007 黒の王子と黒の魔剣士(下)
黒の王子とレナトスは魔物が何度も発生する町へ戻ります。
また魔物が現れていました。
最初に現れた魔物と同じウサギです。
弱いのですぐに倒せました。
しかし、人々の不安は高まるばかりです。
ゾンビよりも弱くなりましたが、また魔物が現れたからです。
次は犬ではないかと予想する人もいました。
そして、その予想は当たりました。
犬の魔物が現れたのです。
まあまあの強さなので、まあまあ大変でした。
倒せてはいるのですが、人々の不安はいっそう高まりました。
今度は熊だろうと予想する人が沢山いました。
熊の魔物は強いので、安心することはできません。
「ダークが来るまで、頑張らないと」
黒の王子とレナトスは町へ戻るよう言われました。
ダークは準備をしてから行くというのです。
「なんとなくだけど、次は熊っぽいよね?」
「そしてその次はゾンビでしょうか?」
黒の王子はハッとしました。
重要なことに気づいたのです。
「そうか! そういうことか!」
「何かわかったのですか?」
「他の魔物が出現するのは、ゾンビを作るための準備だよ!」
ゾンビは死体がないといけません。
そこで先に魔物を放って討伐させ、死体を作ります。
その死体をゾンビにするつもりではないかと黒の王子は思ったのです。
「なるほど。気づきませんでした。そうなると、魔物が三種類いる理由もわかります」
「弱い、ちょっと強い、強い魔物がいることだよね?」
「徐々に魔物を強くしていくことで、人々の不安や恐怖を煽ろうとしたのです」
何度も同じ魔物というだけでは、人々の不安や恐怖は強まりません。
なぜなら、倒せてしまうからです。
魔物が何度来ても大丈夫だと思ってしまうかもしれません。
そこで、あえて別の魔物にしたのです。
次にどんな魔物が来るのかわからないという不安が生まれます。
しかも、だんだん強い魔物ということで、人々の不安がより強く大きくなるようにしたというわけです。
「計画的です」
「そうだね。偶然じゃない」
「ゾンビを作るためには死体が必要ですが、それだけでは不足です。取りつく悪霊がいなければなりません」
「悪霊か」
「ここは人間の世界です。魔法の世界のように魔力が豊富な場所ではありません。そこで、人々の不安や恐怖を利用しているのでは?」
人々の不安や恐怖から生まれた悪しき力を利用して悪霊を作り、死体と合わせてゾンビにしているというわけです。
「今のうちに死体を燃やそう。そうすれば、ゾンビにはできないよ」
「そうですね」
黒の王子とレナトスは討伐隊の指揮している王太子に会い、ゾンビにならないよう魔物の死体をすぐに燃やして欲しいと伝えました。
「そうか! 死体がなければゾンビにならない!」
王太子は早速魔物の死体を燃やすよう命令を出しました。
魔物の肉や皮などは利用できるため、集めて取っておいたのです。
それがまたゾンビになったら大変です。
「これまでと同じだとすると、次は熊の魔物が出そうだ。あれは手強い」
熊の魔物は強いので、なかなか倒せません。
「数は少なかった気がするよ」
「まあ、そうだな。どうやって戦えばいいかはわかっている。重要なのは、ゾンビにならないようにすることだ」
魔物を討伐する際の対策は決まりました。
倒した魔物はすぐに燃やすということです。
あとは魔物が発生する原因をつきとめ、その対策をすれば解決しそうです。
その夜。
黒の王子とレナトスが泊っている部屋にダークが来ました。
「犯人がわかった」
「えっ!」
「もうですか?」
黒の王子とレナトスは驚きました。
「魔物の研究をしている者の仕業だった。アジトもつきとめた。そこにいる者を全員逮捕すればいい」
ダークはアジトの場所を教えてくれました。
「研究者に協力している魔法使いがいる。今夜、アジトに来るようだ。一緒に捕まえる絶好の機会だろう」
「わかった! すぐに行こう!」
「俺は行かない」
ダークは言いました。
「俺が手伝うのは原因をつきとめることだけだ。あとはこの国の者がしろ。助けるというのは、何でもするということじゃない。自分でできることはすべきだ」
「そうだね」
黒の王子はダークの言う通りだと思いました。
この国の王と霧の魔法使いが約束をしたのは確かですが、何かあるとすぐに助けを求められるようでは困ります。
だからこそ、国に危機が訪れた時という条件にしたのです。
「この国の王が危機だと感じても、霧の魔法使いが危機だと思われなければ、助けることはないだろう。霧の王妃はそれをわかっているからこそ、特別な計らいをした。この国の王が何もしないのであれば、それは王とは言えない」
「王太子に伝えるよ」
話を聞いた王太子は、犯人とアジトがわかっただけで十分だと言いました。
かつての王と霧の魔法使いが約束をしたという話は、王太子も知っています。
ですが、どのように助けるかということは決まっていません。
助言をするというのも助ける方法の一つです。
魔法使いであってもできることとできないことがあります。
だからこそ、全てを霧の魔法使いに任せればいいということではありません。
互いの力を合わせて解決することが大切だとわかっていました。
「すぐにアジトを取り囲み、犯人を捕縛しよう。協力者の魔法使いも捕まえることができればいいが、魔法には気を付けなければいけない」
「僕も協力したい。いいかな?」
黒の王子はレナトスに尋ねました。
「そう言うと思いました。一緒に行きます」
討伐隊だけでなく、町の警備隊にも命令が出ました。
警備隊がアジトやその付近を取り囲んで逃げるのを防ぎ、討伐隊がアジトに入って犯人を捕まえるという作戦です。
犯人と思わしき研究者は何人もいました。
突然、討伐隊が来たのでびっくりして逃げようとします。
証拠になりそうなものを処分しようとする者もいました。
「全員、捕まえろ!」
アジトの中は犯人一味と討伐隊が入り乱れ、かなりの騒ぎになっていました。
黒の王子とレナトスは数人の騎士と一緒に別行動です。
なぜなら、アジトだという建物の中に強い魔力の気配がないからです。
協力者の魔法使いはいないということです。
「魔力を感じます」
レナトスはアジトの付近で魔力の気配を探しながら移動します。
黒の王子と騎士も一緒です。
魔力の気配はどんどん移動していきます。
恐らく、魔法使いが逃げているのです。
「このまま追ってください。挟み撃ちにできそうです」
騎士達はそう言うと、途中で別の道の方へ行きました。
黒の王子とレナトスは道をまっすぐ進みます。
しばらくすると、前方の方に騎士達の姿が見えました。
「気配が止まりました」
レナトスがそういうと、道の途中に白いローブを着た者が現れます。
魔法で姿を隠していたようです。
魔法使いは呪文を唱えました。
すると、強そうな魔物が現れました。
「使い魔でしょう」
レナトスが黒の王子を庇うように立ちます。
「危険です。離れていてください」
「わかった」
黒の王子は使い魔と戦うレナトス達から離れるため、来た方へ戻りました。
突然、黒の王子の前方に別の魔物が現れました。
黒の王子は剣を抜きましたが、強そうな魔物です。
自分だけでは倒せないかもしれません。
大ピンチです。
その時、
「助けてやろうか?」
ダークの声がしました。
「対価が必要だが」
「わかった。助けて欲しい」
黒の王子の後ろからダークが現れ、魔物へ向かっていきます。
あっという間に魔物を倒してしまいました。
「凄い! やっぱり、ダークは強いね!」
「貸しだからな?」
「わかった」
ダークは黒の王子の後ろの方を見ます。
「むこうも終わったようだ」
レナトスの活躍により、魔法使いの使い魔も倒せました。
ですが、その間に魔法使いは姿を消してしまいました。
「魔法使いを捕まえることができなかったね」
「仕方がない。それがこの国の実力だということだ」
ダークは言いました。
「強い者に頼るだけでは解決しない。自分で強くなれる方法を見つけることが必要だ」
「そうだね」
「じゃあな」
ダークは行ってしまいました。
「すみません。すぐに助けに行くことができませんでした」
レナトスは黒の王子と離れるのは間違いだったと思いました。
ダークが助けてくれなかったら、黒の王子が無事ではなかったかもしれません。
「僕こそごめん。役に立てなくて。もっと強くなれるよう努力するよ」
「手伝います」
「ありがとう」
魔法使いを取り逃がしてしまいましたが、魔物を研究していた一味を捕まえることができました。
掴まったのは研究の手伝いをしていた助手ばかりで、全ての秘密を知っている研究者はゾンビに殺されてしまったこともわかりました。
レナトスがアジトで見つかったものを検分すると、魔法の世界にあるものがいくつも見つかりました。
協力者の法使いがそれらの品を入手する手伝いをしていたようでした。
魔法使いが逃げてしまった以上、研究に必要なものが入手できません。
助手達だけでは研究を続けることはできません。
突然また魔物が発生することはない。事件は解決だということになりました。
「ようやく帰ることができるね」
「そうですね」
遠い国の様子を見ながら勉強するつもりが、魔物討伐の手伝いになりました。
そのせいで滞在期間が長くなってしまいました。
「色々勉強できたけれど、大変だった。もっと勉強をしないといけないし、魔物と戦える実力もつけたいな」
「一角熊ぐらいは倒せるようになった方がいいかもしれません」
「普通の熊よりも全然強そうだよね??」
「人間の世界では強い方でしょう。ですが、魔法の世界ではさほどでもありません」
「それって、魔法が使える人が多いからじゃ?」
「そうですね」
黒の王子はため息をつきました。
黒の王子は魔法を使えません。
「レナトスのようになるのは難しいかもしれないけれど、兄上達のようになれたらな」
金の王子は武術に優れ、銀の王子は魔法に優れています。
二人の兄王子達のようになりたいと黒の王子は思っていました。
「一人一人能力が違います。武術や魔法以外のことでもいいのでは?」
「知識とか?」
「そうですね」
「やっぱり勉強しないとだね!」
黒の王子は微笑みます。
それを見たレナトスは思いました。
黒の王子には特別な力があります。
それは優しさです。
黒の王子が心優しい者だからこそ、レナトスは信じてみようと思い、友達になったのです。
そして、黒の王子がいるからこそ、王達もまたレナトスのことを信じ、受け入れてくれています。
今回のこともそうです。
黒の王子は魔物討伐を手伝いたい、人々を助けたいといって、王太子に協力を申し出ました。
金を稼ぐための参加ではなく、無償の手伝いだったのです。
だからこそ、王太子も黒の王子を信用しました。
霧の王妃が力を貸してくれたのも、黒の王子の持つ優しさと賢さを認めたからです。
そうでなければ、霧の魔法使いはいないといって協力を拒んでいたかもしれません。
ダークが黒の王子を助けてくれたのも、信用できる相手として、貸しを作っておこうと思ったからです。
結局、黒の王子の優しさは多くの人々の愛、信用、力につながっています。
レナトスがいかに魔法や武術を使いこなし、多くの知識を集めても、黒の王子のようにはなれません。
「一緒に勉強します」
誰かと仲良くなる方法を。
レナトスはそう思いました。
「あっ!」
黒の王子は驚きました。
「レナトスが……笑っている!」
ほんの少しだけ。微笑です。
「笑っていません」
「笑った!」
「笑っていません」
「絶対に笑ったよ!」
「絶対に笑っていません」
そんな二人のやり取りをこっそり聞いている者がいました。
ダークです。
まだまだ子供だなと思いながら、これからどうするかを考えます。
黒の王子もレナトスも知りません。
ダークは闇のマントという魔法のマントを持っていて、暗闇の中や影の中に潜むことができます。
黒の王子とレナトスが行く先々で突然ダークが現れたのも、ダークが闇のマントを使い、黒の王子や他の者の影に潜んでいたからでした。
魔物討伐が終わって国に帰る時も、ダークは黒の王子の影の中に潜んでいました。
ダークは黒の王子とレナトスに興味を持ったのです。
二人に同行すれば、ダークが望むことにつながるかもしれないと母親が言ったことも気になりました。
黒の王子への貸しもあります。きっちり返して貰うつもりでした。
さてさて、どうなるでしょうか。