二十一話 狐の厄災
ビオラが飛ぶように接近すると爪を振り下ろす。
俺はバックステップで攻撃を躱す。同時にビオラの手から石の剣が放たれる。
足で石の剣を弾いて壊し、続く攻撃に拳を当てて相殺する。
「《炎夢》」
ビオラの足元に魔法陣を展開する。
ビオラが地面を蹴って空中に逃げると同時にスモークが立ち上ぼり一斉に燃え盛る。
やはり、魔力の察知能力じゃ魔なる者には勝てないか。
炎が消えると同時にビオラは着地し飛び蹴りをしてくる。
俺は足を手の甲で打ち上げて体勢を崩させる。
ビオラは両手を地面について反転し逆立ちした状態から足を振り下ろす。
足を躱すと同時に俺の足元が凍りつく。
「お返しです」
ビオラが手を振り下ろすと同時に周囲に展開された石の剣が俺目掛けて全方位から放たれる。
「《幻夢》」
石の剣が突き刺さると同時に霧を纏いビオラの背後に回り込む。
足を振り下ろすが察知したビオラは前に転がって攻撃を躱す。
ちっ……今のは当たれば確実に殺せたんだがな。
「『夢』を扱う魔法……何故、それが普通の人間が使えるんですか?」
「ま、色々とあるんだ」
聖典教会はこの魔法たちについて知っているのか。まあ、魔なる者を集めて尖兵にしているくらいだからな。
それにしても……やっぱし、この魔法を使うとあいつの顔が頭を過ってきやがる。使わないと勝てないか手合だと分かっているが……不快だ。
だから、本来の魔法を使わせてもらう。
「《腫瘍化》」
小指程度の大きさの魔法陣を展開すると同時にビオラは地面を蹴って下がる。
ただの攻撃系の魔法と思って後ろに下がったな。甘いな、これはそんな単純な魔法ではない。
「えっ……」
俺の本来の魔法はそんな単純なものではない。
唐突にビオラの右手の掌に紫色の腫れ物が発生する。
「ぐっ!?」
ビオラは腫れ物が脈打つと同時に発生する痛みに顔を歪める。
直ぐにビオラは袖を引きちぎる。
「なっ!?」
ビオラの腕には掌と同じような大小様々な腫れ物が生まれていた。
腫れ物は少しずつ範囲を広げていっていき、脈打つと同時にまた新しい腫れ物が生まれていく。
「これは……『呪詛』!?」
「そうだ。俺の魔法の適性は『呪詛』だ」
痛みで苦悶の表情を向けてくるビオラを俺は見下ろす。
『呪詛』はその名前の通り相手や組織に不幸や不運を招く事を得意とする番外属性の魔法。その特性は相手をより長く、より重く苦しめる事に長けていること。
《腫瘍化》は対象の罪を腫瘍に変換し増幅、相手を罪で蝕む魔法。死ぬことはなく、対象を苦しめる事に長けている。
死ぬことはないからこういった相手にはよく効く。
俺は地面を蹴りビオラに接近し足を振り下ろす。
ビオラが攻撃を弾こうと手を伸ばす同時に腫瘍が脈打つ。
「くっ……!?」
ビオラの意識が一瞬右腕に裂かれると同時に攻撃が直撃、ビオラの肩から腰に至るまで切り裂かれる。
「あっ……ああああああああああ!?」
「《縛布》」
裂かれた激痛で倒れるビオラの身体を中心に魔法陣を展開、黒い布がビオラの両腕と両足に巻き付いていく。
「《フレイムベール》!」
「ッ!?」
ビオラの腹部に魔法陣が展開され炎が撒き散らされる。
俺が後ろに跳んで炎を避けるとビオラは黒い布を焼き切り、自分の修道服を燃やし、腫瘍を焼きながら立ち上がる。
罪の重さで強度が変わる《縛布》をあんな力業で突破するかよ……!
「貴方だけは……何としてでも、倒します!」
臀部から生える九つの金色の毛並みの尾を逆立たせ炎を身に纏いながらビオラが突貫してくる。
これは……!!
「《呪符・蛇呪毒》!」
掌サイズの魔法陣を展開する。魔法陣は一枚の札の形状となりビオラの胸に張り付く。
同時に札が消え、ビオラの身体に縄のような痣が胸を中心に身体に伸びる。
とある蛇の呪いを再現した呪詛だ。付与すれば強力な猛毒が身体を蝕む……!
「それが……どうした!!」
ビオラは口から血を滴しながら拳を握り、振り下ろす。
俺はギリギリのところで後ろに下がって躱す。
「《風切》!」
拳と爪を手刀で弾き防ぎながらビオラの顎を捉えながら垂直に蹴りあげる。
ビオラは少し怯むがすぐに俺の胸に爪を立てて振り下ろす。
「ぐっ……!」
身体に刻まれた五つの傷から血が溢れる。
ビオラから距離を取るがすぐに迫られ拳が放たれる。
ギリギリのところで躱すがすぐに放たれる蹴が肩を捉え吹き飛ばされる。
「がっ……!」
壁に叩きつけられ前を見ると同時に蹴りが顔面に突き刺さる。
「《ウィンドバースト》!」
ビオラの腹部に魔法陣を展開し風の砲撃でビオラを吹き飛ばす。
ちっ……咄嗟に全力で《天武》を発動させ、プラスで魔力で防御したから後遺症になるようなダメージはないか。
それだけ魔力で強化しなければ今の一撃で殺られていた。
……久方ぶりに全力でやるか。俺としてもこれはあまり好きではないのだかな。
「《呪符・人形骸》」
「《天武・焔纏い》」
魔法陣の展開と共に何百もの人の形をした紙が宙を舞う。
ビオラの身体に魔力が通い炎が濃縮されていく。
向こうも本気か。練り上げられた殺気と燃え滾る炎がより濃縮されているしな。
さあ、ここからが正念場だ。




