第六話 試験開始前
入試試験は主に二つ。魔法試験と武術試験である。
どっちも名称通りであり試験官と行うものらしい。
俺は大ホールで試験を待ちながら周りを見る。
試験が開始されるまで時間があるため周囲から雑談が聞こえてくる。
ま、それと同時に貴族どもから殺意を向けられてる気がしなくもないが。
俺はサクラの方を見る。
「うーん……大丈夫かなぁ……」
隣に座っているサクラは若干不安そうな顔をして周りをキョロキョロと見ている。
まあ、平民というだけであそこまで敵意や殺意を向けられた訳だから仕方ないか。
「まあ、大丈夫だろ」
「うう……カインさんのように高い実力がある訳ではないですし……」
実力ねぇ……少し気になってたしここで聞いておくか。
「少し気になっていたんだが、お前は剣術を学んでいるのか?」
「は、はい。『天輪流天照式剣術』です。母がこの剣術の師範代で小さい頃からこれを振るってました」
サクラは腰から抜き取った得物を親指で押し上げ鞘から少し出す。
鞘から現れた得物は通常の剣とは違い少し反りがあり細い。そして何より美しい。
「刀という武器です。この武器を使う剣術なんです」
「へぇ……」
サクラの熱心な瞳に俺は少し目を細める。
極東の武術……か。向こうの事については聞いたことがなかったしな。
「そういえば、カインさんの魔法の師匠は誰ですか?」
「……どうしてそんな事を聞く」
俺は眉間に皺を寄せて問い返す。
魔力が黒い感情に呼応して昂る。
「い、いえ!カインさん、とても魔力が澄んでいるのでつい……」
「ああ、そういう……」
サクラは慌てて弁明し俺も冷静になって魔力の昂りを戻す。
にしても澄んでいる、か。
魔力の流れを見れるやつは多々いてもその濃さや色を見れるやつは少ない。
抉り取られた瞳は特殊な魔道具に使用されるため闇市場で高値で取引されていると聞いたことがある。
……流石に自分の身くらい自分で守れるだろ。
「……俺の師匠についてはあまり聞かないでもらいたい。あれのせいで色々と苦労する羽目になったから」
「は、はい……」
サクラは少し肩を落とす。
まあ、あれに関しては知らない方が良い。
「そういえば、カインさんはどうしてそんなにリラックス出来てるんですか?私は……その、緊張でガチガチで……」
確かに、サクラの筋肉は緊張で強ばっている。
過度な緊張だと最高のポテンシャルを発揮する事はできない。俺のようなそもそも入学の可否に興味の欠片もない人間ではない以上緊張を解きほぐす必要があるか。
……やれやれ。俺はそこまでお人好しではないのだけどね。
「俺はそもそも入学することに興味がない。だから緊張しない。する必要がない」
「じゃ、じゃあ何で試験を受けてるんですか?」
「……国王サマが俺を推薦してきた」
「へ……?」
サクラは驚きのあまり目をまん丸に見開く。
俺はそれを見てくっくっと堪えるように笑う。
正確には入学許可証……推薦を通り越している訳だが、そこまで話す意味はない。
「ま、色々あってな。今年、ここに入学する事になっている連中の一人の護衛を頼まれたんだ」
「そ、それってとても名誉な事じゃないですか!大出世ですよ!」
「で、それを断った」
「断った!?」
「メリットがないからな。交渉にきた騎士に泣きつかれてな、妥協案としてこれに受ける事にしたんだ」
俺の発言にサクラは呆れたように唖然としてしまう。
それと同時に殺意と敵意の視線を向けられる。
ま、平民の分際で国王から信頼を寄せられていた。それを蹴ったんだ、向けられて当然だろうよ。
「は、はは……そもそも、私とカインさんでは見ている世界が違っていたんですね」
サクラは壊れた笑みを張り付けながら呟く。
「いや、見ている世界は一緒さ。俺は己の剣ために国の剣になる事を拒絶した。お前は国の剣になる事を望んだ。それだけの話さ」
見えてる世界が違うのではなく、求めたものが違う。それだけの話だ。
「だから……まあ、お前は自分の剣を信じれば良い。それだけさ」
「それって……まさか、私を心配してくれてたんですか?」
「心配か。ま、そう捉えてもらって構わない」
「ふふっ……不器用なのに精一杯遠回しに言おうと必死でしたよ?」
「ほっとけ」
サクラは可憐な笑顔でクスクスと笑う。
緊張が解れたようだな。さて……俺は。
右斜め上から飛来してきた小型のナイフを手で掴む。
サクラは唐突すぎて笑顔を凍らせる。
……どうやら、あの女はお気に召さなかったようだ。
握ったナイフを床に捨てる。その手から血が滴り落ちる。
「はっ……か、カインさん!?大丈夫ですか!?」
我に帰ったサクラが慌ててハンカチを取り出して傷口を塞ごうとする。
俺はサクラの手で制止させる。
傷は結構深い……。まあ、この程度ならどうとでもなるか。
「《聖治》」
掌を覆える程度の魔法陣が展開される。
金色の光が傷を覆い傷を癒す。
傷を癒す魔法は俺の得意な方だ。……まあ、苦手な魔法はないけど。
尤も、攻撃系の魔法は……あれを思い出すからあまり使いたくないけど。
「ち、治癒魔法って……たしか、高度な魔力制御が必要となるはず、それをこうもあっさりと……」
「この程度は前座だ。慣れればこの程度誰だってできる」
《聖治》よりも《天武》の方が遥かに難しいしな。
それにしても、第五皇女の件を適当に隠しながら話したのにあの女、ナイフを投げてきやがった。
俺が受け止めるまで気づいていなかったとなれば空気、もしくは光に干渉する魔法を使っていたな。
……俺が察知するのが難しいほどに魔力を抑え込んだ魔法の使い手。技巧派ということか。
「それにしても、このナイフ……」
サクラは床に捨てたナイフを手にとる。
光に刃を当てながら指でなぞるとサクラの指先が薄く切れる。
切れ味が良いな。やっぱし良いものを使ってる。
「やっぱり。さっき私たちを襲った女の人のナイフです!あの人、いったい何処から……?」
「ま、気にする事はないだろ」
サクラは傷をつけた自分の指を口に咥える。
まあ、あいつの狙いが俺で良かった。
もし、セレナやサクラに狙いが定まっていたら……確実に殺していた。
ま、今はそこら辺はどうでも良いか。