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十七話 魔なる者

「ふわぁ……」


俺は講義の中で欠伸を溢す。


日当たりがよくて眠りそうになるが、我慢する。


流石に入ったからには授業は集中しなくてはな。


「――では、ここから『魔なる者』について解説します」


黒板に文字を書き終えたフレイは俺らの方を向いて告げる。


魔なる者……ねぇ。聖魔教会だと異端として迫害している連中の事か。


「魔なる者は古い時代に実在した私たちとは違う進化をした人間、古代種の末裔に当たります」


古い種……まぁ、そういう認識で間違いはないな。


「吸血鬼、人狼、鬼、妖精、精霊……かつて人間と敵対した知的生命体はかなりの数がいました。そして、ごく稀にそれらと交わり、子を成した。その子の子孫こそが魔なる者です」


フレイの説明に教室の空気がピリピリとする。


この国の連中からすれば当然か。魔なる者は異端、この国の騎士にとって忌むべき外敵なのだからな。


俺からしたら不愉快極まりないけどな。


「魔なる者の特徴を幾つか答えて下さい」


「はい、先生」


そう言って一人の生徒が手を上げる。


明るい茶色の髪をした大柄な肉体なのに優しい顔をした青年だ。


確か名前は……オーグだったか。一応全員の名前は覚えたけど優しそうな雰囲気をしているな。


「魔なる者は生まれつき膨大な魔力と高い身体能力を保有しています。また、身体の一部が普通の人間と違ったり見た目は同じでも特殊な体質をしています」


「百点満点の答えです」


「ありがとうございます」


オーグは深い礼をして席に座る。


フレイは俺らを見回し、俺と目が合うと微かに仏頂面を柔らかくする。


……嫌な予感がするな。あいつが〈海割翁〉の部下なら知っている可能性があるな。


「では実際に魔なる者と出会った者はいませんか?ある人は手を上げてください」


フレイの問いかけに周りは手を上げる生徒はいない。


ま、そうだよな。普通なら出会わない。魔なる者の多くは人里離れた場所に住んでいる訳だからな。


……ここは授業を円滑にするためな上げておくか。話せと言われても深くは話さないがな。


「はい」


俺が手を上げると一斉に俺の方を向く。


驚き半分忌避半分と言ったところか。ま、そんなものか。


「それじゃあ、その時の事について説明してくれますか?」


「分かりました」


俺は内心不快さを抱きつつ席から立つ。


「出会ったのは三年前の事。深い森に薬草採取していた際に偶然出会った人狼の末裔ですよ。あいつの事はあまり話したく無いので手短にいきますが……苦しんでいましたよ、自分の本能に」


「く、苦しんでいた?」


フレイは意外だったのか僅かに目を見開く。


騎士である可能性が高いフレイの事だ、魔なる者と実際に戦った経験もあるだろう。また、殺した事も。


殺した連中の事はおおよその検討はつく。そいつらは何かの拍子に本能に支配され、本能が赴くままに被害を出してしまった連中の事だろう。


「あいつの中には獣の本能と人の理性が共存していた。人を喰らいたいという本能と人を傷つけたくないという本能が混在していて常に苦しそうにしていた。特に満月の晩は本能に強く支配されそうになった自傷してまで本能に抗っていた」


「うっ……」


隣の席に座るサクラは少し気分が悪そうな顔をしている。


気分が良い話ではないからな。


「……まあ、あくまで俺が知っていた魔なる者はそんな奴だ。以上だ」


「……ありがとう」


俺は軽く礼をして席に座る。


雰囲気が暗いが……ま、知った事ではないか。


再びフレイが口にしようとしたところで時計塔の鐘が鳴る。


授業終了の合図だ。


「……これで授業はこれで終わりです」


そういうとフレイは教室から出る。


それと同時に教室が一気に騒がしくなる。


さて、俺も次の授業の準備をしたら寝るとするか。


「あの……カインさん」


「あ?どうした」


机から教科書を取り出しているとサクラが話しかけてくる。


「カインさんはその、魔なる者についてどう思いますか?」


「俺は人間と大差ないと思うよ。まぁ、魔なる者の苦しみは陰惨で、どうしようもないものばかりだがな」


魔なる者は通常なら理性が本能を押さえ込む。そのため、理性を失うことはない。


しかし、人間からの迫害、愛した者の死、故郷の破壊といった対外的な絶望を受けると魔なる者は人から魔に堕ち理性を失う。


元の人格を失い、人間を喰らう怪物になるのだ。


悲劇により生まれ堕ちる怪物。


それこそが魔なる者の本質なのだ。


「先程話していた魔なる者はどうなったんですか?」


「……答える必要はあるか?」


「あ、いえ……」


俺が剣呑な眼差しで睨むとサクラは縮こまってしまう。


はぁ……まあ、あいつの事は色々とあるしな。それに、気分の良い話ではない。


俺がこの国を嫌悪する最大の理由だからな。


「まぁ、人里に降りた魔なる者は大半が理性を失い怪物に堕ちた連中だ、同情しようと思うなよ」


「は、はい!」


サクラは勢いよく返事すると次の授業の準備に取りかかる。


サクラは魔なる者に興味があるのだろうか。


それは結構だがあまり表に出さない方が良いと思う。


何せ、この国にはそういった連中を排除するために聖魔教会の粛清部隊がいるからな。

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