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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

レインボーボンズ短編集

四・二八事件~四つ葉の屈辱

作者: TAK

家紋武範様の『知略企画』参加作品です。

 森林が生い茂る世界『グルンガルド(緑の世界)』、その森林で身を隠し易い事から多くの賊が跋扈(ばっこ)する事も少なくない。

 グルンガルドの治安維持に奔走(ほんそう)する『国境なき騎士団』の一つ『四つ葉の騎士団(クローバーナイツ)』は賊達を空から摘発出来るよう、最新鋭の風属性EL(エレメンタル)技術を用いた飛行艇『フライングクローバー(FC)号』を建造したが、四の月の二十八の日の飛行式の日にグルンガルドの今後を大きく左右する事件が起きた。



 FC号の格納庫で四つ葉の騎士団副長のエルフ『エルフッド』は開いた天井から覗く空を仰ぎ、もうすぐ飛行するデクード(木材)の巨体をしたFC号に想いを()せていた。


(今日からFC号が空を飛ぶんだな……。これで賊共を摘発しやすくなるぞ。)


 そんな彼の前に二人連れの見物客らしき男性が現れた。一人はカジュアルというよりラフな出で立ちのニュートラルで、もう一人はサムライのような出で立ちという、明らかに対照的な雰囲気だった。


「おおっ、こいつが飛行艇かぁ!俺達も乗ってみてえなぁ!」


 ラフな格好の男性はFC号をまじまじと見つめては自分も乗ってみたいと語り、サムライな男性は物静かにFC号を眺めていた。


「なあ、エルフの兄ちゃん、こいつ造んのに何ゲルダしたんだい?」


 ラフな男性はエルフッドにFC号の建造にかかった費用について尋ねてきた。


「この飛行艇の費用か……、確か50MG(エムジー)はしたな……。」

「『()()()()()()()()』って何だよ!?俺は『何ゲルダ』したかって聞いてんの!」

(……50にMG……、『MG』は「百万ゲルダ」だから()()()()()()()……、じゃなくて五十に百万をかけて……!!)


 エルフッドが計算に迷った隙を突いて、ラフな男性は素早く彼の背後に回り込んで拘束し、隠し持った刃を彼の首筋に突き付けた。


「何をするんだ!」

「兄ちゃん、早速で悪いが俺達に協力して貰おうか!」

「君達に何を協力せよと!」

「とにかく一緒に来て貰うぜ!」


 エルフッドは見物客を装った二人連れの男性に連行された。



(……もうすぐ飛行式……、みんな集まっているわね。)


 一方、四つ葉の騎士団の執務室では、一人のエルフの女性が窓から人がいっぱい集まっている外を眺めていた。

 彼女は四つ葉の騎士団団長『エルフェミス』。

 四つ葉の騎士団の団員と共にグルンガルドの治安をはじめ、AU(英雄)達の育成等日々大忙しである。


 暫くして、チャイムが鳴り、全体放送が響き渡った。


『緊急の放送失礼致します!折角(せっかく)お越し下さった皆様に残念なお(しら)せがございます!』

(!……その声は……、エルフッド!……『残念なお報せ』って……、一体どうしたのかしら!?)


 エルフェミスは突如放送されるエルフッドからの残念な報せが気になった。


『本日予定しておりました……、フライングクローバー号の飛行式は……、諸事情により……、中止となりました!皆様……、気を付けてお帰り下さい!』

(何ですって……!飛行式が中止だなんて……!エルフッド……、あなた一体何考えてんの!……!!)


 エルフェミスは飛行式が中止という放送に内心憤慨(ふんがい)するも、窓の外で人々が足並み(そろ)えて去っていく様に動揺した。


(見物客が去って行く……、それもかなり不自然なまでに足並み揃えて……。という事は放送の際に『エアロハック』を使ったのかしら!?……いえ、エルフッドは持っていないし、わたしも他の団員達も勿論持っていない……。なら……、わたしの相棒のQG(クイーンガーディアン)インドラかしら……?確かに彼女は持っているけど、このような使い方はしない筈……。となればエルフッドの背後に外部の者がいるという事なのかしら……!?)


 エルフェミスは先程の放送から発せられる音波で人々が足並み揃えて退散していく様に怪しい何かを感じた。


(とにかく、放送室に行ってみましょう。)


 エルフェミスは放送室に向かった。



エアロハック……風属性ELアビリティの一つ。特殊な音波を発生させて他者を操る。非常に強力な為、BE(ブラックエレメント)が発生しやすく、多用出来ない欠点を持つ。また、その強力さから所持する者も数えられる程しかいない希少なアビリティでもある。



 エルフェミスが放送室に向かう途中の廊下で、エルフッドを拘束している二人連れの男性に遭遇した。エルフッドの両手は縄で縛られていた。


「エルフッド!……さっきの放送は一体何なの?それにこの二人は一体?」

「ああ、この兄ちゃんの放送とダチのエアロハックでお人払いさせて貰った。他の奴に見られちゃ困るんでな。」

「誰かの仕業かと思ったら……、やはりそうだったのね……。」


 ラフな男性は先程の放送の件についてエルフェミスに語り、第三者が関わっていると踏んだ彼女の予想とほぼ一致した。


「なあ、姐ちゃん!俺達をここのリーダーに会わせてくんねえか!?」


 ラフな男性は今度はエルフェミスにリーダーに会わせるよう要求してきた。


「リーダーならわたしだけど何のご用かしら?状況からしてただならぬ用なのはわかるけど。」


 エルフェミスは自分が団長である事からリーダーは自分であると述べ、団員が拘束されている事から二人連れの男性にただならぬ用件を伺った。


「そうか、あんたがリーダーか。なら話は早い。この兄ちゃんの身柄と引き換えにあんたらの持ってる飛行艇を俺達に明け渡して貰おうか!」


 ラフな男性はエルフッドの身柄と引き換えに飛行艇を明け渡すようエルフェミスに要求した。


「……随分と卑劣なやり方ね。」


 エルフェミスは二人連れの男性のやり方を卑劣と吐き捨てた。


「へっ……、俺達のやり方を『卑劣』ってそしんなら、そのやり方を防ぐ手段ならいくらでもあったはずだろ!にもかかわらず何の手も打たなかったあんたらが悪いんだぜ!この期に及んで人のせいにしてんじゃねえよ!」

「!……あなた達は何故こんな事をするの?飛行艇が欲しいから?」

「違うな。」

「じゃあ何の為?」

「ダチの為さ。」

「わかったわ、友が飛行艇を欲してるからこんな暴挙に出たのね!」

「俺のダチをバカにすんなァ!!」


 ラフな男性は自分、何より友の私利私欲で略奪をやっていると軽蔑したエルフェミスに激昂した。

 エルフェミスは著しく荒んだ男性の態度に恐慌した。


「……俺達は私利私欲の為の略奪なんて真似は絶対やんねえ!そんじょそこらの賊共と一緒にしてんじゃねぇよ!!」


 ラフな男性は続けて自分達を他の賊達と一緒にするなとエルフェミスに言い放った。


「……あなた達は飛行艇を欲していないのに要求する……、それって矛盾してない!?」

「俺たちゃあんたらの飛行艇自体はどうだっていいんだよ。ただ、その飛行艇が空にあがったら俺達路頭に迷っちまうんだよ!俺は自分が路頭に迷っても別に構わねえが、ダチがそうなっちまうのが我慢ならねえんだよ!!」


 ラフな男性は飛行艇自体は問題ではなく、それが空にあがる事によって友が路頭に迷うのが問題であると主張した。


「……話からしてあなた達盗賊団ね!?」


 エルフェミスは治安目的で建造したFC号が空にあがる事で自分達が路頭に迷うという話から相手は盗賊団と踏んだ。


「ああ……、名乗りたかねえが仕方ねえ……。……俺たちゃ『TC(ティーシー)団』っつう義賊団だ!俺はその首領の『フレン』で隣の奴が俺のダチ……」

「『ムサシ』と申します。『トリッククローバー(TC)団』の一員です。お見知りおきを。」


 サムライ風の男性ムサシは粗野なフレンとは対照的に礼儀正しく名乗った。


「わかったわ……。……わたしは四つ葉の騎士団団長エルフェミスよ。」


 エルフェミスも名乗る事にした。


「エルフェミス様、早速で悪いのですが、それがし共に(しばら)くの間会議室を使わせて頂けないでしょうか?この件について穏便に済ませたいんです。」


 ムサシはエルフェミスに暫くの間会議室を借りたいと申し出た。


「わかったわ……。あなた達の好きになさい。」


 エルフェミスは承諾した。


「さすが団長、少しは話がわかるじゃねえか。」


 フレンの皮肉にエルフェミスは一瞬彼を睨みつけるが、彼は微塵(みじん)も動じなかった。


「それでは……、用が済み次第執務室に参ります。そちらでお待ち下さい。」

「ええ……。」


 ムサシに促されてエルフェミスは執務室に戻り、TC団はエルフッドを連れて会議室に赴いた。



(何なの……、TC団って……。いきなり人のとこに乗り込んだ挙句弟を人質にとってFC号を要求するなんて……。なのにFC号自体ではなく、友を路頭に迷わせないのが目的なんて……、盗賊なのに変なの……。いえ待って……、確か義賊って言ってたわね……。でも……、やってる事は盗賊と何ら変わらないわ……。何故わたし達四つ葉の騎士団がTC団という訳のわからない盗賊団にいいようにされなきゃいけないのかしら……。)


 執務室の席に着いたエルフェミスはTC団に対する不満を抱いた。

 暫くして、執務室のドアをノックする音がした。


「姉上、僕です、エルフッドです。」

「いいわ、入りなさい。」


 弟の声で安心したエルフェミスは入室を許可した。

 ドアから入って来たのは、TC団の例の二人と未だ彼等に拘束されているエルフッドだった。

 エルフェミスはただならぬ空気に再び動揺した。


「エルフェミス様、『クローバー条約』の草案です。ご熟読の上で血判をお押し下さい。」


 ムサシはエルフェミスに書類を渡した。


「どれどれ……。!!……」


 エルフェミスは書類を手に取って読んでみた。暫くすると、彼女は血相を変えた。


「……ムサシだったわね……。あなたはさっき穏便に済ませたいと言ったけど……、この内容で穏便に済むと思ってるの?」

「……いえ……。しかし……、これはマスターの一存です……。ご了承下さい……。」


 ムサシはエルフェミスに頭を下げた。


「了承出来ないわ。『団員の身柄と引き換えに飛行艇をTC団に明け渡す』『四つ葉の騎士団が空での軍事展開をしない限り我々TC団は一切の略奪を行わない』はともかく、『TC団に対して四つ葉の騎士団の()()()()()()()()()()』ってどういう事なの!?あなた達の略奪行為を見て見ぬふりしてろって事!?」

「……いえ、()()()()()という意味です。それに、それがし共は義賊団です。略奪はしても、心ある者や弱者を標的にする真似は致しません。」

「『相互不干渉』と言えば聞こえはいいけど、やっぱり()()()()()()()()()って事じゃない!こんな内容を認めたら皆に示しがつかないわ!この箇所(かしょ)だけは撤回(てっかい)して貰えないかしら!?」

「おいおい姐ちゃん、あんたらの事情なんざ俺達の知った事じゃねえし、そもそもあんたらに取り決めの内容をどうこうする権利ねえっての!何せこっちは人質とってんだ!押すか押さねえかの二つに一つなんだぜ!押さねえならこの兄ちゃんの安全は保証出来ねえな!」


 フレンはエルフェミスに変更の権利はないと言い放ち、続け様に血判を押す事を拒むなら人質にとっているエルフッドの安全は保証出来ないと脅しをかけてきた。


「!……フレンだったわね……。血判を押す前に聞きたい事があるの……。……()()()は考えられなかったの?」

「『他の道』って何だ!?人質とらずにただ『飛行艇譲って下さい』と頭下げる道か!?」

「そうじゃなくて、『()()()()()()()()()()()()は考えられなかったのか』って聞いてるの!!」


 自分の質問の趣旨とちぐはぐな返答、何より明らかに自分を虚仮(こけ)にしているフレンの態度にエルフェミスは思わず憤慨した。


「あんたらと事を構えねえ道だと……!?」

「あなた……、さっき『友が路頭に迷うのが我慢ならない』って言ったわね……。少しの間皆と路頭に迷うのを我慢して、『盗賊稼業に見切りをつけ、皆で真っ当な道を歩もう』と考えられなかったの?」


 エルフェミスはフレンに皆で盗賊稼業に見切りをつける道は考えられなかったか尋ねた。


「あいにく俺は器用じゃないんでね!そこまで器用だったらそもそも盗賊に手を染める訳ねえっての!それに俺は心ねえ奴等の私腹肥しで心ある奴等が貧困に喘ぐのが我慢ならねえから義賊やってんだ!あんたの言うように盗賊から足洗ったら心ある奴でありながら報われねえ奴等が増えちまうんだよ!!」


 フレンは自分が義賊を続ける理由をエルフェミスにぶちまけた。


「……あなたの言い分はわかったわ……。……ムサシ……、あなたは今回の件についてどこかで疑問に思わなかったかしら?」


 エルフェミスは盗賊稼業以外の道を考えられないフレンの言い分を理解し、今度はムサシに振った。


「実はそれがしも……、疑問を抱いておりました……。心ある者同士で事を構えるべきではないとマスターに説きましたが……、友が路頭に迷う事が我慢ならないの一点張りで……。」

「一応異を唱えてはいたという事ね。」

「はい……。それで……、それがしは……、なるべく穏便に事を済ませるべく……、こういう交渉を持ちかけた次第です……。」


 ムサシはマスターであるフレンの強硬な手段に協力しつつも、事態を丸く収めようとしている事を伝えた。


「姉上……、僕からもお願いします……。確かにTC団は盗賊団だけど……、心無き者達ではありません……。もし……、TC団が心無き者の集まりなら……、このようになるべく角を立てないようにする筈がありません……。僕は……、TC団とはこれ以上事を構えるべきではないと思うんです……。どうか……、血判を……。」


 ムサシに続いて重い口を開いたエルフッドは姉に血判を押すよう説得した。


「エルフッド……。わかったわ……。」


 エルフェミスは引き出しからナイフを取り出し、軽く親指を切って血判を押した。


「ありがとよ、四つ葉の姐ちゃん。」


 血判が押された書類を回収したフレンはエルフェミスにうわべだけの感謝の言葉を述べた。


「勘違いしないで!あなた達の為に押したんじゃないわ!」


 エルフェミスはTC団の為に血判を押したのではないと言い放った。


「はいはいわかったよ。じゃあ、行くぜムサシ。」

「はっ。エルフェミス様もご一緒に。」

「……わかったわ……。これも穏便に済ませる為……。」


 TC団とエルフの姉弟はFC号の格納庫に向かった。



 そしてTC団はFC号に乗り込むと同時にエルフッドを解放し、FC号と共に上空へ飛び去った。

 飛び去ったFC号を見てエルフェミスは悔し涙を流した。


 この一連の出来事は世に言う『四・二八事件』にて、四つ葉の騎士団内では『四つ葉の屈辱』として語られ、事件の詳細は『FC号事件』と『クローバー条約』の二つに分けて語られるのだった。

登場人物紹介


〇エルフェミス……グルンガルドの国境なき騎士団『四つ葉の騎士団』団長のエルフの女性。エルフッドの姉。グルンガルドの治安を守る為に弟や団員と共に日々奔走している。略奪等の心なき行いを頑として認めない正義感に溢れる理想主義者。


〇エルフッド……四つ葉の騎士団副長のエルフの男性。エルフェミスの弟で、副長として彼女を補佐する。現実主義にて、やや偏屈な理想主義者である姉のサイドキックを務める。


〇フレン……グルンガルドの義賊団『トリッククローバー団』首領のニュートラルの男性。礼儀知らずだがまっすぐとした仲間想いの好漢で、弱者や心ある者への略奪は一切行わない一方、偏屈で目的の為なら手段を選ばない狡猾さも併せ持つ。


〇ムサシ……トリッククローバー団首領フレンの補佐役の男性。サムライ風の出で立ちで謎多き人物だが、礼儀知らずのフレンとは真逆の沈着冷静で人当たりが良く、偏屈かつ暴走しがちな首領をフォローするサイドキックだけあって、計略は勿論、交渉もこなす等知略も結構高い。

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― 新着の感想 ―
[一言] 知略企画から伺いました。 エアロハックが欲しいなぁと思いました。クレーマーに使ってみたいです。 ちゃんと残念なお知らせをした上で安全に帰している当たりが義賊ですね。 読ませていただきあり…
[一言] 「知略企画」から拝読させていただきました。 今回は義賊の快勝でしたが、やはり、騎士団と義賊は心の底で通じあっている気がします。
[良い点] 金額を計算している間に襲うやり方に吹きました!
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