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闇に舞う「天の川」~夜の案内人・青のガスパール~  作者: ウチダ勝晃
第七章 さらば水精オンディーヌ

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到来を待って~午前一時の出立~

お待たせいたしました。いよいよ作戦決行の夜がやってきました。

 迎えた土曜日の晩、いつものように小見と二人でツリーハウスへ向かうと、年代物の日野のトラックが路肩へデンと控えていた。

「――やあ、待ってたぜお二人さん」

 自転車のスタンドを立てていた僕と小見へ、ブロムソンさんが運転席からヒョイと顔をのぞかせる。見れば片手にはストローの刺さった、眠気覚ましのカフェイン剤の瓶が握られている。深夜トラックの運ちゃんみたいなことをしているのでちょっと反応に困っていると、

「ひでえんだぜ、めちゃくちゃ強いコーヒー飲ませた上に、念のためこいつも飲んどけってうるさいんだよ。これじゃ便所が近くなっていけないぜ」

 と、空になった瓶を車内のごみ入れへ放り、ブロムソンさんは不機嫌な表情をあらわにする。

「そうでもしないと、せっかく作ったこの瓶が無駄になるからね。いつだったか、居眠り運転で危うく天国に行きかけたのを忘れたとは言わせないぞ」

 荷台の隅から荒縄を手に現れたガスパールに、僕はようやく、トラックの後ろにある巨大な影が作戦のかなめ、巨大な広口瓶であることに気付いた。濃い緑色の防水布でくるまれたそれは、大柄な人の背丈ほどの高さで、幅は小柄な相撲取り二人分くらいはあった。言い出しっぺではあるものの、まさかこれほど大きいものが出来上がるとは夢にも思わなかった。

「ルドーヌ、足回りの補強は大丈夫かい?」

「ええ、これで完璧。パレットの隙間に毛布を押し込んだから、よっぽどひどい道を走らない限りは大丈夫よ」

 つづいて、荷台の陰からルドーヌさんが額に汗を浮かべて立ち上がった。どうやら、あとは僕と小見が乗るばかり、ということらしい。

「あとはもう、出発するだけなのかい?」

 軍手をポケットへしまっていたガスパールに聞くと、

「まあ、そんなところだね。ひとまず、一郎くんと美子ちゃんは前に乗ってくれるかい。途中で休み休み、荷台と交代しながら番をしていこうと思うから・・・・・・」

「わかった、それじゃあまたあとで」

 自転車を草むらへ隠し、背の高いステップへかじりつくようにしてなんとか助手席へ乗り込むと、荷台との間にある小さな窓ガラスをガスパールが二度叩いた。

 そして、それを合図にエンジンがかかると、ブロムソンさんのトラックはセカンド発進特有のカックンとした出だしで、悠々と夜の道路を走りはじめた。

「ばかっ、あれほどセカンドで出すなって言ったのに! 割れたらどうするんだ」

 後ろからガスパールの怒りの声が上がるが、ブロムソンさんはそんなことなど気にも留めず、

「わりいけど、運転に関しちゃこっちの領分だ。乗用車と違って、トラックはこうでもしないと弾みがつかなくてエンストしちまうんだ。半端なところでヤメにするのと、どっちがいい?」

 いつになく荒い口調にガスパールも反論せず、そのままエンジンの音だけが運転席を支配した。どうやらブロムソンさんは、ハンドルを握ると性格が変わるタイプの人らしい。

 そんなことがありつつも、トラックは悠々たる足取りで道を駆け抜け、そのまま第一目的地、ルドーヌさんの家がある、工業学校近くのうらぶれた船着き場へたどり着いた。

「さあて、あとはこいつを開けて待つばかり、か・・・・・・」

「ブロムソン、ちょっと手伝ってくれよ。四人がかりでも大変なんだから・・・・・・」

 防水布を取り払い、中華料理店の円卓くらいの大きさがあるアルミの蓋を取り外す間、ブロムソンさんはそれを遠巻きに見ているきりだった。もっとも、彼はそこに至るまで、トラックがうっかり転がらないように輪止めをかけたり、いろいろ準備をしてくれていたのだが――。

「おっとと・・・・・・じゃあ、これはそっちに立てかけようか」

 大きさに反して割合軽い、アルミの蓋をキャビンの後ろへ立てかけようとすると、ブロムソンさんが声を張り上げた。

「おいおいっ、車に傷はつけないでくれよぉ。こんなボロでも可愛い愛車なんだから」

「――そんなこと言ってる暇があったら、こっち来て手伝ってくれよっ」

 だが、案の定ブロムソンさんは手伝ってくれない。そうこう言ううちになんとか蓋から手を離すと、僕たちは荷台を降り、ブロムソンさんともども、月光が照り返す武蔵川の水面へじっと目線をくれた。風もない静かな晩で、鏡写しの月は歪み一つなく、見事なまでの瓜二つに輝いている。

「ここからが長い戦いになりそうッスね・・・・・・。オンディーヌ、規則性があって出てくるわけじゃあないだろうし」

「それが気がかりなんだよ美子ちゃん。――このまま朝になるようなことだけは避けたいが、どうなるかなあ」

 二人のやり取りはそこで止まり、あとから何かを言う者もないまま、ただ静かに時間だけが流れてゆこうとしていた。


待つ身の辛さ、とはこのことかもしれません。

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