05
ススリ:キジハさんが言ってた。夜の街に来るような女は、基本的に心に欠陥があるからその隙間に入ることは簡単だって。
鷹尾:あん? なに言ってんだテメェ?
ススリ:普通の男は口説くときにヤリたいって気持ちが前面に出て、風俗の待合室にいるときみたいに半勃起感が漂っているから女に嫌われる。でもホストは女の体ではなくお金を見ているから、口説き方に性欲の生臭さを感じさせない、だから王子様だと勘違いして騙されるって。
鷹尾:だからぁ、なにが言いてぇんだよテメェは? いきなり語り出しやがって。これだからメンヘラは。
ススリ:キジハさんはそういう奴らとは違う。あの人は性欲とかお金が関係なくわたしに優しくしてくれた。
鷹尾:それはテメェが利用できるからだろ? 頭わりぃな。結局テメェが言ってる奴らとあの女もなにも変わんねぇんだよ。
ススリ:違うもん! たしかにキジハさんはわたしやツナぎゅを使えると思って一緒にいるかもだけど。ヤリたいだけの男とかお金目当ての奴らとはゼンゼン違う! だってキジハさんはわたしやツナぎゅを性格で選んでるんだもん! 見た目やお金を払うからじゃない! 信頼できる人間だって、だから一緒にいるんだって、そう言ってくれたんだもんッ!
ススリの迫力に鷹尾の手下たちが怯んでいた。
いや、怯むというよりは引いているといったほうが正確だろう。
こんな状況で何を言い出すんだと、彼女の精神構造が理解できずにいる。
鷹尾は吠えたススリを睨みつけ、彼女に近寄っていく。
それでもススリは鷹尾から視線を外さずに言葉を続ける。
ススリ:親も同級生もバイト先でも誰もわたしのことなんて見てくれなかった……。キジハさんだけがわたしに人と人の繋がりを教えてくれたんだ!
鷹尾:もういい。テメェの能書きはあの火傷女に直接聞かせてやれよ。泣いて喜ぶぜきっと。
ススリ:わたしはあの人に迷惑をかけるくらいなら死んでやる!
ススリはそう叫ぶと自分の舌を噛み切ろうとした。
鷹尾や手下が慌てて止めに入り、彼女の口の中に布を突っ込む。
鷹尾:このメンヘラが、マジで死ぬ気かよ。でもまあ、肉奴隷のほうの声を聞かせりゃいいか。おい、火傷女にアドレスにメッセージ送っとけ。テメェの大事な仲間はオレのとこにいるってな。
その後、鷹尾の手下たちはキジハへと連絡した。
彼女の会社のアドレスやスマートフォンのほうにも、拘束したススリとツナギの画像をつけて。
キジハからの返信は数分も経たないうちに来た。
鷹尾:よう、火傷女。久しぶりだな、オレのこと覚えてるか?
キジハ:誰、あんた?
鷹尾:鷹尾だ。テメェは地元の先輩の名前も忘れちまったのか?
キジハ:ススリとツナギは?
鷹尾:生きてるよ。メンヘラのほうは無理そうだが、肉奴隷のほうなら声を聞かせてやる。おい、そいつの肩でも刺してやれ。
手下が持っていたアイスピックでツナギの肩を刺した。
氷を砕くように何度も突き刺し、ツナギが悲鳴をあげる。
鷹尾:聞こえたろ? つーかおまえってこういうのが趣味なんだな。やっぱ女ってのはこういうゲイっぽいのが好きか? 笑えるぜ。
キジハ:これ以上二人に手を出したら殺す。
鷹尾:できるもんならやってみろよ。こいつらを助けたかったら1億、いや2億用意しろ。金がねぇとは言わさねぇぞ。一昨日まとまった金が入ったのは知ってんだ。時間は21時。場所は工場地帯の端にある建物、もちろんひとりで来いよ
そう言った鷹尾は、キジハの返事を聞くことなく電話を切った。
それから手下たちに指示を出し、ススリとツナギを運ばせて指定場所へと向かった。
鷹尾:時間どおりだな。相変わらずそこらへんはキッチリしてやがる。
キジハ:金は持ってきた。早く二人を返しなさい。
鷹尾:そう慌てんなって。なあ、火傷女。こうやって顔を合わせるのも何年ぶりだ? オレはおまえに会いたくてしょうがなかったぜ。
キジハ:あ、そう。いいから早く二人をこっちに渡して。
鷹尾:チッ。おい、二人を渡してやれ。
鷹尾の指示でススリとツナギがガムテープに巻かれた寝袋から出された。
手足こそ拘束されていなかったが、移動中に痛めつけられたのだろう。
二人とも顔中がアザだらけだった。
ススリ:キィ、キィジハァさぁん……。
キジハ:ススリ……あなた舌もやられてるの?
ススリ:わぁたし……たぃしぃたことなぁい……。ツナァギュゥのほうがぁ……。
キジハ:喋らないで。すぐにあなたもツナギも医者に連れていくから。
鷹尾:そいつは自分で舌を噛み切ろうとしたんだぜ。死なねぇように助けてやったのはオレらだ。感謝くらいしてもらいてぇな。
鷹尾が笑みを浮かべながらそう言うと、キジハはジャケットに手を伸ばした。
そして、鷹尾を睨みつけながら手に取ったものを突きつける。
鷹尾:ハジキかよ!? テメェ! なんでそんなもん持ってんだ!?
キジハ:どこの誰か知らないけどさっさと失せなさい。金はくれてやるわ。
鷹尾:どこの誰だと……? あん!? オレが誰かわからねぇのか! 油瀬雉刃ッ!
キジハ:だから電話のときから言ってるでしょ。誰だよ、あんた。
そう言ったキジハは、銃口を突きつけながら持ってきたバックを放り投げた。
鷹尾は彼女の態度に今にも飛びかかりそうになっていたが、手下たちに止められ、バックを拾ってその場から去っていく。
ススリ:ごめぇんなぁさいぃ……ごめぇんなぁさいぃ……。わぁたしぃ……せいでぇ……
キジハ:喋るなって言ったのに。もう無茶はダメよ。さあ、家に帰りましょう。