136話 帰省(6) 迂闊
いやあ、自分の迂闊さを呪うことが幾度も。近くは、一昨日とかねえ(凹む)。
───レオン視点
はあ……見つからない。
ヤディスという村を中心に、20分ほど10周ばかり探索しつつ飛行してみた。しかし、サーベルジャガーというより、人間の大きさを超えるような魔獣の反応はなかった。およそ半径3キルメトの範囲を探したのだが。アルミラージやそれより小さい個体は、いくつも見付けているから、探し方の問題とは思えない。
もっとも、認識阻害の能力を持っているなら、見落としている可能性もあるが、ギルドに目撃情報が複数あるそうだから、それも考えにくい。
結論。ここに、サーベルジャガーは居ない。
およそ100キルメトも飛行して見つからなかった。だからといって、徒労には終わらせはしない。
自動操縦終了!
上昇───
高度200メトから、一気に3000メトへ。
この辺で試すか。
脳内システムで先程まで周回した、眼下の丸い地域を撮影。
目を閉じる。
画像解析ツールボックスを起動。
ふむ。怜央の記憶や知見が流れ込んでくる。
まずは赤外線フィルタだ。
狭い温度範囲のバンドパスフィルタを設定して、温度を掃引。小魔獣が見つかった地点が検出できる温度を探索。
そう。飛行して感知したデータは、画像解析の教師データ(別の手段で得た正解のデータ)として生かすのだ。こういった解析で信頼度を上げるには教師データは欠かせないからな。
うーん、でも。
思った通りか。温度幅を狭くかつ空間分解能を上げれば上げるほど、ノイズが多くなる。魔獣も検知されるが、魔獣でない物も検知されているわけだ。まあ魔獣の体温と同じ温度の物体もあるだろうしな。
次だ。
今度は魔導波フィルタを掛けて、周波数のバンドフィルタで掃引、小魔獣の位置が検出される周波数を絞る。
こうやって見ると、この基準でもノイズが多いな。魔導波を放射するのは魔獣だけではない、地中に魔結晶の成分はあるし、ここは竜脈に近い。
そう考えると、普段に使っている魔感応の術式はフィルターが優秀だ。怖ろしいほど精度が高い。だが精々数百メトの距離でしか使えないのだから仕方ない。
2つのフィルタを掛けたノイズだらけの画像を、それぞれ2値化(この場合は、画像が白と黒のみ。それぞれを1と0)した。白い点が、該当地点だ。
そして、2つの画像の論理積を取る。
ふう。思った通りだ。温度と魔導波ではノイズの出方が違う。だから論理積を取れば、両方とも白い点でなければ黒くなり、結果として画像が大幅に暗くなった。つまり精度が高まった訳だ。
しかし、まだだな。それでもざっと白い点は数百はあるだろう。
後は通常の画像解析を試すか。
形状処理__収縮膨張__カーネルサイズ300ミルメト……
おお。いいぞ。白い点が数えられるほどに減った。しかも、見付けたアルミラージが居た地点と合致している
温度と魔導波の共通部分をカーネルサイズ、つまり画素上の大きさで前記魔獣の大きさ以上の魔獣を抽出したのだ。
よし。これでいい。カーネルサイズを1メトに拡大、実行。
ふむ。画像全体が真っ黒になった。つまり飛行範囲に対象は居ないということ。同じ結論になったな。結果はそこそこ信頼して良さそうだ。
ならば。
上昇───
僕は、一気に6000メトまで達した。
†
見付けた。
あいかわらず、僕は飛行中だ。しかし、高度は200メトまで降下した。
空気がうすい高高度まで上がって、得られた地上画像を分析した結果、体格が1メト以上の魔獣と想定される個体は5体。その中で竜脈の程近く、しかも個体間距離が近い3体がこの真下だ。
場所は、南北で言えば、ヤディスとファルレアに近いヤーグルという村の中間辺り。東西で言えば、街道から東に2キルメト。
かぼそい竜脈からこれだけ離れれば、魔獣が忌避する魔導波も、ほぼあってなきがごとしだ。
望遠で拡大してみると、どれも暗い黄色の地に黒い斑の体毛。ざっと人が2人分ばかりの体躯。
間違いない、対象としているサーベルジャガーだ。
探査範囲が大幅に広がる代わり、分解能が1/4に下がることを懸念したが、杞憂だったようだ。
ぱらぱらと木立が点在しているが、その木陰でのうのうと大地に3体が寝そべっている。食物連鎖としてひとつの頂であり、人間といえども数を頼まねば手出しできないのは事実。つまり、天敵が居ないから無防備なわけだ。
ならば人間が危険だと認識を改めてもらおう。もちろん斃す方が手っ取り早いが、それでは後が面倒だ。そもそも、サーベルジャガーが死んだことが冒険者たちに伝わらないと、いつまでも警戒を続ける可能性もある。
さてどうするか。
魔導波を当てればここを去るだろうが、きっと自然現象だと思うことだろう。
つまり、魔導波がなくなれば戻ってくる、可能性もある。人間が怖いなと思わせないとな。
どうやって恐怖を植え付けるかな。
あの木……そうしよう。
僕は魔獣が作る3角形の重心に位置する樹に照準。発動紋をやや間隔を空けて設定。
前回より絶縁破壊する距離があるから、印加魔力も強めで。
≪銀繭───解除≫ !
まず1撃目で驚かし、逃げたところを数撃追撃すれば、やつらもこちらの存在を認識するだろう。
僕の周りに起動紋が、5つ浮かび上がった。
腕を伸ばす。
≪雷電 v0.8≫
むっ!
自分の目を疑った。発動直後、眼下で光球が膨れ上がり、何条も閃光を放った。反射的に腕で眼前を遮る。
うわっ!
衝撃波に身体が揺らされた直後、轟音に襲われた。
†
「魔力を印加しすぎたのか?」
大惨事だ。
街道から離れていたことだけが、唯一の救いだ。村の周辺で使ったら、結構な被害を出したに違いない。
照準した木はおろか、数本あった木立は消滅していた。代わりに雷が直撃した大地には直径10メトばかりの穴が掘れている。さらに周辺の木立が、放射状に吹き飛んでいた。木かどうかわからないが、それが一気に昇華して膨張して爆風を作り出したのだろう。
いやあ、魔術行使の前にシミュレーションをやるべきだったな。以前鱗鎧犀を斃したときより、わずかばかり強くしたぐらいの感覚なのに。
感覚が前のままだったのが、いけなかったんだろうなあ。腹の下の方で魔力が循環するような意識があってから魔力上限値も上がっているのは、飛行魔術使用でなんとなく分かっていたけど。
魔圧も上がっていたか。それはさっき雷電を使って思い知った。
効果は魔圧の2乗で効くからなあ。
新規の人体モデル。
あれを使って、ゲイン調整をやり直さないとなあ。
反省は、あとでしっかりするとして、今は───
これかあ。
残留魔力というか、魔導波を探ると動かない魔力源があった。
土埃に塗れたでかい屍が横たわって居る。寝そべっていた位置から数十メトばかり離れた場所。上顎から生えた牙が200ミルメトも下へ突き出ている。
「これがサーベルか」
脅かして追い払うつもりだったが、死んでしまったら仕方ない。
200メト上空でも結構な衝撃波だったが。あれを至近で受ければ、さしもの強大な魔獣も即死らしい。
「まいったなあ」
僕は自分の迂闊さに苛まれながらも、新たな魔術を起動した。
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2025/04/07 誤字訂正 (シュウゴさん ありがとうございます)
2025/04/09 誤字訂正 (布団圧縮袋さん ありがとうございます)
2025/05/27 誤字訂正 (水上 風月さん ありがとうございます)