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16話 モデルベース開発(下)プレゼンテーション

プレゼンを聞く人の大半は、なぜ変わったかより、どんな利得があるかに興味を示しますよねえ。

 2カ月がたった。

 家族がそろった夕食の後。

 少し前にコナン兄さんと結婚した、エレノア義姉(ねえ)さんも同席している。


 兄さんたちがそれぞれの部屋に戻ろうとするところ、いつもはそこに来ることはない家令のモリエンが皆を食堂に引き留めた。


「それでは、始めさせて戴きます」


 母様の眉間にしわが寄った。明らかに警戒している。


「何が始まるんだ? 知っているか? レオン」

 ハイン兄さんが、訊いてきた。

 にっこり笑って返すと、いぶかしそうに眉根を寄せた。こういうところは、母様にそっくりだ。


 モリエンが右手を挙げると、メイドたちが動いた。

 食堂の四隅に散っていく。

 すると、モリエンが手をたたいた。


「なっ!」

 椅子がきしみ、テーブルを囲んだ者たちが、一斉に見上げ辺りをうかがった。視線が壁をはう。


「なんだ」

「おい!」

「魔灯が……」


 そう。魔灯が異変を起こした。


「暗くなった?」

「でも、真っ暗ではない」

「どういうことだ」

 そう。それなりの明るさがある。しかし、明らかにさっきよりは暗い。


 その時また、手が鳴った。

 メイドたちが、壁に手を伸ばした。


「ああ、また」


 また暗くなった。

 今度は、パン、パンと音が響き、段階的に真っ暗になった。


 そして、手を叩く音とともに食堂に灯りが戻った。


「以上にございます」


「いやいや、なんなんだ。どういうことだ?」

「ハイン殿。ご覧の通りです。お分かりになりませんか?」

「いっ、いや。メイドたちが魔灯のスイッチを触ったら、暗くなった。それも、4段階で……魔灯が中途半端な明るさになるなんて」


 はっと、コナン兄さんが、目を見開いた。

「そっ、そうか。魔灯を改造したのか。ああ、光を出す魔石を変えたんだな」


「そうなのですか? あなた。ご存じなのでしょう?」

 母様が冷静に父様へ詰め寄る。


「いや。私は、レオンに許可を出しただけだ」

「「「レオン」」さん!」

 2人の兄さんと新婚の義姉(ねえ)さんの声がそろった。


「どういうことです?」

「私もわからぬ。訊いていたこととはだいぶ違うが。レオン、自身で説明しなさい」

「はい」

 僕は立ち上がった。


「魔灯の魔石を改造したのは、その通りですが。光を出す魔石ではありません」

「では、他の魔石か?」

「はい。魔灯に入っている3種の魔石の内、本体備え付けの魔石である制御用の魔石を改造しました」


「ええ、えっと? レオンさんは、魔術を魔石に刻むことができるのですか?」

 おお、義姉さん。おっとりした見た目だが、頭の回転は速い。


「まあ。魔灯のものは比較的単純なので」

「そうなのですか? あなた」

 義姉さんが、兄さんの腕を取る。


 魔導コンロの魔石を作ったあと、家族のみんなに、そのことを話した。みんなにはすごいことだと驚かれた。ただ、義姉さんはその時にはまだ居なかったのだ。


「そうなんだ。エレノア。レオンのやることは、すごいの半分、呆れるの半分だろう。それで、どう変えたのか教えてくれるか?」


「はい。魔灯は、内部のフィラメントに魔束を流すことで発光します。通常の魔灯はずっと魔束を流しっぱなしか、もしくは流さないかの2通りの状態しかありません」


「魔灯はそういう物ではないのか?」

 さすがは父様。魔道具は、商会の商品のひとつだから把握しているようだ。


「はい。ですので、点灯か消灯か。それ以外の状態はないということになっています。僕は魔灯を改善しようと思ったのですが、明るさを複数段階に制御できるようになったのは、その副作用です」

「副作用……」


「本来の狙いは後で話します。まずは明るさを変えられる原理から。明るさを変えるには、発光魔石に流れる魔束量を変えれば良いのです」

「そんなことができるのか? 魔道具は魔術士じゃないぞ」


「ええ、それはこうです。時間を短い期間に刻み、ある期間では魔圧を掛け、その他の期間は魔圧を加えないようにしました。そのそれぞれの期間が一定時間内に含まれる割合を変えることで、明るさを変えることができるようにしました」

 パルス幅変調、PWMの原理だ。


「うーん。割合を増やせば明るくなる。それは分かるが、うぅぅん」

 コナン兄さんは、首をひねって考え始めた。


「いや、だけど、レオン。そんなことをすれば。魔灯が明るくなったり暗くなったりするはずだろう。だけどさっきはそんなことはなかった。明るさは変わったが、チラチラとしなかったぞ」

 ふむ。ハイン兄さんは、やっぱり勘が良い。フリッカー現象に気が付くか。兄さんたちは対照的だ。


「それは、実際に試して納得してもらいましょう」


 魔灯の下に行く。

「僕の上にある魔灯以外を消して」

 メイドが操作して、僕の周り以外が暗くなった。そして……。


 脳内システムを開き、魔灯のブロック線図を呼び出す。魔石用ポゼッサーを逐次更新モードへ移行。

 さらにパルス幅変調の比較用三角波(キャリア)の周波数を10ヘルツへ変えた。


「おっ、魔灯が」

「ちらついているわね」


 そう。

「では」

 20ヘルツへ上昇。


「おお、目まぐるしさが、ゆるやかになったわ」

「では最初の状態に戻します」

 周波数を100ヘルツに戻した。

 ポゼッサーを通常更新モードへ戻した。


「全然ちらつかなかくなったわね」

「そっ、そうだな。これなら、眼がチカチカしない」

「レオン! 何をやったんだ、説明してくれ」


「はい。まずは明るくしましょう。全部魔灯を点けて」

 食堂が元のように明るくなった。


「では説明します。ハイン兄さんが言ったように、発光魔石に掛ける魔圧を断続的にすると、明るさが変わり、ちらつきが発生します」

「でも、今はそうでないよな?」

「その通り。時間を刻む期間をどんどん短くしていくと、ある段階で、人間の目にはわからなくなります。さらに明るさの変動が小さくなります。それが現在の状態で、ちらつきを感じなくなります」


「ふーん。レオンの言っていることは、多分半分も理解できていないと思うが、実感はできた」

 ハイン兄さんの言に続いて、皆もうなずいた。


「わたし……」

「なんだ? エレノア」

刺繍(ししゅう)とかする時は明るい方が良いけれど、眠る前とかさっきみたいに少し暗い方が落ちつくと思うの。それに、何かお芝居の劇場を見るようで面白かったわ」

「そっ、そうだな」

 なぜか、コナン兄さん夫婦は、少し顔が紅くなった。

 劇場か。


「そうだね、義姉さん。この魔灯を売り出したら、金持ち連中は喜ぶかもしれないな」

 ハイン兄さんも思うところがあるようだ。

「そうね」


「ところで、レオン。暗くすると、蓄魔力用魔石の持ちが良くなるのではなくて?」

 ううむ。母様は鋭い。


「その通りです」

 おおと皆がうなった。


「それなら、そこまで明るくなくて良い場所に使う魔灯は、簡素化できそうねえ。売価を抑えられるわ」

 ウチの家は商家だけあって、その辺りの発想の回りが速い。


「それで? それが、さっき言っていた副産物でない狙いなのか?」

「いえ。もともとは発光用の魔石を節約することを考えていました」

「発光用?」

「本当なのか? レオン」


「モリエンさん」

 壁際に控えて居た、家令が進み出た。

「レオン坊ちゃまが、言われた通りです。館の廊下とホールの魔灯を取り替えて戴きました。その数、135」


「そんなことをやっていたのか、しかし随分多いな」

「ハイン、先を聞こうじゃないか」


「その魔灯の数ですと、毎月20個あまり魔石を交換することなりますが。レナート(執事)によると、ここ1カ月で交換したのは9個で、明らかに減りました」

「つまり、魔灯の維持費が概ね半分になるということか?」

「そう申して、差し支えないかと」


「すごいわ。旦那様から、レオンさんはすごいと、何度も聞いていたけれど。本当だったのねえ」

 義姉さん。


「魔灯の検証をしたいと言われた時は驚いたが、よい結果が出たようだな。モリエンはじめ皆、ご苦労だった。そして、レオン。良くやった」

 父様!


「レオン。特許出願の明細書を書きなさい」

 母様?

お読み頂き感謝致します。

ブクマもありがとうございます。

誤字報告戴いている方々、助かっております。


また皆様のご評価、ご感想が指針となります。

叱咤激励、御賛辞関わらずお待ちしています。

ぜひよろしくお願い致します。


Twitterもよろしく!

https://twitter.com/NittaUya


訂正履歴

2023/10/07 まぎらわしい表現訂正、微妙に加筆

2025/03/27 誤字訂正 (よろづやさん ありがとうございます)


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― 新着の感想 ―
か、かあさん……
うーん、魔圧が電圧、と置き換えると電流、電磁気学の発達的には本作は1800年代のような時代設定なのかなと思ったり。ファラデーさんが電磁誘導をその位に発見してた気がする(うろ覚え)。 ということは昔の…
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