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147話 無理が通れば

道理が引っ込むとは言うけれど。道理は時代で変わるからなあ。

 居た居た。

 昼になって学食へ行くと、先に食べ始めているディアとベルの後ろ姿が見えた。

「やあ。だいぶ涼しくなったね」

 僕も彼女たちの対面に、トレイを置いて腰掛ける。

「おう。レオン」


「うーむ」

 うなったのはベルだ。どういうわけか、僕のトレイを見ている。

「なに?」

「レオンは、本当にたくさん食べるようになったなあと思って」

「まあね」

 確かに配膳係に大盛りでと頼んだ。


「そうだ。レオンは聞いたか?」

 ん?

「何を?」

「これは聞いてなさそうだな。ディア」

「ん? あのことか。今期から合同魔術技能実習の教官になったマルビアン特任教授。知っているよね」


「大学祭の後に辞めたジェラルド准教授の後釜だよね」

 僕はその人の授業を受けることはないが。


「それが?」

 スープを口に運ぶ。

「その新教官が今朝に発表したんだ」

「そうそう。多人数魔術戦を全学年通しでやるって」

「多人数……?」

「7人で始めて、その他の5人を倒すまで続く競技だよ」


「ほう。なかなかやっかいな競技だな」

 有力者がはっきりしていれば、残りの6人が集中して攻めるだろうからな。さすがに勝ち残るのは厳しくなる。

「まあ、使える魔術は衝撃弾1つだけで、誰が発動しても弱い。要は運次第なんだよなあ」

 あれか。

 競技用に威力を抑えている魔術。使い方や制御は工夫しても良いが、術式自体に手を加えると、競技では反則になる。


「へえ。あまり楽しい競技ではなさそうだな」

「そうなんだ。それに、男は女に負けたくないって、狙われそうだから嫌なんだよね」

 男子学生の方が、人数比は大きいからな。

 魔術戦闘において男女差は余りない気はするが、負けたくはないよなあ、正直。だから女子を狙うかというと、そんなことはないが。

「あとは軍籍学生が、組んできそうだし」

 2人ともあまり乗り気ではないようだ。


「そうか。まあがんばってくれ」

 気が進まないとは思うが、魔導技能学科の本分は魔術戦闘だからな。

「ふーん。やっぱり知らないのね」

 2人で顔を見合わせてうなずいている。


「なんのこと?」

「レオンも参加対象者よ」

 はあ?

「いや、僕は……技能実習の単位は、既に取ったし。出席は不要だよ」

 魔導理工学科と魔導技能学科では、同実習の課程が大幅に異なる。僕が所属する前者は1年次に技能検定に合格していれば、2年次には必修科目からはずれて選択科目のひとつとなる。僕は選択していない。


「それがね。冒険者ギルド員についても、魔術戦は個々の実力を大学側が把握するために、当該の授業を必修にするって言い出して」

「なんだって?」

「不参加なら冒険者ギルド活動は認めないし、処分がある。また一定の水準に満たないと判断される場合は、有期で活動を停止するって」

「横暴すぎるだろう!」


 2人が引いた表情になって、何度か瞬いた。

 周りの視線がこっちに向いている。


「悪かった。大きい声を出して」

「いやあ。レオンも怒ることがあるのね」

「でも、新教官は学部長の承認を得ていると、自信満々に言っていたわ」

 学部長が?


「わかった。急いで食べて、とりあえず抗議してくる」

「それは、レオンの自由だけれど。でもちょっと、見てみたい気もするのよね。レオンの本気の魔術戦闘」

 ベルぅぅ。

「たしかに、良いところ行きそうよね。ゲオルギーの伸びた鼻をもポッキリ折ってしまいそう」

 ゲオルギー……中尉か。

 なんでも、魔術戦闘に研鑽(けんさん)を重ね、新2年生では群を抜く実力を蓄えているとは聞く。興味はないが。


     †


「君は?」

「魔導理工学科で2年のレオンです。時間を取っていただき感謝します。マルビアン先生」


 彼の部屋にやって来た。

 軍服でがっしりした体格。立ち上がれば、俺より相当背が高そうだ。

 彼は座って、食事をしている。


「すまんね。食べながらで」

「いえ。単刀直入に申し上げます。私は1年次に、魔導戦闘系実習の全課程を終えています。したがって、多人数魔術戦闘実習への強制参加の撤回を願いたく抗議に参りました」


「抗議……初対面で不穏当なことを言う。だが。そもそも君の言う通りなら参加の強制はないはずだが?」

 特任教授は振り返った。

 そこには、副官がいる。軍から連れてきた助手なのだろう、彼も軍服を着ている。


「レオン。魔導理工学科2年ジラー研究室所属。先程の申告の通り、全課程を修了しております」

「それならば、君は対象外……」

「いえ」

「ん?」

「彼は冒険者ギルドに所属している学生の名簿に記されています」


「んん? 理工学科にも関わらず、冒険者ギルド員なのか……残念だったな。君は対象だ」

「なぜでしょうか」

「冒険者は、魔獣と戦う生命に危険を及ぼす職業だ。魔術士は、公職あるいは民間においても有為な人材になり得る。よって、あたら危険な職に就かせるわけにはいかん。実力を確認しない内にはな」


「生命をかけるかどうかは個人の自由でしょう? それを大学が強制をするのは誤りです。それに実力ですか。私に関しては、すでに証明できていると考えます」

「君、教官に向かって失礼だろう!」

「ルアダン君。彼の言い分を聞こう」


 んん? 軍人にしては、頭ごなしに否定しないな。


「はい。私は、先に申告したように全課程を終えていることに加えて、昨年の9月より冒険者ギルドに登録し、現在ベーシス(一般者)2級に位置しています。つまり、私の実力は冒険者ギルドが証明しているということです」


「ほう。本官は、冒険者ギルド内の序列についてはよく知らないが。ルアダン君、どうか?」

「はい。布告……もとい発表に先立って調べましたが、下位からノービス(初心者)ベーシス(一般者)スペリオール(上級者)の3等級です。一般者2級は完全に真ん中の等級と言えます」


「そうか」

「お分かりいただけましたか?」

 これで、撤回が。


「それしきでは、特例を認めるわけにはいかんな」

「なっ! なんですって?」

「上級者であれば、何歩か譲って検討の余地はあっただろうが。戦士やその他、魔術士以外の職能と同列に序列を付けて、中間ではな。特例には値しない」


「その考えは、全く客観性がありません。そもそも冒険者ギルドでは……」

「勘違いするな。ここは冒険者ギルドではない」

「そのとおり、軍隊でもない」


「貴様!」

 副官が激昂(げきこう)して、一歩前に出ようとした。が、それを教授が手で止めた。


「その通りだ。軍では、命に危険があっても任務は全うしてもらう。大学とは恵まれた世界だ。そして、この件は、学部長から小官が一任されている」

 小官って、軍隊じゃないのだろう。


「したがって、対象者は私の指示に(したが)ってもらう。ただ、幸い軍人でない君には選択肢が用意されている。当該の実習に参加する。あるいは、ギルド員としての活動は卒業まで停止する。あるいは、本学を自主退学するかだ。3つも用意するとは随分過保護なこととは思わないか?」


「実質最初の1個しか選べないようですが」

「問答は物別れのようだな。さて食事時間も残り少ない。退出したまえ」


 軍人は軍人か。

「そのようですね。失礼します」


 僕は、准教授の私室を後にした。


     †


「教授、いえ少佐」

 レオンが去った私室で、後に立った副官が前に回ってきた。


「君も食事したまえ」

「はい。ですが、その前に恐縮ながら」

「なにかね。言いたいことがあれば、率直に言いたまえ」


「先程の件、道理はあの2年生にあったように小官に思えましたが」

 少佐と呼ばれた男は、にやりと笑っただけで返答はしなかった。


「それに、(くだん)の実習の発案者が学部長であること、なぜ彼に仰らないのですか? 少佐が憎まれ役を買って出ることはないと考えますが」

「学部長には、学部長の考えがあるのだろう。遺憾(いかん)ながら、軍は彼に借りがあるのでな」


     †


「どうだった?」

 教員室が並ぶ廊下から曲がったところに、ディアとベルが居た。

 わざわざ待っていたのか。


「実習に参加か、ギルド活動停止か、自主退学の3つから選べ……だそうだ」

「えぇぇ。参加だよね」

「そうだな。致し方ない」

 忌々(いまいま)しかったが、心配そうなディアの顔には、強がりも言えなかった。


 手を振って階段をおり始める。

「一緒の組になったら狙わないでよ」

「了解」

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訂正履歴

2024/10/12 誤字、細々修正

2025/04/14 誤字訂正 (ferouさん ありがとうございます)

2025/07/08 誤字訂正 (ferouさん ありがとうございます)


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ギルドの活動を停止したら、どのような不利益があるのかな?魔獣を倒しても換金できないとしても、別にそこまで金銭に困っていないし、活動できないことでギルドから文句が出れば、それこそ大学の方針だから大学に対…
やめますとか言ったらどうなるんだろう?
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