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14話 はじめての魔道具

ううう。物作りもやってみたい。せいぜいPC自作ぐらいだものなあ。

「やあ、レオンじゃないか」


 ウチの商館から20分程西に来た繁華街にある店。魔道具店と看板が架かっている。

 木の扉を開けると、すぐ目の前に30歳代の店主が居た。父様の末の弟、ローズル叔父さんだ。


「叔父さん。お久しぶりです」

「おお。年始に会って以来か? どういう風の吹き回しだ。レオンは、ここへは来たことがないだろう。商会の用じゃないよな?」


 そう、商会内(ウチ)で会うことはあったけれど、ここへ来るのは初めてだ。

 それほど広くない店内。僕の他に客の姿はない。視線を巡らせると、壁際に大きな棚が設えてあり、そこに斜めに木の箱がいくつも架かっている。


「いいえ。自分用に少し欲しい物がありまして」

「ウチの商品か? まあいい。おおい! ミディア(叔母)。甥っ子のレオンが来たぞ」

 奥の方から、驚いたような返事があった。


 棚に寄っていって中を見ると、魔石がいくつも並んでいる。ふむ、この棚は魔導コンロの熱源用だ。こっちは、魔灯の光源用だ。ぱっと見は、どれも水晶のような透き通った石ころだ。でも、色で見分けが付く。前者は赤味があり、後者は黄色掛かっている。


「そうだ。レオンは魔術をやっているって、コナン君が言っていたな」

「ええ、まあ」


「杖は、値が張るからな。そちらの棚には置いてない、奥の棚だ。何なら見繕ってやろうか?」

 杖は汎用魔導具で、魔術の起動を補助する。魔術士専用の商品だし、安い物で銀貨数枚、高い物になると金貨数百枚以上の物もあるらしい。


 杖を使うと、魔術を発動しやすくはなるが、それに慣れきってしまうと成長が遅れるらしいので、初心者の常用は避けた方が良いらしい。そんなことは知らなかったが、今のところは不自由がないので、取り立てて杖を欲しいと思ったことはない。


「いえ。今日は杖ではなくて……」

「まあ、本当にレオンちゃんだわ。ひさしぶり」

 叔母さんだ。

 うぅむ、どうも女性にはちゃん付けで呼ばれるよなぁ。

「ミディアさん、こんにちは。ヘンディル君もこんにちは」

 こざっぱりとした姿の叔母と、彼女の股ほどの背丈しかない従弟が手を引かれて店に出て来た。


「ほら、お兄ちゃんにあいさつしなさい」

「こっ、こんにちは」

 人見知りらしく、ちょこんと頭を下げると、すぐに母親の後ろへ隠れた。まあ、従兄弟という意味も分かってないだろうなあ。


「ごめんね。この子は恥ずかしがり屋で」

「ああいえ」

「ねえ。積み木、やるぅぅ」

 どうやら遊んでいたところを、叔母さんに引っ張ってこられたようだ。


「もう。ヘンディたら、戻っていいわよ」

「うん」

 そそくさと戻って行く。

「じゃあ、お茶でも淹れるわ」

「お構いなく」

 叔母さんも、奥へ戻って行った。


「いやあ、かわいいですね。ヘンディル君は」

 3歳位のはずだ。

「ははは、まあな。だけど、レオンもつい最近まで、あんな感じだったぞ」

「ええぇ、そうですか?」

 14歳だし、さすがにそんなことは。

 でも、そういえば僕も誰かに始終付いて回っていたな。母様ではなくて、どちらかの兄さんだったけど。


「そうだぞ。コナン君とハイン君は兄さん似だけれど、レオンは義姉さんによく似ててな。かわいかったな。ヘンディルぐらいの頃は、黙っていれば、まるで女の子のようだった」

「黙っていれば?」


「でも、5分と黙っちゃ居ないし、結構やんちゃだったぞ。いつもあやしてるコナン君が大変そうだったなあ」

 ううむ。コナン兄さんには頭が上がらないな。


「まあ、そんなことはどうでもいいな。せっかく来てくれたんだ。杖じゃないなら、何が欲しいんだ?」

「魔石なんですが」

「ほう。どんな魔石だ? ウチで売っているのは、そこらにある生活魔道具用がほとんどだぞ」


「ええ。いくつかはそういうのと……」

 参考にするためにね。

「……あとは、何も刻まれていない物を」

「何も刻まれていないって、魔結晶か。まさか魔導工の技を?」


 魔導工とは、魔道具と魔導具を作る職人のことだ。ちなみに、前者は一般人が使う物。後者は魔術士しか使えない物だ。呪具とも言うが。


「いやまあ、少しやってみようかなと」

 魔道具に前々から興味はあったし、商館出入りの職人たちの工場も見学したことがある。しかし、逆にそのせいで魔結晶に術式を刻むためには、結構な専門道具と設備が必要と思い込んでいた。


 だが、つい最近のことだ。脳内システムのドキュメントを読む内に、刻印魔術という項を偶然見つけた。要するに僕ならば、何もなくても術式を刻むことができる。工場に行かなくても、魔導工と同じことができるかもと考えたのだ。


 刻印魔術の基礎開発モジュールは脳内システム上にあったので、速攻でアクティベートした。そして、手近にあった魔道具である魔灯の術式をシムコネにブロック線図として読み込むことができたので、深夜にもかかわらず声を上げてしまった。


 それで、今度は魔道具を改造あるいは作成してみようと思って、叔父さんの店に来たのだ。商館でも頼めば、譲ってくれそうだけど。母様の耳にでも入ったら、根掘り葉掘り問い質されるに違いないからね。

 

「ふーん。そうなのか。商人になるのかと思っていたけれど、魔導工は手に職が付いて食いっぱぐれがないからな。資格を取ることができれば良い職だぞ」

「まだそこまでは考えてないけれどね」

「そうなのか。でもわざわざ、ウチの店に来たってことは……そうか分かった、商会には黙っておくぜ」

 なんか、気を回してくれているので、素直ににっこりと笑ってうなずいておく。


「よーし、じゃあ、叔父さんが質の良い魔結晶を選り分けてやろう」


 叔父さんは、在庫の2級魔結晶をより分けて良い物を10個ばかり選び、仕入れ値相当で売ってくれた。


 それから、おばさんがお茶を淹れてくれたのだが、そこからはやはり昔話となった。


     †


「ふう」

 自分の部屋に戻って、まずは生活魔術用の魔石の解析を始める。

 魔導コンロ用の赤く透き通った発熱魔石を手に取る。


 窓辺に寄って、日の光を透かせてみると、薄い白っぽい部分が有る。肉眼ではぼやっとしか見えないが、ここに術式が刻まれているのだ。


 視界の下の方に、プログレスバーが表示されて、自動的に解析が始まったことがわかる。それが瞬く間に進み、新しいウインドウが開いた。題目はEngrave Studio v3.22、昨夜アクティベート(有効化)したモジュールだ。

 発音はエングレーブスタジオかな。エンスタって呼ぼう。


 しかし、表示された情報は、簡素というか、粗末だった。

 端子が2つあって、その間に抵抗があるだけ。非常に簡単な回路だ。

 そりゃあ、そうか。単なる加熱器具だものな。

 魔束が流れたら、その量の2乗に比例した単位時間当たりの熱量が発生する。


 とはいえ、初心者が刻印魔術を試す題材としては向いているだろう。等価回路の規模が小さいからな。


 プルダウンメニューの表示モードを、ブロック線図から実体配線図に切り替えると、さっきの魔石の表面が視界に映った。そして、さっき見えた白く濁った部分に焦点が移動し、そこが大幅に拡大された。


「へえぇ。こうなっているんだ」

 魔紋が3つあって、直列につながっている。両端が端子で、中央の大きい魔紋が抵抗相当だろう。どれも起動紋とは違って発動紋だな。文字とかはなくて、模様しかない。


 魔導工の工場にあった大型の魔導設備である刻印機で刻んでいたのは、これか。

 エンスタとポゼッサーの2つを使うと、設備ではなく人間の魔術で刻印できるというのは、昨夜のうちにドキュメントを読んで調べが付いている。


 メニューから新規刻印を選ぶと、ワーニングが出た。

 何々……初めての使用です。チュートリアルを実行しますか?

 至れり尽くせりだな。

 肯定すると、ダイアログが開いた。真ん中に破線で□が描かれている。未使用魔結晶を□の中に収めてくださいか。なるほどね。


 叔父さんの店で買った魔結晶を机の上に置き、顔を動かして□の中に収めると表示が変わる。現在ロード中の術式で、刻印を試しますか?

 試す?

 まあいいか、肯定。


 ダイアログ上を意味が不明なメッセージが、高速にスクロール(流れる)されていく。おっ、止まった。

 術者刻印技量レベル:1.0→→モチーフ魔石刻印ルール0.03・・・刻印可能。

 刻印を開始しますと表示されて、魔結晶が光り始めた。


 そういうことか。僕の技量レベルによって、刻印可能かどうか決まるってことだ。簡素な魔石にしておいて良かった。これからレベルを上げていこう。


     †


「こんな時間にどうしました? レオン様」

 奥の厨房に行くと、早速コック長のリーガスに見つかった。


「うん。ちょっと試したいことがあるんだけれど」

「試したいこと?」

「魔導コンロを使いたいんだよね」

 疑わしそうに僕を見る。


「コンロですか? この時刻ですからもう落としましたけれど。何をするんですか?」

 もう夜の10時過ぎだしね。


「いやあ。ちょっと、この魔石と取り替えてみてくれない?」

 リーガスに赤い魔石を渡す。

「はあ。見た感じ普通ですね。わかりました」


 彼は革手袋を填めると、コンロから五徳と炎が出るヘッド部分を外した。さらに手を突っ込んで小刻みに動かす。やがて魔石が握られた手が出てきた。そして、渡した魔石に持ち替え、また手を突っ込んだ。そしてヘッドと五徳を置き直した。


「交換が終わりました」

「じゃあ、火を着けてみて」

「はい」


 コンロの右手前にある別の魔石に手をかざすと、火が着いた。手を動かすと、火力が徐々に大きく変わり、最後に消えた。


「ええと。普通に使えますね」

 僕は心の中で快哉を叫ぶ。


「リーガス。ありがとう。その魔石はこのまま使って良いよ」

「はあ。それは良いのですが、何なんですか?」


「ふふふ。内緒!」


 こうして、初めての魔石刻印は成功したのだった。

お読み頂き感謝致します。

ブクマもありがとうございます。

誤字報告戴いている方々、助かっております。


また皆様のご評価、ご感想が指針となります。

叱咤激励、御賛辞関わらずお待ちしています。

ぜひよろしくお願い致します。


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訂正履歴

2024/03/24 誤字訂正(1700awC73Yqnさん ありがとうございます)

2024/07/06 誤字訂正( ライカさん ありがとうございます)

2025/03/26 誤字訂正 (毛玉スキーさん ありがとうございます)

2025/03/30 誤字訂正 (黄金拍車さん ありがとうございます)

2025/04/02 誤字訂正 (cdさん ありがとうございます)

2025/04/09 誤字訂正 (布団圧縮袋さん ありがとうございます)

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