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フェイバリット & ダーク  作者: コラム
6/6

06

鷹尾(たかお)は手下と共に、隠れ家にしていた廃工場へと来ていた。


すぐにキジハから奪った金を数えたが。


バックの中には5千万円しか入っておらず、なぜ確認しなかったのかと手下たちに当たり散らしている。



鷹尾:足りねぇ、ぜんぜん足りねぇじゃねぇかよ!



そもそも億もする大金を女一人に持って来させようとした時点で無茶な話だった。


それでも鷹尾は、なんとかキジハからもっと金を奪えないかと考えていると、建物の外から何台もの車のエンジン音が聞こえてくる。



鷹尾:誰だあいつら……? まさかあの女の!? なんでこの場所がバレた!?



そのとき、動揺する鷹尾のスマートフォンが鳴った。


知らない番号からの電話に出ると、女の声が聞こえてくる。



キジハ:お疲れさま。今がちょうどいいタイミングじゃない?


鷹尾:テメェッ!? なんでこの番号をッ!?


キジハ:ネットを使って犯罪するのが当たり前のご時世だよ。他人の携帯番号なんてすぐに調べられるって。そんなんだから落ちぶれるんだよ、鷹尾先輩。


鷹尾:オレのこと覚えてんじゃねぇか! ふざけやがってッ!



建物の外に集まっていた人間が入って来る。


全員が屈強な体をした男たちで、その手には小学生用の小ぶりな金属バットが持たれていた。



キジハ:いちいち声が大きいって。怒鳴らないと話せないの。もう病気じゃないの、それ。


鷹尾:あん!? 誰が病気だ! もういっぺん言ってみろコラッ!


キジハ:さて、じゃあ勝手に話すよ。拳銃を持っていたのになんであんたを殺さなかったと思う? ヒントは、あんたに渡した金は私がダークウェブで配信している地下格闘技大会の賞金だということ。


鷹尾:なんだとッ!? そ、それじゃ外にいる連中はッ!?


キジハ:だから声が大きいって。人が話してるのにうるさいよ、先輩。それで賞金が奪われたって知らせたら、国内にいた出場者たちが怒り狂ってね。私の不手際ですみませんってことで、あんたにビットコインの賞金をかけたってわけ。ちなみに先輩の居場所はバックに入れておいたGPS発信機でバレバレだから。って、もうわかってるか、そんなこと。訊くまでもなかったわよね。


鷹尾:テメェぜってぇ殺す! 殺してやる! テメェのその火傷だらけの身体を犯して犯して犯して最後にはテメェを殺してやるぅぅぅッ!


キジハ:大人になっても語彙(ごい)が貧弱なままね。そんなんじゃ頭の悪さが喋るだけでわかっちゃうでしょ。もう中学生じゃないんだからさ。何回“テメェ”と“殺す”と“犯す”を使ってんだよ。


鷹尾:キジハァァァッ!


キジハ:それじゃあさようなら。もう会うことはないと思うけど、捕まえた後にあんたと手下の子らにはキッチリ働いてもらって、今回の損害を回収させてもらうから、せいぜい頑張ってね。



鷹尾は喚き続けたが、キジハからの電話は切れた。


目の前にはすでに殴り倒されている手下たちの姿が目に入り、鷹尾の心は怒りよりも恐怖を覚える。



鷹尾:なんでだよぉ……なんでオレはいつもあの女にやられるんだぁぁぁッ!



深夜の廃工場に、鷹尾の叫び声が響き渡った。



ススリ:久しぶりのパーティー! ピザにお酒にツナぎゅとなんといってもキジハさんで超絶エモいんだが!


ツナギ:おまえ、舌治ったばっかだろ? よくそんな食欲あるな。


ススリ:痛いのはいいことじゃん。生きてるって感じがするし、それにこの傷はわたしのキジハさんに対する愛の証だしね。


ツナギ:そんなもんかね。俺には理解できないけど。



鷹尾に攫われてから数日が経ち。


ススリとツナギの傷が癒えたのもあって、今夜はこれからキジハの自宅でパーティーが行われることになった。


買い出しを終えた二人は、仕事が終わったというキジハと合流するために、これからマンションへと向かっている。


辺りはすっかり夜になり、路上に座り込んで缶チューハイをストローで飲む若者や、派手な格好をした男女、仕事終わりの社会人たちが歩いていた。


そんな歓楽街の喧騒(けんそう)などないかのように、ススリは笑顔で声を張り上げ続けている。



ススリ:キジハさんキジハさんキジハさん! 早く早くぅ会いたいな~!


ツナギ:なあ、ススリ。


ススリ:なにツナぎゅ? なんかぴえんっぽいよぉ、その顔。パーティー前にぴえんダメ!


ツナギ:おまえは怖くないのか? あんな目に遭ったのに?


ススリ:怖いよ、そりゃ。でも、しょうがないじゃん。


ツナギ:えッ? しょうがない?


ススリ:わたしにはキジハさんしかいないんだもん。


ツナギ:……昼の仕事とかに就いて、まともな生活を送りたいとか思わないのか? こんな暮らししてたら、いつ死ぬかわからないんだぞ?



沈んだ声で訊ね続けるツナギ。


ススリはそんな彼に満面の笑顔を向ける。



ススリ:普通になって幸せになれるなら、もうとっくにそうしてるよ。


ツナギ:ススリ……。


ススリ:ねえツナぎゅ。わたし、キジハさんと会ってから毎日幸せだよ。薬も飲まなくなったし、リスカもやらなくなった。キモいおっさんの相手もしなくてよくなった。



ススリはそう言いながらツナギの身体に抱きつく。



ススリ:前はひとりになると不安で不安でしょうがなかったけど、今は大丈夫になったよ。だってキジハさんにはわたししかいないんだもん。


ツナギ:それで幸せなんだな、おまえは……。


ススリ:一番なんて言われて毎日可愛がってくれたら幸せに決まってるでしょ。ま、強いて言えば被りのツナぎゅに嫉妬するときあるけどね。



意地悪く微笑むススリが、ツナギの身体を抱く力を強めていると。


前から(きじ)と刃物の柄が入ったジャケットの女性が歩いてきていた。


油瀬(ゆせ)雉刃(きじは)だ。



キジハ:二人とも、いつからそんな関係になったの?


ススリ:キジハさんッ!? もう~誤解ですよぉ。ちょっとくっついてただけですから。


ツナギ:ススリがくっついてきただけだ。


キジハ:隠さなくったっていいわよ。二人が仲がいいのは私も嬉しいし。そうだ、なんだったら今夜三人で寝ない?


ススリ:わたしはいいですよ。でも、キジハさん宅は男子のお泊まり禁止だからそこは――。


ツナギ:俺は寝ない。帰る


キジハ:つれないねぇ。ま、いいわ。早く帰りましょう。今夜はパーティーだ。



キジハがそう言うと、彼女とツナギそれぞれの腕を抱いた。


そして、二人の間に入った彼女は微笑みながら声を張り上げる。



ススリ:はい! 今夜はオールでパーティータイムッ!



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