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フェイバリット & ダーク  作者: コラム
3/6

03

キジハとススリが出会ってから数日後。


二人はキジハの経営する警備派遣会社の事務所で、パソコン用のディスプレイを見ていた。


画面に映っているのは格闘技の試合だ。



ススリ:これってテレビの番組ですか? わたしテレビ見ないからなぁ。でも、スゴイですね。血まみれなのにどっちも止まらない。


キジハ:止まったら相手に殺されるからね。生きたいなら勝つしかないの。それとね。これはテレビでもYouTubeでもなくて、私がダークウェブで有料で流してるものよ。


ススリ:ふーん。あッ耳がちぎれた。ねえキジハさん。これに出てる人で推しとかいるんですか?


キジハ:いないなぁ。ほら、私は主催者だからさ。やっぱ贔屓(ひいき)とかしちゃダメでしょ。それよりも飲みましょう。冷蔵庫にあなたの好きなものもあるから。


ススリ:わーいスト缶スト缶! ストローもちゃんとあるッ! チューチュー! チューチュー!



ススリは缶チューハイにストローを差して飲みながら、キジハに缶ビールを渡す。


そしてストローから口を離すと、唇を尖らしてキジハに抱きついた。



ススリ:キジハさんチューチュー! チューチュー!


キジハ:こらこら。もうっしょうがない子ね。これからピザが来るから、甘えるのは食べ終わってからにしてなさい。


ススリ:えへへ、ごめんなさ~い。



ススリが離れると、二人は事務所内にあったソファーに腰を下ろした。


ストローを差した缶チューハイを両手で持ちながら、ススリがキジハに寄りかかる。



ススリ:わたし幸せ。毎日楽しい。ぜんぶキジハさんのおかげですよぉ。


キジハ:仕事のほうはどう? ちょっとは慣れた?


ススリ:はい。暇なときはツラいですけど。こないだ変な人がキジハさんの部屋に入ってきたから、催涙スプレーをかけて警棒で叩きのめしときましたよ。それから教えてもらったとおりに縛ってから顔に袋を被せて、スタンガンであそこをビリビリしたら全部話してくれました。後片付けは社員さんにLINEしてぇ~。


キジハ:さすがススリね。その調子でお願い。


ススリ:任せてください。キジハさんに近寄る虫はわたしが一匹残らず退治しますから。



二人がアルコールを飲みながら楽しんでいると、部屋に人が入ってきた。


黒い作業用のツナギを着た、長い髪の男だ。



キジハ:悪かったわね、ツナギ。わざわざ届けてもらっちゃって。


ツナギ:いえ、別に。その子が最近キジハさんが見つけたボディガードですか?



自分のことだと思ったススリは、テーブルに置かれたピザから男へと視線を動かした。


鼻筋の通った色白の顔を見て、彼女は思ったことを口にする。



ススリ:あ、イケメンだ。すっごくモテそう。でも陰キャっぽい。この人も社員さんですか?


キジハ:フフフ、違うよ。でも気に入ったならあなたに貸してあげようか?


ススリ:えッ、この人ってそっち系ですか? 男のデリヘル初めて見た。ピザまで配達してくれるんだ。食欲と性欲も満たしてくれて便利ですね。でも浮気はダメですよ、キジハさん。キジハさんにはわたしがいるんだから。



ススリの感想にキジハが腹を抱えて笑っていると、ツナギと呼ばれた男が苦い顔をしていた。



キジハ:こいつも私たちの同類よ。その証拠に。



キジハはソファーから立ち上がると、ツナギの服を脱がした。


抵抗しないので、あっという間に上半身を裸にされる。



ススリ:あッタトゥー。でもあんまり可愛くないですね。腹筋割れてるのはエモいけど、やっぱ陰キャっぽい。キジハさん。この人とわたしってキジハさんの中で同じなんですか?


キジハ:男じゃこいつ、女の中じゃススリが一番よ。


ススリ:わたし一番!? わたしが一番なんですね、キジハさん!?


キジハ:もちろん。ススリより大事な女なんて、この世界のどこにもいないって。


ススリ:わぁぁぁ、超絶嬉しい! こんな幸せになっていいのかなぁ。えへへ。


キジハ:いいのいいの。ススリはもっと幸せになっていいの。


ススリ:嬉しすぎてぴえんですよ、キジハさん。



ススリが立ち上がってキジハに抱きつく。


ツナギは脱がされた服を着て、部屋を出ていこうとした。



キジハ:ちょっとツナギ。もう帰っちゃうの? いいからあんたもピザ食べてきなって。


ススリ:そうですよ、ツナギさん。男の一番と女の一番がいなきゃキジハさんが悲しんじゃいます。もしかしてデリヘルって立場だから居づらいですか? わたしは気にしませんよ、そういうの。似たようなことやってたしぃ。



ツナギが二人のほうを振り返る。



ツナギ:忘れたのか、キジハさん。俺はこれから仕事だ。あんたの命令でしょ。行かなくていいんですか?


キジハ:そうだったね。引き止めちゃってごめんなさい。また連絡するから、パーティーは今度にしましょう。



ツナギは何も返事することなく出ていった。


ススリが表情をしかめていると、キジハは宥めるように声をかける。



キジハ:どうしたの? そんな顔して?


ススリ:だってあの人、キジハさんに対して態度悪すぎじゃないですかぁ。イケメンでも偉そうな人って嫌いなんですよ、わたし。


キジハ:あいつはちょっと暗くて言葉が足りないとこあるけど、偉そうにしてるわけじゃないの。気に障ったんなら私から言っとくから、仲良くしてあげてね。


ススリ:キジハさんがそう言うなら……でも、やっぱ暗いってことは陰キャなんですね、あの人。イケメンなのに。


キジハ:フフフ。そうなんだよね、イケメンなのに。



互いに笑顔を向き合わせて、キジハとススリの夜は過ぎていった。

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