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10話 限定解除

いや、バイクは原付に乗ってます。

 なぜあんなところで、気を失って眠ったのか。よく分からないまま、湖に行って魔術訓練をやったけれど調子が上がらなかった。

 帰って来て、夕食をとったら、もう良い時間だ。


 母様との約束を果たさなければ。彼女の方は見ないようにしていたけれど、夕食の時も僕をにらんで居た気がするからね。国史の課題を始めよう。参考になる本は、本館の資料室から持ってきてある。


 国父マルティン1世の3大事績について詳細に調べなさい。

 彼は、現在の我が国の王室の祖先。マルティン・スコーレだ。

 紀元184年に旧宗主国ルートナス王国との独立戦争を勝ったというか、痛み分けとなって独立を果たし初代国王に登極した。


 まあ事績については、大体は知っている。

 ただどれも、うさんくさい奇跡に近い事柄だ。真剣に調べるのは、気乗りしない。しかし、母様と約束したからな。


 約束を破れば、外出禁止になりかねない。

 やるか。


 国父の事績はたくさんある。

 その中でも3大と言われると、識者の間でも意見が分かれている。

 共通しているのは。


1.王都無血開城

2.アルデール郡の飢餓救援


 王都無血開城は、旧宗主国ルートナス王国からの独立戦争で、現王都サロメアを包囲した時のことだ。大聖堂の正午の鐘が鳴り響いた後、ヘーベスの丘で行われていた決起集会にて、今こそ開城せよとスコーレが叫ぶと、ルートナスの総督モラレスがそれに応じ城門を開放し、講和につながった。


 そういうことになっている。

 しかし、14歳の僕でも十分うたがわしいと思っている。


 なぜかと言えば、その状況を何人もの絵師が絵にしていて、エミリアの教会でも見たことがある。なかなか壮大なパノラマになっていた。

 その絵でも、ヘーベスの丘と城門は結構離れていたので、国父スコーレの声が届いたなんてことは考えにくい。


 まあ、普通に考えれば、独立軍と統治軍、それぞれ上位の人たちの間で開城することは既に決まっていて、鐘の音で両者が示し合わせて演出したんだろうなあ。


 何のために?

 当然両者に利があったのだろう。父様の書庫にあった本を数冊読んだだけでもいくつか説がある。


 宗主国ルートナスは、現セシーリアから揚がる鉱物資源の量が減り、余り割の良い植民地とは言えなくなっていた。さらに、独立戦争という名の、地方反乱に手を焼き重荷になっており、引き際を探っていた。


 国父スコーレは、王都サロメアを焼いたのでは、独立しても経済的に厳しい状況が待っていることは十分承知していたはずだ。しかも、独立軍の中にはいくつかの派閥があり、その勢力争いで一気に優位に立ち、講和後国王に登極した。


 とはいえ、その両軍はいがみ合っていたはずで、取り持った誰かが居るに違いない。

 おそらくはテュロス教会だ。

 ルートナス側は、鐘の音にしたがって結んだ神聖な講和としており、テュロス教会もそう喧伝した。これにより、セシーリア失陥後の諸外国に対するルートナスの威信低下は最小限だったと言われている。

 そのおかげで、セシーリア王国でもルートナス王国でも、テュロス教会は国教の座を強くしている。


 でも、全部状況証拠だなあ。


 2つ目の飢餓救援もなあ。10万の民が救われたのは事実だろう。ただ国父スコーレの事績というよりは、政商レクスビー商会の手柄だ。国内と国外から穀物を大量調達したとされている。その結果、今も御用商人としての地位は盤石だ。

 とはいえ、これも結果論というか、結局誰が一番得をしたか論で浮かび上がってくるだけだ。


 どうも、こういうことを考えるのは怜央の影響が大としか思えない。

 この線で、課題を仕上げても、14歳の僕にビーゲル先生が求めていることなのか? そういう懸念もある。


 3つ目はどうするかなあ。見る書籍によって3つめはまちまちのことが書かれている。考えていたら疲れた。

 思えば夕食後、ずっと本を読んでいたので、くたびれてきたのだ。少し小休止する。


 ステトラのドキュメントでも読むか。

 読書の疲れを別の読書で紛らわせる。僕も難儀な性質だな。要は現実逃避なのだけど。


 でも魔術のドキュメントは良い。何度読んでも新たな発見がある。まあ半分くらいは、1回知って忘れていたことの再発見だけどね。

 興が乗って、リンクをだどっていくと、いつものように数階層で例のページにたどりついた。全てが□に×が入った文字になっている文字化けページだ。

 むかつくが、どうしようもない。そもそも僕はこのシステムに対して、利用の対価を支払っていないしな。


 前のページに戻ろう。


 あれ? 戻らないな。

 何かダイアログが開いた。んん? アップデートが完了しました。何の?

 そう思ったら、閉じた。


シスラー(AI)! 何が変わったの?」

「はい。ドキュメントに関する新規言語サブセットがインストールされました。有効化(アクティベート)しますか?」

 

 なんだって?

「有効化してくれ」

「わかりました」


 あっ、ああ……。表示されていた文字が次々変わっていく。

 あぁ! これは起動紋で見る文字じゃないか?


 やったあ……あぁぁぁ。

 よろこびかけて思い留まる。

 文字化けは治ったとしても、結局僕には読むことができないからだ。


 ん?

 またダイアログが開いた。今度は何だ?


 有効化した言語サブセットとの翻訳機能が利用できます。登録言語(セシーリア語)に変換しますか?


 おぉぉぉぉ! します、します!


 飜訳するというボタンを意識すると、クリック感が来た。

 10秒くらい待つと、ドキュメントが消え、再読込されると見慣れた文字の羅列になっている。


「おおう。本当にセシーリア語版だ」


 これで読める。

 数年間、僕を阻んできた言語の壁が消えた!

 夜半にもかかわらず、椅子から立って小躍りしてしまった。


 しかし、なぜだろう。今まで4年間、こんなことはなかったのに。今日になって突然、言語サブセットがインストールされたんだろう。

 僕は今日なんかしただろうか? 考えても心当たりがない。せいぜいほこらの前で倒れていたぐらいだ。いや、それは関係ないな。


 それより、読めるようになったドキュメントを……いかん!

 これでは、昨夜の二の舞だ。

 まずは課題。課題からだ。


 やる気が高速回転し始めた僕は、国父の事績に感じるうさんくささなど、すべて吹き飛ばして課題をこなしたのであった。


     †


「どうしたの、レオン。その顔は」

「なっ、なんですか。母様」


 朝食の食堂。スープを飲むスプーンを置く。


「ふーむ。確かに、目の下がクマになってるぞ。寝ていないんじゃないか?」

 珍しく父様にも声を掛けられた。


「いっ、いえ。ちょっと、国史の課題をやっていまして、何時間かは寝ました」

 速攻で課題をこなし、そのあとドキュメントを読みふけっていましたなどとは言えない。まあ2時間は気を失ったように寝たけれども。


「感心できんな、その歳ではもっと寝ないと育たぬぞ……おっと、まあなんだ、アンリエッタの言うことを良くききなさい」


 なんだか、勢いが途中で削がれた感じだ。

 アンリエッタとは、母様の名だ。

 子供達、特に僕のことは、母様に任せているようだ。

 そのせいか、どうなのかわからないけれど、僕は母様によく似ていると言われる。


「はい。父様」

 すると、母様は無言で肯いた。


「それで、課題はできたの?」

「も、もちろんです」


     †


「……ン様、レオン様」


「うわっ!」

 目を開けると、文字の向こうに、ウルスラが居た。

 辺りを見回すと自分の部屋のベッドの上だ。


 しまった。魔術のドキュメントを読んでいる間に、眠ってしまったらしい。

 うーん。


「あのう」

「なっ、なにかな」

 文字が消えてメイドの顔が見えた。右半面に陽が当たっている。


「えっ、もう夕方?」

「もうすぐ5時の……あっ」

 彼女の声が途絶え、教会の時を告げる音が聞こえてきた。


「奥様が、そろそろレオン様をお起こしするようにとおっしゃいました。では失礼いたします」

「ああ、ありがとう」

「では……」


「ああ、これは? ありがとう」

 腰まで下がった毛布を指差す。


「いっ、いえ。私は、ただいま来たばかりですので……では」

 ウルスラは、お辞儀すると部屋を出て行った。

 寝っ転がって、ドキュメントを読んでいただけなので、自分で毛布は掛けていない。


 母様かな。たぶんそうだろう。


 はぁぁぁ。

 それにしても、光速が複素量だったとは。

 寝る前にドキュメントで読んだことが、再び頭で回り出す。


 怜央の知識によれば、誘電率と透磁率の積は、光速の2乗分の1だ。

 だがドキュメントによれば、ここに透魔率なる物理定数が入ってくる。この数値は、魔束密度と魔界強度の商、いや魔束の通りやすさと言った方が良いか。いずれにしても、透魔率が先の等式の左辺に入ってくる。


 つまり、魔術は、おおむね電磁力によって引き起こされる現象らしい。

 それはそれで驚きだったが、光速が複素量というのがもっとも驚きだ。


 光速というのは、その媒質である空間を現す量とも言える。だから、光速が複素量ということは、媒質も複素量ということだ。地球ではよく知られる、真空の光速は約3×10の8乗メートル毎秒だが、これは実数だ。これに虚数部があるということはどういうことか。


 さっぱり意味がわからなかったが、リンク先のドキュメントでわかった。いや、おぼろげにわかったというか、そういうこともあるかというレベルだが。


 虚数部は亜空間を示す指標らしい。

 つまり、光とは亜空間へも伝わるらしい。

 真偽はわからない。そもそも亜空間てなんだ? 怜央の記憶にもない。


 ただ、辻つまは合っている気がする。


 これで、ここ数年謎だったこと。魔術のエネルギーは亜空間から来るという仮説は、おおよその説明は付く。これが大事だ。

 なんだか霧が晴れていく思いがした。

お読み頂き感謝致します。

ブクマもありがとうございます。

誤字報告戴いている方々、助かっております。


また皆様のご評価、ご感想が指針となります。

叱咤激励、御賛辞関わらずお待ちしています。

ぜひよろしくお願い致します。


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訂正履歴

2024/03/24 誤字訂正(1700awC73Yqnさん ありがとうございます)

2025/03/26 誤字訂正 (毛玉スキーさん ありがとうございます)

2025/03/30 誤字訂正 (笑門来福さん ありがとうございます)

2025/04/07 誤字訂正 (闇灯さん ありがとうございます)

2025/04/09 誤字訂正 (ひささと よみとさん、布団圧縮袋さん ありがとうございます)

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