106話 大学祭(7) 雑音
雑音っていうか、割り込みが入りますよね、何か調子よくやっているときに(愚痴か)。
午前中はテーブル専属制をあきらめ、はじめから分業制だ。
開店直後に、心が摩滅した感があるが、そんなことで落ち込んではいられない。目まぐるしく、お嬢様方とお話をしながらお茶を注いで回り、立ち働く。そうしていると時間がたつのが早く感じることだけが救いだ。
昨日と同じように11時半で入店を止め、12時で休憩に入った。
ふう。
オデットさんと僕が2人一緒に、ああぁと間抜けな声を出してホールの椅子に掛ける。
たった2時間だったが、昨日帰ってもらった学生客が押し寄せたので、結構たくさんお世話させてもらった。
「お疲れさま。2人とも」
「バルバラさんこそ、大丈夫なの?」
「大丈夫だよ」
「はあ。昨日は肩を貸さなきゃ寮まで歩けなかったのにねえ」
「もう、オーちゃんそれを言わないでよ」
「今日は後夜祭もあるし、閉店したらばったりってのはやめてよねえ」
「わかっているって。私も座ろうっと」
バルバラさんはオデットさんと同じテーブルに座った。
そうか、後夜祭なあ。何も考えていなかった。
「もう少ししたら、学食へ行こう」
「そうね。今は行っても混んでるだろうしね」
「ああ、ちょっと待った」
「ん?」
台所につながる扉が開いて、コナン兄さんとディアにベルが入って来た。
「はぁぁい。昼食の配給です」
「配給です」
魔術の実践展示していたのに元気そうだな。
2人は、オデットさんたちのテーブルにも、持って来た包みを置いた。
「これって?」
「昼食」
「えっ、頼んでないよね」
「うん。うれしいけれど、頼んでない」
座った2人も、手を振って否定している。
「ああ、お兄さんのおごりだって!」
「えっ?! コナン兄さん」
「というわけで、これは返すな、レオン」
僕のテーブルの上に、ディアが銀貨2枚を置いた。
「兄さん、悪いよ!」
「ははは。まあ、こういう時は、年上に出させておくものさ」
「ありがとうございます。お兄さん」
「ありがとうございます。でも、なんか状況がよくわからないんだけど」
オデットさんに同意だ。
「ああ。昨日ね、頼まれたのよ、今日のお昼は、あなたたちとレオンは疲れているだろうから、食べるものを適当に買って持って来てくれって、私たちの分も含めてって」
「えっ?」
「うん。昨日頼まれたのはレオンにだけれども、さっき屋台の並びでお兄さんと会って、私がおごろうって出してもらっちゃった」
「まあ、いいから食べよう。この執事喫茶では貴重な情報が取れているから。商会としても感謝してるんだ」
「でも。いい情報なのかな。一部の接客係に惹かれて、客が入っているところがあるし」
「まあ、それも含めてだよ」
「ありがとう。兄さん」
「うん。レオンに感謝されると、気分が良いなあ。あははは」
「ええぇぇ、私たちは?」
「単純にうれしい。ははは……」
買ってきてくれたのは、やはり肉串と、パンに炒めた挽肉を挟んだものだ。昨日と同じ。まあうまいんだけれど。
ん? 誰かが来た。
入口から、見たことがある教員が入って来た。
名前は……。
「レムザ先生」
ベルがそう呼んだ。
そうそう。そんな名前だった。技能学科の助教だ。
「なぜ、ラーセル君とメディウム君がここに? ここは理工学科の模擬店だろ?!」
「別に構いませんよね?」
おい。ベル。
「べっ、別に構わんが、あまり例がないだけで」
学部間の合同運営の模擬店もあるぐらいで、普通に例はある。
そう言いながら、まっすぐ僕の方に来た。
「レオン君だったな。これを」
封筒を差し出された。
「これは?」
「確かに渡したからな」
「はぁ」
レムザ先生は、踵を返して、入って来た扉から出ていった。
「ええと……げっ」
ひっくり返すと、署名があった。
「誰から?」
「ああぁ、ジェラルドって書いてある」
「ウチの准教授?」
「そうみたいだ」
以前、合同魔術技能実習で、僕に土玉を撃たせた教員だ。
封を切って中を見る。
後ろにベルが回ってきた。
レオン
本日2時20分に67号棟3階の6735教室へ出頭せよ。
「なお、この件は……誰にも口外しないこと。ジェラルドだって……ああ、読んじゃった」
「は?」
「読んだらまずい文面なの?」
「いや、レオンに、2時20分にどこかの教室へ来いって書いてあるだけ……あっ」
あっ、じゃない。ベルのやつ、わざと読んだな。罪をぼかすために。
「ちょっと! 2時20分って。1番忙しい時間帯に、冗談じゃないわ!」
「そうね」
「そもそも、理工学科のレオン君へ、授業でもないのに技能学科の教員が、なぜ命令するのよ。そんな権限はないでしょう!?」
オデットさんがいきり立った。
「ないわね。それにおかしいわ。2時から、軍の観覧があるのよ。予備役のヤツが軍の来賓を接待するはずよね」
ヤツってディア。
「そうそう。軍籍学生だけで魔術実践展示をするんだってよ。なかなかえげつないよね。まあ、そのおかげで、この執事喫茶の手伝いができるんだけどね」
どうしたものかな。4時からは、あれがあるし。
「確かに変ね」
「ルイーダ先生!」
えっ?
全く気が付かなかった。一応低強度だが魔導感知を張っていたのに。数秒前まで反応はなかった。
「どうして、ここへ」
「ああ、さっきのレムザ先生に、レオン君がここに居るって教えたのは、私なのよ。学食にいないからどこにいるか? って訊かれたからね。それで、なんか挙動が変だったから、付けてきちゃった」
いやいや。なんか、技能学科と理工学科でいざこざがあるみたいじゃないですか。
「ふむ。その手紙、私が預かるわ」
「へ? はぁ……」
封筒ごと渡す。
「ふむ。口外無用か、怪しいわね。ああ、レオン君。指定の時間に、この教室へ行きなさい」
「へっ? はぁ」
「いや、でも先生」
「お願いするわ、オデットさん。この、喫茶には貸しがあったと思うけど。それにレオン君の分は、クラウディアさんとベルティアさんが、がんばってくれるわよね」
「はっ、はい」
普段は見せない凄みがあった。
「仕方ない。レオン君は、1時間がんばって働いてね」
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訂正履歴
2024/05/15 微妙に追加
2025/04/07 誤字訂正 (三条 輝さん ありがとうございます)