表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
160/274

149話 老先生2人

学生時代には余り老先生に見て貰うことはなかったのですが、社会人になってからは味のある老先生とお付き合いがあります。

「えっ、あの」

 僕が魔術を発動しているにもかかわらず、学科長が警戒線を越えて近付いてきた。


「そのまま、そのまま」

 思わず魔術を中断しかけたが思い留まる。


「これが純粋光か」

 聞こえるか聞こえないかの声音(こわね)

 何も説明していないが、学科長は理解しているようだ。何をするつもりだ? 学科長は迷わず、プリズムをつかむと光軸に(かざ)した。

「ここまで細いままだと?」

 差した先は異なるが、純粋光は、先程と同じようにただ屈折したようにしか見えなかった。

「むぅぅぅ」

 学科長のうなり声が、教室に響く。


リヴァラン先生(学科長)。盛り上がって居るところ悪いが、門外漢にも分かるように説明してくれたまえ」

 学部長の眉間にしわが寄っている。

 無理もない。

 知らない人が見れば、地味な光が出ているだけだ。


「では。まずは、全体の話です。あの暖色のまっすぐな光は、純粋光です」

 学科長が説明を始めた。


「純粋光というと、7月にやったレオン君の報告会で話の出た光のことかね。焦点径を画期的に絞れるという……」

 学部長は眉をひそめてこちらを見ている。


「そうです。利用の仕方によっては、刻印魔術の分解能を大幅に上げることができます」

「それは、以前聞いた通りだが。それから年度間の休みしか過ぎていないが、もうできたということか」

「はい。このプリズム……」

 ふむぅ。さっきのターレス先生と同じ話がはじまった。

 よく、知っているなあ。光学は専門外だと聞いているんだけど。


「んんん。それは、なかなかの成果のように思えるが」

「古代エルフの時代以降、純粋光を発振した者は居りません」

「うむ」

 納得したようにうなずいている。


 ええと。学部長と学科長の問答がまだ続きそうなのだけど、いつまでこの状態を維持すれば良いのかな? ターレス先生を見る。

「あっ、あのう。学部長。レオン君に負担が掛かっています。発振を中断させてもよろしいでしょうか?」

「そうかね。もちろんだ」


「では」

 まあ、この出力であれば、そこまででもないが。お言葉に甘えて中断する。

「負担というと、純粋光の発振はどういう魔術体系になっているのかね?」

「そこまでは、分かりかねます」

 ターレス先生を2人が見た。


「私がお答えしても?」

「レオン君か。もちろんだ。術式の機密に関するところまでは、答えなくてもよい」

「はい。では簡単に。お褒めいただいて恐縮ですが、この魔術はかなり初歩的で、成熟していません」

「それでも純粋光が発振できたのだろう」


「はい。ただ魔道具へ落とし込めているのは、部分的です。種光源の発光、魔導鏡の光軸制御4自由度、左側の魔導鏡の透過率操作、媒質の冷却については、まだ術者がやらざるを……えっ、はい」


 学部長が、僕の方へ手を伸ばして遮った。

 そして、自分の額に持っていって押さえる。


「ええと。今の話を総合すると、4系統7種の魔術を同時に発動していたということか」

「はい。そうですが」

 いや。統合的な制御や監視やら10種以上は発動しているが、まあいいか。


「つまり、純粋光の発振は君なしでは不可能ということか」

「はい。準備はともかく、試験は実質今日から始めたので、引き続き魔道具の割合を増やしていきます」

「わかった」


「ふむ。この研究がレオン君が言った通り、途上ということは理解した。とはいえだ。リヒャルト君、ターレス君。現段階でも意義はあると思う、第1段の論文を作ってもらいたいのだが」

 論文か。


「あのう」

「何かね。ターレス先生」

「誤解があるとよくありませんので、あらかじめ申し上げておきますが。この媒質と魔導鏡を発案そして作成したのは、レオン君です。私とリヒャルト先生は、せいぜい助言と実験の手伝いをしたぐらいで、技術的な貢献はありません」

「いや……」

 ターレス先生が僕を見たので止まる。そんなことはないけれど。


「ふふふ。研究者らしい潔癖さで結構だが。今回はそうもいかん。遅かれ早かれ、世に出ていく。情報を遮断するわけにもいかん。その時、レオン君だけを矢面に立たせる気かね?」

「うっ」

「まあいい。ともかく、ジラー先生とよく相談して進めてくれたまえ。では失礼するよ。次の会議があるのでね」

 満面の笑みの学部長といつもの無表情へ戻った学科長が、実験室を後にした。


 ジラー先生が寄ってきた。

「よくやってくれた。レオン君に2人もだ。ともかく、ここではなんだ。移動しよう」


 たしかに、学部長が出ていったので、さっきまでいた同学科の先輩たちがこちらをうかがっている。

 僕は、装置やらなんやらを魔導収納へ入れて、先生方と準備室へ移動した。


     †


 久しぶりに、この部屋に来たなあ。

 長椅子(ベンチ)へ掛ける。


「まあ、なんだ」

 ジラー先生が重そうな調子で口を開く。

「私は論文に関して役立たずだが、どうなんだ? 今の状況で書けるのかね、レオン君」


「はあ。一応は書けると思います。書き方の授業も受けていますので……」

 何本も書いた怜央の記憶と、この世界の論文の組立や書き方自体はほぼ同じだったし。

「……ただちょっと、もうすぐ検定試験があるので、すぐというわけには」


「そうだよな、まったく学部長は」

 えっ。ターレス先生。


「ターレス君」

「はい。すみません」

 やはり上司の批判はまずいらしい。学生()の前だしな。


「それで、論文は2人に指導してもらって、なんとかするとして。特許の方はどうするんだ?」

「論文や学会への発表は、1年間は特許の新規性を喪失しない例外になっていますので、大丈夫ですが」

 そう。特許の要件として、有益性、進歩性がある。人間のためになって、既存技術とそれなりの差がある。さらに、これまでになかったこと。つまり新規性が必要だ。これまでになかったというのは、関係者は別にして誰も知らなかった、つまり公知ではないことが最低条件となる。ただし例外もあって、ジラー先生がおっしゃったようなことで公知になっても、1年間は新規性は維持される。


「あのう」

「ん?」

「新学期になったばかりの頃に話しました……」

「ああ、権利管理会社の件かね?」

 ジラー先生は察しが良い。


「そうです。この件は今日にできるとは思っていなかったので、まだ純粋光の件は話していません。今日ちょうど打ち合わせがあるので、調整しておきます」

「今日かね? 何時だ?」

「4時からですが」

 時間を()いてどうするんだろう。


「ふむ。私も同行しても構わないだろうか?」

「はっ。えっ。ジラー先生もですか?」

「できれば、この2人も」

「はっ、はぁぁ」


     †


 馬車鉄に乗って、レズルー街へやって来た。

 会社が入っている建物に入ると、屈強そうな男(警備員)が寄ってきた。登録者証を見せる。


「失礼。そちらは同行者ですか?」

 僕に訊いてきた

「その通り、私の客だ」

「分かりました。事務所まで同行します」

 僕が訪問することは問題ないが、ジラー先生以下3人は訪問予定には入っていないから問題だと判断したのだろう。同行はさっき決まったことだからな。


 階段を昇り、トードウ商会と札の掛かっている扉の前に来た。

「少々お待ちを」

 警備員に止められる。

 扉をガンガンとノックをすると、サラさんが出てきた。


「はい」

「責任者を呼んでもらえますか」

「わっ、分かりました」

 すぐに、アリエス(代表)さんが出てきた。


「なんでしょう?」

「あのう。登録者の方が、同行者3人を連れて来られましたので、確認をお願いします」


 代表が僕を見たのでうなずく。


「予定にはありませんでしたが、問題はありません。お手数掛けました」

「わかりました。では」

 門衛さんが、僕に会釈すると階下へ戻っていった。

「どうぞ。お入りください」

お読み頂き感謝致します。

ブクマもありがとうございます。

誤字報告戴いている方々、助かっております。


また皆様のご評価、ご感想が指針となります。

叱咤激励、御賛辞関わらずお待ちしています。

ぜひよろしくお願い致します。


Twitterもよろしく!

https://twitter.com/NittaUya


訂正履歴

2024/10/19 微妙に訂正

2025/04/21 誤字訂正 (1700awC73Yqnさん ありがとうございます)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ