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十五話 宣戦布告

「……それで、先程言っていたルールについて説明をしてください」


掃除を終えた俺たちが教室に入ると同時にハーミットはフレイに凍えるほどに冷たい声音で問いかけた。


「この学校には個人点以外にクラス点があります。このクラス点な講義態度や実技試験などで加点、減点される。この点が高ければ良い待遇を、低ければ悪い待遇を与えられます。云わば、連帯感と緊張感を持った行動をして貰うためのルールということです」


「……へぇ」


面白いルールだな。


高い実力と忠誠心を持つ騎士を育み易い環境というわけか。


だが、それだけではない筈だ。それでは上でふんぞり返ってる奴を殴れない。


「また、ルールの中にはクラス点の奪い合いである『血戦』があります。宣戦布告してから一時間後、全校舎内を使って戦います。その際にルールを取り決めることも可能です。敗けたクラスはクラス点の半分を勝ったクラスに譲渡する事になります」


加点か強奪か……この二つのどちらかでクラス点を入手せよ、ということか。


面白いシステムだ。だからこそ、欠陥がある。


「だが、そのシステムだと上のクラスにいる上位貴族が黙ってないでは?」


「ええ。向こうは教師やコネを使って起きないよう裏工作をしています。そのため血戦は殆んど起こらず、ほぼ形骸化しているといって良いでしょう」


形骸化したルール……だがルールとしてあるのなら、使える。


単純な話だ、Dクラスを簡単にねじ伏せればいいだけの話なのだから。


「よし、書けました。これを見てください。これが今のクラス点です」


フレイの声に反応して顔をあげる。


フレイは黒板に書いたのを指差した。


―――――――――――――――――

Aクラス 1000点

Bクラス 900点

Cクラス 500点

Dクラス 300点

Eクラス 1点

―――――――――――――――――


こ・れ・は・ひ・ど・い!


クラス順に並んだクラス点に俺は騒然となる。


一つ上のDクラスでさえ300倍、一番上のAクラスに至っては1000倍の差がある。


「これが貴方たちの持ち点となります」


「も、持ち点って……!こんなの、加点では補えませんよ!?」


「その通り。通常の方法……加点では貴方たちでは絶対に良い待遇を貰えません。なら、どうするか……簡単な話でしょう?」


「……血戦を仕掛けろ、ということか」


現時点で血戦を行って勝てば最低でも150点、最高で500点だ。これは大きな加点になる。


それに、このクラスは色々と劣っている。


このクラスは平民や下位貴族、王族の省かれ者と権力とは繋がっていない。コネは無く裏工作も不可能だ。


普通の加点がされるとは思えないし難癖つけられて減点される可能性の方が高い。多くの点を手に入れるには血戦し続けなければならない。


「クラス点の反映は半年に一回です。質問にありますか?」


俺が手を上げるとフレイは俺を指差す。


「……なぁ、宣戦布告から血戦開始までの一時間をゼロにする方法はあるか?例えば……こっちは一人、向こうは全員という感じで」


「それは交渉次第です」


「ありがとう……なら仕掛けてくるか」


俺の呟きにクラスメイトの視線が集まる。


驚愕とも唖然とも取れる視線の中自然体で教室を出ようとする。


手を掴まれて足を止める。振り返るとサクラが手を掴んでいた。


「か、カインくん!?ま、まさか一人で血戦をするつもりですか!?」


「そのつもりだが?あ、相手はDクラスだ」


あいつらはこれ以上とない踏み台だからな。


「まさか……私たちが邪魔だからですか?」


「違う。相手に調子を乗らせるためだ」


Eクラスが雑魚だから……という訳ではない。


向こうに有利だと錯覚させるためだ。


「一対二十なら二十の方が有利だと思うだろ。その上、こちらが準備する時間も削る。向こうにとっては有利以外に言葉はない」


「か、勝ち目はあるんですか!?そもそも、乗ってくると思いますか!?」


「思うね。Dクラスの教師は豚の兄だ。身内に甘い教師だろうし身内を一方的にねじ伏せた相手が自分たちに有利な条件を出すんだ、乗ってくる。それに、お前らの全てを賭けるからな。勝ち目は……お前なら分かる筈だ」


「うっ……」


サクラの手が緩んだ隙に手を払いのける。


他の連中は……黙ってるか。面白そうに見てるのは第五皇女、殺気を向けているのはハーミットか。


サクラならDクラス程度倒せると思うのだが……まぁ、試験での実力と実戦は全く違うし、サクラの技は加減できないだろうけど。


俺が教室の出ようと扉に手を掛けると首筋に金属特有の冷たさを感じる。


「ハーミットか。何のようだ」


背後に立つハーミットの気配は殺意に満ちている。


この状態だと……ちょっと勝つのは難しい。殺してしまう。さてどうするか……。


「……勝ちなさい。これは第五皇女の命令です」


「分かってる」


第五皇女の命令か。なら余計負けられないな。


教室を出た俺は人気のない廊下を歩いてDクラスの教室の前に立つ。


断じてEクラスのためではない。あそこまで虚仮にしたんだ、潰される覚悟はあるよな。


「おじゃましまーす!!」


勢いよくドアを蹴って開けてズカズカと中に入る。


一斉に向けられる殺気にも似た敵意に俺は口角をつり上げる。


掴みは上々、喧嘩を売るのにはいい感じだ。


「おやおや、君はEクラスの家畜君ではないか。どうかしたのかね?」


「宣戦布告って奴だよ豚二号。二番煎じ何だから頭を働かせて価値を示しやがれ」


豚二号は柔和な笑顔を凍らせる。


俺は敵意を向けるDクラス生徒の方に顔を向ける。


「テメェら、俺と血戦しようぜ」


「ふ、ふざけるな!私たちにメリットが一切ないぞ!?」


「そうだそうだ!家畜は俺たちに従っていろ!」


見事なまでの選民思想だな。ま、どうだって良いけど。


「いいや、メリットはあるさ。そうだな、お前らが勝てば一人一回、俺らに好きなことを命令を下せるというのはどうだ。おい豚二号、この条件を組み込むことはできるか?」


俺は豚二号の方に顔を向ける。


豚二号は青筋を立てて俺に睨み付けていた。


流石現役の騎士、威圧感はあるな。まあ、実力は『五式』程度と言ったところか。


「で、できるさ。私がそれを認めよう」


そりゃ乗ってくるよな。


欲望を押し隠そうとする豚二号に笑顔を向けるとざわめくDクラス生徒の方に顔を向ける。


一人一回、好きな命令、Eクラス全員から個人を選ぶ事も可能……男も女も、Eクラス全員を奴隷に落とす事ができる悪魔の方法。


この方法は世俗的な貴族ほどよく効く。何せ、貴族は何をしても良いと考えている連中ばかりだからな。


「ルールは俺対お前ら。Dクラス教師の介入は可。俺以外のEクラスの参加・干渉は不可。魔法の使用は無制限。どちらかが全滅したら勝ち。開始は今から十分後。この条件でどうだ」


「その条件を受け入れよう。くっくく……弟をあそこまで痛め付けたんだ、後悔しても遅いぞ」


「あっそ。それじゃあ俺は中庭で待っている」


豚二号の挑発を受け流して教室を出る。


俺自身、あの程度の挑発でここまで怒れるとは思ってもいなかった。


だが、そんな理由なんてどうだって構わない。


俺にはもう勝利しか道はない。


全てをねじ伏せる。歯向かう意思すら起きないほど絶対的な勝利。


それ以外に望むものは……ない。

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