137話 帰省(7) 調査隊
昔は商売柄、生産品の不具合の調査に行く(行かされる)ことが度々あったのですが。余り良い感じはしないですよねえ。
「いくぞ」
「「「おおぉぉ!!」」」
鬨の声が上がり、騎馬隊がヤディス村から出発していく。
先頭はニールスさんだ。冒険者たちを指図して騎馬5騎と徒歩20人程が一団となって進み出した。
「あのう。あの集団は?」
そばに居た冒険者に訊いてみる。中年少し手前ぐらいの人だ。長い剣を腰に下げ、革鎧を着ているところをみると、職能は戦士か。彼も見送るようだ。
「なんだ、聞いてなかったのか。おまえ」
「はあ……寝ていたもので」
そんなわけはなく。魔獣を斃した現場から、ヤディスの村に舞い戻ったのだ。
「さっきの大きな音が聞こえなかったのか。雷なんだが」
「そっ、そうなんですね」
「それで、あいつらはな。その調査隊だ」
「調査隊、雷のですか?」
「あのでっかい落雷の時に、強烈な魔導波が放出されたんだ」
「えっ、戦士なのに分かるんですか?」
「いやいや。俺じゃねえ。銀の矢の死神が、そう言ったんだ」
「死神? もしかしてロアールとかいう」
「そうそう。そんな名前だ」
死神って……。
まあ、ぱっと見は陰気そうだしな。
「そいつが主管のニールスと示し合わせて。現場を見に行くって言いだしてな。まあ、確かめるなら、日中だからな」
「なるほど。わかりました。ありがとうございました」
「おお。本番は夜だ。寝ておけ」
僕は農家の影に入る。
村に着いたら、あの集団が出発する寸前だった。
そうかそうか。どうやったら、魔獣を斃した現場に行ってくれるかと考えていたが、よかった。
さすがに、あれだけ魔導波を放散すれば気が付くか。
†
───ニールス視線
「ロアール。どっちだ?」
「残留魔導波が多いのは、あっちだ」
彼は、やや左を指差した。そちらへ手綱を引っ張る。
残留魔導波ねえ。
ロアールによると、魔導波を強く発するもの、例えば魔獣が居ると、周りの物のなかにある微かな魔結晶が……なんだっけ? えーと、そうそう。共鳴励起だったか。ともかくもともとの物が無くなっても微かな魔導波を放つそうだが、ロアールはそれを感じ取ることができるそうだ。
魔導波の感受性が強いヤツらしい。
それによって、わが銀の矢は経済基盤を強化しているからな。
ロアールについていくこと。しばらく。
「ドゥォォ」
慌てて手綱を絞り、馬を止める。
ロアールが、右腕を水平にかざしたからだ。
村で貸してもらった農耕馬も、しっかり馴致されているようで、言うことをよく聞いてくれる。まあ、速力は出ないが。後に付いてきた徒の仲間たちも停まる。
「どうした?」
ん?
ロアールが指した方向。ここまで点在していた木立が、見当たらない
「樹が……」
軒並み折れるか吹き飛ばされている。しかも全部こっち向きに。
「どうなっているんだ?」
「この中心で何かが起こったんだな。多分爆発だ」
「爆発?」
「何かが急に燃えるか、蒸発するか、いずれにしても膨れ上がって、衝撃波が発生したんた」
「それで、木々が薙ぎ倒されたのか、これ全部? 魔獣か。近付いて大丈夫なのか?」
「轟音とともに感じた魔導波はほぼ消えている」
「じゃあ、もう、いなくなったってことか……おい」
ここまで常足で来たのに、速歩で駆け始めた。
追っていくと1分もしないうちに止まり、ロアールは馬を下りた。
「何だ、これは」
地面に差し渡し数十メトの丸い窪みができている。
「爆発の中心だな」
「えぐれたってことか。確かに土の色が新しいが」
「それより。あそこ」
「んん?」
ロアールが指した先には、暗い黄色の何かがある。何かは土に塗れているからよく分からないが、なんとなく毛皮のようだ。そこへ歩み寄っていった。
「まさか……」
俺も降りて、追い付いてきた仲間に手綱を渡し、ロアールの後を追う。
生々しい臭いが迫ってくる。饐えた腐臭。動物とは違う、人より大きい魔獣特有のものだ。慣れてはいるが、好きにはなれん。
「やはり毛皮か。この斑って、まさか」
「ああ。サーベルジャガーだ。ここに頭がある。見てみろ」
俺は目線を下げ、頭部を見る
「牙がない」
むう。
この頭と、この部位のつながりは不自然と思ったが、別の個体があったのか。折り重なるように、複数の屍が積まれている。
「全部ひっくり返して調べる必要がある。大仕事だな。おおい! みんな。来てくれ! ああ、大丈夫だ。全部死んでいる」
ロアールが遠巻きにしていた、調査隊員を手招いた。
「こっちの頭にも牙がない。腹も切開されて、魔結晶が取り出されている」
ロアールの示したところから、地面に体液が流れ出ている。これが匂いの元か。
「こいつらは、何にやられたんだ? 魔獣か」
「わかっているだろう。魔獣じゃない。人間……それも魔術士だ」
「魔術士だと!?」
「この腹の切開されたところを見ろ。一直線に下腹部から喉元まで。風魔術でもなければ、こうはいかん。みごとなものだ。ふん!」
魔術士───
そんなやつは……やつらかもしれないが。ともかく、ここにはいなかった。
俺たちが、あの轟音を聞いて、ここに来るまで……1時間弱だ。その間に3体を屠って、牙を切り取り、おそらく全ての魔結晶を取り出したのか。
呼んだ調査隊の面々がわらわらと寄ってきた。
「これは?」
「今回の対象の、サーベルジャガーの何体かだ」
「本当ですか!」
「何体あるんですか? マスター」
ウチのクランのネヴィルだ。
「頭がここと、そこ。皆でひっくり返して、もうひとつ頭がないか探してくれ」
目撃情報によれば3体だ。
「隊長! これじゃないか? 牙はないが」
ロアールが寄っていき、一目見ると、こっちに向かってうなずいた。
肩から力が抜けた。
3体全部か。
「おい、ネヴィル。馬でギルド職員を呼んでくれ!」
「やあ、でも」
「大丈夫だ。サーベルジャガーは全部死んだ。襲ってくる魔獣は、しばらくは出ない」
「わっ、分かりました」
「それと。毛皮だけでも、結構な価値がある。荷車を3台要請してくれ」
†
───レオン視線
ふう。
無事に見付けてくれたか。
多くの冒険者が、僕が斃してしまったサーベルジャガーの屍に取り付いた。
僕はその現場からやや北に逸れた上空に漂っている。
これで、警戒が続くとしても、程度は大幅に下がって、早期に終わるだろう。無駄足にさせてしまったが、目的は遂行だから許してもらえるだろう。
さて、ここにいる意味はなくなった。逆に、これ以上留まってもろくなことはない。
帰るとしよう。
≪黒翼 v1.0≫
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訂正履歴
2024/09/04 少々加筆
2024/09/14 脱字訂正(1700awC73Yqnさん ありがとうございます)
2025/04/04 誤字訂正 (よろづやさん ありがとうございます)
2025/04/11 誤字訂正 (むむなさん ありがとうございます)