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152話 多人数魔術戦闘競技会(1) うわさの新入生

退屈な行事も、気の持ち様ですって言えるほど、まだ達観できていない。

 週が明け、合同技能実習。多人数魔術戦闘競技会が始まる。


 教練場に魔導学部の学部生、ほとんど技能学科生が集まっている。ジラー研の人たちは居ないが、理工学科の先輩もパラパラと姿を見掛ける。工学系ではなく理学系だが。周囲をながめていると、人混みの中から彼女とディアが寄ってきた。


「へへぇ。結局参加するんだ、163番君」

 ベルだ。少々言い方に揶揄(やゆ)が含まれているな。

 163とは、運動着の上に付けている(ゼッケン)に描かれた僕の番号だ。

 いつもはローブ姿だが、ローブによっては魔術軽減効果を発揮する物があるので、平準化するために今日は運動着だ。


「自主退学しても授業料は返ってこないからな129番(ベル)

 ちなみにディアは130番だ。


 2年生以上の技能学科は150人余りらしい。

 そんな物か。同科の同級生は去年の入学段階では80人余りだったが、退学や休学で今では実質70人弱に減っているそうだ。


「自主退学は横暴よね! これだから軍派遣の教官は!」

 ディアが憤慨している。余り興奮させると、これからの競技会に影響する。


「ディア。そこまで怒ることはない」

「そうそう。なんかちょっとレオンは太ってきたみたいだし。運動させないと」

 おいおい。筋肉が目立ってきているけれど、体重は変わってないぞ。確かに最近は魔獣狩りを控えて居るけれど


「でも、新教官へ抗議しにいった時より機嫌は悪くなさそうね」

「ああ。“面白き こともなき世を 面白く”さ」

「「はあ?」」

 玲央のあいまいな記憶にあった、偉人の言葉? 詩? そういうものらしい。

 ともかく強制参加させられるなら、僕は僕で何らかの利得を得ないとな。


「レオンは、時々分からないことを言うよね」

「時々じゃなくて、しばしばかな」


 遠くから1限目開始の鐘が聞こえてきた。

 それを待っていたように、指揮台に新教官が登って来る。

「諸君。合同技能実習を始める。本日は予告通り、多人数魔術戦闘競技会だ。配布済みの魔石を首から提げたまえ」


 穴の開いた魔石に(ひも)が通った物を、先週に受け取った。指示通り首から提げる。


「技能学科の諸君は慣れていると思うが、魔石が点灯したら出番だ」

 僕は慣れてない。それ以前に多人数魔術実習を授業でやっているのは、技能学科だけだ。


「既に連絡の通り、攻撃が他者に及ぼして良い魔術は制式衝撃弾(クーゲル)のみだ。それ以外の魔術で他者を攻撃した場合は、厳罰だ。それから魔導具と魔道具は一切使用禁止だ。それから冒険者ギルドで活動する者が、予選は1人最大5戦まで参加可で2勝勝ち抜けだが、それも突破できない場合は自粛してもらう可能性がある。説明は以上だ。何か質問は?」


 予選は多数の戦闘が行われるが、1人が出場できるのは5試合まで。そのなかで2試合勝たないと、敗退ということだ


 制式衝撃弾は、訓練用に威力上限をかなり低く調整した衝撃波魔術だ。直撃しても昏倒(こんとう)するくらいで、後遺症は残らないそうだ。まあ僕は()らったことはないので、よくは知らないが。ちなみに、衝撃弾の直撃を受けると、首から提げたこの魔石が明滅して敗北を知らせる。


 聞いた内容は告示されていたので、知っていた。

 多人数戦闘は、首に提げた魔石が負け判定をしない状態で、最後の2人に残れば1試合勝利だ。また3分間で勝者2人に絞られなければ全員が負けとなる。そして5回試合の内2試合勝利で、勝ち抜けとなる。


 挙手する。

「163番」

「はい。理工学科2年のレオンです。2点質問いたします。作用する攻撃が制式衝撃弾であれば、他の魔術は使用可能でしょうか? 2点目は、予選を勝ち残った場合、ギルド活動を大学が認めるでよろしいでしょうか?」

 おうおう。指揮台下の副官が僕を思いっ切り(にら)んでいる。この前もだった。


「回答する。1点目、攻撃でなければ、魔術の併用は可とする。2点目、本選に勝ち上がれば、魔術の練度が不十分という理由で冒険者ギルド活動を制限することはない。ただし、本選を棄権した場合は、予選勝ち抜けを取り消す」


 ぐっ。まあいい。とりあえず、この件での言質は取った。


「分かりました」

「他に質問は……」


 新教官が、指揮台を降りていった。

「ふふふ、予選を勝ち抜いたら、本選は棄権しようって、企みが見透かされていたわね。レオン」

「それだけベルが、僕と当たりやすいってことだけど」


「ぐっ。まっ、まあ。この半年でどれぐらい巻返したか。レオンと対戦するのはありだけどね。あっ、本気なのは、本選以降で」

 なんか最後で弱気になった。まあ、ディアもベルも、ここでしくじると、冒険者ギルドの活動に支障が出るからな。

「私は、手心なしで問題ない。正々堂々戦おう」

「了解」


 ん?

 なんか女子学生が近付いて来た。なかなか美人だとは思うが。見覚えがないな。そうか、2人の友達か。

 数メトまで来た時。


「あなたたちね。2年の美人2人……3人? えっ、ええと」

 はっ?

「おかしいわね。2人って聞いたんだけど」

「あなたは?」

 (いぶか)しそうにディアが聞いた。

 なんだ、2人の知り合いじゃないのか。


「私は、魔導技能学科1年カタリーナ・マルレーンよ」

 151番か。

 家名持ち……貴族か。なぜか運動着ではなく、高級そうなローブを着ている。魔絹かな。


「2人でも3人でも良いわ。とにかくあなたたちには負けないから。覚えておいて」

 言い切った1年生は、(きびす)を返して遠ざかった。

 よく分からないが、宣戦布告ってやつかな。


「あれが、うわさの大貴族の娘か」

「大貴族なのか?」

 爵位は上から、大公爵、公爵、侯爵、伯爵、子爵、男爵、准男爵、士爵。その内大貴族と言えば、伯爵以上だ。


「うわさよ、うわさ」

「確かにマルレーン家といえば西部の内陸に伯爵家があるけれど」

「へえ」

 あるんだ。リオネス商会の経理でも、見覚えのない名前だなあ。

「まあ傍系も多いし、同名の下級貴族家はあるけれど」

 なるほど、伯爵家の一族とは限らないわけだ。


「ふーん。ところであのローブは良いのか?」

 僕は駄目だと言われたのだが。

「うん。1年生は魔術攻撃を受け慣れてないから、優遇だって。そもそも1年生は出席が任意だし」

 そういえば、魔導技能学科1年は、冒険者ギルド活動が禁止だった。


「さて。じゃあ、僕は3組だから」

「予選は当たらないからよかったわね」

 予選は4つの組に分かれて戦う。組分は胸の番号だ。番号を4で割った余りが組番になる。僕は163だから3組だ。ちなみに4の倍数は0組ではなく4組だ。


「3組の第1試合。出場者は、15番、63番……」

 審判が番号を呼び始めた。


「……163番」


「おっ!」

 いきなり出番か。

 僕は3と書かれた旗が振られている(コート)に入る。名前通りで教練場の地面に、ただ白線(生石灰)で直径20メトの輪が書かれているだけだ。


 ふむ。ええと。僕を含めて7人が輪に入った。2年生で見覚えのあるのは1人だな。あとは……うわっ。さっきのカタリーナ嬢が居た。

 そうか151番だからな


 あとは3年生か。誰が強いのか、弱いのか分からないなあと思っていると、気のせいか6人が僕を見ている気がする。

 これは、あれか。理工学科に負けたら恥ずかしいとか思っているのかなあ。自意識過剰なのかもしれないけれど、目の敵にされる想定しておくべきだろう。


 まあ、それでも負けるわけにはいかない。

 冒険者活動を自粛したら、収入はともかく魔結晶やらなんやらの収集に支障を来すからな。

 なにやら気配が。その先には、近くの建屋に向いた。また、この前のようにあそこで見ているのだろう。


「第1試合開始20秒前。すべての魔術を停止!」


 10秒前までに停止しないと、審判が持っている魔道具で感知された段階で反則負けになる。魔導感知も身体強化も既に停止済みだ。

 いよいよだ。視線を戻す。新教官と副官が僕らの輪に近付いて来た。ふん。あの抗議で目を付けられたようだ。


「10秒前」


     †


「準備は!」

「完了しております」

 教練場を眼下に望む67号棟3階。

 いくつもの魔導具が運び込まれている教室。そこに10人以上の職員が詰めていた。


「観測は3の(コート)だけで良い。警戒を怠るな」

「「はい!」」

 ミディール教授───技能学科長が忙しなく周囲に指示を与えている中、窓の前で腕組みをしている人物。エドワード学部長だ。

 窓ガラスには、意地悪そうに口角を上げる表情が映っている。

 扉が開く音がして、学部長が振り返った。


「これは、閣下。このようなところまでお出ましいだきまして恐縮です」

 随行を連れた男は、気さくに手を挙げて応えた。そのまま部屋を横切り、窓際までやってくる。

「あれは?」

「151番です。あそこに」

 学部長が指した先に、白いローブ姿の女学生(151番)が居た。

 随行者が、閣下と呼ばれた男に何かを手渡した。それを目に当てる。


「ふむ、あれか。何も魔術戦闘などやらずとも。あれの母も悩んでいるのだがなあ」

姪御(めいご)殿ですか。ははは……縁談を押し付けたのではありませんか? 当学にもそういう、女学生が何人もおりますよ」

「そう、うれしそうにするな、エドワード。いまや女子であっても男子並みに教育を受けて当然とは、陛下のお言葉だが」

「たしかにお膝元の王立科学院(アカデミー)でも、魔術士における男女の能力はほぼ差異がないと認めていることですからなあ」


「むっ。むう……」

「どうした、エドワード」

 教練場にいる学生たちは、いくつかの場所に分かれて集まりだした。


「カタリーナ嬢と同じコートに、今回の観測対象が来ました」

「というと?」

「間もなく、あの輪の中の7人で試合──模擬戦闘が実施されます」

「それは……」

「始まります」

「観測開始せよ」

「「はっ!!」」


 魔導具の多くが青く輝き、うなりを上げ始めた。


お読み頂き感謝致します。

ブクマもありがとうございます。

誤字報告戴いている方々、助かっております。


また皆様のご評価、ご感想が指針となります。

叱咤激励、御賛辞関わらずお待ちしています。

ぜひよろしくお願い致します。


Twitterもよろしく!

https://twitter.com/NittaUya


※多人数魔術戦闘競技会なので、暗黙の内に物理攻撃は反則とご理解願います。


訂正履歴

2024/10/30 誤字訂正

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