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158話 呆れの対象

結構、呆れられます(良い意味で(かな?))

「時間になりました。筆記具を置いて。では、問題用紙と解答用紙を回収する。提出した者から終了してくれ」

 試験官であるリーリン先生が教壇で宣言すると、数人の助教の先生が席を回り始めた。


 ふう。6教科の修了検定を受け終わった。

 それぞれ用紙を提出し、筆記具をカバン経由で魔導収納に入れる。手応えはあった。これで受けるべき検定は最後だ。卒業までもうない……いや、不合格だったら、受けるかもしれないが。


「レオン君」

 むっ。


「何かご用ですか? ルイーダ先生」

「そんなに警戒しなくてもいいじゃない」

 そういえば、1年前もこんな感じだった。その時は良い先生だと思ったんだけどなあ。思えば、人を見る眼がなかった。


 間近に寄ってきた。あいかわらず胸元の露出が高い服を着てらっしゃる。

「ふふふ。学科長から、あなたのことを気に掛けるように言われているのよ。ふむ」

 僕を監視しているぞという宣言らしい。


「でも、取り越し苦労のようね。今回は元気そうだわ。修了検定も3回目にもなると余裕ね」

「満点を取らなくても良ければ、気が楽だと学びましたよ」

 微妙に(あき)れたという表情だ。なんか変なことを言っただろうか? 本音なんだが。根を詰めすぎないように気を付けている。ちゃんと1日6時間は寝ている。

 僕の方から特に用はないので、立ち上がる。


「そうだ。学科長にお伝えください。痛み入ります、論文作成は順調ですと。では」


     †


「いらっしゃい」

「うん。これ」

 アデルの部屋にやって来た。夜の9時を過ぎている。


「まあ。お花」

「この前、たくさんもらっただろうけど」

 9月中旬から1カ月公演のはずだったけど、10日ほど延長して、2日前に最終日を迎えた。舞台公演期間の終わりには、花が贈られるのが慣習と聞いている。


「もらったけれど。すごくうれしい」

 うっとりと目を細めて、花束に顔を当てて息を吸い込んでいる。


 突き当たりの部屋に案内されて、少し待っていてと言うと、キッチンに一旦ひっこんで帰ってきた。その手には大振りの白い花瓶に、僕が持って来た花束が活けられていた。

 それをテーブルの上に置くと、ソファーに座って居る僕の横に、身体をねじ込んできた。


「おめでとう」

「うん」

 アデルは、今回の公演を始めた頃の強い意志を見せつつも、追い込まれた表情から今はやや緩んで満ち足りている感じに変わっている。


 一部辛口の批評もあったが勢いを失い、興業が大成功となると、評論誌は例の新聞のように大絶賛を書き立てた。それを受けていよいよ客の入りが盛り上がり、10月に入ってからは僕も鑑賞券を買えなくなるほど、ギュスターブ大劇場は連日大入り満席が続いた。

 初公演から半年にもかかわらず、既に歌劇団白組の大看板男役になったとは、町の評判だ。


「それで、お休みはいつまで?」

「うぅぅん」

 やや目を伏せる。そして、ぎゅっと抱き付いてきた。暖かくて気持ちが良い。


「再来週から地方公演だから、あと3日ぐらい」

 そうか。来週末には、王都には居ないようだな。本当は2週間くらい休みだったのだろうけど、公演が伸びたからか。


「そうだ。この前に来たとき、試験があるって言ってなかった?」

「うん、今日で終わったよ」

「そうなの?」

 少し、身体を放して、僕をしげしげと見ている。


「うん。元気そう」

「ははは。もうアデルに看てもらえないから、寝不足にならないようにしてる」

「んんん、公演を休んでも看病に行くからね。もちろんずっと元気が良いけれど」

「そうする」

「もうぉぉ。レオンちゃんの会社はどうなの?」

 先週末は()ってないから、話がしたいみたいだ。


「まあ大変そうだけどね」

「ええぇ。何かひとごとっぽい」

「まあ、代表……アリエスさんの会社だし」

 トードウ商会のことは。アデルに以前話してある。


「ふぅん。一度会ってみたいな。そのアリエスさんって人に」

「ええ? でも会ってどうするの。従姉のアデレードですって言う?」

「伯母さまの従姉なのよね。まずいか」

「そうだねえ」

 頼めば、母様ヘの口止めくらいはできそうだけど。それほど仲が良さそうには思えなかった。


「うぅぅん」

 僕の胸に頭を擦り付ける。

「臭わない」

「レオンちゃんの良い匂いがする」

「えぇぇ」

「じゃあ、一緒にシャワーを浴びよ」

「一緒に?」

「うん、一緒に。私が全身(くま)なく洗って上げる」


  † † † † †


「痛った」

 学食で食べていると、背中を(たた)かれた。スープを飲み込んだあとで良かった。


「なんだよ。ベル」

 振り返ると、彼女とディアが居た。

 2人は、そのままテーブルの対面に回り込んで座った。


「見たわよ、掲示板」

「ああぁ」

 門の前にある大学の掲示板のことだ。


「レオンはさすがよねえ」

 言葉とは裏腹に、顔は呆れている。

「そうだな。毎回のことながら、6教科全部に合格するとは見上げたものだ」

 今日、朝に出てるかなあと思って、通りがかりに見たら、合格者一覧が掲示されていた。

「いやいや。呆れたものの間違いでしょ」

「それは言い過ぎだ、ベル。私は尊敬しているぞ」

 ディアが大きくうなずく。


「あれでしょ。大学の手間が少しでも省けるってのに、乗せられちゃって」

「まあな、授業料を何割か返してもらっても良いかもな」


「そう言って、自分だけさっさと卒業しようとしてるんでしょう!」

「「卒業!?」」


「そうなのか? レオン」

「していないよ」

「でも、最近書いてるのって、卒論なんでしょう」

「ええぇぇ」

 ディアが、眉を下げた。


「なるほどなあ。卒論にできなくもないのか」

 学士ぐらいはくれても、良いはずだな。

「ほらねえ」

「うん。見損なったぞ。レオン」


「ディア、だまされるな。仮に2年で僕が卒業したとして。何が悪いんだ?」

「うっうぅぅ……確かに悪くはないけれど」

 不満そうだ。

 ベルも、それが気に入らなかったのか?


「やっている研究が終わらない間は、卒業する気はないよ」

「本当に?」

「ああ」

「すぐ終わったりしない?」

「そう簡単に終わらないよ」 


「じゃあ、まあ。いいけど」

 うなずき合っている。

 ふう。2人で食事をはじめた。機嫌は直ったようだ。とんだとばっちりだ。


「あっ、居たわ!」

 この声は……名前を忘れた。

 回り込んできた。意中の人だ。


「ちょっと! どういうことよ?」

 この女子も怒っているなあ、理由はわからないが。


「ええと?」

「ちょっと! 1年のカタリーナよ」

「そうそう。それで何がどうした?」

「忘れたの? 私に術式をくれるって言ったでしょう」

「自分こそ、先生に相談するって言ってたじゃないか。したのか?」

 カタリーナは眉をひそめた。


「えっ? もちろんしたわよ。スティクラ先生に。でも、理工学科が新規登録を断って来たって」

「スティクラ先生に? 僕は何も聞いてないけれど」

 技能学科の女性の講師だったかな。


「本当に?」

「その先生が言ったのか? 僕が断ったって」

「いや……レオンとは言っていないけれど。わかったわ。誰が断ったか突き止める。じゃあ」

 足早に、去って行った。


「なんなの、あれ?」

「僕の方が()きたいよ、あっ」

「なに?」

「ウチの学科で断りそうな人に心当たりがあった。たぶん彼だ」

「彼?」

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ブクマもありがとうございます。

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また皆様のご評価、ご感想が指針となります。

叱咤激励、御賛辞関わらずお待ちしています。

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訂正履歴

2024/11/20 誤字,入場券→鑑賞券

2025/02/20 誤字脱字訂正(1700awC73Yqnさん ありがとうございます)

2025/04/21 誤字訂正 (1700awC73Yqnさん ありがとうございます)

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