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15話 モデルベース開発(上)ふとした動機付け

思いつきでソフトを作ると、思わぬことで大変になることが多々ありますね。大体意地で乗り切るのですが。

 魔術の訓練から、館に帰ってきた。

 まだ夕方だけど、もう僕の部屋は暗くなっている。


 天井に向けて手を伸ばす。

アクティベ!(点灯)


 若干の魔力が腕から放射された。

 あっ、あれ?

 魔灯が一瞬輝いたけど、消えてしまった。


≪アクティベ!≫≪アクティベ!≫


 ああぁぁ、駄目か。

 廊下に出る。

「ウルスラぁぁ! ウルスラぁぁあ!」


 さっき擦れ違ったから、まだその辺に居るはずだ。


「はぁぁい、坊ちゃま。なんでしょう?」

 少し離れた声が聞こえたと思ったら、メイドが階段を昇ってこっちへ向かってくる。


「部屋の魔灯が切れたんだ。新しい魔石をもらってきて」

「はい。レナート(執事)さんを呼んで来ます」

「いいよ、自分で替えるから。魔石だけもらってきて。黄色くて長い方のやつだよ」


 魔灯の発光用は、魔石としては安い部類だが、それでもウチの館では管理されていて、執事のレナートが収納庫の鍵を持って居る。


「承りました。長い方の魔石をもらってきます」

 階段を引き返していった。

 レナートは忙しいからね。彼に頼んだら手元を照らすカンテラを持って来たり、支えるメイドを動員して大袈裟になる。


 それはそれとして、今回の魔石は短かったな。

 確か3カ月前くらい前にも、魔灯の発光魔石を交換したはずだ。大体半年くらい持つのだけれど。せっかくウルスラに頼んだんだ、僕は準備をしておこう。


「踏み台、踏み台」

 物入れから踏み台を出し、魔灯の下まで持って来て登る。


 そこから上に、魔灯まで手を伸ばす。

 届いた。僕も背が伸びたからね。

 覆いの片側を外して魔灯を開ける。薄暗いけれど、まだ見える。

 

 一般的に魔灯は、3種の魔石とそれ以外の付帯部品ででできている。

 僕の部屋はそんなに広くないので、魔灯には、発光用の黄色くて長い魔石1つ填まっている。他には青っぽいのが2つと、白っぽい魔石が1つ、計4つが填まっている。広間の魔灯なんかは、もっとたくさん魔石が使われているはずだ。開けてみたことはないけれど。

 切れた魔石は、これだ。長い六角柱の魔石を摘まんで揺らしていると……外れた。


 よしよし。

 踏み台を降りて、壁際まで持って行く。

 窓を開けて、魔石を戸外に向けると、中が透けて見えた。


 半透明のはずの魔石の中が大部分が濁っている。やっぱり切れている。

 ちなみに切れたというのは、その魔石内にある魔導回路の細くなった部分、フィラメントが焼き切れて、もう光を出すことができなくなることだ。


 そもそも魔束が流れるフィラメントは、比較的魔気抵抗が高く、熱を出す。物体は高熱になると、何でも電磁波を発するようになるが、その一部が可視光で、魔灯はこの現象を利用した照明魔道具だ。

 逆に言えば、この現象によって、可視光を放射するには相当な高温が必要となる。


 あれ?

 何か、同じようなことを、最近考えた気がするが……いつだったろう。思い出せないなあ。まあいいや。

 早く。ウルスラが替えを持って来てくれないかなあ。もう少し暗くなると、見えなくなる。まあ、魔術を使えば良いんだけど


 ちなみに、青っぽいのは蓄魔力用だ。

 こちらは大気中の魔力を吸収して蓄積する役割を持っている。この魔石から発光用の魔石へ供給して魔灯が成り立つ。なお、この魔石も消耗品ではあるが、少し高価で長持ちする。なお2個使われているのは、魔力充填と放出を交互にするためだ。


 ただ青い魔石が2個で済んでいるのは、館がある場所のおかげだ。要は魔力が多い竜穴付近だからだ。他の場所では、もっと多くの蓄魔力用魔石が必要になるらしい。

 蓄魔力量は、魔石の大きさによるので、大きい魔石ひとつでも成り立つ。実際に昔は、1つの魔石でできていた魔灯もあったらしいけれど。大きい魔石は高いし、規格を合わせた方が互換性が高くできる。よって、この大きさになっている。経済原則ってヤツだ。


 最後の白っぽい魔石は制御用だ。 


「坊ちゃま。持って参りました」

「うん。ありがとう。ウルスラ」


 白いエプロンを着けてスカーフを被ったメイドから、持って来てくれた物を受け取る。

「ゾルガさんが、坊ちゃまの部屋のが、また切れたの? そう(こぼ)していました」

「そうだね」

 それは、僕も思っていたところだ。


「私、坊ちゃまが魔灯棒を使わず、点けたり消したりするのがいけないと思います」

「えっ?」

「今日も、帰ってこられて、魔灯を点けようとして切れたのですよね?」

「そうだけど」

 魔石を包んだ油紙を剥がすと、丸めてウルスラに渡す。


「それは関係ないよ」

 ウルスラはメイドだけど、ずっと世話を焼いてくれていたので、結構僕には気安くしゃべる。

「そうですか?」

 まだ疑っているようだけど、ウルスラは黙った。

 また窓の灯りに魔石を翳す。金色の線、フィラメントがつながって見える。


 魔灯は、壁か、あるいは部屋の真ん中辺りの天井に良く取りつけられている。壁の方は手が届くので、交換も楽だし人間が触ると点灯消灯できる。だけど部屋の片側ばかり明るくなるので、一部屋に2つ、3つの魔灯が必要になる。


 その点、天井の方は1つで賄えるのだが、手が届かないので、魔灯棒という先端に黄銅の環が付いた棒を魔灯に近付けることによって点灯消灯する。黄銅の環を魔灯に近付ければよい。

 もちろん、僕がやったように魔術でも可能だ。


 ウルスラは魔術のことはわからないから、それが悪いとか、迷信のようなことを言うのだ。


 さて、取りつけるか。

「坊ちゃま。カンテラを持って参りましょうか」

「大丈夫、大丈夫。ついさっき、切れた魔石を外せたし」


「気を付けてください。坊ちゃま」

 はしごじゃないから大丈夫。

 踏み台に登って、腕を伸ばす。

 

「うっ、うぅん」

 おっ、ウルスラが僕の脚を持って支えてくれた。やさしいなあ。


「あっ」

 目の前に、脳内システムが開いて、ブロック線図が現れた。


「大丈夫ですか」

 今は魔石を填めることに集中……ああ、填まった。

 覆いを被せ直して、掛け金を掛ける。


アクティベ!(点灯)


 よし!


「わあ、明るくなりましたね」

「ああ」

 ウルスラが手を離した。


「それでは、私はこれで」

「うん。ありがとうね、ウルスラ」

 会釈して、僕の部屋を辞して行った。


 まだ夕食まで30分くらいあるだろう。課題をやるにも中途半端だなあ。


 魔灯ねえ。ろうそくやランプに比べればとても便利だが。魔石が切れてしまうと、とても不自由だ。


 椅子に座って、目を閉じる。

 さっきのブロック線図が再表示された。

 見えているのは魔灯全体の魔導回路だ。この回路の中には3つの魔石がある。


 なるほど、制御魔石の端子にインパルス入力を入れると、蓄魔力魔石が魔圧を発生し、発光用魔石に魔束が流れるというのが大まかな流れだ。どれも魔導回路は単純なものだ。


 興が乗ったというか、現実逃避気味になって、入力を入れてみる。

 魔石間のスコープ、ずっと横這いの波形が出ていたが、突如立ち上がって、先鋭的に上に上にと伸びていく。供給される魔束量のグラフだ。


 スコープはオートスケールが掛かっているので、どんどん勝手に尺度が大きくなっていき、やがて別のスコープの波形が立ち上がった。

 こっちは? 発光量か。なるほどね。

 おっと、魔束量の波形が頭打ちになって、どんどん減り始めた。それでも発光量は減らず、やがて飽和した。魔束量は極大値の半分以下になっている。つまり1度振り切って戻る波形、いわゆるオーバーシュートだ。


 ふむふむ。フィラメントの温度が上がったので、魔気インピーダンスが増大して、魔束量が減ったのだろう。だが、発光量はフィラメントの温度に依存するから、魔束量とは直接関係なく、なめらかに明るくなって安定するわけだ。


 あれ?

 魔灯というか、フィラメントがたまに早く切れる原因って、魔束量のオーバーシュートなのでは?


 たしか、フィラメントは消耗品で、魔灯が点いている間は高温にさらされる。断熱のために、フィラメントの回りは中空になっているので、徐々に昇華して細っていき、いずれ切れるのだが。切れるまでの時間のばらつきが大きい。その原因が突入魔束ではないかとの仮説が浮かんだ。

 そうだよなあ、魔束が流れると熱も出るけど、物理的な力も出る。


 原因がこれだと仮定すると、どうすれば良いか? 簡単だ。魔束を徐々に流せば良い。


 とはいえ、突入魔束が流れるのは、フィラメントが冷えていて魔気抵抗が低いからだ。今のところこの回路では単純に魔圧をOFFからONにするだけなので、大きな魔束が流れてしまう。そうならないようにするには……パルス幅変調(PWM)だな。

 短い期間で魔圧をON、OFFすることにより、その時間比率で流れる魔束を制御できる。電気回路で電流を制御する場合では、標準的な手段だ。魔束でも問題なく使えるだろう。


 思い立ったら、即実行だ。

 シムコネには、PWMの制御ブロックがあらかじめ用意されているから簡単だ。


 ものの10分で、構成できた。

 それから、魔束量がオーバーシュートしないようにゲインを小さくした。


 実行(RUN)……あれ?

 発光量のスコープの波形が立ち上がらない。つまり光らないということだ。


 そうか、フィラメントの温度がなかなか上がらないからか。上がらなければ、放射せず光らない。そう、考えていると。10秒くらいで、ようやく光り始め、20秒位で飽和した。フィラメントが切れにくいという目的は達したはずだが、スイッチを入れてもしばらく明るくならないはずで、かなり使い勝手が悪い。なんとかしないとな。


 スコープの横軸スケールを横に引き延ばして、磁束量の細かい波形を観察する。

 ふむふむ。

 魔圧のスイッチングタイミングから、磁束量の立ち上がりが若干遅れているから、フィラメントの魔気インピーダンスに誘導性が入っていると言える。想定通りだ。


 残る問題は、平均的な磁束量の増大速度だな。急速に上げないと発光が遅れ、上げ過ぎれば寿命が短くなる。

 だが、これは可変ゲインで対応すれば良いだろう。点灯直後は大きめのゲインで、オーバーシュートしないように徐々に小さくすれば良い。


 それで、モデルを組んでみた。

 決まった勾配(プロファイル)でうまく行ったと思ったら、スイッチを入り切りすると駄目なことがわかった。要はフィラメントの初期温度によってゲインを調整しなければならないのだ。何種類かプロファイルを持たせることも頭をよぎったが、かえって面倒になることが分かり、結局温度をフィードバックすることにした。


 30分ほどで改造した魔術モデルは、シムコネ上では許容できる発光速度と突入魔束の抑制ができた。

 制御モデルの規模は大きくなったが、魔灯の出力量や魔結晶のばらつきは吸収できるようになったので及第点と言えるだろう。

お読み頂き感謝致します。

ブクマもありがとうございます。

誤字報告戴いている方々、助かっております。


また皆様のご評価、ご感想が指針となります。

叱咤激励、御賛辞関わらずお待ちしています。

ぜひよろしくお願い致します。


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訂正履歴

2023/10/07 誤字脱字、文章の乱れ訂正

2025/04/09 誤字訂正 (布団圧縮袋さん ありがとうございます)

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