第九話 体術試験
体術試験は近接戦闘能力を確認する試験だ。
各々得意な得物を使い学園に派遣された騎士たちと戦う。
魔導法則技法は使用不可だが《天武》や《魔武》といった魔力戦闘技法の使用は可能。
ちなみに魔導法則と魔力戦闘技法は二つ合わせて『魔法』と呼ばれている。
俺とサクラは共に訓練所に入る。
どんな騎士がいるか確認しておくか。
「い、色んな騎士がいますね。緊張してきます……」
「『八式』から『五式』までか。まぁ妥当だな」
サクラは緊張して額から冷や汗をかく。
俺は受験生たちと戦う騎士たちの実力を把握する。
『四式』騎士と『五式』騎士では実力が比較にならない。
そういう意味ではフレイヤは確かな実力を持っているということになるか。
「カインさんは武器を保有してませんけど拳士なんですか?」
「まあな。ステゴロ上等ってところだ」
《天武》を使えばただの拳でも鉄を砕ける。
ただの鉄の剣だと《天武》の出力に押し負けて数回打ち合えば壊れてしまうがな。
「拳士ですか……」
「どうかしたのか?」
「いえ、お母さんから聞いた話なんですけど……騎士たちの中には拳士を過度に見下す人たちがいるらしいです」
「ほう?」
俺はサクラの発言に少し驚く。
拳士を見下す……ねぇ。
ま、武器の方が殺傷能力が高いのは認めるからな。
だが、拳士は非常に侮れない。あいつも魔法の間合いから外れたら迷わず殴りあいに持っていくしな。
「でも、カインさんの実力なら問題ないと思います!《天武》をあそこまで使いこなしていたのはお母さんを除いて見たことがありません!」
「そりゃどうも」
というか、サクラの母親は何者なんだ?とんでもない実力者というのは分かるが……。
「それにしても……あの騎士、かなり強いです」
「ん……!?」
サクラの視線の先にいた騎士を見て目を見開く。
それと同時に魔力の流れが速まる。
他の受験生の一人と老騎士が打ち合っている。
騎士の正装をした老騎士に受験生の剣は軽々と躱されている。
「ほれ、どうした。その程度か?」
「ぐっ……おおおおおお!」
老騎士の挑発に乗った受験生は剣を真っ直ぐ振り下ろす。
老騎士は欠伸をしながら剣を躱し首筋に引き抜いた剣を当てる。
「焦り、疲労は精神的な余裕を奪う。常に一定の余裕を持て」
「ぐっ……」
「だが最後の一振は悪くなかった」
「あ、ありがとうございます……」
受験生は礼をしてよろめきながら去っていく。
「最後を除いて一度も剣を抜きませんでしたね……」
「それだけ受験生との差があるのだろう」
受験生は背中まで汗で濡れている。それに対して老騎士は汗の一つも掻いてない。
明確なまでの実力の差があった。
「あの老騎士とは当たりたくありません。……一度も攻撃を当てれる気がしません」
「ま、そりゃそうだ」
そして、俺はあの老騎士を知っている。
あいつと正真正銘の殺しあいをしていたからな。
「あの受験生は《魔武》をそれなりに使いこなしていました……うう、カインさんの妹さんやカインさん以外の受験生もレベルがこんなに高いなんて……」
「そうか?」
だが、あの程度だと豚の方が遥かにレベルが高い事になってしまうのだが。
「あの豚……バーゼルゲ伯爵家というのは武門の家系か?」
「えっと……確かそうだった筈です。あんな性格でしたけど」
あれで武門の家系かよ……。
「そういえば、お前はあの時何で刀を抜かなかった?お前の実力ならあの豚程度、瞬殺できただろうに」
俺の目だと贔屓目なしにあの豚よりもサクラの方が実力が高い。
怖がりな性格もありそうだがそれでも違和感しかない。
「た、確かにできたと思いますけど……流石に殺すのは……」
「ああ、そういうことか」
サクラの答えに俺は納得する。
恐らくサクラの母親が仕込んだ剣術は殺人を是とした剣術。
今の騎士のように無力化も可能な剣術とは違い命を刈り取ることのみに焦点を当てた剣術だ。
護るための剣ではなく殺すための剣。
屍山血河を造るだけの剣術なのだから人前で抜けなくて当然か。
「でも、個人的には少し安心してるんです」
「どうして」
「だって、あそこにいるのは本物の騎士です。なら……本気で剣を振るっても問題ないかなーて」
ま、そこら辺は俺は口を挟まないようにしよう。
「サクラさん、カインさん。順番ですよ」
「は、はい!行きましょうカインさん」
「ああ」
試験官に呼ばれ俺とサクラは空いている騎士の前に立つ。
俺の前に立つのはあの老騎士だった。
やれやれ……運が良いのか悪いのかよく分からないな。
「カカッ。貴殿だったか」
「……三年ぶりか」
「やはり、覚えておったか」
「まあな」
老騎士はにんまりと笑い俺はやれやれと呆れる。
老騎士は身に付けていた鎧を脱ぐ。
鎧の中から枯れ枝のように細い身体が現れる。
端の方に置かれた東側の服に着替えるとボサボサにのびた白髪を手刀で切り落とす。
「儂に恨みはあるか」
「……さあな」
「まあ良い。……始めるぞ」
好々爺の雰囲気から一変、凄まじい殺気が老騎士から放たれる。
それを悟った他の受験生の喧騒は静まり返る。
その中で俺は拳を握る。
「ああ。分かったよ……〈海割翁〉」
目の前に立つ老騎士の異名を呟く。
『一式』最高齢であり国王とも親しい騎士。
そして、騎士学園の長。
目の前に立つ老騎士こそ海を割ったとされる絶技の騎士〈海割翁〉だ。
……これは、本気でやらないと殺されるかもな。