123話 小旅行(3)オイルマッサージ
温泉良いですね!
「ぬるい」
アデルが足を、湯に浸けた。
地方公演に行く前よりも全体的にはほっそりしているが、胸元や臀部は何やら際立ったかんじだ。
「そんなにまじまじと見ないで」
いや見るよね。
「ごめん」
水音もたたず、なめらかに肩まで浸かると、すっと寄ってきた。
「レオンちゃん、あたたかい」
僕にいろいろなところを押し付けてきた。
「最初はぬるいと感じるけれど、慣れて来て気持ちよくなるよ」
「うん」
穏やかな顔。
男役の凛々しさも良いけれど。アデルは普段の表情が至高に思える。
「もう、ぬるさにも慣れてきたろ」
「きたけれど」
「じゃあ、せっかく広い浴場なんだから」
腰に回された腕を……。
「レオンちゃんは、私が引っ付くの嫌い?」
「いや、そういうわけでも」
「そうよね。大きくなってるし」
そうならないのは、かえってまずいよね。
「抑えが効かなくなるし」
「何か問題?」
あぁ。
†
さて、上がるか。
「えっ。もう出るの?」
「うん」
湯船というよりは、池のような水面から上がると、手を伸ばしてきた。
アデルも上がるのか。引っ張り上げる。軽いなあ。
拭く物、拭く物。あっ、これもタオルだ。これで身体を拭くのか。贅沢だなあ……少し躊躇している内にアデルに取られた。
「拭いてあげる。はい。腕を上げて。うわっ、これもの凄く水を吸うわね」
「これは、タオルっていう布だ」
「へえ。タオルね、初めて聞いたわ。そういえばローブもこの布地?」
「そうそう。母様が輸入していたよ。僕も見るのは初めてだけどね」
「へえ、伯母様ねえ」
さもありなんと思ったのか、アデルがうなずいた。
そう言いながら、背中を拭いてもらった。
「なんか。レオンちゃん、半年ぐらいで、ずいぶんたくましくなったわ。胸板も厚くなったし」
「そりゃあ、育ち盛りだし」
そうか。初めて裸を見せ合ったのは、年が変わってすぐだった。
僕も別のタオルを取って、お返しに背中を拭いてやる。あと前は自分で……そっちも拭けと。お心のままに。首元からタオルを押し当てて拭く。
「なんか。胸が大きくなってない?」
明らかに双球が前に前にと主張してきている。
「レオンちゃんのせいだからね」
「えっ、僕の?」
「そう。男の人に触られると大きくなるんだって」
「そっ、そういうものなの?」
「アデルさん、恋人ができました? とか、衣装さんに冗談めかして言われる」
何だ冗談か。
「はい」
腹まで拭いて。タオルを渡す。
「まあ、いいけど」
さてと、ローブへ手を伸ばす。
「待ってぇ。レオンちゃん。そのままで、この上に寝て」
これに? 何をするつもりなんだ?
ソファーのようなでかい台がある。座面が太股ぐらいの高さぐらいで、なんだろうなあとは思っていたけれど。そうか、これは寝台なんだ。上面にもでかいタオルが敷いてある。腕で押してみたが、しっかりした造りだな。寝そべっても大丈夫だな。
膝から登って、寝そべろうとしたが。
「ああ、俯せ、俯せ」
「はいはい」
身体をひねって半回転。腹を下にして、今度こそ寝そべる。
それで?
あれ?
アデルも登ってきた。
僕の腿の上にまたがるように座った。
「ちょっと待ってね」
なんだか、すこし間があって、僕の腰に両手が触った。なんか少しぬるっとしたような、感触が。
「アデル。何か塗っているの?」
「うん。オリーブオイルよ。ほんの少しね」
「へえ」
「もちろん食べるのと違って、何回も濾過して精製しましたって瓶に書いてあるわ」
そっか、棚に並んでいた瓶か。
アデルは、手で押しながら、摩るように揉んでくれている。
「気持ち良いよ」
絶妙な力加減だ。
「でしょう。オイルマッサージっていう施術よ」
「ふーん」
女優さんだから、そういうのもやってもらっているのかな。
徐々に手は上の方に登ってきた。肩甲骨ぐらいまで来たら、軽くなった。アデルは台を降りて、僕の頭の方に回ってきて、肩を揉み始めた。
「はい。いいわ。仰向けになってください」
言われたとおり、身体をひねる。
「オイルは、この位。ほんの少しでいいの」
瓶から、1、2滴を手に垂らして、両手をすり合わせた。ほんのり暖かい。
アデルの手が、首から胸に摩るように動く。
「ちょっ!」
アデルが前に上体を倒したので、ローブから零れた彼女の胸が、僕の顔を挟むように乗った。
「うふふふ」
わざとやっているな。
「あぁん。そこは舐めないでぇ。もうぉぉ。いたずらっ子なんだから……また大きくしてるし」
自然な反応です。
「はい。もう、おわりよ。交代」
「はあ、はい」
何か、言った本人の頬が赤くなってる。アデルは着ていたローブを脱いで、再び生まれたままの姿になった。
寝台に上って、俯せで寝そべるかと思ったら、腰を降ろしたがアデルは上体は倒さない。
「レオンちゃん。マッサージをやったことは」
「ない」
「そうよね。ちょっと心配だから見てる」
なるほど賢明ですね。
オイルの瓶をゆっくり傾ける。透明度が高いな。垂れかけたところで戻すと、左手にごくわずか滴った。
ふむ。思ったよりサラサラしてるな。
両手を擦り合わせて、なじませつつ温める。良い感じだ。
「えっ? 足?」
「うん。アデルの足からふくらはぎが好きなんだよね。すごく綺麗」
「あっ、ありがと」
爪先から指で揉みつつ、オイルを伸ばしていく。
「うっぁああ」
はっ?
「くすぐったいぃぃ」
気にせず、足の甲と足の裏をもみほぐす。
「ちょっと、本当に初めてなのよね。あふぅ……」
「ん? そうだけど?」
「すごく、きもちいいわ」
「それは良かった」
アデルは微妙な面持ちだ。
「他の子には、これをやったらだめなんだからね」
そういうことか。
ふくらはぎまで揉み上げると、うすい産毛が金色に輝きだした。
左の次は右足だ。念入りに揉み上げた。
オイルを再び手に取って、擦り合わせ、左膝に向けて腕を伸ばすと、アデルが喉を鳴らした。
聞かなかったことにして、指を立てて、触れるかどうかの瀬戸際で腿までなぞる。離して、再び膝からなぞりあげる。
「かふぅ……」
2度、3度。なぞるたびにきわどいところまで指を沿わせつつ、少し、今少しと圧を込めていく。
「あっぁぁ。こっ、これってマッサージよね?!」
「さあぁ。初心者なので……」
「ふうぅぅ」
またオイルを取って、今度は右膝へと。
アデルが、痙攣するように身を震わせた。
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訂正履歴
2024/10/06 誤字訂正(nasdaさん ありがとうございます)