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001 黒の王子と黒いワイバーン

 あけましておめでとうございます。

 今年もよろしくお願いいたします!



 ある国に三人の王子がいました。


 一番下の王子は黒髪だったので、黒の王子と呼ばれていました。


 黒の王子には二人の兄がいます。


 金の王子と銀の王子です。


 金の王子と銀の王子は優秀なのですが、何かにつけて意見が合いません。


 そのせいで口論になってしまうため、両親である王や王妃、弟である黒の王子が間に入ってなんとかしていました。





 ある年のこと。


 王に驚くべき報告が届きました。


 緑の森で、黒いワイバーンが目撃されたというのです。


 世界には多くの魔物がいますが、ワイバーンはとても狂暴なことで知られています。


 どれほど狂暴な魔物であっても、森の中から出て来なければ関係がありません。


 国は魔物対策として、魔物が住む森の周囲を草原にし、魔物が嫌う植物を植えることにしていました。


 しかし、ワイバーンは空を飛べます。


 森から離れ、人が住む町や村を襲ったら大変です。


 しかも、普通とは違う色、黒いワイバーンです。


 非常に強くて凶悪な魔物ではないかと思われ、被害が出る前に対策をすべきだという意見が強まりました。


 長男である金の王子は黒いワイバーンを討伐しようと言いました。


 つまり、直接対決です。


 銀の王子は森を焼き払い、黒いワイバーンを追い払おうと言いました。


 つまり、間接的な対応です。


 どちらの案にしても、本当に黒いワイバーンを倒したり追い払うことができるかわかりません。


 ああでもない、こうでもないと悩める日々が過ぎました。


 黒の王子は子供なので黙っていましたが、家族や周囲の人々が困っている様子を見て、力になりたいと思いました。


 そこで、黒の王子は二人の兄に言いました。


「様子を見た方がいいと思う」


 被害が出ていないのに、被害が出るようなことをするのはよくないと黒の王子は思いました。


 黒の王子は心優しい少年だったので、争いたくありません。


 優秀なのにすぐ喧嘩してしまう兄王子達を見て、残念だと思っていたからです。


「もっと情報を集めた方がいいよ」


 ワイバーンを見かけたという情報はありますが、それが真実なのかどうかわかりません。


 なぜなら、黒いからです。


 普通のワイバーンは黒くありません。


 別の魔物の可能性もある。何か大きな影のようなものが魔物に見えたのかもしれないと黒の王子は言いました。


 黒の王子の意見を聞いた兄王子達は驚きました。


 二人はすっかり黒いワイバーンがいることを信じ込み、非常に凶悪な魔物であるということを前提にして意見を言っていました。


 ですが、報告が間違っている可能性があることに気づいたのです。


「さすがだ!」

「とても賢いですね!」


 金の王子と銀の王子は黒の王子を褒め、早速より多くの情報を集めながら様子をみることにしました。





 その後、驚くべき情報が手に入りました。


 黒いワイバーンを見たのは森に出入りする狩人や採集者なのですが、黒いワイバーンは人間の言葉を理解できるというのです。


 頭の中に直接語りかけて来る、非常に知能の高い魔物だということがわかりました。


 黒いワイバーンは人間と争うことを望んでいません。だからこそ、森に来るなといい、そうでなければ容赦しないというのです。


 黒いワイバーンは森を自分の住処にしているため、人間に立ち入って欲しくないのです。


 黒いワイバーンの言う通りにするかどうかを考えることになりました。


 金の王子は黒いワイバーンの要求を拒むべきだと主張しました。


 なぜなら、あの森は自分達の国の中にある森です。


 勝手に黒いワイバーンが棲みつき、人間を追い払うのはおかしい。人間が嫌なら出て行けというわけです。


 黒いワイバーンが要求を飲まないなら、戦うべきだと言いました。


 銀の王子は黒いワイバーンの要求に従うべきだと主張しました。


 黒いワイバーンの脅威は計り知れません。戦わなくていいのであれば、その方がいいのです。


 森の恵みで生活する狩人や採集者は命を無駄にしないよう、森へ行くのを我慢すべきだと主張しました。


 王は悩みました。


 そこで、情報を集めた方がいいと言った黒の息子に尋ねました。


「お前はどちらの案が良いと思う?」

「別の案がいいと思う」


 黒の王子の答えに王も兄王子達も驚きました。


「別の案などないだろう?」

「そうです。要求を飲むかどうかです」

「もっと情報を集めた方がいいよ」


 黒の王子はまだまだ情報が足りないと思いました。


「黒いワイバーンと話をしてみたいな」


 金の王子や銀の王子は自分が話すといいますが、王はためらいました。


 金の王子は高圧的ですし、銀の王子は狡賢い所があります。


 黒いワイバーンに信じて貰えず、怒らせてしまうのではないかと心配しました。


「わかった」


 心優しい黒の王子であれば、黒いワイバーンと落ち着いて話し合いができるだろうと王は思いました。


 王は黒の王子が言い出したという理由で、黒の王子を使者として森へ送ることにしました。


 黒の王子は黒いワイバーンが棲むという森へ行きます。


 森の恵みによって生活している人々の話によると、黒いワイバーンは森の中にある洞窟の奥深くに棲んでいるようだということでした。


 黒の王子は兵士に守られながら、黒いワイバーンが棲みついているらしいという洞窟にやってきました。


「こんにちは! 僕は黒の王子だよ。黒いワイバーンはいるかな? 黒を持つ者同士、話がしたいんだ!」


 すると、


『森から出て行きなさい』


 黒の王子の頭の中に声が響きました。


 きっと、黒いワイバーンです。


「とても大事なお話がある。どんな話かというと、仲良くしたい! 僕の友達になって欲しいんだ!」


 黒の王子の言葉を聞いて、一緒に来た人々は驚きます。


「魔物と友達に?」

「無理です!」

「ワイバーンですよ!」


 黒の王子は、最初から黒いワイバーンを魔物として決めつけ、悪い存在だと考えてはいけないと思っていました。


「黒いワイバーンと意思疎通ができるなら、友達になれると思う」


 黒の王子は答えました。


 そして、なぜ友達になりたいのかも説明しました。


 黒の王子としては、黒いワイバーンと森の恵みで生活する人々が仲良く共存できるようにしたいと思いました。


 ですが、ワイバーンなどの魔物を狩って生活するハンターもいます。


 そういった人々に黒いワイバーンの存在が知られると、森に来て黒いワイバーンを倒そうとするかもしれません。


 そうなれば、黒いワイバーンは約束が違うといい、人間を襲うでしょう。


 そこで、黒の王子は自分と黒いワイバーンが友達になることで、黒いワイバーンを守ろうと考えました。


 王子の友人である黒いワイバーンを傷つけてはいけないことにするのです。


 狩人などが来ないよう、できるだけ黒いワイバーンの存在も秘密にしておきます。


 広大な森の半分は黒いワイバーンのための場所、もう半分は森のめぐみで生活する人々が立ち入る場所にしてはどうかと思ったことも説明しました。


 黒の王子の説明を聞いていた人々は、さすが王子、素晴らしい案だと思いました。


黒いワイバーンもなるほどと思いました。


 ただ森の恵みを分け合うということだけを約束しただけでは、身の安全が確保されるわけではないと気づいたのです。


『興味深い。黒の王子と友達になります』


 黒の王子と黒いワイバーンは友達になりました。


 そして、黒の王子の考えた通り、森の半分は黒いワイバーンの住処になり、もう半分は人間達が出入りする場所になりました。


 黒の王子のおかげで、森を巡る問題は解決しました。


 *黒の王子


 人間の世界にある国の第三王子。十四歳位。

 心優しく思慮深い。美しい黒髪を持つため、黒の王子と呼ばれている。

 

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