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124話 小旅行(4) 強盗

最近深夜に自宅数km圏を歩き回ったんですが、意識が低いのかなあ。

「綺麗ね」

「ああ」


 アーロ湖の畔を散策。アデルの隣を歩む。

 湖水は()いでいて、とてもなめらかだ。沈まんとする太陽が、湖に光の筋を描き、辺りを赤く染め始める。

 彼女を見つめると、フイと横を向いた。まだ顔が赤い。


 入浴後、両足に続いて他の部位もマッサージをするつもりだったが、アデルから夜になったらお願いすると体良く断られた。


「来て良かったぁ」

「着いて半日もたってないよ」

「そうだけど。忙しない王都と違って、ここはゆっくり時間が過ぎて行くわ」

「ほほう。アデルは詩人の才能もあるね」

「もう。茶化さないで」


「僕は逆だなあ。アデルと一緒にいると、どこであれ、時間が過ぎるのが早いよ」

「ふふっ、うれしい」

 僕の腕をぎゅっと、自身の腕で締め付けた。


「そういえば。私が王都にいない時、レオンちゃんは何していたの? 地方公演のことはたくさん聞いてもらったけれど」


「うぅん。これと言ってねえ。鏡の研究と春からやって来たことをまとめて、いろんな人に報告したよ」

「ああ鏡ねぇ。でも、これと言ってなんて、済ませてよいことじゃないわよ」

「そう?」

「うん。レオンちゃん自身が自分の凄さをわかってない」

 まあ、怜央の記憶にある地球の科学力と比較しているからかな。


「そうだ!」

「ん?」

「あの鏡だけど……作るのは大変なの?」

 何が()きたいのかな?


「まあ最初は大変だったけれど、もう慣れたよ」

「そう。じゃあ、テレーゼ夫人とリーアさんには渡したの?」

「いや」

「もらった立場で言うのは駄目かもしれないけれど。女の人は大抵よろこぶと思うわよ」

 そうだな。

 使ってもらえそうな人から考えてしまった。

 アデルは、やさしいなあ。それによく気が回る。


「この前、お父さんにも頼まれていたけれど、もしたくさんの鏡を作るのが苦でなかったら」

 叔父さんには、枠あり型の試作品を5個作ってくれと頼まれた。とりあえず予備の1個を渡しておいたけれど。


「うん。良い考えだ。そうするよ」

「さすがレオンちゃん」


 まぶしそうに陽にかざした手が、アデルの顔に影を落とす。


「そろそろ戻ろうか。もうすぐ夕食の時刻だ」


 ヴィラに戻った僕たちは、食堂で湖で獲れた魚と近くの牧場で飼育しているという子羊肉を堪能した。

 特に後者は、掛けられたソースをアデルがとても気に入り、お母さんと一緒に来ればまた作ってもらえるのになあと少し残念そうだった。

 ブランシュ叔母さんだが、なんでも一度食べた料理は、材料さえあればかなりの精度で味を再現できるのだとか。出してもらう料理が軒並みかなりおいしいとは思っていたが、そういう才能の持ち主とは知らなかった。


     †


 はぁぁ、朝だ。

 そうだ、旅行に出掛けたんだった。


 横を見ると寝乱れたアデルの前髪が、彼女の鼻に跳ねていたので、それを摘まんで上に戻してやる。


「ぅんんん……」

 感じ取ったようで、アデルは微かに寝返りを打った。反動で白い胸がまろびでた。

 そうか。

 2人とも疲れ果てて、そのまま寝入ってしまったのか。僕も裸だ。


「んんん……」

 アデルのまぶたがパチッと開いた。何度かまばたきすると、こっちを向いた。

「おはよう、レオンちゃん」

「おはよう」


「何時頃かな」

「ん。7時40分くらいだね」

 アデルには、魔術で時間がわかるって言ってある。正確には脳内システムなんだけれど。


「じゃあ、起きなきゃ」

「そうだね。食堂にはメイドさんが居るみたいだしね」

「あぁぁ」

 アデルがベッドから降りて、ややあってから、部屋を出ていった。

 僕も下着を出庫して着込むと、アデルの後を追った。


    †


 朝食を取って10時になると、居間のベルが鳴った。

「時間だわ」

 うなずいて立ち上がると、浴室に向かう。

 そこには、白い服を身に着けた女性が、寝台の横で2人待ち構えてた。美容士さんだ。

 足元には昨日はなかった(たる)が置いてあって、やや緑掛かった灰色の物が満たされている。施術に使う泥らしい。


「お待ちしておりました」

 美容士さんたちが、胸に手を当て(うやうや)しく会釈する。

「よろしくお願いします」

「ではこちらへ」


「じゃあ、僕は辺りを散策でもしているよ」

「うん。気を付けてね」


 ヴィラを出て、湖とは逆。林を切り開いた道をさかのぼり、点在するヴィラ群をつなぐやや太い道に出た。右に曲がってしばらく行くと、ホテルの中核である本館が右手に見えてくる。

 やはり建物は大きいな。

 今夜はこちらで食事を取ることにすると、朝食時にメイドさんへ伝えた。


 足早に通り過ぎると、ホテルの敷地から出た。

 街道を左に行けば、アーログへの道。右は……。


 しばらく進むと。1人がようやく通れる程の脇道が街道の左側にあった。

 ここか。

 ヴィラの部屋にあった周辺地図に描かれていた道筋だ。躊躇(ちゅうちょ)なく曲がる。普段から人が通っている道筋のようだ。小道には支障なく、やや上り勾配をたどる。


 問題は。ホテルの敷地付近から後を追ってきているやつらがいることだ。僕が脇道に入ってから急速に追ってきているが、何のつもりだ?


 その疑問の答えは、すぐ出た。100メト(≒m)も登って行くと、駆け足で指呼の位置まで迫ってきた。

 ローブのフードを目深に被って、振り返る。


「もう逃げられんぞ。身包み置いていけ、女! あのホテルから出て来たのだ、金を持っているだろ」

「ああ、女1人で、人気のないところに来るとはな、随分不用心な娘だ。抵抗しなければ、俺様がかわいがってやる」


 強盗だな。3人か。

 おお、好都合にも1人が、ブロードソードを抜いている。

 魔術士は実力を認められると、魔術で人間に危害を加えることが重罪に問われる。とはいえ例外もある。正当防衛だ。


 一般的に戦闘職とみなされる冒険者ギルドの等級がベーシスでも、3人の敵に抜き身の剣で脅されれば、十分正当防衛が成立する。殺さなければ、罪に問われることはない。殺すとさすがに過剰防衛が疑われるそうだが。


 電撃……いや、電撃は殺さないようにする制御が難しい。


「なんだ、怖くて声も出せないのか?」

 人が、殺さないように考えているというのに。


 ジリジリと近付いて来た。そろそろ決めないと……そうだ、あれを使ってみるか。


黒洞々(シュエラー) v1.0≫

 方向は下で良いか。

 右腕を向ける。


 3.0───

「なっ、なんだ? 体が」

「動かん。けっ、剣が急に重く」

 強盗たちの足取りが止まり、ブルブル震え始める。

 さすかに重力がいきなり3倍になったら気が付くよな。

 空間魔術を応用すると局所的に重力加速度を改変できるのだ。初めて使う生物が人間だとは思わなかったが。


「何をした!」

 まだ動けるか。だが、この程度では許すつもりはない。


 5.0───


「ぐっ……」

「がはぁぁ魔術なのか」

 彼らには5倍以上の重力が作用している。


 おっ。胸から腹に違和感が……僕の方にも、魔力消費の反動が来たらしい。

 しかし、被害は圧倒的に彼らの方がひどいようだ。

 2人が膝を突き、持っていた剣を取り落とした。怖ろしい勢いで、地面に刺さる。


「がぁぁ……やっ、やめろ。助けてく……れ」

 ほう。まだ、しゃべることができるようだ。


 7.0───

 3人とも、立って居られず地面に倒れ伏した。


 10.0───

 強盗たちの反応がなくなった。


 人間は高重力に(さら)されると脳への血液循環が滞り、この通り失神する。

 まだまだ倍率は上げられそうだが。重力操作を解除した。


 さて。本来ならこいつらを街道警備隊にでも突き出すべきなんだろうが、アーログまで行くのは面倒だし、下手をするとアデルまで累が及ぶ。放置して目的地へ向かうとしよう。

お読み頂き感謝致します。

ブクマもありがとうございます。

誤字報告戴いている方々、助かっております。


また皆様のご評価、ご感想が指針となります。

叱咤激励、御賛辞関わらずお待ちしています。

ぜひよろしくお願い致します。


Twitterもよろしく!

https://twitter.com/NittaUya


訂正履歴

2024/07/13 誤字訂正

2025/04/09 誤字訂正 (布団圧縮袋さん ありがとうございます)

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― 新着の感想 ―
ただ気絶させただけなら再起不能か捕縛するかしておかないと、このままほっとけば次は確実に悲惨な目に遭う被害者が出ることに… 後でなんらかの対処でも行っておくのでしょうか。
このまま見逃せば、ほかの人がまた大いに迷惑を被る。しっかり殺して、燃やしてしまいましょう。
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