後の肥立ちが良いと書いてある。


 よかったぁ。赤子は無防備でしっかり育たないこともままある。双子、つまり多胎妊娠となると、その危険度が増すのは言うまでもないが。

 兄さんも、よろこんでいるだろうなあ。

 お祝いの手紙を送ろう。あと何か贈り物を。何が良いかなあ……。


 そうか、僕も叔父さんになったんだなあ。

 何か幸せな気分になった。


 さて、それはいったん置いて、もう1通を。

 封を切ると、良い匂いが漂ってきた。アデルの匂いだ。

 麗しの君へ……僕のことか。いや、なんで知っているんだ。ガリーさん(マルガリータ)が王立サロメア美術館で、なぜかあなたを見掛けたそうです。

 あぁぁ……。


 ガリーさんか。

 むうぅぅ。なぜ、そういうことになったか、12月頭に帰ったときに、教えてもらうからね、かあ。

 はあ、まずいことになった。

 何らやましいことはないけれど。


 ん? 12月頭? 年末じゃないのか! 地方公演から帰ってくるのは、そう聞いていたのだけど。


「やっ……」

 たあ。危ない、危ない。夜も()けているのに、大声を出すところだった。


   † † †


 ノックする。


「ジラー研究室2年レオン、入ります」

 60号棟にある個室に入った。

 さっきスニオ先生が来られて、教授室(ここ)へ出頭すべしと知らせてくれたのだ。


 こちらを振り返った白い総髪と長く白い(ひげ)。魔導理工学科学科長リヴァラン教授だ。

 あれ? ジラー先生も横にいらした。


「そこに掛けて」

「はい」

 ソファーに座って、2人の教授に向かい合う。

 彼らの背後には、分厚い書籍がならぶ書棚がびっしりと壁を埋め尽くしている。教授の個室の割には、何と言うか質素な部屋だ。


「話は他でもない。君が書いた論文だ。読ませてもらったよ」

 早! 学科長は繁忙だと聞いているんだけど。


「はい」

「技術としては、実にすばらしい内容だった。まあ、説明の技術水準が不安定だったが」

 むう。気にしていたところだ。


「次回は、その辺りに留意してくれたまえ」

「次回とおっしゃいますと?」

「うむ。今回は提出してもらった物で受理した」

 受理したということは、査読が通ったということだ。

 横に座った、ジラー先生がうなずいた。


「ありがとうございます」

「今回は急いで書いてもらった。礼には及ばん」

 いや、その通りだけど。意外と素直な人なのか?

 でも、おかしいな。こんなことで、わざわざ僕を呼び出さないよな。知らせる必要があったとしても、スニオ先生に伝言すれば良い。ジラー先生を同席させる必要もない。


 本題はなんだ? 学科長は無表情だし、ジラー先生は渋い表情だ。余り良い話ではないらしい。


「それと……」

 来たか?


「……君は、今後どうしたい?」

「今後ですか」

 どういう意味だ。


「あのう。とりあえず、魔導技師の国家試験は取ろうと思っていますが」

「うむ。以前は、君の力量を知らずして、余計なことを言った。もちろん、12月の試験は受けてもらって構わない」

「はい」

 ふう。よしよし。


()きたかったのは、もうすこし先の話だ」

 先? もしかして進路指導か?


「はあ。大学を卒業したら、魔導の技術で身を立てていくつもりですが」

 魔道具屋とか具体的に言うと、この前のように言われそうなので、漠然と返す。


「ふむ。それは良い。ところで卒業というと、学部で終わらせるつもりかね?」

「はあ。はい」

 魔導光研究とその刻印応用は、区切りの良い所まではやりたいが、魔導技師の資格が取れれば、大学進学の目的は達成だと思っている。


「大学院に進む気はないのかね?」

「ええと、修士課程に進めということでしょうか?」

 おっと、質問を質問で返してしまった。まあ、先に答えてあるからな。

「修士とは言わない。博士課程に進む気はないかね」

 むう。一足飛びな話だなあ。


「今のところは、ありませんが」

「そういえば、ラケーシス財団からの奨学金は、打ち切ったそうだが。学資が問題であれば、いくらでも他に……」

「学科長。学資のことは問題ありません」

 ジラー先生が(さえぎ)った。


「そうなのか、それならば良い。学生を続けるのが、気に染まないとのであれば、論文博士と言う線もある」

 あれか!

「それは、博士課程を修めなくとも、学位が取得できるという?」

「その通りだ。君は、人類が成し遂げてなかった純粋光を発振したという成果がある。さすがに今回の論文だけでは難しいが、何本か続報を出してもらえれば、十分その資格はあると考える」


 セシーリア王国の制度では、通常の修士課程と博士課程を修めて、学位を取得する課程博士が一般的だ。そしてもうひとつ、学位請求論文を提出して審査に合格したら取得できる学位もある。それが論文博士だ。表向き、授与された学位には違いはないことになっている。なんか、入学の要項に書いてあった気がするが、興味なかったので、しっかり読んでいない。


「その辺りを、担当教授であるジラー先生と相談して、考えてほしいのだが」

「はぁ、はい」


     †


 学科長の個室を出て、ジラー先生と一緒に61号棟に向かう。

 準備室に行くのかと思ったら、階段を昇り2階に来た。入ったのは、ジラー先生の個室だ。

 初めてこの部屋に入ったけど。学科長の個室と同じような部屋だ。だがそこにある書棚には、書籍でなく、魔石や(つえ)、それに雑多な魔道具が並んでいる。


「座ってくれ」

「はい」

「驚いたろう、進路指導が突然始まって」

「はい」

 僕は、はいしか言ってないな。


「ふむ。事前に話しておらず悪かったが、私もねレオン君と同じように呼び付けられたのだよ」

「そうだったんですね。あのう、論文博士とか言い出されて、学科長のお考えがよくわからなかったんですが。僕に学位を取らせたいということですか?」

 先生は、ふーんと鼻から長く息を()いた。


「学科長は、学位だけじゃない。君に教員あるいは研究員として、この大学に残ってほしいのだよ」

「えぇぇ!」

「教員は、崇高な職業だ。その他の職業と同じようにな。職業に貴賎(きせん)はない、犯罪を生業(なりわい)にするのは良くないが」

「はぁぁ」

「ははは。やはり、教員や研究員になるのは気が進まないかね?」

「やはり、ですか?」

「そうだなあ、レオン君を見ていると、人に教えるよりは、自分で動く。そういう気質だな。どちらかというと職人に近い」

 確かに。


「まあ、生業とするかどうかはともかく、人に教えること自体は悪くないことだ。それについてはどう思うかね」

「確かに。人に教えるときに、自分の考えを整理することを迫られるので、利点はあると思います。ただ、率直に言うと、僕は教師は向いていないと思います」

「向いていないか、そうは思わないが。いずれにしてもレオン君の気の済むようにしたまえ。誰の人生でもない。君の人生だ」

 おおぅ。


「よろしいのですか?」

 どう考えても、学科長からジラー先生へ圧が掛かっているはずだが。

「もちろんだ。まあ、一応言っておくと、私も人に教えるのは向いていないと思っていたさ」

「えっ?」

「職人一筋で来たからな。ただ立場が変わると、こういう自分も隠れていたかという発見をしたのは事実だよ。それに教えるのは歳を取ってからでもできるし。こんなことを突如言われても決心は付かないだろうしな。いつでも相談してくれ。非常勤の身では言いづらいが」

「いいえ、ありがとうございます」


お読み頂き感謝致します。

ブクマもありがとうございます。

誤字報告戴いている方々、助かっております。


また皆様のご評価、ご感想が指針となります。

叱咤激励、御賛辞関わらずお待ちしています。

ぜひよろしくお願い致します。


Twitterもよろしく!

https://twitter.com/NittaUya


訂正履歴

2024/12/14 微妙に表現変え

2025/01/12 建屋番号間違い 65号棟→61号棟

2025/03/30 誤字訂正(n28lxa8Iさん ありがとうございます)

2025/04/02 誤字訂正 (黄金拍車さん ありがとうございます)

2025/04/09 誤字訂正 (布団圧縮袋さん ありがとうございます)

2025/04/11 誤字訂正 (むむなさん ありがとうございます)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
若い…業界的にはまだ幼いと言っていいレオンに上手い助言をしている所に…ジラー氏(作者氏)の妙味を感じました(^^)
>今回の論文だけではむつかしいが むずかしいor難しい では? 前も(アデルが出てきた辺りだったか?)むつかしい発言ありましたが、舌足らずは幼稚さ?が出てて読んでてもにょる^^;
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ